環境を巡る最新の動きや特定のテーマを取り上げ(ピックアップ)て、取材を行い記事としてわかりやすくご紹介しています。
トップページへ
シリーズ・もっと身近に! 生物多様性(第5回)
『生物多様性国家戦略:生物多様性条約の実施の現実』
アメリカ横断ボランティア紀行(第13話)
シリーズ・もっと身近に! 生物多様性(第4回)
『生物多様性と自治体の取組み:愛知県名古屋市 東山動植物園の試み』
シリーズ・もっと身近に! 生物多様性(第3回)
『食卓から見る生物多様性』
アメリカ横断ボランティア紀行(第12話)
[an error occurred while processing this directive]
No. アメリカ横断ボランティア紀行(第13話) レッドウッドのボランティア(野生生物編)
page 2/4  1
2
34
Issued: 2007.11.01
レッドウッドのボランティア(野生生物編)[2]
 目次
サケ・マス類モニタリング
シロチドリモニタリング
ボールドヒルの草原を維持するための管理火災の様子

 参加者の打ち合わせの後、車道沿いに車でエルクの群れを探す。この調査では、何頭かのエルクにGPSテレメトリーをつけて群れの行動範囲を調べている。そのうち数台のデータがそろそろいっぱいになるため、装置を回収するのが今回の作業の目的だ。装置には発信機がついていて、目標のエルクが近づくと受信する信号が強くなる。
 GPSテレメトリーは、動物に取り付けたGPS端末が衛星からの電波によって位置を特定し、記録する。従来のテレメトリー調査は、動物に取り付けた発信機からの電波を、テレビアンテナのような志向性の高いアンテナを使って追跡するものだった。一方、GPSテレメトリーは、その動物がどのようなルートで動き回ったかを自動的に記録してくれる。解析は、GPS端末を回収してデータをダウンロードするだけでいい。従来の発信機も付いているが、それはGPS端末を回収するための信号として用いられるだけだ。
 エルクの群れが霧の中に見える。
 「あの中に1頭いる。これから首輪を外します」
 州政府の職員が、無線を使って、事前に首輪に仕込んであった少量の火薬を発火させる。すると、発信音がかわり、「ピピピピ…」と早くなった。
 「無事首輪が取れた。さっそく首輪を回収に行こう」
 ここからが私たちの出番だ。アンテナを持った職員について、地面に落ちている首輪を探しに行く。首輪は、つなぎ目が切れてもしばらくは首にかかってることがあるそうだ。だからどこに落ちているかわからない。
 冷たい雨の中、丘を上り下りしながら探し回る。見た目以上に傾斜がきつい。
 「崖の下などがねらい目だ」
 エルクが跳び下りた拍子に落ちることが多いそうだ。急な坂を降り、崖下に回り込む。20名ほどが2手に分かれて探すがなかなか見つからない。夕方まで探したが、その日は捜索を断念する。
 首輪は、後日、もう少し丘を下ったところで見つかったそうだ。
 「GPSテレメトリー」などと聞くと最新の技術で簡単にデータが取れるイメージを抱いてしまうが、結構手間がかかる。野生生物のモニタリングは本当に地味で大変な仕事だ。

受信機を操作するテリーさん。この受信機は汎用型のもので、首輪の位置を特定するために使用する。ハンドル脇に見えるのがアンテナ。
受信機を操作するテリーさん。この受信機は汎用型のもので、首輪の位置を特定するために使用する。ハンドル脇に見えるのがアンテナ。
森の中に落ちていたエルクの角
森の中に落ちていたエルクの角
サケ・マス類モニタリング
 次に連れて行ってもらったのは、サケ・マス類調査だった。ゴムの胴長靴(ウェーダー)を履いて小河川を遡上する。偏光レンズのメガネをかけ、サケ・マス類の目視調査、産卵場所、死骸の確認作業を行う。毎年3月はマスの一種のスティール・ヘッド(Steelhead:降海型のニジマス)が産卵のために遡上してきている。マスといっても、大きさは日本の本州で見られるサケほどもある。

