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カナダのカーシェアリング事情
アメリカ横断ボランティア紀行(第9話)
観光客に公共交通利用を
──ツバイテーラーラントの取り組み──
En ville, sans ma voiture!(街中ではマイカーなしで!)
〜モントリオールのカーフリーデー
アメリカ横断ボランティア紀行(第8話)
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No. アメリカ横断ボランティア紀行(第9話) 大陸横断編・その2
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Issued: 2007.03.15
大陸横断編・その2(テキサス州→ニューメキシコ州→アリゾナ州)[4]
 「国立公園局は、風景の素晴らしい、いわゆる「景観地」の管理を主眼としています。それに対し、魚類野生生物局は野生生物の生息地域保全が第一です」
 そのため、国立公園の管理は、その風景を楽しむために訪れる利用者を優先した管理を行っているそうだ。これに対し、野生生物保護区には整備されたキャンプ場もなく、利用者は自らの責任で砂漠の中でキャンプをしなければならない。保護区内の道路も当然舗装されていないので、四輪駆動でなければこのような保護区内の車道を走行することができない。これは、自ら保護区内への車両の乗り入れを抑えることにもつながる。気軽にこの砂漠の景観を楽しみたいなら、お隣のオルガンパイプカクタス国立記念物公園へどうぞ、という訳だ。役割分担がはっきりしている。
 「また、国立公園局は、自分の管理地から外に踏み出すことはないが、魚類野生生物局は民有地の保全にも取り組んでいます」
 保護区の境界を越えて移動する野生動物の保護には、保護区内の保全だけでは対応できないことがその主な理由だ。土地の開発を放棄すると、税の減免や場合によっては補助金を与えるといった制度もあるそうだ。
 目次
野生生物保護区管理に関する課題
メキシコとの国際協力について
ディローサ所長へのインタビュー風景。

野生生物保護区管理に関する課題
 「国立野生生物保護区の土地は国の持ち物ですが、わたしたち管理者が自由に管理できるわけではありません」
 保護区の管理方針については、必ず地域や利用者からの意見を聞かなければならない。寄せられる意見同士が対立していることも少なくない。
 「野生生物保護区内には、ビッグホーンシープが生息しています。個体数を調整するために毎年10頭程度をハンターに狩猟してもらっていますが、自然保護団体はこれに反対しています」
 自然保護団体が反対しているのは、保護区内で狩猟行為が行われているということではなく、むしろ保護区の管理方針が矛盾しているという点だ。保護区は、個体数調整のための狩猟を認めている一方で、個体数を保つための水のみ場が設置されている。この管理の方法に矛盾があるというのだ。
 「野生生物向けの給水は、保護区が設置された当初から行われていることです。果たして水のみ場を撤去しても個体数が維持できるかどうか、はっきりしたことはわかっていません。おそらくは給水をやめても大丈夫だと考えられています。ただ、問題はハンターが狩猟枠を自分たちの『既得権』と考え、水のみ場の撤去に反対するので、管理方法を変更できないという点にあります」
 ハンターグループは、主に地元の住民から構成されている。そのため、狩猟枠を縮小しようとすると、地元からの大反対がわき起こり、しばしば政治的な問題に発展するそうだ。
 「特定の利害がからむと途端に問題が複雑化してくる。野生生物より人間の管理の方が格段に難しいんです」

メキシコとの国際協力について
 この野生生物保護区は、メキシコと国境を接しており、連続した砂漠生態系を共有している。このため、メキシコ側の保護区に対して技術支援を行っているそうだ。
 「ところが、メキシコ政府は腐敗していて、中央政府にお金を渡しても現場までは届かないのです。ですから、もっぱら技術協力や航空機などのチャーター代を直接米国側が負担するなどの支援を行っています。また、メキシコの生物学者を招聘してトレーニングなどをしています」
 メキシコとの国境沿いでは、不法入国、麻薬取引、人身売買などの犯罪行為が横行しているそうだ。そのような犯罪組織が夜間四輪駆動車で野生生物保護区内を走行することから植生等への影響も大きい。加えて、米国側の取締当局のパトロール車が追跡のために原野を走り回るので、その影響はさらに大きくなってしまう。
 なお、野生生物保護区は空軍施設とも区域を接している。これらの軍用地についても、軍事目的に影響がなければ極力生息地を保全する方向で管理がなされているそうだ。
<妻からの一言> 〜車窓から〜
 アメリカでは、日本での生活に比べて車に乗っている時間が圧倒的に長くなりました。私はほとんど運転手に「任命」されることがなかったので、いつも窓から見える景色を楽しんでいました。アメリカ大陸を一往復もすると、実に様々なものを目にすることができます。地形、植物、動物、家の造りや大きさ、土の色、気温、湿度、人の様子など、州が変わると違う国に来たような変化があります。車道から離れてはいましたが、竜巻を見たときはかなり緊張しました。
 また、様々な季節の変化も目の当たりにすることができました。クリスマスの季節、住宅街には、それぞれの庭に、手の込んだ小さな電球を使った飾り付けが現れ、ディズニーランドの光のパレードでも見ているような気分でした。

