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En ville, sans ma voiture!(街中ではマイカーなしで!)
〜モントリオールのカーフリーデー
アメリカ横断ボランティア紀行(第8話)
佐渡の空にトキが再びはばたく時
―トキの野生復帰連絡協議会の活動―
2006年環境重大ニュース
「KONUS」観光客にも公共交通利用を
──南西ドイツ・シュバルツバルト──
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No. アメリカ横断ボランティア紀行(第8話) 大陸横断編・その1
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Issued: 2007.01.18
大陸横断編・その1(テネシー州−ミシシッピー州−ルイジアナ州−テキサス州)[2]
 目次
保護区の管理
砂漠の旅
保護区の管理
石油掘削用のやぐら。まだ稼動しているが施設の更新はできない。

 案内をしてもらいながら何気なく目をやると、管理道脇の本道に鉄製と思われるやぐらと大きなタンクが見える。
 「ああ、あれは石油採掘施設です。保護対象の水鳥には影響がないので、野生生物保護区としては石油の採掘権までは購入していません。そういった権利は高いのです。現在も掘削が続けられていますが、野生生物保護区内では石油採掘施設の更新工事ができませんので、将来施設が老朽化してしまえば掘削も終了されることになります」

 堤防で囲まれた元干拓地にはポンプや水門が設けられており、水位も調整できるようになっている。水鳥の渡りのシーズンには水位を高く保つ。それ以外は水位を下げるため湿地が現れる。このように人為的に水位の調整が行われている池は「impoundments(貯水池)」と呼ばれている。
野生生物保護区の管理事務所。向かって左側が小さなビジターセンターになっている。

 「ところで、カウンターに座っていたあの青年、実は所長の息子さんなのです」
 所長官舎と取締官の宿舎は保護区内にある。人手が足りない時は所長さんの息子さんがカウンター業務を手伝ってくれるそうだ。ビジターセンターのスペースと執務室が同じ建物にあるのは、カウンターに座るボランティアがいなくても、すぐに職員が対応できるためだという。また、建物の棟数を減らせば光熱費が抑えられるというメリットもある。国立野生生物保護区では職員数や利用者数によってだいたいの施設の規模が決まっているそうだ。なお、職員が少ないので、草刈りなどのメンテナンスは、所長以下、全員総出となる。なんとなく日本の自然保護官事務所の状況にも似ている。

 総面積約3,840万ヘクタールの国立野生生物保護区システム(日本の国土面積約3,780万ヘクタールより若干広い)では、約3千人(メンテナンス職員を除く)が働く。これは、総面積約3,400万ヘクタールと若干面積の小さい国立公園システムで働く職員数約2万人に比べて、圧倒的に少ない。にもかかわらず、保護区の候補地はまだまだ多く、今後も面積は拡大される見込みだ。既存の保護区に対する人員の補充はあまり期待できない。ただ、ビジター向けの情報スペースを事務所内に設置するなど、業務の合理化を見越した施設整備を行ってきたことが功を奏して、人件費、維持費の負担の低減に成功しているそうだ。その点では、施設が大きく、職員数も多い国立公園局の機関とは対照的である。
 ちなみに、職員1人あたりの管理面積は、日本の国立公園では約8,200ヘクタールであるのに対し、アメリカの国立公園では約1,650ヘクタールと約5分の1だ。一方、国立野生生物保護区は職員1人あたり約13,000ヘクタールとなる。この国立野生生物局の職員数は同局の予算書から引用したものだが、その職員数にはメンテナンス職員数が含まれていないため、おそらく実態的に両者はほぼ同程度と考えられる。こうしてみると、アメリカの国立公園よりは国立野生生物保護区の管理手法や施設計画などの方が、むしろ日本としては参考になるのではないだろうか。

 今回はアポなしの訪問にもかかわらず、スティーブさんのご好意で無事インタビューを終えることができた。少しホッとしてホテルにチェックインする。明日はミシシッピー川を越える。約200年前にアメリカ合衆国の一部となった大西部へといよいよ歩を進めることになる。
 フランスからルイジアナ(当時の呼称;ミシシッピー川以西の当時のフランス領)が割譲された後ルイスとクラークの西部地帯の遠征が行われた。これは、広大な西部の原生地域を調査する探検の旅だった。1804年5月から1806年9月まで行われた遠征は、誕生して間もないアメリカ合衆国が、広大な西部地域に目を向ける契機となった。探検隊は、イリノイ州を出発し、太平洋(現在のオレゴン州ポートランド付近)に達した後、ほぼ同じルートを通って無事帰還した。2004年は探検が開始されてからちょうど200周年でもあり、各地でイベントが開催されていた。

(ルイス&クラーク遠征200周年記念イベントURL)
 また、この探検隊を記念した国立長距離トレイル、「ルイス・アンド・クラーク歴史トレイル」も指定されている。
砂漠の旅
テキサス州に入ると、石油の採掘井があちこちに見られる

