一般財団法人環境イノベーション情報機構

H教授の環境行政時評環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。

No.047

Issued: 2006.12.07

第47講 第47講「秋の夜の環境冗話 ―COP12、大阪湾青潮、読者のお便りを巡って」

目次
COP12の顛末
市町村赤字と下水道
広がる青潮被害
淀川水系流域委員会休止
世界遺産と国立公園見直し
読者のお便りを巡って・1 ──随意契約問題の展開
読者のお便りを巡って・2 ──続・拡大ミティゲーション
読者のお便りを巡って・3

H教授すっかり寒くなったけど、このひと月、いろんなことが起きた。米国中間選挙で民主党が圧勝したし、イラクは完全な内戦状況に突入。国内に目を向ければ地方自治体首長の不祥事が続出するし、教育基本法の改正だとか防衛庁の省昇格だとかが、あれよあれよという間に決まってしまいそうだ。造反議員の復党問題で自民党は大揺れだし…。

Aさん(遮って)センセイ、これはあくまで環境行政時評ですから、関係ない床屋政談はダメですよ。読者からのお便りにもあったじゃないですか。

H教授うーん、環境問題にまったく関係ない事件などない、ムリにでも環境という視点から眺めたり斬ったりするというのがボクのスタンスだけどな。

Aさんダメです。読者にはセンセイの欲求不満の捌け口くらいにしか見えないんです。だから、一般世評はせいぜい一つ二つにしてください。
それにしても地方自治体の不祥事が続いていますねえ。福島県知事が逮捕されたかと思ったら、今度は和歌山県知事。間もなく宮崎県知事も逮捕されるかもしれませんね。こんなんで地方分権なんてできるんですか。

H教授逮捕されたからって、有罪が確定したわけじゃない。それまでの間は“推定無罪”というのが本来の原則だけど、マスコミはそんなことお構いなしだね。どこまでホントかわからない記事を垂れ流している。


Aさんそりゃあそうかも知れませんけど、「火のないところに煙は立たない」って言いますよ。

H教授「一犬虚に咆ゆれば萬犬実を伝う」とも言うぜ。
ま、それでも和歌山の木村知事逮捕には驚いた。名うての改革派知事だったからなあ。「緑の雇用」だとか「緑の公共事業」というコトバを流行らせたり、和歌山港下津地区の埋立凍結【1】等、環境派としても目されていたから、残念だねえ。推定無罪の原則は原則として、脇が甘かったことは否めない。
これでまた埋立復活なんてことにならなきゃいいけどねえ。

Aさんでも、どうしてこう不祥事が続くんですかねえ。

H教授そもそも議会がオール与党体制みたいになっちゃって相互牽制機能が働かないからだろう。やはり健全な反対派がいて、きちんと監視しておかないとこのままじゃ、地方に任せられないなんて声が出て、地方分権の目がつぶされかねない。
中央じゃ、野党はあるし、会計監査も機能しているけど、地方はこのままじゃちょっとーと思っちゃうよなあ。

Aさんその中央だって、国民の声を聞くっていう建前ではじめたタウンミーティングがまるっきりの“やらせ”だったってわかったじゃないですか【2】。茶番もいいとこだわ。あんなことに税金を何億も使うなんて許せない。あんな“やらせ”が担当の役人の勇み足なんて信じられないじゃないですか。上から命じられたんでしょう?

H教授上からは露骨な指示はなかったと思うけど、上の意向を汲んでうまくやるのが昔の優秀な役人だったんだし、そういうのをやらなきゃダメ役人のレッテルを貼られたんだ。
“やらせ”に関しては気をつけてみていると、そういうのがいまだにいろんなところにあると思うよ。予算査定だって馴れ合いの田舎芝居みたいなものだった。株主総会だってたいていシナリオがあるんじゃないの。
あのタウンミーティングでひどいのは、そういう“やらせ”だけじゃない。オカネの遣いかたがデタラメで、あまりにひどいよ。受託した広告代理店なんかが暴利をむさぼったと言われたり、それとつるんだ役人が甘い汁を吸ったんじゃないかと疑われてもしかたがないほどだ。
随意契約一般をどうこう言うんじゃなくて、こういう悪どい仕事の仕方を叩くべきだと思うよ。

