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カナダのカーシェアリング事情
アメリカ横断ボランティア紀行(第9話)
観光客に公共交通利用を
──ツバイテーラーラントの取り組み──
En ville, sans ma voiture!(街中ではマイカーなしで!)
〜モントリオールのカーフリーデー
アメリカ横断ボランティア紀行(第8話)
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No. アメリカ横断ボランティア紀行(第9話) 大陸横断編・その2
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Issued: 2007.03.15
大陸横断編・その2(テキサス州→ニューメキシコ州→アリゾナ州)[3]
 また、日本の国立公園が自然の風景地の保護を目的とした規制的な管理手法をとっているのに対し、アメリカの公園が「公園地の経営」に重点を置いた管理を行っているという違いがあるように思える。例えば、国立公園局は、公園の「管理」という意味で、「stewardship」という表現を用いることがある。「steward」には「執事」とか「財産管理人」という意味がある。「国立公園」を財産としてとらえ、公園としての資質を損なわない範囲で質の高い施設を整備し、多くの利用者を受け入れる。民主主義の国アメリカでは、より多くの国民から高い評価を得ることができれば、その財産としての価値ばかりではなく、結果として国立公園局の政策自体も高く評価されるだろう。これは、私の勝手な推測に過ぎないが、こう考えてみると、公園で料金を徴収するか否かということは、単なる入場料金や徴収方法などの技術的な問題ではなく、公園地の管理方針や公園制度に深く根ざしたものといえる。「アメリカの公園が有料だから」といって安易に日本の公園の有料化を持ち出すのは、あまり意味のないことなのかもしれない。むしろ、利用者向けの「サービス」の向上が、結果として公園の「サポーター」の裾野を広げる、というアメリカの国立公園局の認識こそ、日本が学ぶべきことではないかと感じる。
 目次
カベザプリエタ国立野生生物保護区
オルガンパイプカクタス国立記念物公園
所長インタビュー
サガロサボテンがニョキニョキ生えている不思議な風景。

 有料道路のあちこちに、路傍駐車場やピクニックテーブルがある。一面にサボテンがニョキニョキ立っている光景はとてもユーモラスだ。有料のためか車も少なく、後ろを気にせず自分たちのペースでゆっくりと車を走らせることができる。
 私たちはいつもの小さなクーラーボックスを取り出してピクニック昼食をとった。食後はスケッチブックを取り出し、サボテンをスケッチした。餌付けられたと思われる小さなリスがどこからか近寄ってきてはこちらの様子を伺っていた。

有料道路沿いに設置されたピクニックサイト。リスが私たちの様子を伺っていた。
有料道路沿いに設置されたピクニックサイト。リスが私たちの様子を伺っていた。
サガロ国立公園の入口看板

カベザプリエタ国立野生生物保護区
カベザプリエタ国立野生生物保護区管理事務所

 サガロを訪れた日の翌日、そこから西へ約180km程のところにある、カベザプリエタ国立野生生物保護区【7】を訪れた。この保護区は全米でも有数の規模(アラスカ州を除くアメリカ本土48州内で3番目の広さ)を誇り、保護区の90%以上がウィルダネス地域に指定されている。保護区内にはビックホーンシープやコヨーテなど多くの野生生物が生息する。数日前に、電話でインタビューのためのアポイントをとっていた。まず、管理事務所を訪問する。
 事務所の入口には、保護区に関するパンフレットや「ファクトシート」と呼ばれる、主な野生生物に関する説明資料などが備え付けられている。

