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アメリカ横断ボランティア紀行(第8話)
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No. アメリカ横断ボランティア紀行(第8話) 大陸横断編・その1
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Issued: 2007.01.18
大陸横断編・その1(テネシー州−ミシシッピー州−ルイジアナ州−テキサス州)[1]
ナチェストレイス・パークウェイ入口看板
 ゆったりとしたカーブが鬱蒼とした森の中に続く。アメリカの国立公園での最初の研修となった、ケンタッキー州マンモスケイブ国立公園での9ヶ月間の勤務を終え、次の研修地、カリフォルニア州レッドウッド国立州立公園を目指す。約9ヶ月間のレッドウッド勤務を経て、3ヶ所目の研修地、ワシントンDCでの研修を終えると、アメリカ大陸を一往復することになる。
 この最初のアメリカ横断の旅は、ナチェストレイス・パークウェイからはじまった。テネシー州の州都ナッシュビル近郊からミシシッピー州南部のナチェスまでをつなぐ総延長444マイル(約710km)のパークウェイは、かつての交易路に沿って整備されている。交易路はナチェストレイスと呼ばれ、近代アメリカ合衆国建国の歴史が文字通り「刻み込まれて」いる。
アメリカ横断ボランティア紀行 INDEX はこちら
 目次
ナチェストレイス・パークウェイと、アメリカの“先史時代(pre-history)”
セントキャサリンクリーク国立野生生物保護区
保護区内での狩猟 ──頭数調整の役割と、国民の権利としての保護区の「利用」
外来生物
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 1800年代の初頭、水路が物流の動脈だったころ、ペンシルバニア州、オハイオ州、ケンタッキー州などから、農民や舟子などがオハイオ川(ミシシッピー川の支流)を下って、木材や農産物などの物資を下流のナチェスやニューオリンズなどの港まで運搬した。これらの運搬人(Kaintucksと呼ばれた)は荷を港に納めると陸路で帰る。お金のある人は馬を借り、そうでない人は徒歩でこのナチェストレイスを北上した。途中追いはぎが出たりする危険な旅だったそうだ。こうして酷使されたトレイルは深くえぐられ、深いところでは切り通しの高さが数メートルもある。このトレイルに立つと、アメリカ開拓民の底知れぬパワーが感じられる気がする。現在はほとんど通る人もなく、トレイルは当時の姿をそのままに残している。
かつての歩道は深くえぐられ、当時の活気をうかがい知ることができる
かつての歩道は深くえぐられ、当時の活気をうかがい知ることができる
ナチェストレイス・パークウェイと、アメリカの“先史時代(pre-history)”
パークウェイのビジターセンター

 トレイル同様、パークウェイもそれほど交通量が多いというわけではない。道沿いに集落もなく、両側を森で覆われた美しい風景が続く。実に快適なドライブコースだ。
 アメリカでは、ネイティブ・アメリカン、いわゆるインディアンの歴史はpre-historyと呼ばれている。直訳すれば「先史時代」というわけだ。国立公園局の公園管理の目標の一つは、この白人入植者が入る以前の自然(=アメリカ大陸本来の自然と人が作り出した風景)を再現し、公園を訪れた利用者が、かつて開拓民がはじめてそこに到着した際に得たものと同じ経験を提供することである。ビジターセンターでの展示も、ネイティブ・アメリカンや入植者に関する展示に重きが置かれていて、地質や野生生物などの展示はむしろ少ない。
 今はほとんどインディアン保留地の残っていないアメリカ東部も、かつてはこれらの人々の大居住地域だった。パークウェイの沿線だけでも多くの遺跡がある。私たちはエメラルド・マウンドという遺跡を訪れた。巨大な古墳を思わせる人工的な丘は、ネイティブ・アメリカンによる祭りの場と聖職者の墓地だったそうだ。この、地域最大級という規模に圧倒される。このような文化が失われてしまったことは実に残念なことだと思う。
エメラルド・マウンドの上部にて
エメラルド・マウンドの上部にて
セントキャサリンクリーク国立野生生物保護区
 セントキャサリンクリーク国立野生生物保護区は、ナチェストレイス・パークウェイの終点近く、ミシシッピー川に面した河畔の湿地帯にある。面積約10,500ヘクタールの保護区は、私たちにとって初めて訪れる国立野生生物保護区(National Wildlife Refuge)だった。

セントキャサリンクリーク国立野生生物保護区の入口看板。路肩の斜面に立てられており、構造も比較的簡素だ。

 この野生生物保護区に来てまず驚いたことは、施設が簡素で少ないことと、何か日本の国立公園によく似た雰囲気を持っていることだった。アプローチ道路や案内標識がそれほど充実していないため入口がわかりにくい。細い住宅地の中の道路を抜けると砂利道に変わり、そこではじめて野生生物保護区に入ったことがわかる。しばらくすると控えめな入り口看板がある。国立公園のように2人で記念撮影をしようと思ったが、道路の路肩斜面に立てられているので、うまくカメラの三脚が立たない。国立公園であれば、路肩に駐車できる余裕を持たせ、看板の前には人が並ぶことのできる十分なスペースを確保して設計される。国立公園とは施設の質や整備水準も相当異なるようだ。