Aさん米国なんかじゃどうなんですか。



H教授よくは知らないけど、そういう馴れ合いの文化は希薄なんじゃないかな。
もっとも向うはトップそのものが石油利権や軍需産業の代弁者だったりする…。

Aさんセンセイ、言い過ぎ! ところで米国の中間選挙、民主党が勝利しましたね【3】

H教授うん、でもあの開票結果を見ていると、確かにトータルでは二大政党だけど、地域別に見ると、8:2とか2:8のところがざらにある。つまり米国は中に二つの国があるようなもんだ。
いずれにせよ、愚かなイラク政策で、イラクはもはや内戦に突入したといって過言ではない状況だ。これがブッシュ政権の息の根をとめ、もはやレームダック化したといっていいだろう。
このことが日本経済にとっていいかどうかどうかはわからないけど、米国も国際協調路線に戻らざるを得なくなり、地球温暖化問題にもかすかな光明の兆しがみえてくるかもしれない。

COP12の顛末

Aさんそうそう、温暖化といえば第12回気候変動枠組条約締約国会議つまりCOP12と、同条約の京都議定書締約国会議の第2回会合COP/MOP2が開かれたんだったですね。

H教授うん、11月の6日から17日まで、ケニアのナイロビで開催された【4】。最終日近くになって、ようやく新聞でも取りあげるようになったけど、もっと早くからきちんと報道してほしいね。

Aさんなんかあまり芳しい結果じゃなかったようですね。途上国側と先進国側の前回の対立をそのまま持ち越されたようで。

H教授それははじめから予想されたことだったから落胆することはないさ。
ただ、15日からの締めくくり閣僚級セッションで、京都議定書の見直しを2008年のCOP/MOP4で行うことが同意された。第一約束期間終了後の2013年以降の温室効果ガス削減のスキームづくりが動き出すことだけは確からしいから、一歩前進と評価されるかもしれない。

Aさんへえ、そんな解釈も可能なんですか。

H教授先進国側は次期枠組みづくりに途上国をなんとか入れたいと主張。一方、中国をリーダーとする途上国側は先進国側の一層の温室効果ガス削減と途上国への「適応」策や技術移転等への具体的な支援が先決と平行線で終始したようだ。ただ、後者はある程度の道筋がついて同意がなされたらしいから、途上国も枠組み参加を完全拒否という硬い姿勢は若干緩んだんじゃないかな。
CDMは中国が独り占めに近いようだし、途上国も一枚岩じゃないということだろう。中国が近い将来世界一の排出国となるのは目に見えているから、いくらなんでも強硬には突っぱねられなかったんだろう。

Aさん米国の復帰はどうなったんですか。

H教授 前回以降、拘束力はない「対話」を米国も含めて開始することとされ、COP/MOPに併せて2回目の「対話」がなされたらしい。米国内では民主党の勝利もあったし、徐々に軌道修正がなされるんじゃないかなあ。すでに州政府レベルではいろいろ動いているしね。
いずれにせよ、本格的な方針変更は2008年の米大統領選挙を待たなければ仕方がないだろう。米国が復帰すれば同じ京都議定書離脱組の豪州も追随するよ。

Aさんポスト京都議定書なんですけど、米国や豪州の復帰もさることながら、途上国が削減の数量的枠組みに加わることってあるんですか。

H教授現行の京都議定書も温室効果ガスの増加を容認している国だってある。削減でなく、大幅にプラスになるにしても、そういう拘束力のある数量的な枠組みに加わることが重要なんだ。
数量的な枠組みといったって京都議定書のような対90年比何%という枠組みにこだわることだってなく、まったく別の枠組みだって構わない。
いずれにせよ結果として先進国がさらに大幅な削減をすること、そして途上国も第三約束期間か第四約束期間には逐次減少に転じるような仕掛けを考えなければならない。


Aさんそんな悠長なこと言ってたら、海面上昇がどんどん進んで間に合わなくなりますよ【5】

H教授もちろん平行して「適応」策をやっていかなければならないが、ボク自身は割りと楽観的なんだ。
地球温暖化がヒト社会に壊滅的な打撃を与える前に化石燃料、特に原油の生産がピークを越したことが誰の目にもはっきりとするだろうと思う。
その頃から、原油の価格高騰が生じ、一方で再生可能エネルギーの価格競争力が増して、徐々にシフトしていくんじゃないかな。