 私たちはニューオリンズには立ち寄らず、一路西のテキサス州を目指すことにした。テキサス州に入るころから気温も上昇し、久しぶりにTシャツ一枚の陽気になった。これまでの緑豊かな風景は一変し、乾燥した荒地が広がる。横断の旅もいよいよこれからが本番、アメリカ南部を西へと向かう。天気もよく道も空いているのでどんどん距離が稼げる。途中、平原の半乾燥地に低いテーブル状の山(メサ地形)が観察されたり、古い油井などがそこかしこにある。別の世界にやってきたようだった。

 2004年1月4日、テキサス州フォートストックトン(Fort Stockton)で一泊した後、ビッグベンド(Big Bend)国立公園へ向かう。ビッグベンド国立公園は1944年に設立された、テキサス州の南西端にある面積約324,100ヘクタールの広大な国立公園で、リオ・グランデ川をはさんでメキシコと国境を接している。公園のほとんどはサボテンと潅木に覆われる半乾燥地であるが、死火山であるチソス山(Chisos Mountains)の麓には低木林がみられる。ネコ科の大型哺乳類であるマウンテンライオン(クーガー)をはじめ、国立公園内には多くの動植物が生息している。

ビッグベンド国立公園のチソス山
ビッグベンド国立公園のチソス山
 乾燥地帯に入ると初めて目にする動植物も多くなる。まず、サボテンが多くなった。動物もハベリーナと呼ばれる小さなイノシシや、地面を走り回るハトほどの大きさのロードランナーという鳥も出てきた。
トレイル沿いに見られるウチワサボテン
トレイル沿いに見られるウチワサボテン
 有料公園と聞いていたが、公園の入口ゲートに人影はない。しばらくすると、正面に大きな岩山が見えてくる。チソス山だ。その裾野を巻くように右折し、公園道路に突き当たると、そこがパンサージャンクション(Panther Junction)・ビジターセンターだった。
パンサージャンクション・ビジターセンター


 ビジターセンターは公園の面積にしては小さい。その上、展示スペースの3分の1は図書などの物販スペースが占めている。カウンターに立っているのはインターンの大学生だった。
 「公園のパンフレットを頂きたいのですが」と尋ねると、
 「結構ですよ。入場料金のレシートはありますか?」と聞かれる。
 「ゲートに人がいなかったので、支払っていません」
 「ゲートには、今人がいないんです。料金をこちらで頂きます」
 私たちは、ナショナルパークパス(国立公園の年間パスポート)を購入していたので、これを提示した。
 入場者数が少ないときは、入口ゲートに職員がおらず、ビジターセンターでサービスと引き換えに入場料を納付してもらう仕組みになっているそうだ。逆に言えば、特にサービスを要求しないビジターからは、入場料を徴収していない。
バリアフリー歩道。石積みや顔料をうまく使って目立たないよう配慮されている。


 ビジターセンターを後に、ホテルに向かう。少々料金は高いが今回は思い切って国立公園内のホテルを予約した。テレビも冷蔵庫も電話もない木造のホテルだが、なかなか居心地がよかった。ホテルは、チソス山のカルデラの中にある。チソス山は標高が高いためか湧き水も豊富で緑が濃い。ホテル近くにはバリアフリーの歩道もあり、距離は短いがいろいろな景色が楽しめる。

 その日はまず、公園西側のカストロン(Castlon)を訪れた。この地は古くから防衛の要衝で、古い砦や軍の施設(小屋)が残っている。そのうちひとつが、現在は小ぶりのビジターセンターとして活用されている。国立公園局では、このような歴史的な建物を公園施設として活用することを "adaptive use" と呼んでいる。
 カストロンにあるミニビジターセンターには、ジュディーさんという女性のボランティアが勤務していた。カリフォルニア州からご夫婦で来ているそうだ。
 「主人の退職後、冬には2人でここに来ることにしているんです。暖かいし、他にもいろいろなボランティアがいます。皆キャンピングカーに乗って全米から集まってきます。町までは遠いですが、買い物も交代で行くようにするとそれほど苦になりません」
 この公園は気候のよくなる冬がハイシーズンで、ボランティアの競争率も高いという。
カストロンにあるミニビジターセンター。古い建物を活用している。
カストロンにあるミニビジターセンター。古い建物を活用している。

 サンタエレーナ渓谷(Santa Elena Canyon)は、巨大な石灰岩の山塊をリオ・グランデ川が削りこんだ深い渓谷だ。川を挟んで左側はもうメキシコ。時折カヌーが下ってくるが、浅いところはカヌーを降りて歩いて引いている。
壁のようにそびえる石灰岩の山塊。中央部にあるサンタエレーナ渓谷でリオ・グランデ川が横断している。
壁のようにそびえる石灰岩の山塊。中央部にあるサンタエレーナ渓谷でリオ・グランデ川が横断している。
サンタエレーナ渓谷をカヌーがのんびり下っている。水量は思いのほか少ない。
サンタエレーナ渓谷をカヌーがのんびり下っている。水量は思いのほか少ない。

 その穏やかな流れとは対照的にそそり立つ石灰岩の岸壁。この公園はこれまで訪れた温潤な米国東部の公園とはまったく趣を異にしている。風景が荒々しく雄大だ。
 ところが、晴れているにもかかわらず遠景には何か霞のようなものがかかっていて、うまく写真に写らなかった。→(その3)へ続く
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