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No. アメリカ横断ボランティア紀行(第13話) レッドウッドのボランティア(野生生物編)
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Issued: 2007.11.01
レッドウッドのボランティア(野生生物編)[3]
 目次
集水域修復事業調査
カリフォルニア州沿岸地方助言会議
続・ローソンヒノキ調査
集水域修復事業調査
 野生生物部門から噂を聞きつけたのか、今度は地質部門のグレッグさんに声をかけられた。
 「レッドウッドクリーク集水域修復事業の調査をやっているんだけど、一度一緒に来てみないか?」という誘いだ。
 この事業は、国立公園に指定される前に伐採された森林の修復を目的としたものだ。当時の搬出用林道やブルドーザーの踏み跡道を自然林に復元することにより、土砂流出を防止する。レッドウッドクリークは、1978年に拡張された国立公園区域を流れる河川で、伐採跡地から流入する土砂により河床が大幅に上昇してしまっている。現在も、夏には流水が伏流してしまい、河川が分断されてしまう。
 グレッグさんの調査は、伐採直後の航空写真を元にどの林道を除去すべきか現地踏査するものだ。次期の事業費は3年間で200万ドル(約2億4千万円)。大規模な事業だ。
 「ぼくは病み上がりだから、あまり早く歩けない」
 グレッグさんはそう言うが、山に入ると荒れた林道跡もいとわず進んでいく。地質部門の職員は、みな筋金入りのフィールドワーカーぞろいだということを後に知る。私たちは過労で体調を崩したグレッグさんの「足慣らし」にちょうどよかったようだ。
地質部門のグレッグさんと
地質部門のグレッグさんと
伐採直後の航空写真を立体視しながら、現場の状況を確認する
伐採直後の航空写真を立体視しながら、現場の状況を確認する
カリフォルニア州沿岸地方助言会議
 私たちの勤務する国立公園の南部管理センターで、「カリフォルニア州沿岸地方助言会議」(California Coast Provincial Advisory Committee、通称PACミーティング)が開催された。この会議は「北西地域森林計画【5】」という計画に基づく会合で、各政府機関、地元住民、有識者、木材関係者などが参加している。法的な位置付けはないものの、林業関係者や地元住民との意思疎通を円滑にすることを目的として、毎年実施されている。
 サンフランシスコ以北のカリフォルニア州北西部を対象にして行われた今回の会合では、土地管理局(BLM: Bureau of Land Management)、森林局(FS: Forest Service)、魚類野生生物局(FWS: Fish and Wildlife Service)などから報告があった。レッドウッド国立州立公園からも、公園内の二次林の管理、集水域の修復、レッドウッドクリークの河道再生による魚類個体群の復活などについて発表があり、午後はレッドウッドクリーク河口のフィールドトリップが行われた。
 「北西地域森林計画」は、太平洋岸北西地域の木材生産地域における野生動物種の保護対策に関する総合的な計画である。連邦政府所有の森林におけるニシアメリカフクロウ【6】の保護の問題がきっかけとなり、クリントン政権時代に打ち出された。策定当事には林業関係者などから大きな反対があったといわれる、いわくつきの計画だ。国立公園内で実施されるフクロウのモニタリング調査は、この計画の一環として行われているものだ。
 この会議が10年以上経過しても形骸化しない理由のひとつが、計画に付随するモニタリング調査の存在だ。このフクロウは原生林のみを採餌の場やねぐらとしている。営巣には樹齢数百年の樹木が必要ともいわれ、個体数を回復させるには、現在残されている原生林の維持が大前提となる。
 しかし現実には、レッドウッド国立州立公園の周辺でも原生林の伐採が続けられており、目標達成のためには地域の森林管理の大幅な見直しが必要だ。そこには、「木材生産か、生息地の保護か」という、深刻な利害対立が存在する。