Aさん再生可能エネルギーとか原子力でエネルギー需要は満たせるんですか。

H教授(あっさりと)多分満たせないよ。
だから先進国はエネルギー需要大幅抑制型の社会システムへの移行を余儀なくされるだろう。そうなれば途上国も開発目標のビジョンが変わってくるだろう。いずれはロンボルグのノーテンキぶり【6】が実証されると思うよ。

Aさんホント、随分楽観的ですね。それはいつの頃ですか。

H教授まあ、50から100年先だ。その頃は途上国も含めて人口減少に転じているんじゃないかな。太陽エネルギー復権で農業への回帰がはじまると思うよ。ま、いずれにせよボクもミオ【7】もこの世にいないけどね。

Aさんなんだか楽観的というより、悲観的を通り越した達観的な感じがするなあ。
で、もっと差し迫った話として、日本の温暖化対策はどうなんですか。

H教授産業構造審議会と中央環境審議会の合同委員会が設けられ、京都議定書目標達成計画の見直しの議論が始まった【8】。だけど、前講でも言ったように、ボクはほとんど期待していないな【9】。今すぐにでもやれることが山ほどあるはずで、それをやるのが先決だろう。
でも悲観しているわけじゃないんだ。環境税や国内排出権取引制度の導入、化石燃料累進価格制の導入等でエネルギー需要抑制型社会にソフトランディングできれば言うことはないけど、このまま突っ走っていってもいずれは破綻してハードランディングを余儀なくされるよ。ま、その場合かなり悲劇が生じると思うけど、ニッポン壊滅ということにはならないと思う。

Aさん(疑いの目で)そんなものなんですかねえ。
じゃあ、国内に目を向けましょう。


市町村赤字と下水道

H教授今、多くの自治体が借金や公営企業会計の赤字で苦しんでいる。これまでは「起債制限比率」という収入に対する借金比率の指標があったが、公営企業会計の赤字への一般会計からの補填も含めた「実質公債比率」という指標が今年度から導入された【10】

Aさんセンセイ、環境行政時評だって言ったはずです。環境と関係ない話題は慎んでください。

H教授まあ、話は最後まで聞くものだ。実質公債比率が高いほど財政破綻に瀕しているということになる。朝日新聞が独自の取材でそのワースト15の自治体を発表したんだけど、破綻の理由で目立ったのが、下水道整備だ。なんと15のうち5つの市町村が原因として下水道整備をあげている。

Aさんなぜそんなことになるんですか。

H教授バブル崩壊前、ウルグアイ・ラウンド【11】で内需拡大を求められ、国が自治体に公共投資を求めた結果、多くの市町村が下水道整備に飛びついた。当時の建設省は下水道普及率を9割に上げるなんて馬鹿なことを言ってたからね【12】。だけど、下水道てのは都市部以外の地域じゃものすごい金食い虫なんだ。

Aさんでも、水洗化と河川浄化のためなんだから仕方がなかったんじゃないですか。

H教授当時はすでに小型合併処理浄化槽が普及しはじめてたし、農業集落排水事業なんていう農村下水道のようなものもあった。そうした地域ではこうしたものの方がはるかにコストパフォーマンスがいいんだ。
このことは前から心配していたんだけど【13】、こうした事実を突きつけられると、やはり愕然とする。飛びついた市町村の自己責任といえばそうなんだけど、下水道の面的普及に血道をあげた──いや、今でもあげてるのかな──旧建設省にも問題はあると思うよ。

Aさんでもそうした実態が明らかになっただけでも一歩前進、夜明けの前兆といっていいんじゃないですか。

H教授この「実質公債比率」でも、赤字の第三セクターの分は入ってないんだ。だからまだまだ明らかになったとは言い難い。だから夜明けはまだまだ遠いね。


広がる青潮被害

Aさんセンセ、暗くなるから他の話題にいきましょう。第44講で青潮の話をちょっとしましたね【14】。東京湾だけじゃなく三河湾でも出現したというのは知ってましたが、テレビで「大阪湾でも青潮出現」というニュースをやってて、ちょっと驚きました。

H教授なんだ知らなかったのか。これには埋立ともうひとつ、ボクの勝手な憶測なんだけど、温暖化やヒートアイランド現象が絡んでいるんじゃないかな。
大阪湾なんかもう湾岸はほとんどが垂直護岸の埋立地になっている。その埋立地周辺海底におそろしくでかい窪地がポコポコ開いている。埋立材として周辺海底の土砂を掘った跡だ。

