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No. アメリカ横断ボランティア紀行(第17話) オレゴン州、ワシントン州遠征
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Issued: 2008.06.19
オレゴン州、ワシントン州遠征[1]
ニスクアリー国立野生生物保護区にて
写真1:ニスクアリー国立野生生物保護区にて

地図
 レッドウッドに到着してから約半年。日々の業務にかまけて、報告書作成に必要な調査が進まない。『米国の保護地域における自然資源管理』というテーマは、思ったよりも難しかった。残された現地研修期間は3ヶ月。このままではあっという間に終わってしまう。
 それでも、国立公園局については少しずつ情報が整理できたので、野生生物保護区を管轄している魚類野生生物局と比較してみることにした。
 魚類野生生物局の本局に勤めるピーターさん【1】。に相談してみると、
 「ポートランドの地域事務所に行ってみたらどうだろう」
 と薦めてくれた。ほどなく、地域事務所で対応してくれる方の連絡先が送られてきた。
 目次
ワシントン州、オレゴン州保護区調査
今後の保護区管理の課題と方向性
ボランティアの貢献
ニスクアリー国立野生生物保護区
【1】 魚類野生生物局のピーターさん
第6話 遠征編 from Mammoth Cave(その1)「ワシントンDC訪問」
ワシントン州、オレゴン州保護区調査
 こうして、7月の中旬、カリフォルニア州の北に隣接する、オレゴン州及びワシントン州に“遠征”することになった。行き先は、オレゴン州ポートランドにある魚類野生生物局地域事務所の他、ワシントン州にあるニスクアリー国立野生生物保護区(Nisqually National Wildlife Refuge)及びマウントレーニエ国立公園(Mount Rainier National Park)だ。これまで、レッドウッドより北の保護区には行ったことがなかったから、私たちにとって初の北方遠征になった。
 魚類野生生物局は、全米を7つの地域に分け、各地域に地域事務所を置いている。今回訪問したポートランドにある地域事務所は「リージョン1地域」を担当しており、ワシントン州、オレゴン州、カリフォルニア州、ネバダ州、アイダホ州そしてハワイ州を管轄している。
魚類野生生物局のリージョン1地域事務所(ポートランド)
写真2:魚類野生生物局のリージョン1地域事務所(ポートランド)
管轄区域境界図
管轄区域境界図
写真3 インタビュー風景

