一般財団法人 環境イノベーション情報機構

メールマガジン配信中

H教授の環境行政時評環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。

No.083

Issued: 2009.12.04

第83講 COP15前夜―付:事業仕分けをめぐって ――

目次
鳩山劇場―事業仕分け顛末
COP前夜1 ─出揃った各国の数値目標
COP15前夜2―なにが論点か
COP15前夜3─不況によりCO2排出量急減
原発の動きープルサーマルと老朽化対応
生物多様性COP10に向けて
懸賞付きケータイリサイクル
公共事業再説
邪馬台国大和説に軍配?
本邦初の角竜化石発見
2012年に地球が絶滅?

鳩山劇場―事業仕分け顛末

Aさんセンセイ、「必殺仕置き人」見ました?。とっても痛快だったですよ。

H教授ボクは藤沢周平なんかの江戸物の小説は好きだけど、テレビの時代劇はほとんど見ないんだ。

Aさん違いますって。現代の話ですよ。来年度予算要求で、各省の担当者の説明を仕置き人が木っ端微塵に粉砕しちゃうんです。ちょっとお役所の担当者の方が気の毒に思えてしまうくらい。

H教授ばか、それは「仕分け人」。行政刷新会議がやっている「事業仕分け」のことだろう。

Aさん仕置き人も仕分け人も似たようなものじゃないですか。
あれは財務省の査定の露払いのようなものなんですか。

H教授別に財務省の査定と100%連動するという決まりはないが、多分そうなるだろう。従来は財務省主計局の主査と各省の課長がやっていたような、密室でのやりとりをオープンにしたことに意義があるんだろう。
でも、なんとなく人民裁判みたいな雰囲気であまり好きじゃないなあ。

Aさんえ? センセイ、チェ・ゲバラのファンなんでしょう。だったら、人民裁判バンザイじゃないんですか。


H教授いちいちうるさいなあ。冷静なやりとりというよりは、国民の喝采を狙ったような仕分け人の一方的な決めつけかたが好きじゃないんだ。
もちろん、事業仕分けがコイズミ劇場を上回る鳩山劇場として、大成功したことは認めるし、内容的にもっともな点も多々あるのは否定しない。
ま、それはともかくとして、あの事業仕分けにはいくつも疑問が残る。

Aさん仕分け人の選定基準が明確じゃないですよね。かなり恣意的な気がします。
それに、そもそも国のやるべき事業とは何かを、まず明確にすべきだと思います【1】

H教授うん、いずれももっともだ。他には?

Aさん予算のムダ遣いということで、官僚が天下りしている団体へのオカネに厳しい仕分けが相次ぎましたが、天下り役人が皆仕事もせずに高給を取っているみたいに決め付けるのは、おかしいんじゃないですか。

H教授うん、仕分け人の方が高給取りってことの方が多いんじゃないかな。
齋藤デンスケ氏のことは前講で話したが【2】、鳩山内閣は人事院総裁に厚生労働省事務次官だった江利川氏を任命した。
別にボクはこれに反対というわけじゃないんだけど、ダブルスタンダードはいただけないよねえ。

Aさん他には何かありますか。

H教授うん、そもそも3,000もある事業の中から447を選定したんだけど、それをどうして選んだのかがさっぱりわからない。
あらかじめスケープゴートとして、財務省が選んだような気がする。昔なら、各省と内々折衝して、人身御供として各省の方から出させたということも考えられるが、今の時代だと一方的に財務省が選んで、因果を含めて申し渡したんじゃないかな。
役人OBとしては、財務省に牛耳られるってのは面白くないなあ。


Aさんセンセイ、自称「役人生態学のプロ」なんでしょう。選び方に何か傾向は見られないですか。

H教授うーん、そうだなあ。どうも枝葉ばかり刈って、幹は残したような感じがする。

Aさんどういうことですか。

H教授いわゆる公共事業は、事業仕分けの対象事業に挙げられていても、結果は10%程度の予算縮減を求めるものが大半だ。
廃止だとか予算見送りとされたのは、ソフト事業などもっと額の小さいものが多い。
つまり巨額のハード事業に甘く、額の小さいソフトに厳しいと言えるんじゃないかな。

