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Issued: 2008.07.17
南米ペルー、インカトレイルをゆく
 南米ペルー共和国にある世界遺産であり、謎の空中都市として有名なマチュピチュ。このマチュピチュを目指して、インカ帝国時代の道を歩くというアクティビティがあるのはご存知でしょうか。この道は「インカトレイル」と呼ばれ、現在では南米でももっとも人気のあるトレイルのひとつとなっています。
 今回は、インカトレイルのトレッキングの様子をご紹介しながら、マチュピチュ歴史保護区の観光システムをレポートします。
 目次
マチュピチュ歴史保護区
インカトレイルとは
インカトレイルの管理体制
トレイル上のルール
いざトレイルへ
マチュピチュ歴史保護区
国・位置: ペルー共和国南部。マチュピチュの遺跡はクスコの北西80キロメートルのウルバンバ渓谷内に位置する。 地図
面積: 32,592ヘクタール
地勢: アンデス山脈の東側、熱帯山地林に囲まれており、遺跡は標高2,430メートルに位置する。
歴史: マチュピチュは、インカ帝国時代の人々によって15世紀前後に建設されたもの。16世紀半ばにスペイン人が攻めてきた際、インカの人々はマチュピチュを去ったと考えられている。その後400年の歳月を経て1911年に米国人のハイラム・ビンガムが発見(ただし最近ではその前にペルー人が発見したという説もある)。1983年、世界複合遺産に登録。

参考:

ユネスコ世界遺産のサイト
Historic Sanctuary of Machu Picchu

インカトレイルとは
インカトレイルマップ

 インカトレイルとはその名の通り、インカ帝国時代に作られた道路網(El Camino Inca)のことです。北は現在のエクアドル共和国の首都キトから、南はチリ共和国の首都サンチアゴまで延びており、全長は約4万キロといわれています。アンデス山脈を縦断しているため、標高5,000メートルを越える箇所もあります【1】
 現在は、そのうちのごく一部がトレッキングルートとして整備され、世界各国からトレッカーが集まります。マチュピチュに通じる3泊4日のルートが、もっとも人気のルートです。
【1】 参考URL(英語)
http://en.wikipedia.org/
wiki/Inca_road_system
インカトレイルの管理体制
マチュピチュ歴史保護区の地図

 マチュピチュ歴史保護区やインカトレイルは、ペルーの国立自然資源管理局(INRENA: Instituto National de Recursos Naturales)によって管理されています【2】
 インカトレイルでは、2001年から、入場規制を始めとする様々なルールが導入されました【3】。主な目的は、トレイルに入る人数の制限とツアーオペレーターの品質向上。インカトレイルが有名になるに従って、トレイルやキャンプ場の混雑が激しくなり、ゴミ問題も発生してきたからです。その後、年々管理体制は厳しくなり、2006年にはポーターの労働環境の改善をはかるため、さらなる規制が導入されています。
 インカトレイルへの入場は完全に予約制で、1日500人(ガイド、コック、ポーターなど含む)までとなっています。トレイルには、認可されたガイドなしには入ることができないので、通常はツアーオペレーターの催行するガイドツアーに申し込むことになります。そして彼らを通じて氏名や国籍、パスポート番号を届け出て、予約することになります。インカトレイルのトレッキングツアーを主催するツアーオペレーターは、毎年ライセンスを更新しなくてはならず、2008年には160のツアーオペレーターが認可されています。
 現在では、ローシーズンでも2ヶ月前、ハイシーズンでは4〜5ヶ月前に予約をすることが推奨されています。私たちがインカトレイルを訪れた2004年も、2ヶ月くらい前に予約の問い合わせをしたところ、希望日のツアーがすでに埋まっているツアーオペレーターがいくつもありました。
 なお、毎年2月には、雨季のためトレイルは完全に閉鎖されます。また、トレイルの入場料は国立自然資源管理局によってルートごとに決まっています。
【2】 ペルーの国立自然資源管理局
INRENA Instituto
National de Recursos
Naturales(スペイン語)
【3】 規制等については
Andean Travel Web Guide
(非営利組織の運営する
ペルー旅行ガイド/英語)
トレイル上のルール
 トレイル上では、次のようなルールが定められています。
 ・ゴミを捨てない
 ・動植物の採集禁止
 ・直火禁止
 ・石畳や遺跡を傷つけない
 ・キャンプは指定されたキャンプ場でのみ行う
 ごくごく一般的なルールのようですが、インカトレイルのすごいところは、これらが徹底されているところにあります。ガイドによると、ゴミの回収責任はツアーオペレーターに課せられているそうで、ゴミを残そうものならライセンスが停止されてしまうとか。休憩場所、キャンプ地では、必ずゴミ袋を用意してもらえます。3泊4日であれば、ざっと1人1キログラムほどのゴミが発生するそうです。ゴミになるペットボトルの持ち込みも禁止されています。トレイル上では各自水筒を持ち歩き、水が必要なときは、ガイドに頼むと水を汲んできてもらうことができます(基本的に飲める水ですが、私たちは念のため、浄水用タブレットを入れました)。
 さらに遺跡を傷つけないため、トレッキングポールについても注意があります。トレイル上ではポールの先端にゴムカバーをつければ使用できますが、マチュピチュの遺跡内では、一切使用禁止になっています。インカトレイルを歩いてマチュピチュに到着したトレッカーたちは、遺跡の入場口で、バックパックとポールを預けることができます。これもよくできたシステムです。
いざトレイルへ
ガイドの説明をきく

