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No. アメリカ横断ボランティア紀行(第10話) 大陸横断編・その3
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Issued: 2007.05.17
大陸横断編・その3(アリゾナ州〜ネバダ州〜カリフォルニア州)[3]
 レイクミード国立レクリエーション地域にはたくさんのボートが浮かんでいた。国立レクリエーション地域は、その名のとおりアメリカ国民のレクリエーション需要に対応するために整備された公園だ。日本でいえば、国土交通省の所管する国営公園がそれに近い。多くはダム湖の周辺に整備されているが、中にはゲートウェイ国立レクリエーション地域やゴールデンゲート国立レクリエーション地域など、かつて軍事上の要衝であった大きな湾を囲む旧軍用地を利用しているものもある。
 目次
ラスベガス
デスバレー国立公園
サンフランシスコ到着
レイクミード国立レクリエーション地域ビジターセンター外観
レイクミード国立レクリエーション地域ビジターセンター外観

ミード湖遠景
ミード湖遠景
○レイクミードNRA(国立公園局ホームページ)http://www.nps.gov/lame/
 ミード湖はコロラド川がフーバーダムによって堰きとめられてできたダム湖。レイクミード国立レクリエーション地域は、ミード湖を中心とする面積1,501,216エーカー(約61万ヘクタール)の広大なレクリエーション公園。1936年設立と、国立レクリエーション地域としては最も古い。年間を通じて利用が可能で、ボート、釣り、自然プログラム、ウォータースポーツを楽しむことができる。キャンプ場、ピクニックエリアも充実している。

ラスベガス
 その日のの宿はラスベガス手前でとる予定であったが、適当な宿がみつからないまま、ラスベガスに入ってしまった。なるべく中心部から離れたホテルを探してチェックインする。ホテルの駐車場からはカジノ街の目映いばかりのネオンを望むことができた。
 予想に反して「歓楽の街」ラスベガスも、中心地から少し外れれば静かなものだった。「にわかギャンブラー」たちは既にカジノに繰り出してしまったらしく、ホテルには人影もまばらだ。ホテルの料金も驚くほど安い。少し古びてはいるが、ツインベッドのそこそこの部屋が一泊40ドル(約4,800円)ほどだった。これは、今回移動中に宿泊したホテルの中でも最も安い部類に入る。ホテルの軒数が多いからなのか、それとも、カジノで落ちるお金がめぐりめぐって税金が安く抑えられているためなのか、理由はよくわからない。とにかくホテル代が安く上がったのはありがたかった。
 ラスベガスでは当然カジノなどは訪れず、いつもの通り早寝早起きに徹する。ホテルをチェックアウトし、早朝のカジノ街を通ると、朝日に照らされた自由の女神やスフィンクスが私たちを見下ろしている。まさにアメリカ南西部のオアシスだ。カジノ帰りとおぼしき人たちが歩いているのがちらほらみえる。
 ラスベガスを過ぎるといよいよ横断も後半戦だ。デスバレーを越えれば次の研修地、レッドウッド国立州立公園のあるカリフォルニア州は目の前だ。

ラスベガスの自由の女神
ラスベガスの自由の女神

デスバレー国立公園
デスバレー国立公園へと向かう。公園の周辺はガソリンスタンドもない荒涼とした荒地が続く

 「この先72マイル(約116キロメートル)ガソリンスタンドありません」
 デスバレー国立公園へと続く道路に入るとすぐにこのような看板が立っていた。
 デスバレー国立公園は形も大きさもちょうど長野県に似ている。この公園を越えればもうカリフォルニア州なのだが、デスバレーが大きいうえ、カリフォルニア州の面積は日本の国土面積の約1.1倍もある。カリフォルニア州の北端にあるレッドウッドまでの道のりはまだまだ遠い。マンモスケイブを出発して2週間が経過し、さすがに2人ともヘトヘトになっていた。幸いといっては何だが、デスバレー国立公園以降はインタビューを予定していなかった。