Aさんははあん、だから結果は「廃止」が50事業ほどで1,300億円、「予算計上見送り」が20事業ほどで1,600億円、予算削減が70事業ほどで4,500億円、〆て一兆円弱で終わっちゃったんですね。


H教授他に公益法人や独立行政法人の基金からの返納が8,400億円で、事業仕分けの効果は1.6兆円に終わった。
基金からの返納分は、額面上は8,400億円かもしれないけど、実際はタンス預金ではなく、金融商品で運用しているだろう。だとすれば、巨額の含み評価損があるはずで、取らぬタヌキの皮算用に終わる可能性もあるんじゃないかな。

Aさん例え1.6兆円が1兆円になったとしても巨額じゃないですか。

H教授概算要求額は95兆円、事項要求のみのものをカウントすれば97〜8兆円だ。
今年度の政府当初予算は88兆円台だ。たかが1兆円や2兆円の切込みじゃどうしようもないだろう。

Aさん10兆円を越す補正予算から、3兆円を執行停止にして取り戻したそうじゃないですか。

H教授だけどまたもや補正予算を目論んでいる。菅サンは2.7兆円と言っているけど、亀井サンはそんなチンケなものじゃダメだと言っている。

Aさんセンセイならどうしました。

H教授土建屋国家からの脱却のためにも、巨額のハードをざっくり切るのを主眼にすべきだろう。
どこどこでやるどんな規模のどんな施設かって明示していれば──これを「箇所付け」というんだけど──必要性の判断もある程度できるだろうけど、箇所付けもしていない公共事業なんてのは、来年度はとりあえず半減させりゃあいいと思うけどなあ。


Aさん環境省の予算も、温暖化対策の普及啓発みたいなソフト予算は、ばっさりやられてますね。

H教授たしかに定量的な効果を測定できないというのはその通りだね。
ただ、温暖化対策に関して言うと、他省庁や産業界の反対で、定量的な効果を見込める対策を取ろうと思っても取れなかったんだ。
でも鳩山内閣の出現で状況はすっかり変わった。来年度は定量的な効果が見込める施策を打ってほしいね。

Aさんでもどうして財務省は、巨額のハード事業に甘いんですか。
土建屋国家の発想が抜けてないんですかねえ。

H教授というよりも、公共事業でメシを食っている人たちはいっぱいいる。大量の雇用が失われることを恐れたんだろう。
あと以前にも言ったよね。予算には必ず人というか組織がくっついている。巨額のハードを「不要」などとしたら、一つの係や課にとどまらず、局自体がまるまる不要になってしまうところだって出てくる。
さすがにそれは避けたいというのがあったんじゃないか。
事業仕分けの対象事業の選び出しにしても、仕分け結果にしても、係なり課なりの組織がまるまる不要となるようなことは、避けるような配慮があったのかも知れない。

Aさんところで来年度の政府予算案は、いつ決まるんですか。COP15の結果なども、財務省の査定に反映させなければいけないでしょう?


H教授年内に上げるそうで、12月30日と言っている。
ボクは査定実務のことはとんと疎いんだけど、COP15の結果の反映なんて、時間的にできないんじゃないかなあ。

Aさんいずれにしても、せめて90兆円以下には抑えなければいけないですね。
財務省は、事業仕分け結果以上に、大鉈を振るえるのか、まずは高みの見物ですね。


COP前夜1 ─出揃った各国の数値目標


AさんそれはそうとCOP15の開幕まであと1週間ですね。

H教授うん、だいぶ各国の反応も出揃ってきた。
2050年の長期目標では、来日したオバマさんとの首脳会談で、日米は2050年80%カットを目標とすることで合意しているし、先進国全体でも80%カットということでほぼ同意は取り付けている。
だからCOP15の焦点のひとつは、2020年の中期目標なんだ。対90年△25%の日本、同じく△20%のEU以外の各国の対応も、ほぼ明らかになってきた。

Aさん米国は05年比で△17%ですね。対90年比では△4%どまりですか。

H教授最終的には、05年比△20%という可能性も残っているんじゃないかな。
上院で審議されていて難航している法案では、△20%だそうだ。
オバマさんは精力的に中国、インドと協調外交をとっており、COP15では自らも出席し、交渉のヘゲモニー(hegemony=覇権)をとろうとしているようだ。

Aさんその中国、インドはどうなんですか。


H教授中国ははじめて排出削減目標を明示した。
2020年までに、GDP当たりの排出量の05年比40〜45%の削減を目標とするとのことだ。
単位GDP当たりだから、絶対量では多分増加することになるだろうし、45%の削減ができたとしても、単位GDP当たり排出量は現在の日本より多い。だけど、まずはこういう数字目標を示しただけでもよしとしなければいけないだろう。
もっとも「国情に即した自発的措置」で、義務付けられることには相変わらず難色を示している。

Aさんインドは?

