当時、イエローストーン国立公園で問題になっていたのが、冬季のスノーモービルの乗入れの取り扱いだった。国立公園内にスノーモービルが入り込むことで、バイソンの生息が脅かされたり、他の利用者の利用環境を大きく損なうことから、その是非が議論されていた。クリントン政権当時に、スノーモービルの全面的な締め出しを打ち出したものの、ブッシュ政権に代わって見直されるなど規制をめぐる対応も混迷し、国民の注目を集めていた。
このスノーモービル問題について、私も日本から「宿題」をもらっていた。日本で2002年の自然公園法一部改正によって導入された特別地域内の「利用調整地区」指定に関連して、先進地・アメリカの規制の制度的な特徴や運用の実情を調べるというものだった。
利用調整地区に指定されると、立入り人数などを制限して、利用の集中による自然環境の損失を防ぐことが期待される。これまであまり有効な手段がなかっただけに、画期的な制度改正と言える。2006年12月、吉野熊野国立公園の西大台地区に全国初の利用調整地区が設定された。ただ、実際の指定や規制の導入には困難な点も多いため、こういった海外の事例が参考になるのだろう。
「悪いんだけど、イエローストーンのスノーモービル規制の件を調べてくれないか?」
マンモスケイブを出発する直前、荷物をほぼまとめ終えたところで、日本からのメールが届いた。かなり急いでいるようだった。調べるといってもイエローストーンに行ける訳ではないので、インターネットで調べたり、公園職員に話を聞くくらいしかできない。マンモスケイブの公園職員が、それほどスノーモービルの問題に詳しいとは思えなかった。
公園職員に質問してみたところ、案の定、ホームページのアドレスが送られてきた。
「このサイトにあらゆる文書が掲載されているよ」
予想された反応だった。ところが、そのサイトにはものすごい量の書類が公開されていた。これまでの経緯に関する資料から様々な研究レポートなどが一通り掲載されている。このアドレスを日本に送れば調べられるはずだ。とりあえず送ってみる。
「今忙しくて手が回らないんだ。まあ、いいからざっと読んでみて簡単なメモをくれよ」
との返事。やむを得ずもう一度荷を解いて、プリンターや資料を取り出す。いくつかの資料を読み進んでいくうちに、この規制にまつわる興味深い議論が浮かび上がってきた。