スコットさんがGPS端末の画面表示を見ている。画面には最初の調査地点までの距離と方角が表示されている。
「ここら辺にしよう」
最初の調査地点がだいぶ近くなったようだ。車を路肩に寄せて停め、調査用具を持って歩き出す。歩道のようなものはなく、いきなり森の中に入っていく。
「270度の方角に200mだ」
ジェイソンさんがコンパスで方角を見定め、歩測で大体の距離を測りながら森の中を進んで行く。
森の中は暗く、下生えはほとんどない。転がっている丸太はゆうに胸の高さまである。大きな切り株があちこちにあり、そこから萌芽したレッドウッドが切り株を囲むように立ち並んでいる。伐採のために縦横に付けられたブルドーザーの作業道は山肌を深くえぐり、今も赤土が露出したままだ。立ち枯れた細いダグラスモミが斜めに倒れている。生きている樹木も細く、北向き斜面などでは、ほとんど頂部にしか葉がついていない。伐採後の管理がいかにずさんなものだったかが伺える。
そんな中を歩くのは容易ではなかったが、ジェイソンさんとスコットさんはどんどん先を歩いていく。彼らは特製のスパイク付きブーツを履いているとはいえ、それにしてもフィールド調査経験の「格」がまったく違う。私たちがそれまでボランティアをしていたマンモスケイブ国立公園が、石灰岩からなるなだらかな丘陵地形だったのに対して、レッドウッドのフィールドは隆起運動によりできた山地で、急な斜面が連続する。岩質がもろく降水量が多いので、地すべりがあちこちで起きている。慣れないうちは無理をしない方が無難だ。