 「今日は所長が対応する予定なのですが、午後からにしていただけないかということでした」
 休暇中にもかかわらず、私たちのためにわざわざ出てきてくれるというのだ。午後のインタビューまでの間、保護区内で時間をつぶそうと思い、お勧めの場所を聞いてみた。窓口で対応をしてくれた白髪の女性は、退職して以来、一年の半分をキャンピングカーに乗って各地の国立公園や野生生物保護区でボランティアとして過ごしているそうだ。
 「ここは普通車での通行は難しいと思いますよ。一般向けの利用施設もないのでオルガンパイプカクタス国立記念物公園に行かれてはいかがですか」
 保護区内に一般向けの利用施設がないということには驚かされた。利用施設はない代わりに、管理事務所に併設されたビジタースペースにはおもしろい工夫があった。この小ぶりのビジタースペースは、折りたたみいすの置かれたレクチャースペースになっている。壁面には解説板や剥製、模型などが並んでおり、時折訪れる利用者は思い思いに腰掛けたり展示を見たりする。
 レクチャールームの一隅に、テレビとビデオデッキ、DVDプレイヤーが置いてある。その脇に、DVDやビデオソフトなどの並んだ「ライブラリー」があり、自由に閲覧できるようになっている。野生生物保護区の紹介から始まり、他の保護区、様々な野生生物に関するソフトが揃っている。これらのソフトは、ウェストバージニア州にある国立保全研修センター【8】で製作され、各地の国立野生生物保護区や野生生物に関係する教育機関などに送付されているそうだ。
 日中は暑すぎるので、屋内でゆっくりしている方がいい。また、野生動物には夜行性のものが多いため、昼間に保護区を訪れてもめったにその姿を見ることはできない。また、それぞれの生物の不思議な生態を理解するためには、こうした教材が大いに価値を発揮するのだそうだ。

管理事務所に併設されている展示スペース。国立保全研修センターで製作されている映像ソフト。
管理事務所に併設されている展示スペース。国立保全研修センターで製作されている映像ソフト。
【7】 カベザプリエタ国立野生生物保護区
 1939年設立。アリゾナ州に位置する面積約34万8千haの国立野生生物保護区。メキシコと国境を接しており、保護区内の国境延長は約90km。野生生物保護区内には、植物391種、野生生物300種以上が生息。降水量は、最も少ない地点で年間75ミリ、最も多い地点でも225ミリと極端に少ない。6月から10月にかけて、90日から100日間、気温が華氏100度(摂氏約38度)を超える日が続く。
カベザプリエタ国立野生生物保護区(魚類野生生物局ウェブサイト)
【8】 国立保全研修センター
国立保全研修センター(魚類野生生物局ウェブサイト)
カベザプリエタ野生生物保護区の入口標識。

オルガンパイプカクタス国立記念物公園
 カベザプリエタ国立野生生物保護区の管理事務所をいったん出て、さらに南下する。この道はメキシコ国境に続く道路で、国境警備のパトロールが行われている。展望台のような監視塔があったり、パスポートチェックが行われていたりする。
 しばらくすると、国立公園入り口を示す大きな路傍看板が出てきた。オルガンパイプカクタス国立記念物公園だ【9】。この公園にも入口に料金ゲートはなく、公園内にある有料の周回道路入口のみで料金が徴収されている。少し暑かったが、ここでもピクニックをすることにした。サボテンも、ここではオルガンパイプとサガロが混じっている。この奇妙な風景がすっかり気に入ってしまった。

オルガンパイプサボテン国立記念物公園の入口標識。
オルガンパイプサボテン国立記念物公園の入口標識。
オルガンパイプサボテンと。このサボテンは私と同い年くらいだろうか。
オルガンパイプサボテンと。このサボテンは私と同い年くらいだろうか。
公園内は乾燥していていろいろなサボテンが見られる。
公園内は乾燥していていろいろなサボテンが見られる。
オルガンパイプカクタス国立記念物公園のビジターセンター
オルガンパイプカクタス国立記念物公園のビジターセンター
【9】 オルガンパイプカクタス国立記念物公園
 アリゾナ州に位置する国立記念物公園。1937年に設立され、面積は約13万ha。ソノーラ砂漠の生態系がほぼそのまま保護されているという理由から、1976年にユネスコの国際生物圏保護区に指定されている。
オルガンパイプカクタス国立記念物公園(国立公園局ウェブサイト)
所長インタビュー
 保護区の事務所に戻ってくると、既に所長さんがお見えになっていた。ディローサ所長は、以前ロッキーマウンテン国立公園で働いた経験もあるという大変気さくな方だった。国立公園局と魚類野生生物局双方で働いた経験から、2つの組織の雰囲気や管理方針の違いなどについてもいろいろと面白い話を伺うことができた。→(その4)へ続く

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