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No. アメリカ横断ボランティア紀行(第18話) イエローストーン国立公園
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Issued: 2008.08.28
イエローストーン国立公園[1]
写真1:キャニオンビレッジのアーティストポイントから見るLower Falls

1872年、世界で初めての国立公園、イエローストーン国立公園が設立された。今もハクトウワシが舞い、バッファローが群れをなすイエローストーンは、野生生物にとって、アラスカを除く米国本土48州に残された“最後の楽園”といえる。  私たちが訪問した当時、イエローストーンではスノーモービルの乗り入れ規制導入をめぐって関係者の意見が対立し、司法、さらには政権を巻き込んだ論争に発展していた。  自然のスケールばかりでなく、「もめごと」のスケールも大きい。国立公園発祥の地、イエローストーンは、今も国立公園行政のフロンティアと言える。


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 目次
イエローストーン国立公園
国立公園の施設計画
公園管理に関する課題

イエローストーン国立公園
写真2:イエローストーン国立公園の入口標識

 イエローストーン国立公園は、ワイオミング、モンタナ、アイダホの3州にまたがる、面積222万エーカー(約90万ヘクタール)の国立公園。アメリカ屈指の広大な国立公園であり、また観光地でもある。1978年には世界自然遺産にも登録されている。
 公園区域の中心部は、実は大きな火口の跡だ。60万年前、イエローストーンの中心部で大規模な噴火があった。その火口は南北45キロメートル、東西75キロメートルにも及ぶものだったと考えられている。オールドフェイスフルをはじめとする数々の間欠泉、ガイザー(噴泉)などは、この地域が現在も活発な火山活動を続けている証拠でもある。
オールドフェイスフル地区の間欠泉のひとつ、リバーサイドガイザー
写真3:オールドフェイスフル地区の間欠泉のひとつ、リバーサイドガイザー
国立公園内を通る大陸分水嶺
写真4:国立公園内を通る大陸分水嶺
 公園内には大陸分水嶺(continental divide)が走っている。分水嶺と車道が交わるクレイグ峠(Craig Pass)は標高が2500メートル。この地点を境に水が太平洋と大西洋とに別れると考えると目がくらむ思いだ。この公園は、米国本土の巨大な屋根、ロッキー山脈のただ中にあるのだ。さまざまな野生生物が生息しているが、何といっても有名なのはバイソン(バッファロー)だろう。公園を車で走っていると、あちこちでバイソンの群れに遭遇する。そのほか、エルク、ハイイログマ、ビッグホーンシープ、ムース、エルクなどが見られる。
車道脇でもあちこちでバイソンを観察することができる
写真5:車道脇でもあちこちでバイソンを観察することができる
草地で寝転ぶバイソンの群れ
写真6:草地で寝転ぶバイソンの群れ
拡大図はこちら

 過去、国立公園においては、エルク、バイソン、オオカミの捕獲、駆除が行われたそうだ。その結果、イエローストーン一帯【※】ではオオカミは絶滅した。しかしながら、健全な生態系を維持するためには、食物連鎖の頂点にたつオオカミの存在が不可欠だということがわかってきたため、1995年〜1996年にかけて、カナダから31頭のオオカミが再導入された。現在は170頭前後に増加している。

イエローストーン国立公園のオオカミ(国立公園局ウェブサイト)
【※】 イエローストーン国立公園及びその周辺をとりまく国有林などにより、拡大イエローストーン(Greater Yellowstone)地域と呼ばれる自然地域が保護されている。
国立公園の施設計画
 イエローストーン国立公園の年間利用者数は約300万人。そのほとんどは7月と8月に集中する。私たちが訪問したのも8月で利用者が多かった。ほとんどの利用者は車でやってくる。広大な面積の公園は見所も多く、車で回っても一週間ではとてもすべてを見ることはできない。  国立公園の地図を眺めてみても、この公園の施設が、車の利用を念頭に構成されていることがわかる。公園内には、大きな8の字状のループ道路が、公園内の見所をうまくカバーするように周回している。その周回道路に、各ゲートから車道が延びている。まるで、公園全体がドライブのために設計されているような印象を受ける。周回道路に沿って、「ビレッジ」と呼ばれる利用拠点【1】が設けられており、ビジターセンターやホテルなどが整備されている。
 イエローストーン国立公園の車道のエントランスは5箇所しかない。うち1箇所はパークウェイを介して隣のグランドティートン国立公園とつながっている。広大な公園の面積に比べてゲートが少ない。その分、公園のアクセスコントロールや料金徴収のコスト削減の効果が高いことが推察できる。
 トップシーズンというのに、いったん国立公園に入ってしまえば、それほど混雑を感じない。この車道計画とビレッジの分散配置によって、利用者の集中が緩和されているようだ。地理的条件から、どうしても利用者が一箇所に集中してしまうヨセミテやグランドキャニオンとは印象がかなり異なる。
 また、このビレッジと車道計画は、日本の国立公園の利用施設計画にも似ている。日本の国立公園にも、ホテルやビジターセンターが立地する「集団施設地区」が設定され、公園利用に必要なホテル、キャンプ場、ビジターセンター、駐車場、ピクニックサイト(園地)などが整備されている。車道がそれらの利用拠点と公園の入口や核心部をつなぐように設定される。日本のこの制度(集団施設地区)は、アメリカのビレッジなどの考え方を参考に構想・立案されたのではないかと思えてならない。
【1】 ビレッジ
 国立公園内に設けられる施設区。ホテル、野営場などの宿泊施設、ビジターセンター、駐車場、ピクニックサイト、レストラン、売店などが集中的に整備されている。利用者はそこで自動車を降り、自然を探勝する他、休憩や買い物などをする。宿泊施設も充実しており、滞在型利用の拠点として機能している。ビレッジを計画的に配置することで、効果的な利用の分散を図ることができる。また、利便施設を一箇所にまとめて整備することによって、自然環境への影響を小さくするとともに、上下水道などのインフラ整備のコストを縮減することができる。イエローストーン国立公園には、Mammoth Hot Springs、Old Faithful、Canyon Village、Grant Village、及びLake Villageの5箇所のビレッジが整備されている。同様の施設区は、グランドキャニオン国立公園にも見られる(第10話参照)。
http://www.eic.or.jp
/library/pickup
/pu070517-2.html