 対応してくれたのは、北部太平洋岸及び太平洋諸島エコリージョン担当のフォレスト・キャメロン野生生物保護区監督官だ。フォレストさんは、ワシントン州、オレゴン州、アイダホ州、ハワイ州などの担当で、68箇所の保護区と3,000万ドル(約32億円)の予算を任されている。
 「国立野生生物保護区(National Wildlife Refuge:NWR)は全国に約540箇所あります。保護区の指定は、大統領が公告(proclaim)するか、連邦議会により決議されます」
 実際に保護区が設立されるまでには、パブリックインボルブメント、計画策定、用地買収などの手続が必要で、通常3〜5年を要するそうだ。
 「全米で初めての国立野生生物保護区は1903年に設立されました。去年でやっと100周年を迎えた新しい制度です。現場には全体で約3,000名の職員がおり、約9,500万エーカー(約38.4万平方キロ。日本の国土面積より若干大きい)の国立野生生物保護区を管理しています。最近は保護区の面積が急増し、管理のための予算や人員が不足しています」
 このため、近年では、保護区の新設には非常に注意深くなってきているそうだ。
 「用地費用も多額に上りますので、特定の権利のみを購入すること(イーズメント:easement)などによって、経費を削減したりしています」
 イーズメントは、日本では「使役権」と呼ばれている。土地の所有権を取得せず、例えば土地(湿原)の排水の権利、火入れの権利、埋め立ての権利のみを購入する。費用負担の大きい所有権の移転を伴わずに、その土地を野生生物の生息に適した形に管理することができる仕組みだ。所有者も、農業などの生業を続けることができる。
今後の保護区管理の課題と方向性
 「保護区管理には、大きくわけて2つの課題があります」
 いきなり核心的なテーマに言及してくれた。これは、建前論的な“公式見解”が多い国立公園局の職員にはあまりないことだ。魚類野生生物局の印象は、とても気さくでざっくばらん。こちらからの質問にも率直に、本音でわかりやすく答えてくれる。
 「20年ほど前まで、NWR(国立野生生物保護区)の職員というと、生物学者や生物系の技術者ばかりでした」
 ところが、最近は生物学分野以外の専門の職員も増えてきているそうだ。近年の保護区の管理は、地域とのコミュニケーション、職員の管理、対外的な調整能力が益々重要になってきているそうだ。言い換えれば、人との信頼関係をいかに築くかという技能が求められているということになるだろう。
 「所長になるには、現在でも生物学分野で学士以上を有していることが求められています。ただ、これからは、パブリック・ユース・マネージャー(public use managers:一般の利用者の利用などを調整する職員)を多く雇用する必要が高まっています。関係者とのパートナーシップを築き、外部から人材や予算を得ることができなければ、これからの時代、保護区の管理は難しいでしょう」
 生物学などの専門職主体の組織から、渉外や利用調整専門職員を抱える総合的な組織への変化は、魚類野生生物局としては大きな変化だろう。
 もうひとつの課題は外来種(invasive species)問題だ。
 「この地域事務所管内のグアム島では、ベトナム戦争当時、多くの軍事物資が搬入されました。その際に、物資に紛れ込んでいた外来ヘビの一種(brown tree snake)が島に入り込み、グアム島に生息していた鳥類はほぼ壊滅状態に陥っています」
 繁殖施設を建設してその鳥類の復活を目指しているが、まったく目処は立っていないという。
 また、ハワイ諸島のハワイウミガラス(Hawaiian Water Craw)は、現在野生の個体が3個体を残すのみであるが、西ナイルウイルスの感染による絶滅が懸念されている。ハワイ諸島では、肉牛や乳牛の糞尿に大量の蚊が発生する。そのような蚊がウイルスを媒介するため、野生の鳥類に深刻な影響を及ぼしているそうだ。
ボランティアの貢献
写真4 ニスクアリー野生生物保護区の入口標識。国立公園の看板に比べるとかなり簡素な構造だ


 「野生生物保護区におけるボランティアの貢献は相当なものです。リージョン1の管内では、職員数に換算して全体の約2割をボランティアが占めることになります」
 職員数が少ないために、ボランティアの役割は大きい。ボランティアは、施設建設、環境教育、利用者対応など、管理活動に積極的に参加している。

 ただ、ボランティアと一口で言っても、色々だ。
 「退職者は、それぞれが専門的な技術を有しており、技能的に優れています。一方、大学生は技能や経験を得ることを目的に参加していることが多いのです」
 大学生の中には、ボランティアとしての勤務の後に臨時職員として雇用され、最終的に常勤の正規職員となるような人もいる。
 ボランティア用の宿舎は、保護区によって整備されているところとされていないところがあるそうだ。宿舎がない場合、キャンピングカー用の駐車スペースを無償で提供している。退職者のボランティアは、自分のキャンピングカーで長期間滞在しながらボランティアに参加していることも多い。
 「だから、キャンピング雑誌に広告を掲載するととても効果があるんです」
 キャンプ場に長期滞在しようと思えば、その負担はかなりの額になる。ボランティアをしながら数週間から数ヶ月、野生生物保護区に滞在することは魅力的なようだ。日本でもキャンピングカー利用者は増えており、このような手法は参考になるのではないだろか。
 野生生物保護区でも、国立公園局同様、個人単位でのボランティア参加の形態が主流だが、団体として保護区の管理に協力してくれるグループもあるそうだ。
ニスクアリー国立野生生物保護区
 翌日、管内の主要な保護区のひとつであるニスクアリー国立野生生物保護区を訪問した。現場での管理について話を伺うためだ。
 この保護区は、保護区と同名のニスクアリー川の河口に位置し、面積は3,200エーカー(約1,300ヘクタール)ある。この一帯は、もともとは河口汽水域に広がる湿地帯であったが、1800年代に農業開発目的で一部が淡水化された。そのため、保護区内には干拓のためのダイク(堤防)がめぐらされている。農地はすでに放棄されているが、農地だった部分の復元はまだ行われていない。将来的には、これらの人工構造物を撤去し、サケマス類の生息地を修復することを目指している。
 今回のインタビューに対応してくれたのは、保護区管理事務所の副所長、ダグ・ロスター氏だった。
 野生生物保護区の多くでは入場料金は徴収されていないが、この保護区はシアトルや州都のオリンピアといった大都市からほど近く、多くの利用者が訪れる。利用者受け入れ施設の整備費がかさむことから、その費用を補填するため、利用料金を徴収している。  「この保護区の入場料は、1家族当たり3ドルです。利用料金をとるのは、この地域の国立野生生物保護区としてはあまり一般的とは言えません」
 金額は、国立公園に比べると格段に安い。また、料金ゲートなどもなく支払は自己申告制なので、料金の回収率はそれほど高くないはずだ。
ロスター副所長と
写真5:ロスター副所長と
ビジターセンター前に設置された料金ステーション。無人で、各自封筒に料金を入れて、右下の金属製の料金ポストに投入する
写真6:ビジターセンター前に設置された料金ステーション。無人で、各自封筒に料金を入れて、右下の金属製の料金ポストに投入する
写真7 周回歩道に設けられたデッキとフィールドスコープ(望遠鏡)