H教授インドも「おおまかな目標数値」を定める方針らしいが、公式発表はまだない。いずれにせよ中国と同じで、法的拘束力のある目標にされるのには反対のようだ。

Aさんその他の国はどうなんですか。カナダは反温暖化政権だと聞きましたが。

H教授カナダのハーパー政権は温暖化対策に後ろ向きで知られているが【3】、さすがに風向きには逆らえないと思ったのか、COP15には参加するそうだ。
カナダ連邦議会は、法的拘束力はないものの90年比で△25%という動議を採択したが、ハーパー政権は06年比で△20%を目指すそうだ。これは90年比では△3%にしかならないんだけど、強い自治権を持つケベック州は、EUに右倣えするそうだ。


Aさん逆に反温暖化政権から、温暖化対策に熱心な政権に変わったオーストラリア【4】はどうなんですか。

H教授オーストラリアは、対05年比で5〜25%削減するとの法案が審議中。この数字は対90年比でもほぼ同じだそうだ。
隣国のニュージーランドは、対90年比で△10〜15%を表明している。
ロシアは対90年比△15%としていたが、このほど△20〜25%に引き上げるのに同意したそうだ。
もっとも大胆な削減を表明しているのはノルウェーで、対90年比△30%だけど、△40%に引き上げることも検討しているそうだ。

Aさん大体そんなところですか。

H教授新興国もいろんな動きが出ている。
ブラジルは何も対策をとらなかった場合の推定排出量に比べて、36〜39%カットすると発表した。これまで難色を示していたアマゾンの森林伐採の削減量の数値目標も明示した。
インドネシアも熱帯雨林の伐採抑制により、26%カットを表明し、国際支援が広がれば41%まで目標を引き上げるそうだ。
韓国も何も対策をとらなかった場合の推定排出量より30%カットを目指すそうで、これは対05年比△4%に相当する。
メキシコは2012年までに現在より8%カットするとしている。
南アフリカだけは、今のところ削減目標は発表していないようだ【5】

Aさん対90年比と対05年比が入り混じったり、「何も対策をとらなかった場合と較べての削減率」だとか、単位GDP当たりの削減率だとか、いろんな尺度があって、わかりにくいですね。対比できるようにしてほしいわ。


COP15前夜2―なにが論点か


H教授そこが外交上の駆け引きというやつなんだろう。
問題はどういう政策手段で削減を目指すかだ。バナナの叩き売りのように数字だけは勇ましいけど、実際に削減されなければどうしようもない。
そういう意味では、どういう政策手段で削減していくかという道筋を明らかにしてほしいし、未達成の場合のペナルティの強化も必要だろう。

AさんあとGHG(温室効果ガス)の排出抑制はいいんですけど、エネルギーの総需要抑制のような将来ビジョンを掲げているところはないんですか。
いつもセンセイが言ってますけど、エネルギー需要を抑制せず、技術革新だけでGHGを大幅カットなんて、そもそも不可能じゃあないんですか。

H教授ボクはそう思うけど、ロンボルグなら可能というだろう【6】
北欧かどっかの国で、そういう長期計画を掲げた国があったような気がするけど、記憶が定かでない。
つまり、残念ながら依然として、世界のほとんどの国では、その不可能なことを掲げているようだ。


Aさんそうか、日暮れてなお道遠しですね。
ところで、ブラジルやインドネシアは、森林伐採の抑制ということを言ってますね。

H教授うん、来年度は生物多様性COP10の年でもあるし、熱帯雨林の保護は真剣に考える必要がある。
IPCCの報告書でも、世界の人為的なGHG排出量の内訳は、化石燃料が57%、森林減少に由来するものが17%と試算していて、REDD(Reducing emissions from deforestation in developing countries)と呼ばれる途上国での森林減少の防止のための仕組みを考える必要があるとされている。
今の京都メカニズムでは、植林・再植林しかCDMと認めてないが、森林の維持管理のようなものも認めてしかるべきだと思うな。