 その日は12月31日。日本なら年末年始休暇の真っ只中だ。私たちはアポイントをとっていなかったので、とりあえずビジターセンターに向かった。ビジターセンターは簡素な平屋の建物の一部に設けられていた。
 「自然資源管理について学ぶために日本から研修に来ています。マンモスケイブ国立公園でのボランティア勤務を終えて、レッドウッドに向かうところです。その途中いろいろな保護区や公園を回っています。お話を伺えないでしょうか」
 「少しお待ちください。職員の方に聞いてみます」
 カウンターの若い男性が丁寧に対応してくれた。彼もボランティアのようだ。
 「対応できる職員がおりましたので、こちらへどうぞ」
 私たちはすぐに執務室に通された。このビジターセンターは管理棟の一部に併設されている。スティーブさんという魚類野生生物局の職員が対応してくれた。
 「これから大陸を横断されるんですか。いいですね!」
 スティーブさんは気さくな方だった。
 「では、せっかくなので簡単に保護区の説明をしてから現地をご案内します」
 この親切な対応には驚かされた。その後、各地の保護区や事務所を訪ねて、こうした対応が魚類野生生物局の職員に共通していることがわかった。関係者とのコミュニケーションを大切にする。相互理解のためには決して労を惜しまない。これは、何か問い合わせのメールを魚類野生生物局の事務所に送っても同じだ。かなりの高い確率で所長さんから直接返事がある。正直なところ、日本の役所では、なかなかこうはいかない。
魚類野生生物局職員のスティーブさんからの聞き取り調査の様子。
魚類野生生物局職員のスティーブさんからの聞き取り調査の様子。
保護区内での狩猟 ──頭数調整の役割と、国民の権利としての保護区の「利用」
 「この保護区はもともと開発された農地でした」
 地図を見ると、確かに堤防がめぐらされ、干拓の跡がはっきりわかる。
 「この保護区は、ミシシッピー川沿いに渡りをするガンカモ類をはじめとする鳥類、およびシカの保護が目的です」
 この保護区を訪れてはじめて知ったのだが、多くの野生生物保護区では狩猟も認められている。狩猟をするには、まず狩猟許可をとり、狩猟スタンプ(切手)を購入する。州と保護区の規制で定められた方法、時期、数量などを守り、捕獲した野生生物の頭数などを報告する。例えば、この保護区ではシカのアゴの骨の一部を提出することになっている。
 保護区側は生息数などをモニタリングし、それに基づき狩猟頭数の上限や期間を決める。オオカミやコヨーテなどの捕食者が駆除されてしまった今日、ハンターがいなければ個体数がどんどん増えてしまうそうだ。
 狩猟行為を含め、保護区の利用は国民の権利でもある。その極端な例が車椅子用の狩猟小屋だろう。小屋のすぐ脇まで砂利道があり、小屋にはスロープがつけられている。小屋の前には0.5ヘクタール程度の草地が整備されている。シカが小屋の前に現れやすいように林を切りひらき、餌となる草の種子や肥料がまかれている。かなり人気があり、リピーターも少なくないという。
車椅子用の狩猟小屋。小屋には2方向に小窓があり、車椅子に乗ったまま狩猟が可能だ。

 狩猟料金収入は、フィー・プログラムの一環として徴収額の8割が保護区に還元される。保護区で狩猟が行われているのには驚かされたが、考えてみれば合理的でもある。狩猟行為の可・不可ではなく、資源量(=野生生物の個体数)をモニタリングし、利用しながら適正な状態を維持する。納税者たる利用者に狩猟を楽しむ機会を提供し、少ないながら受益者負担を科す。この資源管理の考え方こそアメリカの保護区管理の基礎といえる。
 ひるがえって日本の国立公園は、土地所有とは関係なく公園を指定できるというメリットはあるものの、「他人の土地」を公園にしているので、公園内の資源自体には当然所有権がある。そのため土地や資源の管理は土地所有者が行い、公園内での行為規則は環境省や地方自治体が行っている。だから、開発抑制などを目的とした土地利用規制としては有効だが、シカやクマなどの野生生物の増減など動的な変化への対応が難しい。反面、一律の規制は、公園の中に何があるか(資源目録=インベントリー)、その量や変化がどうなっているか(資源量・質およびその変化=モニタリング)ということを把握する必要がない。
 そろそろ日本の国立公園でも、自然の“家計簿”をつける時期に来ているのかもしれない。
外来生物
 「ここでの資源管理の問題は、外来の浮水植物です」
 スティーブさんが、現地を案内しながら説明してくれる。
 「観賞用の浮草が爆発的に繁殖し、生態系に大きな被害を与えています」
 駆除には農薬が有効だが、その使用には厳しい環境影響評価が必要なのだそうだ。
 「この植物はミシシッピー川沿いに急速に広がっています。何とか対策を講じなければならないのですが、保護区として管理できるのは、せいぜい直接河川と水面がつながっていない堤防の内側くらいです」
 国立野生生物保護区といっても、保護区の境界線を越える問題は解決が難しく深刻だ。→(その2)へ続く
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