○グランドティートン国立公園(Grand Teton National Park)

 1929年設立、面積310,000エーカー(約12万5千ヘクタール)。ジャクソンホールからのスネーク川の流れとティートン山脈の険しい山岳地形の風景は雄大。ジョン D. ロックフェラージュニア記念パークウェイによってイエローストーン国立公園とつながっており、実質的に一体の公園として利用される。国立エルク保護区(魚類野生生物局管理)が隣接している。
グランドティートン国立公園の入口標識
写真7:グランドティートン国立公園の入口標識
ティートン山脈と麓を流れるスネーク川
写真8:ティートン山脈と麓を流れるスネーク川

○ジョン D. ロックフェラージュニア記念パークウェイ(John D. Rockefeller Jr. Memorial Parkway)

 1972年設立。面積23,800エーカー(約9,600ヘクタール)。イエローストーンとグランドティートンをつなぐ延長8.2マイル(約13キロメートル)の公園コリドー。このパークウェイは、グランドティートンを含む多くの国立公園の設立に尽力した、ジョン D. ロックフェラー氏を記念して設立された。管理はグランドティートン国立公園が兼轄している。
パークウェイの入口標識
写真9:パークウェイの入口標識
グランドティートン国立公園区域図
グランドティートン国立公園区域図
拡大図はこちら


公園管理に関する課題
写真10:生ごみに群がるクマ(NPS PHOTO)

 イエローストーン国立公園は、世界最初の国立公園として知られている。それだけにさまざまな管理上の問題にも真っ先に直面してきたといえる。例えば、オオカミの駆除、クマの餌付け、森林火災の管理方法などだ。
 国立公園局のウェブサイトには、イエローストーン国立公園に関する様々な資料が公開されている【2】。野生動物の狩猟や餌付けなどの写真を見ることができる他、国立公園設立当初に公園を管理していた軍隊の様子、かつて何の施設もなかった時代の公園利用者の様子、公園までの交通の様子など、写真がさまざまなことを教えてくれ、とても興味深い。よく見ると、レンジャーの制服は、国立公園局が設立される1916年まで公園を管理していた軍隊の軍服とそっくりだ。考えてみれば、「レンジャー」という呼称そのものも、こうした軍隊の部隊を連想させる言葉だ。
【2】 イエローストーン国立公園の写真(国立公園局ウェブサイト)
http://www.nps.gov
/archive/yell
/slidefile/index.htm
マーモットに餌をやるレンジャー(1930年代 NPS PHOTO)
写真11:マーモットに餌をやるレンジャー(1930年代 NPS PHOTO)
駆除されたコヨーテの毛皮とレンジャー(1927年 NPS PHOTO)
写真12:駆除されたコヨーテの毛皮とレンジャー(1927年 NPS PHOTO)
 また、1988年に発生した大規模な森林火災は、イエローストーンの森林管理の大きな転機になったと言われている。それまで、国立公園における森林火災は、ほとんどすべての公園で抑制(消火)する方針をとっていた。
 当時、イエローストーン国立公園では「自然に発生する森林火災は、むしろ自然のプロセスの一環である」との考え方が提起され、1988年の森林火災に適用されることになった。これは、施設や周辺集落地への延焼を防止する以外の消火活動は行わないという、当時としては画期的なものだった。
 火災は、それまで森林に蓄積されていた倒木や枯れ枝も燃やし尽くしたために、非常に大規模なものとなった。また火災は利用シーズン中に発生したこともあって、全米中の注目を集めた。
 火災の被害を受けた森林の景観は一変したものの、国立公園としての資質(野生生物や間欠泉、河川、草原景観など)にはなんら影響が生じなかった。イエローストーン国立公園におけるこの試行的な火災の取り扱いの正当性が裏付けられ、以降、他の国立公園にも広がっていったといわれている。
1988年の森林火災の様子(1988年 NPS PHOTO)
写真13:1988年の森林火災の様子(1988年 NPS PHOTO)
下生えだけでなく、樹木も広範に焼失した(1988年Jeff Henry氏撮影 NPS PHOTO)
写真14:下生えだけでなく、樹木も広範に焼失した(1988年Jeff Henry氏撮影 NPS PHOTO)
草原地帯での火災の様子(1988年 Jeff Henry氏撮影 NPS PHOTO)
写真15:草原地帯での火災の様子(1988年 Jeff Henry氏撮影 NPS PHOTO)
オールドウェイスフルで間欠泉の噴出を待つ人たちの背後に立ち上る森林火災の煙(1988年 NPS PHOTO)
写真16:オールドウェイスフルで間欠泉の噴出を待つ人たちの背後に立ち上る森林火災の煙(1988年 NPS PHOTO)
 年々深刻化しているのは、増加する利用者の問題だ。特に、最も人気が高く利用者が集中するオールドフェイスフル地区への利用者集中はその好例だろう。蒸気が立ち上り、硫黄臭の漂う一帯は、日本の温泉地ではよく「地獄」などと呼ばれる場所だ。煮えたぎる温泉はきれいなマリンブルーで、白、黄、褐色の温泉噴出物によく映える。大小さまざまな間欠泉の間をめぐる周遊歩道がしっかりと整備されていて、あちこちで間欠泉の噴出を待つ人だかりができている。
写真17:オールドフェイスフル地区の周遊歩道

