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No. アメリカ横断ボランティア紀行(第12話) レッドウッドの森のボランティア
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Issued: 2007.08.30
レッドウッドの森のボランティア[4]
 目次
3種のレッドウッド
英語能力向上?
 日本のスギなどはレッドウッドの遠い子孫であるが、樹形やサイズはずっと「洗練」されている。スギなどの比較的新しい針葉樹のグループは、病気への耐性は低いものの、世代期間が短く、進化の速度が早い。これは、生存競争を有利にするための合理的な戦略ともいえる。
 現代は、より高度な生活史をもつ広葉樹が“幅を利かせ”ている。
 
 かつて地球上を広く覆っていた「重厚長大型」のレッドウッドは、現在はこのカリフォルニア北部沿岸地帯にかろうじて残っているだけである。しかしながら、「本人たち」はこの時代の流れを気にもとめず、昔ながらの古典的な生存競争を地道に続けている。

3種のレッドウッド
 レッドウッドは別名セコイアとも呼ばれる。今から一億数千年前、恐竜と同時代に最も栄えた裸子植物の生き残りであるとされる、大変古いタイプの樹木だ【3】。現在は、このレッドウッド国立州立公園に生育するコーストレッドウッド(Coast Redwood、学名Sequoia sempervirens)、米国西部シエラネバダ山脈西麓のセコイア国立公園のジャイアントセコイア(Giant Sequoia、学名Sequoiadendron giganteum)と中国のメタセコイア(Dawn Redwood、学名Metasequoia glyptostroboides)の3種が残るのみである。ジャイアントセコイアは世界一大きい(太い)樹木、レッドウッドは世界一高い樹木として知られている【4】
【3】 最も古いセコイアの仲間は、ジュラ紀(2億年〜1億4千年前)に出現した。コーストレッドウッドは、白亜紀末期の今から6,500万年前には、かなり広く分布していたことがわかっている。
The Biogeography of Sequoia sempervirens, By Brandon Jebens,
図:レッドウッド(コーストレッドウッド)とジャイアントセコイアの分布域(国立公園局ホームページより)
英語能力向上?
 レッドウッド国立州立公園に来てから、急に英語のヒアリングが上達したような気がした。理由のひとつは、レッドウッドに到着して以来、実に多くの面倒な電話をしなければならなかったことだろう。
 まずは電話回線の契約に苦労させられた。ボランティアハウスには電話がなく、その契約は住人自らが行わなければならない。契約は必ずオペレーターを通じて電話で申し込まなければならなかった。契約内容にも様々なプランがあり、それにより料金も異なる。訴訟を恐れてか注意事項などの説明事項も多く、内容もわかりにくい。
 そして何といっても大変だったのは歯科治療だった。レッドウッドに引っ越す途中で歯の詰め物が取れてしまい、それをつけ直すだけなのだが、適当な歯科医がなかなかみつからない。公園局の職員に聞いてもあまりお勧めの歯科医はないという。一般的に人気が高い歯科医は、新たな患者をとらないということだった。皆、ホームドクターならぬホームデンティストがいて、よくても悪くてもずっとそこに通っているそうだ。
 とにかく電話帳片手に電話をかけまくる。初めは要領がわからず話が通じない。日本の歯科医がいかに楽に受診できるかを痛感させられた。何件か間の悪い電話をかけた後、ようやく要領がつかめてきた。
 まず、「新しい患者を受け入れてますか?」と冒頭に質問すると話が早い。ここで、ほぼ7〜8割は断られる。その上で、症状を説明し、日本からボランティアに来ていて数ヶ月しか滞在しないことや、保険があることなどの条件を伝える。特に、保険は現金で支払う建て替え方式であることをはっきりと言うことが肝心だ。「現金で清算します」という一言は思いの外効果が大きかった。支払いまで時間も手間もかかる保険よりも楽なのが歓迎される理由なのかも知れない。
 10軒ほど電話したが、もっとも条件のよい歯科医院からの回答は、「3ヵ月後ならアポが取れます」というものだった。そんなに待っていたら歯がダメになってしまう。気力を振り絞って電話をかけ続ける。すると、
 「明日なら大丈夫ですよ」