Aさんそれがどうかしたんですか。

H教授それが青潮の発生原因と深く関わっている。埋立で湾岸をすっかり変えてしまったツケが今頃回ってきたんだ。
簡単にいえば、総堀といわれる窪地に溜まった無酸素水塊が、強風なんかで海面まで上がってくるのが青潮だ。この無酸素水塊には特殊な嫌気性バクテリアなどの作用で硫化水素なども含まれ、独特の色をしている。もちろん生物は棲めず、生態系を破壊してしまう。
昔から東京湾で発生するのが知られていたが、最近では三河湾、そしてついに大阪湾岸でも発生するようになったんだ。


Aさんその青潮と穴ぼこがなんで結びつくんですか。

H教授もともと東京湾や大阪湾などのような大都市域の内湾は、流入するN,Pなどの栄養塩も多い上、海水が停滞しやすいから富栄養化になっている。つまりプランクトンが多く、赤潮などが発生しやすい。
ところで、冷水は比重が重い。夏を中心にした暖かい時期には表層の海水温度の方が高くなるから、水は表層と底層に分かれてしまい混ざらなくなってしまう。これを成層というんだけど、底層では表層から沈殿してきたプランクトンの死骸などがバクテリアに分解されるとき酸素を消費するから酸素に乏しくなる。貧酸素水塊だね。でも水は横にも流動するから完全な無酸素状態になることはまずない。
ところが穴ぼこの底などでは水の流れがほとんどないから、堆積した有機物の分解で酸素を消費し尽くした「無酸素水塊」になってしまう。そうしたところでは嫌気性分解がはじまって、硫化水素なども生じてしまうんだ。完全な「死の水」だね。
それが台風だとかの強風で表層に出てくると青潮になるんだ。

Aさんだったら穴ぼこは埋立中からあったんだから、もっと以前から出ていてもおかしくないんじゃないですか。


H教授昔から穴のところではそうだったんだろうが、垂直護岸のため表層までは上がってこなかったんだろう。
ところが温暖化の影響か何かで年々海水温が高くなってきている。第33講でも言ったけど、海水温が上がると海面からの蒸発量も増えて、台風が大型化しやすくなる【15】。北上していっても海水温が高いままだとなかなか台風の勢いは衰えない。特に大阪湾のようなところではヒートアイランド現象で、海水温はより高いから、台風や強風が衰えない。
そのせいで、強風時に湾内が撹乱されて、穴ぼこの底の青潮が表層まで上がるようになったんじゃないか ──というのがボクの憶測。
はは、ま、その辺りは、ホントのところはボクもよくわからない。研究者に任せておこう。

Aさんまた、いい加減な憶測を。

H教授第6次総量規制については以前にも話したけど、環境省では先日「総量削減基本方針」を策定し、大阪湾についてなおNPの削減を進めるとしている【16】。ただ、こういう穴ぼこ対策も進めてほしいね。

Aさん大阪湾奥部は依然として瀕死の水域だったんですね。
一句浮かんだ。「大阪湾 息も絶え絶え 青なに潮」。


淀川水系流域委員会休止

H教授ばか。
ところで、こんなときにこそ淀川水系流域委員会のような公募・公開式の住民参加型委員会を大阪湾奥部でも立ち上げるのが国土交通省の務めだと思うけど、それどころかその淀川水系流域委員会を休止しちゃうというんだからどうかと思うよ。

Aさんえっ、センセイ、この時評でも何度も取り上げ【17】、国土交通省の英断だと持ち上げてたあの委員会が休止されちゃうんですか。

H教授うん、1月の任期切れを待って休止──というか、事実上廃止するか、公募型をやめて従来の任命型にして御用学者だけを集めるようにするんじゃないかな。やはり流域5ダムを巡って、流域委員会が国土交通省の方針に異議申し立てをしたのが原因のようだ。
それでなくても滋賀県の嘉田知事は脱ダム派で手こずるのは必至だから、前門の虎、後門の狼となるのを片一方だけでも切ろうと思ったんじゃないかな。