マンモスケイブの周辺にはあちこちに牧草地が広がっていました。これは秋の写真ですが、1年を通じて青々とした風景は、ケンタッキー州が別名「ブルーグラス・ステート」と呼ばれるゆえんです。手作りのハロウィーンの飾りつけ。
マンモスケイブの周辺にはあちこちに牧草地が広がっていました。これは秋の写真ですが、1年を通じて青々とした風景は、ケンタッキー州が別名「ブルーグラス・ステート」と呼ばれるゆえんです。手作りのハロウィーンの飾りつけ。

 このような車窓からの風景の中でも、強く印象に残っているのは、目にする動物たちの変化です。それには、車にはねられ、道路脇に倒れている多くの動物たちも含まれます。
 マンモスケイブ付近では、七面鳥の群れやシカ、ウサギ、リス、キツツキなどをよく見かけました。一生懸命羽を広げてアピールしているオスの七面鳥の姿などは、とてもユーモラスでした。2年間のアメリカ滞在を通じて、道路脇に倒れている動物の中で一番よく目にしたのはシカでした。また、シカの死骸を食べにやって来るバルチャー(ハゲワシ)の姿も見られました。国立公園の職員に聞いたところ、車ではねてしまったシカをそのまま持ち帰り、食べてしまう人もいるそうです。

羽を広げてディスプレーしている七面鳥。車が近づくと羽をとじてしまいました。
羽を広げてディスプレーしている七面鳥。車が近づくと羽をとじてしまいました。

 自然の多い国立公園付近に限らず、例えばワシントンDCから郊外へ向かって一時間弱走ると、道路沿いのフェンスの柱にRed Tail Hawk(アカオノスリと呼ばれる猛禽類の一種)が止まっていたりします。また、一時は絶滅が心配されていた、アメリカの国鳥Bold Eagle(ハクトウワシ)が、オレゴン州とワシントン州の州境を流れるコロンビア川で営巣しているのを見ることができました。それは、アメリカ西部を南北に縦断する交通量の多いインターステート5号線を、コロンビア川に並行して走行しているときでした。ハクトウワシに出会えたことで興奮したのと同時に、案外車の騒音や排気ガスなどを気にせず繁殖している様子を目撃して拍子抜けしたのを覚えています。
 ケンタッキー州からカリフォルニア州の引越横断では、ルイジアナ州でアルマジロを見かけました。テキサス州では道路脇でサソリを見つけました。ビッグベンド国立公園では、地面を走る、その名も「ロードランナー」という鳥や、小さなイノシシの仲間のペッカリーにも出会いました。ペッカリーの群れに出会ったときは、こちらの車に驚いてあわてて逃げていきましたが、子供と思われる小さなペッカリー1頭がどうしても路肩の側溝を越えられずに、途方にくれていた姿は少しかわいそうでした。
 レッドウッドではクマやエルクと鉢合わせしたり、フクロウやウミスズメが飛んでいたり、ペリカンの大群がラグーンで休んでいたり、トドやアザラシ、クジラが泳いでいたりしていました。車の助手席からでもこれだけの動物を目にすることができました。意外にも、経済大国のアメリカにはまだまだ豊かないきものが暮らしているのかも知れない、という気がしました。

山の尾根に風力発電の風車がたくさん回っていました。
山の尾根に風力発電の風車がたくさん回っていました。


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記事・写真:鈴木渉(→プロフィール

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