Aさんあとは途上国への支援の強化策ですね。


H教授うん、京都議定書第一約束期間である2012年までの途上国支援に、気候変動枠組条約のデブア事務局長は100億ドルが必要だと言っている。
EUは年75億ドルから100億ドル必要だとしていたが、EUの拠出額は明示していないし、それどころか、リーマンショック以降、EU内で意見の対立が見られるようだ。

Aさんアイスランドが破産し、ドバイも危ないそうですから、そういう全球的な不況の中では無理ないかも。日本はどうなんですか。

H教授日本は鳩山イニシアティブ【7】として、2012年までの3年間に90億ドル、つまり8,000億円を拠出するとしている。

Aさんひぇえ、太っ腹ですね。事業仕分けにかけなくていいのかしら。

H教授もっとも日本は、それ以前の福田内閣のときに「クールアース・パートナーシップ」として相当額の支援を表明していて、それに少し上乗せして衣替えしたというのがホントのところだけどね。


COP15前夜3─不況によりCO2排出量急減


AさんところでGHGの排出量は、リーマンショック以降の経済不況で相当減少したんじゃないですか。

H教授GHG全体はどうか知らないが、08年の世界のCO2排出量は、国際研究チームの発表によると、炭素換算で87億トンで、07年より2%増加しているそうだ【8】。09年には減少しそうだとのことだけどね。

Aさん日本はどうなんですか。

H教授10月末に経済産業省が発表したエネルギー需給実績(速報)によると、08年のエネルギー消費は前年度比で6.8%減少、CO2排出量も6.7%減少したらしい【9】
経団連によると、製造業とエネルギー産業からのCO2排出量は、前年度比で10.5%も減少したんだけど、それでも対90年度比は7.4%増となっている。

Aさんじゃあ、京都議定書の△6%は達成不可能ですね。


H教授いや、ところが今月に入って環境省が発表した08年度のGHG排出量の速報値では、温暖化係数の高いメタン代替フロンが大幅に減ったせいで、GHG全体としては対90年比で1.9%増加にとどまるらしい【10】
政府は森林吸収と排出権購入で5.4%を充てることとしている。だからGHG排出量は対90年△0.6%が目標だったので、2.5%分だけが不足することになる。
電力業界が自主目標達成のために、海外から購入した排出権を、それに充当することで、初年度は辛うじて達成ということになるそうだ。

Aさんでも不況だから達成というのは、あまり喜ばしいことじゃないですね。

H教授まったくだ。やはり問題は環境税だとか自然エネルギー固定価格買取制度国内排出量取引制度をいかにうまく制度設計し、導入するかだろうね。
環境税はすでに2兆円程度の税収を見込む環境省案が出ていて、今税調で議論しているところらしい。


原発の動きープルサーマルと老朽化対応

Aさん温暖化の話はこの程度にして、あとはCOP15を見守りましょう。
久々に原発の話題です【11】
プルサーマルがいよいよ動き出したそうですね。

H教授うん、佐賀県の九州電力玄海原発3号機で試運転がはじまり、来週には営業運転に入るという話だ。これを皮切りにプルサーマルが本格始動することになりそうだ。
また原発関連の話では、来年で運転40年になる福井県の関西電力美浜原発1号機が、あと十年間廃炉にせずに運転延長する申請を出したとのことだ。

Aさん国はOKするんですか。

H教授これから原子力安全・保安院で半年かけて審査するんだ。
もともと使用年限や耐用年数に明確な規定はなかったんだが、96年には、運転開始から30年を過ぎた原発は10年ごとに老朽化対策の報告書をつくり国に提出することを義務付けた。国はその報告書をもとに安全性に関してチェック、審査することとしたんだ。そして最大60年までは運転可能とする方針を打ち出しているんだ。

Aさんそして安全性が担保されなかった場合や60年を過ぎた原発は廃炉にするわけですね。廃炉って結構大変じゃないんですか。


H教授そうらしいね。福井県の日本原電敦賀原発1号機は、美浜原発1号機より半年早く運転開始した、国内最古の商業用原発なんだ。代替の3号機が2016年に運転開始するのを待って、廃炉するらしい。
作るときに廃炉のことまで考えて設計施工しているわけじゃないし、テレビでやってたけど、建設当時の設計図も完璧に揃っているわけじゃあないみたいで、結構いろんな問題が起きるんじゃないかな。そういう意味ではこの面でも原発は「トイレなきマンション」なんだね。

