GPSテレメトリーは、動物に取り付けたGPS端末が衛星からの電波によって位置を特定し、記録する。従来のテレメトリー調査は、動物に取り付けた発信機からの電波を、テレビアンテナのような志向性の高いアンテナを使って追跡するものだった。一方、GPSテレメトリーは、その動物がどのようなルートで動き回ったかを自動的に記録してくれる。解析は、GPS端末を回収してデータをダウンロードするだけでいい。従来の発信機も付いているが、それはGPS端末を回収するための信号として用いられるだけだ。
エルクの群れが霧の中に見える。
「あの中に1頭いる。これから首輪を外します」
州政府の職員が、無線を使って、事前に首輪に仕込んであった少量の火薬を発火させる。すると、発信音がかわり、「ピピピピ…」と早くなった。
「無事首輪が取れた。さっそく首輪を回収に行こう」
ここからが私たちの出番だ。アンテナを持った職員について、地面に落ちている首輪を探しに行く。首輪は、つなぎ目が切れてもしばらくは首にかかってることがあるそうだ。だからどこに落ちているかわからない。
冷たい雨の中、丘を上り下りしながら探し回る。見た目以上に傾斜がきつい。
「崖の下などがねらい目だ」
エルクが跳び下りた拍子に落ちることが多いそうだ。急な坂を降り、崖下に回り込む。20名ほどが2手に分かれて探すがなかなか見つからない。夕方まで探したが、その日は捜索を断念する。
首輪は、後日、もう少し丘を下ったところで見つかったそうだ。
「GPSテレメトリー」などと聞くと最新の技術で簡単にデータが取れるイメージを抱いてしまうが、結構手間がかかる。野生生物のモニタリングは本当に地味で大変な仕事だ。
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