Aさん内閣改造で大臣が交代したのが原因なんですか。

H教授いや、新大臣はきちんとレクを受けてなかったらしく、記者会見でそんなことはしないといったんは否定したらしい。事務方が慌ててたね。結局は事務方に説得されたらしい【18】

Aさんなんだ、だらしない大臣ですね。
自然保護系では何かニュースはないんですか。


世界遺産と国立公園見直し

H教授そうそう環境省と林野庁は昨年の知床に引き続いて、小笠原諸島世界自然遺産に推薦することを決めたらしく、地域連絡会議や科学委員会を発足させることにしたとのことだ。来年には「暫定リスト」を提出し、再来年以降の推薦書提出を経て、自然遺産登録を目指すことにしたようだ。
小笠原は、貴重種・固有種の生息・生育地として、また、無人岩(ボニナイト)の存在が、太平洋プレートの沈み込みを表している──つまり、進行中の海洋性島弧型火山形成過程を初期段階から現在進行中のものまで観察できる唯一の地域として、遺産の価値を説明するようだ。
ただ、第37講でも言ったように【19】外来種の問題をクリアしなきゃいけないし、空港の問題だってあるから、そうすんなりいくかどうかはわからない。
で、そのあとに琉球奄美諸島が待ち構えているということになる。


Aさんそれと、環境省では「国立・国定公園の指定及び管理運営に関する検討会」をスタートさせたそうですね【20】

H教授うん、環境省ホームページの公表記録をみると、問題意識としては第41講でボクが言及したこととそう変わらないという気がする【21】
ただ検討会メンバーを見ると、もう少し、生涯の大半をレンジャーで過ごし、国立公園の現場の隅から隅まで知ってるような人たちが委員に入ってもいいんじゃないかと思うよ。
ま、そういう人たちは検討会のメンバーというより、ヒアリングの対象ということなのかもしれないが。

Aさんでもそういう問題について、現場のレンジャーさんたちはどう考えているんでしょうね。そういう生の声を聞いてみたいですね。

H教授実はね、先日レンジャーを相手にアンケート調査をしてみたんだ。

Aさんえー、そういう手間もオカネもかかるようなことは一切やらないというのが、センセイのポリシーじゃなかったんですか。

H教授こらこら。言い出しっぺはゼミ生なんだ。卒論を何にしようか苦しんだ挙句に思いついたらしい。ボク自身も興味がないわけじゃなかったし、宛名書きだとかの雑用や集計などをやってくれるんならってボクの名前でアンケートすることにしてみたんだ。

Aさんへえ、どういうアンケートで、どういう結果が出たんですか。

H教授まだ回収・集計中だから、それは次講のお楽しみとしよう。


読者のお便りを巡って・1 ──随意契約問題の展開

Aさんところで例の随契問題【22】はその後どうなったんですか。

H教授いやあ、ひどいことになっているよ。次の文章はメールでいただいたものだ。

今、我々受注企業にとって環境省の仕事の出し方は全く異常で、納得のいかないことが多過ぎます。例の『随契問題』以降、すべての随契もプロポーザルもダメ!ということで
ひどい安値競争が続いており、安かろう悪かろうで、技術の継続性も無視され、それでも文句を言えず、業界はだんだん疲弊していくしかない状態です。(中略)
データの継続性が求められるモニタリング業務、計画技術業務や特別の環境技術を保有している場合まで、受注機会の公平性のみを理由に、本省からの一片の通達によるお決まりの事務的な方法で競争入札が行われ、予算の半値はおろか、3分の1、4分の1で落札した所と契約し、折角ついた予算もむざむざと余らせ、庶務担当者だけが喜んでいる・・・という状況。一日も早く改善してほしいと願う今日この頃です。

至るところでこういう環境省に対する怨嗟の声を聞く。今まで環境省と二人三脚だと思っていた公益法人──世間では外郭団体と言われるようなところ──も切り捨てられかねない有様なんだ。
このEICネットだってどうなるかわからない。

Aさんでもそれは国会方面からの批判でそうせざるを得なかっただけで、環境省のせいじゃないでしょう。

H教授無抵抗のまま、各省の中でも真っ先に唯々諾々と恭順の意を表したからOBは怒ってるんだと思うよ。
「天下りだ」と言って世間に指差されるような悪いことは何ひとつしていない、役所時代より待遇がダウンしているにも関わらず、環境行政のためにがんばってきたという自負がズタズタにされたんだろうなあ。