Aさん国際的に温暖化対策との絡みで、原発の評価はどうなんですか。

H教授原発を温暖化対策の切り札として捉えているのは日本とフランスくらいだろう。チェルノブイル以降欧米は一気に脱原発に傾いた。その後、米国やドイツ、イギリスなどで温暖化対策に関して原発再評価の動きは出ているが、それはあくまで補完的なものだ。この点に関してもCOP15の議論をみてみる必要があるね。


生物多様性COP10に向けて

Aさんさて、12月はCOP15の話題で持ちきりでしょうが、いよいよ年が明ければ生物多様性条約のCOP10の年ですね。

H教授うん、生物多様性は何度もこの時評で取り上げているんだけど、もう一つ認知度が低いのが残念だ【12】
国際的には気候変動=温暖化対策と並ぶ大問題だと捉えられているし、気候変動が生物多様性に重大な影響を与えることや、生物多様性の宝庫である熱帯雨林などの森林が、GHGの吸収源、ストックとしての役割を果たしているんだけどなあ。

Aさん生物多様性条約は、気候変動枠組条約と同じ92年の地球サミットで採択されたんですよね。

H教授うん、生物多様性の保全、生物多様性の構成要素の持続可能な利用と、遺伝資源の利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分という三つの目的があるんだ、

Aさん 一番最後の「利益の公正かつ衡平な配分」というのは、それまではそうじゃなかったということですか。


H教授うん、例えば熱帯雨林の植物から得られた薬などの利益は、特許に守られて、原産国ではなくほとんどを開発国、つまり先進国側が得ているというのが途上国側の姿勢。
ほとんどの先進国も、一般論としては受け入れざるを得ないとして批准したんだけど、国益第一主義の米国だけは頑として拒否し、いまだに批准していない。
オバマ政権に変わったんだから、一日も早く議会を説得して批准してほしいね。

Aさん締結国会議COPが隔年で開かれ、来年はその第10回目。そして、日本の名古屋で開催されるんですね。

H教授うん、そして重要なのは、2010年を節目の年として「現在の生物多様性の損失速度を2010年までには顕著に減少させる」とする「2010年目標」を掲げていること。このCOP10ではその総括と新たな目標を決めねばいけない。

Aさんそういう意味では、ほとんど目標を達成できてないんじゃないですか。

H教授ブラジルやインドネシアは、温暖化対策としての意味もあって、熱帯雨林の保全を重要視しはじめたじゃないか。日本だって、生物多様性の宝庫としての「里山保全」について、総論として異議を唱える人はほとんどいなくなったし、生物多様性基本法もできた【13】
ただ、政治家レベルでも生物多様性の保全というのは総論どまりのことが多いんだよねえ。

Aさんそういえば構想日本の「政策棚卸し」で、「SATOYAMAイニシアテイブ」が叩かれていましたね【14】。環境省でもその後、いろいろ新たな動きがあったんでしょう。

H教授この時評で取り上げた自然公園法改正だって、外来生物法だって、海洋基本法にしたって全部生物多様性に関係あるといえばある。泡瀬干潟の問題だってそうだよね。最近では大西洋の本マグロに続くクロマグロの規制強化だってそうかもしれない【15】
もっと直接的なものとしては、この夏に「生物多様性民間参画ガイドライン」を公表したことがあげられる【16】
生物多様性保全への活動を民間が行う際のガイドラインで、実例もいっぱい挙げている。
企業のPR戦略やイメージアップのためのCSRとして活用してくれればいいけど、この不況だろう、企業としては、このガイドラインに拠って活動することによる具体的なメリットが付与されないと、なかなか動きがはじまらないのではと危惧するな。


