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No. アメリカ横断ボランティア紀行(第10話) 大陸横断編・その3
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Issued: 2007.05.17
大陸横断編・その3(アリゾナ州〜ネバダ州〜カリフォルニア州)[2]
 一方、前出のアンケート調査の結果に戻れば、そのような新規利用者の取り込みには難しい問題があることがわかる。

<年収別の利用割合(過去2年間に国立公園を訪れた割合。カッコ内は全回答者に占める割合)>
  • 2万米ドル(約240万円)未満(18%):18%
  • 2万米ドル以上5万米ドル(約600万円)未満(42%):29%
  • 5万米ドル以上10万米ドル(約1,200万円)未満(30%):42%
  • 10万米ドル以上(10%):50%
 目次
グランドキャニオンビレッジ
ビジターセンターでのレンジャープログラム
スーパーマーケットでの買い物
レイクミード国立レクリエーション地域
 年収によって国立公園利用の有無に大きな開きがあることがわかる【*3】

<年齢(過去2年間に国立公園を訪れた割合。カッコ内は全回答者に占める割合)>
  • 18才〜24才(12%):28%
  • 25才〜44才(41%):34%
  • 45才〜64才(29%):36%
  • 65才(18%):23%
【*3】  同調査報告書によれば、平均的な旅行費用は、1グループ1回当たり310米ドル(約37,000円)であり、内訳としては宿泊費用が最も高く、150米ドル(約18,000円)。
 利用者の32%は日帰りであるため、宿泊利用者の平均旅行費用はもう少し高くなるだろう。
 利用者数の割合についていえば、必ずしも高齢者の割合が高いわけではないが、60才程度までは年齢とともに利用の割合が上昇している。25才から44才までの、一般的に「子育て中」の年齢層の利用割合は高いが、利用者の性別ごとに見た利用割合は、女性が28%と男性の37%よりも10%程度低い。女性にとって国土公園はそれほど魅力がないということなのだろうか。財布を握っているこの女性層の取り込みが、次の世代を担う子供たちの国立公園経験を増やすためには避けて通れない。

グランドキャニオンビレッジ
キャニオンビレッジにあるスーパーマーケット

 私たちの訪れたサウスリムには「グランドキャニオンビレッジ」と呼ばれる一大拠点があり、ビジターセンター、公園の管理事務所、ホテルなどが集まっていた。さらには、大きなスーパーマーケットや車の修理工場まで完備されているのはいかにもアメリカらしい。日本の国立公園にも「集団施設地区」という地区があり、米国国立公園内の「ビレッジ」に似ている。もしかするとこのような「ビレッジ」からアイデアを得たものなのかもしれない。
集団施設地区
 日本の集団施設地区は、国立公園の核心部分もしくはそのアプローチ地点に、ホテル、ビジターセンター、トイレ、駐車場、バスターミナルなどの利用者向けの便益施設を集中的に整備する地域。自然環境に対する影響を抑えながら、押し寄せる利用者を受け入れ、情報を提供した上で自然の豊かな「核心地域」に送り出す。中には、こういった地区にある旅館に宿泊するだけの利用者もいるが、それはそれでひとつの自然公園の利用形態ともいえる。ただ、このような人たちが、「国立公園に来ている」ことを認識しているかどうかについては定かではない。
 グランドキャニオンを訪れる利用者の多くも、いくつかの展望台を回って写真を撮る人たちがほとんどで、原生地域のトレッキングに繰り出す利用者の割合はそれほど多くはないだろう。
早朝のグランドキャニオン。朝日が峡谷の上部を照らし始める。

 到着したその日はホテルにチェックインして早々に休む。翌日は早朝から展望台に繰り出すためだ。
 私は、早朝、夕刻の公園の景色が好きだ。特に、グランドキャニオンは、朝日によって荒々しい地形に深い陰影が刻まれる早朝の風景にその真髄があるように思える。刻々と山肌の色が変化する風景は圧巻だ。
 展望台に向かう道路には信号はないが、交差点は四方向一旦停止になっている。スピードリミットも時速20マイル(約30キロメートル)と大変厳しい。これらの規則を守っていると、距離の割に移動に時間がかかる。のんびりと車を運転しながら展望台を「はしご」してゆっくりと風景を楽しむ。さすがに冬のシーズンオフだけあって、利用客もまばらだ。
ヤバパイ・ポイントの展望室

 渓谷に向かって左奥から順に写真を撮っていく。最初の展望台ではまだ日が出ていなかったが、ヤバパイ・ポイントという展望台にたどり着く頃には、すっかり日も高くなっていた。この展望台には前面がガラス張りの大きな展望室も併設されている。売店もあって、ここなら寒暖の差が大きいグランドキャニオンでも、子ども連れでゆっくり景色を楽しむことができるだろう。定期的にレンジャープログラムも行われているそうだ。
ビジターセンターでのレンジャープログラム
グランドキャニオンのビジターセンター