Aさん悪貨が良貨を駆逐しているってわけですね。なんとかならないんですか。

H教授環境学界の大御所M先生が、こういう状況を見るに見かねて、環境行政に競争入札は合わない、いったい環境省は何をしているんだ! と一喝されたらしい。
環境科学会長で国連大学の安井先生なんかもご自分のホームページで同じようなことを言っておられる【23】
それでようやく、発注をどうするかという研究会を環境省内部で発足させたという話だ。
なんとかしてほしいねえ。
以前、地方公害研究所の方から貰ったお便りでは、地方自治体でも同じような状況ようだ。モニタリングなんかもデータに信頼性のおけないようなところが競争入札で落札しているらしく、随分嘆いておられた。


Aさんなんか暗い話ですねえ。話題を変えましょう。

読者のお便りを巡って・2 ──続・拡大ミティゲーション

Aさん(にやにやして)前講で拡大ミティゲーションについてのSさんからのお便りを紹介したんですけど【24】、それに対する別の方からのお便りでこんなのがありましたよ。どうされます?

なかなか面白かった。ノーベル賞のお話は、別途肉付けしていってもらいたい。場合によっては提灯持ちをさせていただきます。

H教授(困惑して)だから単なる思い付きで口走っただけなんだって。
アイデアの先取権なんて主張する気は毛頭ありませんから、どなたか肉付けをやっていただければ幸いです。
(Aさんに向かって)そうだ、キミがやれよ。

Aさんアタシャ、経済学も数学も大の苦手なんです。


H教授やれやれ。前述のSさんはご自分のブログでこんな議論も展開されているので、それを紹介することで、ご勘弁を願おう。

これまでのミチゲーションを垂直的ミチゲーション(Vertical Mitigation)とすれば、この拡大ミチゲーションは、水平的ミチゲーション(Horizontal Mitigation)といえるかも知れませんね。
今は、ある地点で、環境価値の損傷されるものを、他の地点で環境価値の創造を図ることで、ノー・ネット・ロスが実現できるというのが、ミチゲーションバンキング構想ですが、これに時間軸を付与すると、現在環境価値があっても、将来環境価値が減価するものを、開発許可という利得を得るために、売り建てておいて、環境価値が低下した時点で、買い戻す、という発想ですね。
もちろんのこれに適した環境スポットとは、人智を持って、修復しがたい環境スポットで、いずれは、壊滅するのだが、ここ当分は、環境価値を保ちうる、というものになりえますね。
まあ、現在は、管理の行き届いた環境スポットではあるが、このままでは、荒廃必然というスポットをいったん、開発許可という利得を得るために、売り建てておいて、後に買い戻す、ということでしょうか。
しかし、いったん、売り建てた時点で、その当時の環境価値での収益を得られるわけですから、新たな環境価値のスポットの創造ということも可能なわけですが。
また、このH教授が例示している例で見てみると、
現在2006年時点では、現在年間100万トンの二酸化炭素を排出しており、2010年には製造量が二倍になり、そのときの二酸化炭素排出総量では150万トンとなり、現在の総量の1.5倍となってしまうが、この二酸化炭素排出によって製造される省エネタイプの電化製品が、現在使われている製品よりも、二酸化炭素排出量が少なく、この旧タイプが新タイプに買い替えされていくと、その製品使用に伴う市場でのトータルの二酸化炭素排出量は現在の1000万トンから2010年には850万トンになる。つまり150万トン減る。
したがって、この場合では、10年間で二酸化炭素排出量が100万トンから150万トンに膨れ上がる製造施設が出す二酸化炭素排出量を買い建て(ロングポジションにしておく。)にしておいて、その製造施設で作ろうとする同種製品の旧製品と新製品とが出す二酸化炭素排出量を売り建て(ショートポジションにしておく。)にしておくと、ロングポジションのほうは、100万トンから150万トンに増えるが、ショートポジションのほうは、1000万トンから、850万トンへ、150万トン分減価していくから、この減価した時点で、買い戻せば、売り建て分の環境負担増と、買い建て分の環境負担減とが、チャラになって、ロングとショートとの差は、実質、ゼロとなる。
ということなのでしょう。
もっとも、このスキーム、ちょっと問題なのは、製造施設の二酸化炭素排出量は、実数の150万トンで見るのではなく、100万トンから150万トンとの差分の50万トンとの比較で見なければならないような気がするのですが。
つまり、上記の「現在年間100万トンの二酸化炭素を排出しており、2010年には製造量が二倍になり、そのときの二酸化炭素排出総量では150万トンとなり、現在の総量の1.5倍となってしまうが、」という部分を「現在、旧製品を製造するために、年間100万トンの二酸化炭素を排出しているが、旧製品を省エネ型新製品にラインを切り替えることになり、2010年には、省エネ型新製品の製造量増加によって、二酸化炭素排出量が150万トン増えて、総量では250万トンとなり、現在の総量の2.5倍となってしまうが、」と直したほうがいいような気がするのですが