Aさん滋賀銀行は、取引先の生物多様性保全に向けた取組を評価・格付けし、評価の高い企業には融資金利の優遇策を講じることにしたそうです。

H教授うん、そういう動きがどんどん出てくればいいんだけどねえ。
あと、先月神戸で「神戸生物多様性国際対話」が開催された【17】

Aさんセンセイ、行ったんですか。

H教授申し訳ない。開催されるということすら知らなかった。

Aさんダメですねえ。

H教授校務で忙しかったんだから、仕方がないだろう。第一、英語だろうし、聞いたってわからないだろう。

Aさんぷっ、それが本音ですか。


H教授う、うるさい。
とにかくこの神戸の会合で、「ポスト2010年目標日本提案(素案)」が提示された【18】

Aさんその中身はどんなものなんですか。

H教授2050年の中長期目標として、「生物多様性を現状以上に豊かなものにする」ことを謳いあげている。で、そのために2020年の短期目標として、3つばかり挙げているんだけど、これは抽象的過ぎてよくわからない。
むしろ、そのあとに挙げている個別目標の方がわかりやすい。
「A 生物種を保全する活動を拡充し、生態系が保全される面積を拡大する」から「I 生物多様性の保全と持続可能な利用に対する多様な主体の参加を促進する」までの9つの個別目標と、そのための達成手法と評価のための数値指標を挙げている。

Aさんま、確かに生物多様性の保全ってコトバ自体がわかりづらいから、日本でもなかなか普及しにくいですねえ。名古屋での会議がきっかけになって、少しでもそういう認識が広がっていけばいいですねえ。

H教授ま、「里山保全」って言えば、誰だって総論賛成だろう。同じように、多様性保全の具体的な諸問題ごとに、わかりやすいキャッチフレーズと具体的な解決策を考えていけばそれでいいだろう。
あとは生物多様性基本法25条にある戦略的アセスメントの、一日も早い具体化を図ることだ。

Aさんさ、あとは何かありましたか。


懸賞付きケータイリサイクル

H教授経済産業省が、ケータイのリサイクル率を上げるための、抽選で商品券があたる制度をはじめた。レアメタル回収のための都市鉱山の具体化だね【19】

Aさん回収の義務化はされていないんですか。

H教授現在は量販店や販売店で自主回収しているんだけど、家電リサイクル法のスキームで義務化しちゃえばいいのにね【20】

Aさん経済産業省と環境省の縄張り争いでできないって訳ですね。
鳩山内閣になっても、行政の縦割りは一朝一夕ではどうにもならないんでしょう。


公共事業再説

H教授行政の縦割りの話や、来年度予算とも関連あるんだけど、新幹線の整備方針を年内に決定するという報道が出ていた。北海道新幹線の札幌―長万部間、北陸新幹線の金沢―福井間といった未着工区間をどうするかということだ。
前政権は年内の着工決定を目指していたけど、多分凍結になるんじゃないかということだ。

Aさん一方、日航の危機が伝えられている中、00年以降開港もしくは滑走路を拡張した30空港を朝日新聞が調査したところ、4空港以外、すべて当時の需要予測より乗降客数は下回ったという記事が出ていましたねえ。

H教授つまりかつては全国至るところに空港、新幹線それに高速道路を通すことを目標としてきた。それが完全に破綻したということだ。願望を需要予測にすり替えたり、それぞれの部局が連携や調整もとらずに、借金しまくって作ってきたことの限界が誰の目にも明らかになってきたんだ。自民党内閣は潰れるべくして潰れたんだと思うな。
もちろん赤字路線は一切作るなということじゃあないけどね。

Aさん新しいものを作るのは結構ですが、維持管理にオカネがかかるし、橋とかトンネルとかは、やはり寿命があるんじゃないですか。

H教授うん、建設50年を越すと、要注意になるが、そういう橋がこれから増え続ける。米国では橋が崩壊する事故が起きたことがある。日本もそうならないようにする必要がある。トンネルもそうだし、東海道新幹線も50歳になるのはそう遠い先の話ではない。
補修だけならいいんだけど、やはり寿命ってものはある。
寿命が来たとき、すべてを更新することは不可能だという前提で、地域づくりをしていかなくちゃ仕方がない。


邪馬台国大和説に軍配?