 デスバレー国立公園に入ると、「デスバレー(死の谷)」という名のとおり、荒涼とした風景が広がる。最も低いところで海抜マイナス85メートルにもなる盆地には、あちこちに塩類が集積していた。盆地を挟んで両側には山脈が聳える。標高差はグランドキャニオンのそれの2倍にもなるそうだ。その雄大な景色に圧倒される。路傍の解説版を読みながら車を走らせていると、国立公園はさながら巨大な自然史博物館のようだ。
Badwater Basinは、海抜マイナス85メートル。ねずみ色に見えるのは地表に集積した塩類
Badwater Basinは、海抜マイナス85メートル。ねずみ色に見えるのは地表に集積した塩類
塩類が集積している盆地には、アプローチのためのボードウォークが整備されている。背後の山脈の山頂にはうっすらと積雪が見える
塩類が集積している盆地には、アプローチのためのボードウォークが整備されている。背後の山脈の山頂にはうっすらと積雪が見える
デスバレー国立公園
デスバレー国立公園
○デスバレー国立公園(国立公園局ホームページ)http://www.nps.gov/deva/
 最高気温は華氏128度(摂氏53度)、過去30年間の年平均降水量は2.5インチ(約6センチメートル)。海抜マイナス282フィート(約85メートル)の盆地には一面に塩の結晶が析出しており、その名のとおり「死の谷」の様相を呈する。北米大陸で「最も暑く、最も乾燥していて、最も低い」と言われている。面積は136万ヘクタールと日本の長野県とほぼ同じ大きさ。公園の形も似ている。1933年に国立記念物公園として設立され、1994年に国立公園として再指定されている。2003年の利用者数は約90万人。
宿泊したホテルのあるStovepipe Wellsの案内標識。ピクトグラフが効果的に組み合わされている

 その日は公園内の宿舎に宿泊することにしていた。公園外のモーテルよりは割高だが、国立公園を楽しむならやはり公園内に宿泊するに限る。公園の朝夕、特に早朝の公園には、原始の自然の雰囲気が残されているような気がする。
 ホテルには、何とプールがある。植物のほとんど生育しない乾燥地というのに、シャワーの水もたっぷり出る。ところが、少し口に含むと「しょっぱい?!」。ここの水道水は塩水なのだ。

 夕食は部屋で軽めに済ませ、早目に就寝した。大陸横断の旅を始めた当初は外食が主体だった毎日の食事も、スーパーのデリ(お惣菜)などを経て和食が主体になっていた。お米もまだ20kgは車に積んである。コーヒーメーカーで味噌汁用のお湯を沸かしたり、こちらで購入した湯沸し用の電熱器でおかゆを作ることも覚えた。あらかじめ米に十分給水させておけば、結構まともなおかゆができることがわかった。
 翌日、公園の展望台に登る。展望台はバレーを囲む山脈上にあって、車道が展望台まで整備されている。途中の道はものすごい急坂で、車の温度計はレッドゾーンに入りっぱなしだった。荷物を満載のまま登るのだから、車への負担もかなりのものだろう。マンモスケイブ国立公園を出発する前にトランスミッションを修理していなかったら、今頃どうなっていたかわからない。
展望台からの雄大な眺め。大気汚染のせいか、うっすらと霞がかかっている

 何とかたどり着いた展望台からの眺めはさすがに素晴らしかった。広大な盆地が一望の下に見渡すことができた。塩類が集積している部分が白く浮かび上がっている。しかしながら、ここでもビックベンド国立公園同様、白っぽいかすみがかかっていた。せっかくの景色が台無しだ。発生源が公園区域の外であるために、国立公園局管理者だけではなかなか打つ手がない。アメリカの大気汚染は、景色を売りものにしている国立公園にとっては大きな打撃だということがよくわかる。
サンフランシスコ到着
 デスバレー国立公園を抜け、カリフォルニア州に入ると、突然化学臭が鼻をつく。デスバレーの方向から下ってくると、小さな盆地全体が白煙に覆われていた。
 しばらく走ると、化学工場とおぼしき建物の前を通る。白煙が猛烈な勢いで排出されている。外を歩いている人影もまばらだ。おそらく企業城下町か何かなのだろう。
 車の窓を閉めていても耐え難いにおいがする。こんなひどい大気汚染でも住民からは苦情が出ないのだろうか。不思議な風景が広がっていた。
 アメリカの環境対策は、素人目に見てもずさんに映る。大気汚染防止法(Clean Air Act)などの画期的な規制法を世界に先駆けて導入している一方で、実際の発電所の排出規制など執行面はあまいようだ。産業界からの猛烈な圧力で骨抜きにされているのだろうか。現在でも、雨水中の水銀濃度は重要な観測項目になっており、その原因は古い石炭火力発電所からの排出だという。「民主主義の国」アメリカの知られざる側面が時に垣間見られる。ここでは様々な人間がそれぞれ有権者としての権利を行使することができるのだ。
(参考)ナショナルジオグラフィック(2006年10月号)
「National Parks in Peril」OCTOBER 2006
http://www7.nationalgeographic.com/ngm/0610/feature2/

→(その4)へ続く

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