 私たちは、クスコ郊外の「km82」と呼ばれる出発地点から3泊4日でマチュピチュを目指すトレッキングツアーに参加しました。季節は11月。雨季に入りかける頃です。
 早朝クスコのホテルを出発。オリャンタイタンボという町でポーターと合流し、出発地点まで移動します。出発地点の標高は2,700メートル。まずチェックポイントがあって、パスポートと入場券を提示します。ここで、1人1人パスポートが入念にチェックされます。1日目の行程は約10キロメートルで軽めの設定。途中植物の説明などを受けながら順調に進みます。
キャンプ場の様子
キャンプ場の様子
峠へ向かうポーターたち
峠へ向かうポーターたち
 1泊目は標高約3,000メートルでのキャンプ。先に行ったポーターたちがテントを張って待っていてくれました。
 2日目は、標高4,200メートルの峠越えがあります。ローシーズンとはいえ、まだまだ人は多く、峠への長い登り道には行列ができていました。
インカトレイルの石段

 富士山より高い標高なだけに脚が非常に重く感じます。高度対策のため、ガイドは酸素ボンベも携帯しているそうです。早朝に出発して、お昼前にやっとピークに到着。あいにくの霧でしたが、スタート地点を振り返り、よく登ったとメンバー皆で自画自賛します。この日は登り1,200メートル、下り700メートルというハードな行程でした。午後早めに3,550メートル地点のキャンプ地に到着。テントに倒れこみました。
 3日目は12キロメートルの行程。途中インカ時代の遺跡を通ります。峠を二つほど超え、最後に一気に1,000メートル石段を下り、2,600メートル地点のキャンプへ。この日は一日中雨だったこともあり、長い下りの石段を滑らないように降りおりるのに神経を使い、脚はガクガクでした。
朝日を浴びはじめたマチュピチュの遺跡 - 太陽の門から

 4日目はついにマチュピチュを目指す日です。朝3時45分に起床。朝食後、マチュピチュへ続く道のゲート前に並びます。このゲートが5時半に開くのですが、ここで遅れをとって大行列に入ってしまうとマチュピチュへの到着が大幅に遅れてしまうからです。経験豊富なガイドのおかげで私たちは2組目。ゲートが開くやいなや歩き出し、6時半に「太陽の門」に到着。「太陽の門」とはその名の通り、朝日がここからマチュピチュを照らすような方角に設けられており、ここからは朝日を浴びるマチュピチュを見下ろすことができます。
 太陽の門から望むマチュピチュの姿は、インカトレイルを歩いてきた者だけが見られるご褒美です。トレッカーたちはここで喜びをわかちあいます。ガイドと握手したり、メンバーと肩をたたきあったり、「マチュピチュー!」と叫んだりする人もいました。昨日の雨が嘘のように晴れ渡り、朝日を浴びたマチュピチュが眼前に広がり、私たちも感激のあまりしばらく立ち尽くしました。
 ここからは緩い坂道を下るのみ。7時頃にはマチュピチュに無事到着。早朝でまだ観光客もいないマチュピチュをガイドに案内してもらいながら、ちょっとした優越感と達成感を味わわせてもらいました。
 インカトレイルの満足度、感激度は、ガイド次第といっても過言ではありません。ガイドは、トレイルや遺跡の説明だけでなく、一日のスケジュール管理、昼食やキャンプ地の選択、ポーターへの指示などあらゆることを管理しています。私たちは、幸運なことに経験豊富かつ、気のきくガイドに恵まれ、期待以上の経験ができました。
 インカトレイルでは4日間のトレッキングでゴミが落ちているのを見た覚えはありませんでした。ガイドとツアーオペレーターを認可制にし、厳しく管理することで、ルールが形骸化せず、きちんと守られているのでしょう。ガイド同伴でないと行かれないトレイルは、キリマンジャロやンゴロンゴロ保護区【4】などアフリカでも多く訪れましたが、他のトレイルでは、残念ながら、ペットボトルやスナック菓子の袋などのゴミが所々に捨てられていました。
 ポーターの労働環境の改善といった施策も生きています。ポーターの賃金があまりに低く、労働の誇りや職業倫理が低下すれば、わざわざ重いゴミを運ぶよりも途中でどこかへ捨ててしまうようになるかも知れません。
 私たちがインカトレイルを歩いたときもポーターの様子はとても気になりました。機能的な装備は一切持たず、トレッカーよりも重い荷物を運んでいるのです。靴もはだしにサンダルのような履物、荷物は大きな風呂敷のようなものに巻いているといった感じです。しかもトレッカーより早くキャンプ地に着いて準備しなければならないため、急な坂道を走っていくのです。そんな様子を見ると少し複雑な気持ちになりました。
 現在は、ポーターの最低賃金や荷物の重量制限が決まっており、目に見える改善策が施されているようです。

 インカトレイルは現在も年々人気が高まり、ますます予約がとりにくくなっているといいます。そんな状況でも、入場制限=観光収入減と端的に考えず環境保護を徹底するインカトレイルの管理の姿勢には感心させられます。
 インカトレイルは、ある意味、世界でもっともよく管理されているトレイルのひとつといってもよいかもしれません。
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【4】 ンゴロンゴロ保護区とマサイ族の暮らし
http://www.eic.or.jp/
library/pickup/
pu061012.html
記事・写真:山田慈芳


〜著者プロフィール〜

2004年6月から、世界の美しい自然を求めて夫婦で旅に出る。アラスカから旅を始め、北米・南米を縦断、その後アフリカ大陸に入って8ヶ月弱を過ごし、2006年1月に帰国した。旅で訪れた国は4大陸28カ国、期間は525日にわたる。

Webサイト: 美ら地球回遊記
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