Aさんうーん、もうこれで今年の時評は最後ですよねえ。なんか楽しい話題で締め括りましょうよ。
奈良県桜井市にある纏向遺跡で巨大な建物跡が発掘され、卑弥呼の宮殿かと話題になっていますね。これで一気に邪馬台国大和説が有力になってきましたね。

H教授さあ、それはどうだろう。物的証拠がないから、あれだけでは何とも言えないだろう。付近にある箸墓古墳というのが昔から知られていて、伝承では第7代孝霊天皇の皇女、倭迹迹日百襲姫命の墓ということになっている。宮内庁が管理しているんだけど、昔っから卑弥呼の墓だという説を唱える人はいた。

Aさんじゃ、それを発掘すればいいじゃないですか。

H教授宮内庁が発掘を許可しないんだ。

Aさん許可すりゃあいいのに。学問のためなんだから。

H教授とうの昔に盗掘されていて、何も出てこない可能性が高いんじゃないかな。
大体、邪馬台国の所在については大和説と北九州説の真っ二つに別れているかのような報道がされているが、真っ二つじゃなくて、学界の多数派ははっきりしているという話を聞いたことがある。

Aさん多数派は大和か北九州かどっちなんですか。


H教授はは、忘れちゃった。

Aさんぷっ、しょうがないセンセイだこと。

H教授それより、アマチュアの中には、とんでもないところを邪馬台国に比定する人がいて、佐渡だとか、挙句の果てはエジプトだという説まであるぐらいだ。
その牽強付会(けんきょうふかい)さがたまらない魅力でもある。
ま、吉野ヶ里もあることだし、当分日本史最大の謎ということでいいんじゃないか。
大体が邪馬台国でなく邪馬壱国だという説もあるくらいで、魏志倭人伝だってどこまでホントのことを伝えているかも怪しい。

Aさんそういえば、「邪馬台国」にしても「卑弥呼」にしても「倭」にしても、なんとなくひどい漢字を使ってませんか。

H教授ま、もともと中国は中華思想があり、事実、当時の日本は中国からすれば辺境の蛮族の国と思われても仕方なかったんだろう。


本邦初の角竜化石発見


Aさんあと丹波で恐竜が発見され「丹波竜」として話題になりましたが、同じ丹波層群のまた別の場所で、今度は日本初の角竜の化石がみつかりました。
角竜って、トリケラトプスの仲間ですよ。ロマンがあるじゃないですか。
センセイもわけのわからない石ころ拾いはやめて、恐竜発掘に切り替えたらどうですか。

H教授放っておいてくれ。
さっそく市の脊椎動物化石保護条例の重点保護区域に指定し、土石の採取を禁止したとのことだ。民有地で、採集はおろか地権者以外は立ち入りも認めない方針のようだ。

Aさん当然でしょうね。

H教授そうかな。発見者は丹波竜と同じ人物で、研究者というわけでもない化石マニア。彼の活動のお陰で学術的に貴重な発見がなされたんだ。
だのに、この条例だと彼も締め出されてしまうことになる。
こういう博物学の世界では、アマチュアの活動で、しばしば貴重な発見がなされるんだ。単に締め出してしまえばいいというのは間違いだと思う。
報告を義務付けるとか、何らかの発掘のルールは必要だと思うけど、一切禁止というのはいただけないな。


2012年に地球が絶滅?


Aさんはいはい。センセイ、ひょっとしてその化石マニアにかこつけて、ご自分の趣味を正当化しようとされてません?
ところで2012年地球滅亡説というのがあるそうです。

H教授ノストラダムスだとかなんだとかの、その手の話は昔からあるんだけど、今度の根拠は?

Aさんマヤ暦だそうです。マヤの長期暦の区切りになるんですって。事実、2012年は太陽活動の極大期になり、磁気嵐だとかいろんなことが地球で起きる可能性があるそうです。

H教授ばかばかしい。マヤの予言ですらないんだろう?
太陽の黒点に関しては11年周期で増減を繰り返しているように、活発期と停滞期が周期的に繰り返している。実は、もうとっく太陽活動は活発にならなければいけない時期に来ているんだが、まだ活動が停滞していて、そちらの方が問題になっているくらいだ。
2012年に、そんなとんでもない事象を引き起こすほど、太陽活動が活発になるとは到底思えない。

Aさんそういえば、太陽活動が停滞期に入ったんで、温暖化から寒冷化に入ったなどという反温暖化論者もいましたね。


H教授その説も含めて、いろんな類の反温暖化論を科学的に批判した本が出た。
「地球温暖化懐疑論批判」という冊子で、非売品なんだが、ネットでも公表されている【21】ので、キミも読んでおくといい。残念なことにこういう本は市販されないんだよねえ。