宮内庁は、日本で有数の自然生態系のオーナーでもある。ミチゲーションバンキングでいえば、膨大なクレジットの持ち主ということになる。
以下は、まったくの雑談だが、もし、宮内庁の御料地にミチゲーションバンキング構想を適用するとなると、妙な言い方だが、宮内庁は、ミチゲーションバンキングのドデカイ胴元となりうる。
御料地の自然生態系の復元を、開発によって喪失する生態系の価値であるミチゲーションのデビットを有する民間開発業者に委託することによって、ただでさえも、窮屈となっている宮内庁予算の維持費軽減につながる、というもの。
ちょっと、不謹慎でしょうかね。この構想。
でも、手始めに、武蔵野市が井の頭公園の池の周囲に掲げている『この公園の維持にかかる費用明細』みたいなものを、全国の御料地にディスクロージャーすることで、この辺の認識も、高まるのかも知れない

Aさんふうん、でも、このSさんと仰る方の学識と構想力はすごいですねえ。
(キョージュをじろっとみて)それにひきかえ…。
まっ、いいか。センセイでもキョージュになれるってのはスゴイ励みになるもんなあ。

H教授(下を向いて恥じ入っている)


読者のお便りを巡って・3

Aさんさ、落ち込まないで。
前講へのお便りではこんなのがありました。パブコメについてです。

ほかの省庁の結果を見ると、意見の応募が1通もないパブリックコメントがかなりの数あります。環境省のパブリックコメントでも、応募10名以下のパブリックコメントなんてザラにあると思うのですが……264通は少ないのでしょうか?

H教授うーん、他のパブコメはもっと少ないのか。でも264通で多いというのも喜べた話じゃないよねえ。環境基本計画で「循環」、「共生」、「国際的取組」と並ぶ「参加」は四本柱の一つなんだけどなあ。

Aさん他には何かありましたか。

H教授第44講へのお便りでこういうのがあったので、紹介だけしておこう。

今日拝見したらノリの色落ちの話題が載っていたので、お礼方々お便りを送ります。
この序に下水排水中の残留塩素の話しなどお願いできませんか? 昨年5月以降残留塩素量が約三分の一に減っているおかげだと思いますが今秋カタクチ鰯が平年並みまでの漁に回復しています。また、夏場でも少しですがカレイも増えているように思われます。しかし残念ですがH市及び電力会社は、未だに認めてくれません。ぜひ、この問題を取り上げてください。  何も出来ないノリ養殖漁業者より・・・

Aさん第29講で取り上げてた方ですね【25】。ま、センセイのできることといえば、こういうお便りを紹介することぐらいですものねえ。他には。

H教授公害研究や公害運動の草分ともいうべき宇井純先生が11月11日に亡くなられた。
こんなお便りが来ていたので紹介しよう。

私は、環境関連の測定・分析を行っている民間企業(いわゆる環境計量証明事業所・アセスメントコンサルタント等)に勤務しています。
先日、日本の公害問題で大活躍された宇井純先生が亡くなられました。
宇井先生の講演会に3回ほど出席したことがあり、正面から行政を批判する姿を記憶しています。
勝手なお願いですが、もし、よろしければ、この環境行政批評に宇井先生が亡くなられたことを取り上げていただければと思います。
もし、H教授が宇井先生とお会いしたり、話をしたこと等がありましたら、その時のエピソード等を交えていただければとも思います。
誠に、不躾な突然のお願いですが、御高配の程、なにとぞ、よろしくお願いいたします