 妻と私はそれぞれ職員とペアを組んで2手に分れて調査を行う。沢から見るレッドウッドの森も壮観だ。倒れた巨木でできた天然の堰を何度も乗り越えながら遡上する。同じ胴長をつけているが、同行しているマックスさんとは股下の長さが10cm以上も違う。私だけ淵を越えられず陸上を迂回することもあった。マスの魚影を探すのと産卵床を目視調査してくのだが、素人でも役に立つのだろうか。
 「野生生物の調査は危ないから、1人では調査に行けない。ワタルたちが来てくれると、職員2名で2箇所の調査ができるんだ」
 ようやく、私たちの役割が飲み込めた。
ウェーダーをはいたところ。股下の差はいかんともしがたい。マスを探しながら歩く国立公園局のジーンさん
ウェーダーをはいたところ。股下の差はいかんともしがたい。マスを探しながら歩く国立公園局のジーンさん
シロチドリモニタリング
 野生生物のグループは、夏の間中、野生生物の調査に忙殺される。中でも、ニシアメリカフクロウ(Spotted Owl)の調査は大変だ。夜間、レッドウッドの森の中を走り回るというかなり危険な作業だ。フクロウの鳴き声を真似て大声を張り上げるため、鳥の鳴き声の練習もしなければならない。
 「そんなの簡単、簡単」
 オフィスの中で鳴き声を真似てくれるが、驚くほど大きな声だ。
 私たちは植生調査もあるのでと断ることにした。
 「フクロウがだめならプルーバーはどう? ただ砂浜を歩くだけだよ」
 ──それならできるかも知れない。
 プルーバー(Western Snowy Plover;シロチドリ)はチドリの一種。さっそくメールで調査方法などが送られてきた。レッドウッドの手付かずの砂浜を通算3日間かけて縦走する。私たちは、1日だけ同行することになった。
 シロチドリの沿岸域生息個体群は、1993年に連邦政府によって準絶滅危惧種(Threatened)に指定されている。不思議なことに、隣接する2つの州立公園ではシロチドリが繁殖しているが、レッドウッド国立州立公園では1977年、1988年及び1995年に記録があるだけだ。理由はよくわかっていないが、国立公園内の海岸線は天敵となる猛禽類などが豊富なことに加えて、特別な許可を持つ地元住民の車両通行、利用者によるペットの持ち込みなどが影響しているのではないかと考えられている。私たちがボランティアとして働いた年の前年に当たる2003年には、8年ぶりに1つがいの営巣が確認され、その年(2004年)の調査でも2つがいが確認されている。今回の調査は、そのつがいのモニタリングを行うものだった【4】
 原生的な海岸線の景観はすばらしい。海にはアザラシが泳ぎ、上空をペリカンが滑空する。自然が好きな人にとってこの国立公園での仕事は天職だろう。だが、こんな小さな鳥数羽のために、職員が毎月この砂浜を縦走しているというのは、考えてみるとすごいことだ。

 シロチドリは砂のくぼみに直接卵を産み営巣する。車のワダチを「活用」してしまうこともある。
 延々と砂浜を歩き、ほぼその日の行程の半ばを過ぎた頃、マックスさんが手招きしているのが見えた。チドリがいたようだ。
 近づいてみると、小さな鳥が2羽いるのがわかる。色と模様が絶妙で、砂浜に溶け込んでしまっている。オスがわざと離れて注意を引き付けている。とてもかわいらしい。目撃した位置などを記録し、写真を撮影する。
【4】 シロチドリ
シロチドリに関するウェブサイト(カリフォルニア州立公園)
シロチドリの指定状況などに関するウェブサイト(米国魚類野生生物局)
シロチドリモニタリングの様子。砂浜に自動車のワダチがついている。シロチドリのつがい。オスが立ち上がって歩き回っている
シロチドリモニタリングの様子。砂浜に自動車のワダチがついている。シロチドリのつがい。オスが立ち上がって歩き回っている
カイルさんとジーンさんが記録をとる
カイルさんとジーンさんが記録をとる
チドリが少しずつ移動し始めた
チドリが少しずつ移動し始めた
page 2/4  1
2
34
[an error occurred while processing this directive]