Aさんトンデモ説の方が、面白いから売れるんですかねえ。


H教授ただボクにとって、2012年にひとつの時代が終わることは事実だ。

Aさん第一約束期間の最終年だからですか。

H教授ボクが定年退職するんだ。

Aさん…。

H教授・Aさんそれでは読者のみなさん。いいお年を。(礼)


注釈

【1】国のやるべき事業とは何かを、まずは明確にすべき
第82講「概算要求をめぐって」
【2】齋藤デンスケ氏のこと
第82講「大蔵省の復活?」
【3】カナダ・ハーパー政権の温暖化対策
第38講「温暖化四方山話」
【4】温暖化対策に熱心な政権に変わったオーストラリア
第59講「温暖化をめぐる攻防―バリを目前にして」
【5】各国の温室効果ガス削減目標
本文の記述は下記に拠っている
AFPBB News「COP15目前、各国の温室効果ガス排出削減中期目標」
【6】ロンボルグなら可能というだろう…
第12講「ロンボルグの波紋」
【7】鳩山イニシアティブ
第81講「鳩山イニシアティブ」
【8】世界のCO2排出量は、炭素換算で87億トン、07年より2%増加
国内ニュース「世界金融危機にも関わらず 過去最高 CO2排出量一人当たり年間1.3トン!」
【9】エネルギー需給実績(速報)
経済産業省「平成20年度(2008年度)エネルギー需給実績(速報)」
【10】
国内ニュース「2008年度の日本の温室効果ガス総排出量速報値を公表、基準年比1.9%増に」
【11】原発の話題
第18講「キョージュ、無謀にも畑違いの原発を論ず」
【12】何度も取り上げた「生物多様性」の話題
第49講「生物多様性保全を巡って」
第57講「第三次生物多様性国家戦略案まとまる」
第57講「Hキョージュ版 幻の生物多様性国家戦略」
【13】生物多様性基本法の制定
第65講「生物多様性基本法成立」
【14】政策棚卸しでも叩かれていた「SATOYAMAイニシアティブ」
第72講「「政策棚卸し」の行方」
【15】時評で取り上げた話題
自然公園法改正 第73講「自然公園の新たな海域保護制度を予想する」
外来生物法 第25講「バスに乗り遅れるな ──特定外来生物ドタバタ劇」
海洋基本法 第70講「海洋保護区の設定、検討開始」
泡瀬干潟の問題 第71講「「時のアセス」を考える ──泡瀬干潟埋立に画期的判決」
大西洋の本マグロ問題 第71講「マグロとクジラ」
【16】生物多様性民間参画ガイドライン
環境省報道発表(8/20)「生物多様性民間参画ガイドライン」の公表について(お知らせ)
【17】神戸生物多様性国際対話
環境省報道発表(10/20)「神戸生物多様性国際対話」の結果について(お知らせ)
【18】「ポスト2010年目標日本提案(素案)」が提示された
環境省報道発表(10/20)添付資料
【19】経済産業省の携帯電話回収キャンペーン
国内ニュース「経産省「たんすケータイあつめタイ\(^o^)/」 始動!!」
国内ニュース「経産省 「たんすケータイあつめタイ\(^o^)/」 事業 当選者を公表」
【20】携帯電話回収と家電リサイクル法のスキーム
第61講「レアメタルのリサイクルと国内資源の確保」
【21】ネットでも公表されている「地球温暖化懐疑論批判」
IR3S/TIGS叢書No.1「地球温暖化懐疑論批判」
アンケート

この記事についてのご意見・ご感想をお寄せ下さい。今後の参考にさせていただきます。
なお、いただいたご意見は、氏名等を特定しない形で抜粋・紹介する場合もあります。あらかじめご了承下さい。

【アンケート】EICネットライブラリ記事へのご意見・ご感想

(平成21年11月29日執筆、同年12月1日編集了)

註:本講の見解は環境省およびEICの見解とはまったく関係ありません。また、本講で用いた情報は朝日新聞と「エネルギーと環境」(週刊)に多くを負っています。

※掲載記事の内容や意見等はすべて執筆者個人に属し、EICネットまたは一般財団法人環境イノベーション情報機構の公式見解を示すものではありません。