「しっ、静かに。葬式の行列が君のそばを通り過ぎていく」っていう一節を思い出しちゃうねえ。


Aさんなんです、それは。古い流行歌の一節ですか。

H教授ホント無教養だなあ。ロートレアモンの「マルドロールの唄」の冒頭だよ。

Aさんくだらない痴識をふりまわさないでください。ところで、センセイは宇井先生を知ってるんですか。

H教授当たり前だよ。

Aさんじゃ、木っ端役人ということで随分批判されたんじゃないですか。読者からのリクエストですから、何かエピソードなどを話してくださいよ。


H教授だから、知ってる、ご高名は存じ上げてるというだけで、会ったことも話したこともないんだ。向こうは高名な反公害の旗手、こちらは名もなき木っ端役人だからな。
でも節を屈せずご自分の信念を貫き通されたことはスゴイと思うよ。大学闘争でリーダーだった人物が旧・大蔵省に入り、最後は接待漬けでクビになったなんてのもいるからねえ。
だからボクは本や雑誌でしか知らないんだけど、一度はお目にかかりたかったんだということで、哀悼の意を表しておこう。
多くの方が追悼されていると思うけど、二人だけ紹介しておくよ。
中西準子先生がご自身のホームページの11月13日に「宇井さん、ありがとう」という追悼をされている【26】
また先ほどSさんのブログから長々と無断引用させていただいたけど、このSさんも宇井先生のことを下記のように書いておられる。

私は、宇井さんとは、諫早問題を通じて、ご交誼をいただいた。
日ごろの新聞紙上などを通じる情報から、どんなに激しいかただろうかと、想像していたが、実際に見る宇井さんは、伏目がちの、物静かなファイトマンであった。諫早の水質の汚染を、常に気にかけられておられた。
宇井さんの「公害原論」は、まさに、日本の公害論争のバイブルとも言うべきものであった。宇井さんは、水俣病問題にも、常に、深い関心を抱かれていた。謹んで、ご冥福を祈りたい。

Aさんふうん、惜しい人を亡くしましたねえ。でも、センセイはきっと長生きできますよ。

H教授ふん。憎まれっ子、世に憚ると言いたいんだろう。

Aさんマサカ。その諺は広辞苑には「人に憎まれるような人間が却って世間ではばをきかす意」とあります。別にはばをきかせてなんかいないじゃないですか。学生にも相手にされてないんだから。
ただ、わけのわからない石を見て、ミオさえいれば満足という生活なんだから、ストレスなんてなくて、長生きできますよと言ったんです。

H教授キッ、キミがストレスなんだ!!!

注釈

【1】和歌山港下津地区の埋立凍結
【2】タウンミーティング
【3】米国中間選挙
  • 2006 Midterm Elections[US Department of States]
  • 米国中間選挙2006[在日米国大使館]
【4】COP/MOP2
【5】海面上昇の影響
【6】ロンボルグのノーテンキぶり
【7】愛猫・ミオ
【8】産構審・中環審合同委員会
【9】キョージュの楽観
【10】実質公債比率
【11】ウルグアイ・ラウンド
GATT(関税および貿易に関する一般協定)の多角的貿易交渉。1986年にウルグアイで開催された閣僚会議で交渉開始が宣言され、1993年12月の基本合意を経て、翌年4月にモロッコで開催された閣僚会議で「WTO(世界貿易機関)の設立に関する協定」として調印され、ウルグアイ・ラウンドは終了した。
【12】下水道普及率
【13】下水処理に関するキョージュの懸念
【14】青潮の話題
【15】海水温の上昇と台風大型化との関係
【16】第6次総量規制と総量削減基本方針の策定
【17】淀川水系流域委員会の話題
【18】淀川水系流域委員会の休止問題に関する、国土交通大臣及び事務次官の会見要旨
【19】小笠原の自然遺産登録へのハードル
【20】「国立・国定公園の指定及び管理運営に関する検討会」の発足
【21】自然公園の管理等についてキョージュが言及したこと
【22】例の随契問題
【23】安井先生のホームページでの、「納税忌避的な考え方」と「随契問題」について
【24】拡大ミティゲーションについてのおたより紹介
【25】「第29講で取り上げた意見」
【26】中西準子先生の追悼記事

(平成18年11月30日執筆 12月4日編集了)
註:本講の見解はEICおよび環境省の見解とは一切関係ありません。