 利用料金収入の8割は、同保護区内の施設の整備や補修などに使用されている。保護区には、ビジターセンター、環境教育センター、木道などの利用施設がある。環境教育センターの利用者は、年間5,000から6,000人。こうした保護区の施設としては、かなり利用者数が多いといえる。また、バードウォッチングやハイキングなどの利用者が多く、保護区内の周回歩道は人気がある。
 実は、ニスクアリー川の上流にはマウントレーニエ国立公園が位置しており、活火山であるレーニエ山からは、現在も大量の土砂が流れ込んでいる。この保護区の豊かな自然環境は、そのようなダイナミックな火山活動や河川の氾濫に負うところが大きい。
 それだけに自然災害も多い。この地域は、1996年、及び1997年に大規模な水害に見舞われ、保護区内の施設にも大きな被害があった。水害対策のために、特別に災害復旧のための追加予算が配布され、その金額は700万ドルにも上った。災害復旧に加え、老朽化していた施設の再整備や、遅れていた環境教育関係の施設も整備した。
 「皮肉にも、そうした施設の改善によって、利用者が倍増してしまいました」
ビジターセンターと環境教育センターの遠景。このセンターも災害復旧事業の一環で整備された。かなり大規模な施設だ
写真8:ビジターセンターと環境教育センターの遠景。このセンターも災害復旧事業の一環で整備された。かなり大規模な施設だ
災害復旧事業で新設された木道。幅員が大きく、しっかりした造りだ
写真9:災害復旧事業で新設された木道。幅員が大きく、しっかりした造りだ
 保護区では、ビジターの利用も、野生生物に関連したもの(Wildlife depending activities)に限定されている【2】。このため、保護区内では、自転車走行、ジョギング、ペットの持ち込みなどは禁じられている。

 「魚類野生生物局の保護区の管理方針は、野生生物の生息地を保護することです。言い換えると、人間の利用よりも野生生物の生息環境の保全が優先する(Wildlife first)ということです。その意味では、国立公園局の“利用者優先(People first)”の姿勢とは大きく異なると思います」
保護区のパンフレット。単色、レターサイズの3つ折の簡素なもの
写真10:保護区のパンフレット。単色、レターサイズの3つ折の簡素なもの
パンフレットの裏面。最低限の保護区地図が印刷されている
写真11:パンフレットの裏面。最低限の保護区地図が印刷されている
【2】 保護区で認められるビジターの利用目的
 ニスクアリー国立野生生物保護区で認められている活動は、野生生物の写真撮影、狩猟、釣り、教育、自然解説、野生生物観察など。
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