モーニンググローリーと名づけられた温泉。
写真18:モーニンググローリーと名づけられた温泉。
キャッスルガイザーと呼ばれる温泉の噴出孔
写真19:キャッスルガイザーと呼ばれる温泉の噴出孔
 最大の間欠泉である「オールドフェイスフル」は、イエローストーン訪問に欠かせない人気スポットだ。間欠泉の周りには、ぐるりと大規模なデッキがめぐらされている。近くのビジターセンターの正面は一面のガラス張りで、室内からも蒸気が吹き上がる様子をゆったりと眺めることができる。
オールドフェイスフル間欠泉の周りにめぐらされたデッキ
写真20:オールドフェイスフル間欠泉の周りにめぐらされたデッキ
間欠泉が吹き出す時刻になると、大勢のビジターが詰めかける
写真21:間欠泉が吹き出す時刻になると、大勢のビジターが詰めかける
オールドフェイスフルにあるビジターセンター
写真22:オールドフェイスフルにあるビジターセンター
ビジターセンターの内部。写真向かって右側が全面ガラス張りになっていて、室内から間欠泉を眺めることができる
写真23:ビジターセンターの内部。写真向かって右側が全面ガラス張りになっていて、室内から間欠泉を眺めることができる
 また、この間欠泉のすぐ脇には、高さが30メートルほどもある巨大な木造建築物、「オールドフェイスフルイン」がある。1904年完成のこのホテルは、この地域の石材と木材により造られた歴史的建築物だ。イエローストーン国立公園設立の推進役である、ノーザンパシフィック鉄道の肝煎りで進められた観光開発の象徴でもある。
写真24:建設当時のオールドフェイスフルイン。現在もほぼ当時のままの姿を保っている(1912年 NPS PHOTO)

オールドフェイスフルインの内部。木組みがすばらしい(NPS PHOTO)
写真25:オールドフェイスフルインの内部。木組みがすばらしい(NPS PHOTO)
イエローストーン国立公園の北エントランスに隣接するガーディナーに停車する蒸気機関車(NPS PHOTO)
写真26:イエローストーン国立公園の北エントランスに隣接するガーディナーに停車する蒸気機関車(NPS PHOTO)
 自然地域におけるマスツーリズムの先駆けとなったイエローストーン国立公園が、膨大な数の利用者を受け入れられるように計画されていることが伺える。駐車場も巨大で、まるで郊外型のスーパーマーケットに来ているようだ。国立公園自体の規模が大きいことや、既にループ道路が完成しているため利用者数のコントロールが事実上不可能という理由もあるだろう。ヨセミテ国立公園などがシャトルバスなどによるパークアンドライドを試みているのとは対照的だ。イエローストーン国立公園の道路の配置は、そのような対策には向いていない。
 「アラスカ州のデナリ国立公園は、イエローストーンをはじめとする古い大公園の失敗に学んだからこそ、自家用車の締め出しに成功したんだ。デナリの管理手法は参考になると思うよ」
 ビジターセンターのカウンターで対応してくれた公園職員の一言だった。アラスカに行けばこれまで見てきた国立公園とは全く違った管理手法が学べるかもしれない。私たちは、これをきっかけに、残された研修期間の中でアラスカに行くことを考え始めた。
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