農業に関わる生物多様性の問題は、原生の森林や海洋、湖沼などにおける生物多様性に問題に較べて、人工的に管理されている空間であるという点で大きな違いがあります。経済や文化の違いや推移など人間社会の状況によって、活動が大きく左右されるという点も特徴的です。山や海にも人工林の造成や養殖などの形態がありますが、農業による植生管理は面積や規模の面からずば抜けた影響があります。
農業は生態系サービスの一形態として社会、特に地域社会に多くの恩恵をもたらし、土壌の保全、
水の循環などにも一役買っています。農業を営む人たちが代々行なってきた地域における品種改良や種の選別と維持は、農業の中での生物多様性を維持してきました。歴史的には農業は、必ずしもモノカルチャーに同一視されるものではなく、生物多様性と両立し得るものでした。
生物多様性条約締約国会議第5回会合の決議V/5の附属書では、「農業の生物多様性」の範囲について、以下のように記述しています。
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農業の生物多様性は幅広い用語であり、農業に関連する生態系を構成し、食料や農業に関わる生物的な多様性な要素を含む。遺伝子、種、生態系という三つのレベルにおける動物、植物、微生物の変異や変種を示し、農業に関連する生態系の重要な機能、構成、プロセスを支えるのに必要となってくる。
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条約の中では、政府や関係団体が生物資源の保全やその持続可能な利用など、条約の目的に沿った行動を円滑に取れるように、政策や活動のリストとして作業計画というものを用意しています。その作業計画では、農業による生物多様性に関わる生態系サービスの要素として、栄養物の循環や有機物の分解、害虫と病気の制御、受粉、地域の野生動物の維持と向上、水循環、侵食の制御、気候の制御や炭素の貯蔵が挙げられています(決議V/5 附属書)。
一方、ミレニアム・エコシステム・アセスメントでは、「生物多様性と耕作システム」という形で、様々な次元が提示されています。
【表2】生物多様性と耕作システム
| | 耕作システムの内部 | 耕作システムの外部 |
| 生産の要素 | 作物、家畜、養殖 | 野生の食物源 |
| 遺伝的な改善の源 | 作物と作物の野生種 | 作物の野生種 (生息域外のジーンバンク、家畜交雑資源を含む) |
| 農業生産に対して生態系サービスを提供する生物多様性 | 「関連する生物多様性」 土壌生物相、害虫と送粉動物の天敵、送粉動物のための代替飼料植物、天敵のための代替捕食物 | 野生の景域における送粉動物のための代替飼料植物など |
| 土壌浸食の防止、水供給のための生物多様性 | 土壌浸食の防止、水供給のための生物多様性 |
| その他の生物多様性 | その他の生物多様性 保全・美的な価値のための種(農地の野鳥など) | その他の野生の生物多様性 |
イタリック文字:食料農業植物遺伝資源の定義
赤字:「農業の生物多様性」に関するさまざまな定義
#出典#
MA Current State and Trends p756 表26.4 Biodiversity and Cultivated Systems
http://www.millenniumassessment.org/documents/document.295.aspx.pdf
表から読み取れるのは、生物多様性は農業や耕作システムの中でも培われており(食料農業植物遺伝資源の定義)、また生物多様性は耕作システムを支え(関連する定義)、農地や耕作システムは農業の生物多様性の食糧生産の機能的な側面だけではなく、さまざまな次元で相互に影響を及ぼしているということです。
生物多様性と農業、あるいは耕作システムの関係性は、多層的でなかなか一言で言い表せないことを、条約の文章もMAも示しています。文脈やスケールによって、遺伝子の多様性なのか、生態系のなかでの役割なのか、異なる見方が可能となります。