 ビジターセンターのまわりはゆったりとしたスロープになっていて、トイレ、ビジターセンターともバリアフリー化が徹底している。ビジターセンターの内部は、椅子席と簡単な展示があるだけで、大変簡素でゆったりとした印象を与える。
 日が西に傾き始めた頃、ビジターセンター内で地質学に関するインタープリテーションが始まった。40分程度のレクチャーだったが、ビジターセンターの展示をうまく使った素晴らしいものだった。
 グランドキャニオン国立公園のビジターセンターは、少し変わっている。細長い体育館のような広々とした建物に、控えめな展示といすが並ぶレクチャースペースが一隅にある。この建物は、シャトルバス導入を想定してデザインされたということを聞いたことがある。言われてみれば野外展示もバスターミナルに似た雰囲気がある。
 地質に関するレンジャープログラムは建物右端のレクチャースペースから始まった。地質年代順に左側へ移動し、公園職員のいるインフォメーションカウンター前で終了する。
 レクチャースペースで簡単なイントロダクションの後、館内の展示パネルを1つずつ見ながらのインタープリテーションが始まる。展示パネルは、通路の中央部に水平に置かれ、さらにそれとほぼ同じ内容の展示が壁に垂直に展示されている。参加人数が多くなると、後ろの方からは中央の展示が見えにくくなるため、壁の展示でも説明ができるよう配慮されているようだ。レンジャーはレーザーポインタを持っていて、床と壁の展示をうまく使い分けながら解説を進めていく。ビジターセンター内部でもこのように充実した自然解説が提供されている。子供や高齢者でも、冬期の寒い夕方に、ゆったり説明を聞くことができるというのは素晴らしいことだ。
ビジターセンターの内部。フロア中央部の展示と同じパネルが壁面にも展示されている
ビジターセンターの内部。フロア中央部の展示と同じパネルが壁面にも展示されている
レクチャースペースで地質に関するレンジャープログラムが始まった
レクチャースペースで地質に関するレンジャープログラムが始まった
スーパーマーケットでの買い物
 マンモスケイブ国立公園を出発してからの疲れが溜まっていた。連日の長時間の運転と乾いた気候、そして何よりもバランスの悪い外食が響いたようだった。
 「白いご飯と味噌汁が食べたいなあ」
 やはり自分は日本人だと実感する。幸い、お米や味噌は車に積んである。キャンプ用のコンロもある。問題はコンロに合うブタンガスのボンベだった。
 私たちが持参していたのは登山用コンロで、アメリカではアウトドア専門店でもなければ専用のボンベを入手することは難しい。グランドキャニオン国立公園に来るまで、途中いろいろな店に立ち寄ったがどこも扱っていなかった。
 公園内の売店であるパークストアはさすがに大きい。さながらスーパーマーケットのようで、驚くほど品物も充実している。生鮮食料品からお土産までほとんど何でも揃う。その上、アウトドア用品も充実している。私たちはここでようやくブタンガスボンベを購入することができた。さらに、一般的な汎用のプロパンガスカートリッジを使用した携帯用コンロも売られていたので、そのコンロも購入することにした。これならたいていのスーパーでボンベを購入することができる。早速購入したボンベでご飯を炊いてみる。久しぶりでうまい。
グランドキャニオンのスーパーマーケットで購入した携帯用ガスコンロ

 以来、時間が許す限り毎日ご飯を炊くようにした。朝、出発前にお米を研いで水を切り、タッパー容器に入れてから出かける。お昼にピクニックテーブルでご飯を炊く。少し余計に加熱しておこげを作ると、懐かしいにおいがしてくる。それでも、加熱している時間はせいぜい15分ほどだ。インスタントの味噌汁をつけたり、ラーメンを作ったりもしてみた。具はキャベツだけなどと、学生時代を思い出してしまうようなメニューだったが、驚くほど美味しく感じられた。残ったご飯は夕食に取っておく。こうして白米を炊くことができるようになってから、私たちの体力も徐々に回復してきた。
レイクミード国立レクリエーション地域
フーバーダム

 「観光地」というイメージがどうしても先行してしまうグランドキャニオンだが、やはり素晴らしい公園だった。南のメキシコ国境からはるばる北上しての寄り道で、行程的にも少し無理があったが、いろいろな意味で勉強になる訪問だった。南の砂漠地帯にある国立公園と比べると、明らかに一味も二味も違う。この公園を一目見るために、世界中から多くの利用者が訪れる。そういった人々を受け入れるための施設、交通規制、自然解説プログラムなどがしっかりしている。
 一方で、実際にこの公園を訪れてみると、国立公園がいかに遠い僻地にあって、費用や時間がかかるものか、実感することができる。アメリカの国立公園を楽しむためには、お金や時間に相当の余裕が必要だ。その意味で、庶民にとっての国立公園訪問は、まだまだ縁遠いものといわざるを得ない。
 グランドキャニオン国立公園を発って、妻の運転でレイクミード国立レクリエーション地域(Lake Mead NRA)をめざす。途中フーバーダムを通ったが、教科書で見たものとは違っていたような気がした。もともと歴史や地理は苦手だったが、こうしてアメリカ大陸を旅していると、もっと真剣に勉強していればよかったという気がしてくる。→(その3)へ続く


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