 ちょうどキャンセルがあったというのだ。対応もとても親切で丁寧だ。さっそくアルカタにあるその歯科医を訪問する。暇なヤブ医者だったらどうしようかと思いながら行ってみると、初老の先生が昼食もとらずに診療している。院内もきれいで落ち着いている。
 「レッドウッドはどうだい?」
 気さくな感じの先生だった。
 「とりあえず取れたものをつけ直しておくけど、少し治療計画を考えましょう」
 あらかじめ撮影しておいたレントゲン写真を見ながら相談が始まる。
 「虫歯が何箇所かあります。歯の色が少し変わってきているところとか、歯並びが悪いところもあるね」
 とりあえず見積もりをくれるというので、その中から優先順位をつけて治療することになった。
 「こちらにはどのくらい滞在するんだい?」
 「だいたい8ヶ月程度です」
 「それだとすべて治す必要はないね」とつぶやいてから、
 「それにしても、この歯の治療はすごいねえ」
 と私の歯に見入っている。見ているのはどうも、巧妙に型をとってはめ込まれているアマルガムの治療跡だ。私の歯は虫歯だらけだったので、虫歯治療の見本市のようになっている。その様子を見ていて、ふと、この先生は「外国人が好きなのかもしれない」という印象を受けた。
 後でわかったことだったが、電話で応対してくれた受付の女性は、ハワイ火山国立公園の所長さんのお嬢さんだった。私がレッドウッド国立州立公園のボランティアだと聞いて、うまく取り計らってくれたのかもしれない。
 なお、その後、妻の親知らずが化膿してしまい、この歯科医には夫婦揃ってお世話になることになった。
【4】  2006年10月1日の米国MSNBCニュースの報道によれば、レッドウッド国立州立公園で最も高い樹木が発見され、その高さは379.1フィート(約116m)。
MSNBCニュース
<妻の一言>
 レッドウッドに到着後、ようやく探し当てた歯科医はとても親切なところでした。主人の詰め物がとれて治療を受けていましたが、清算の時などレセプションの女性と歓談したりできました。また、患者ひとりひとりのアポイント(予約)の時間が長いので、待合室でアメリカの女性雑誌をゆっくり読んだりと、私にとってはいい息抜きになっていました。
 レッドウッドに着いて3ヶ月ほどした頃、急に奥歯が痛くなってきました。頭痛や発熱もあります。さっそくアポイントをとって診ていただくと、「親知らず」が1本化膿していることがわかりました。そのうえ虫歯もたくさん見つかり、見積もりは総額40万円! 私たちの医療保険の上限を大幅に超えています。親知らずの治療は、4本全部を抜くように勧められました。1本だけ抜くと歯並びが悪くなってしまうそうです。4本の抜歯で20万円かかります。いろいろ相談した結果、この治療方針に従うことにしました。
 抜歯は別の口腔外科医を紹介され、そこで手術が行われました。全身麻酔でしたので薬の量を決めるのに、助手の方がいくつか質問をしてきます。
 「あなたの体重は何ポンド?」
 ポンドではわからなかったので、
 「○○キログラム」
 と答えると、お互いに正確な数値がわからないまま、適当な量の薬を注射されました。まだ意識があるにもかかわらず、担当の先生は手術を始めようとします。
 「まだ意識があります!」
 必死になって言うと、さらに注射され、次に気が付いたときにはすべてが終了していました。時間にして1時間弱だったそうです。
 朦朧としたまま車にゆられレッドウッドに戻ってきましたが、この麻酔が強かったせいか、しばらく体調がすぐれませんでした。
 残りの治療は、日本に一時帰国して受けることにしました。治療費と航空運賃を合わせても、アメリカで治療を受けるよりもずっと安くつくことがわかったためです。こうして思いがけず1年ぶりに日本に帰ることになりました。
 主人が集めた大量の資料を持ち帰り、代わりに日用品などを仕入れてきました。肝心の歯の治療にも行きました。アメリカと違ってすぐに予約をとることができ、一週間程度ですべての治療が終了してしまいました。
 「親知らずの抜歯跡はきれいになっていますよ」
 アメリカの口腔外科の腕前はなかなかのものだったようです。
 一時帰国での日本滞在はとても慌ただしく、3週間の日程はあっという間に過ぎていきました。おかしなことに、日本に帰っても落ち着く場所がありません。その頃の私たちの生活の拠点は、やはりあのレッドウッドの森の中にあったということでしょうか。
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記事・写真:鈴木渉(→プロフィール

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