 ニシアメリカフクロウのモニタリング調査は、このような利害調整に必要な繁殖個体数、生息密度、繁殖率などの科学的な情報を集め、フクロウの個体群の保全のために維持するべき原生林の量と質に関する目安を示す役割を負っている。また、そのような調査の担い手が、国立公園局や魚類野生生物局の資源管理部門というわけだ。
【5】 「北西地域森林計画」(Northwest Forest Plan: NWFP)
太平洋岸北西地域の木材生産地域において、森林の生産などにより影響を受ける野生動物種の保護と管理に関する総合的な計画。1994年に決定された。
 計画のミッションは、農務省森林局及び内務省土地管理局の管理する土地の管理について連絡調整をとることと、ニシアメリカフクロウの分布域内における他の連邦政府機関の自主的な取り組みに責任を持つことなどである。これらの公有地における管理は、「森林生息環境のニーズ」と「林産物生産のニーズ」のいずれも満たさなければならない、とされている。
 この計画は、関係省庁の連携組織である「地域生態系事務所」(The Regional Ecosystem Office (REO))が事務局となり、REOが、地域省庁間実施委員会(the Regional Interagency Executive Committee (RIEC))と政府間助言委員会(Intergovernmental Advisory Committee (IAC))などの事務局ともなっており、北西地域森林計画実施のための意思決定や問題解決を促している。
http://www.reo.gov/
general/aboutNWFP.htm
【6】 ニシアメリカフクロウ
ニシアメリカフクロウ(米国魚類野生生物局ウェブサイト)
続・ローソンヒノキ調査
 植生管理部門のローソンヒノキ根腐れ病調査は、いつも私たちが参加している二次林調査よりもずっと楽だ。それに、「調査」と称してレッドウッドの原生林を散策できるという魅力もある。
 原生林の中を歩きながら、水の流れた跡を探し、デジカメで写真を撮ってGPSで位置情報を記録する。ローソンヒノキを見つけたところでも位置情報を記録し、歩道からの方角と距離を記録する。実際に調査をしてみると、案外やることが多く、忙しい。
ローソンヒノキ調査のために原生林の中を歩く

 調査をしていると、時おり、公園利用者から何をしているのかと尋ねられることがあるが、これには困った。四苦八苦しながら調査の内容を説明する。先方にとっては、私たちもパークスタッフ。きちんとした対応が求められる。
 調査から戻り、とりあえずGPSのデータとデジカメの写真をスタージアさんに提出する。
 「ありがとう。さっそくジュディーに解析してもらうわ」
 GIS専門家のジュディーさんは、少し早口だがとても気さくな女性だ。家に果樹園を持っていて、時々木苺など季節の実りを山のように持ってきてくれる。GISのセクションは、少し離れたアルカタという町に独立したオフィスがあり、公園が所有する膨大なデータはその事務所のサーバーに格納されている。ジュディーさんは、資源管理部門の端末デスクと、このGISオフィスを行ったりきたりしながら仕事をしている。
 「2人とも元気?調査のデータありがとう」
 そのジュディーさんが私たちの机の前に現れた。先日渡したデータをGIS上でプロットしたところ、GIS上の歩道のルートが実際のものとずれていることが判明したそうだ。
 「地図に載っている歩道をデジタル化したようなんだけど、かなりずれているのよね」
 これは、歩道の環境影響評価を行う上では致命的だ。
 「そこで、あなたたちに歩道のルートの位置情報もGPSで取ってきてほしいの」
 原生林の中では航空写真に歩道がほとんど写らないので、判読も難しいらしい。ただ、ジュディーさんも、具体的な調査方法はわからないそうだ。
 この調査について、スコットさんに相談してみた。
 「GPSには『トラッキング』という機能があるから、それを使うといい」
 トラッキング機能とは、一定の時間または距離ごとに位置情報を自動的に記録していく機能だ。
 試しに10mごとにトラッキングを取ってみた。データをダウンロードしてGISで地図上にプロットしてみると、測点が歩道をはさんで左右に大きくぶれている。
 「10m間隔だと誤差の方が大きくなってしまうのかもしれない。一定時間間隔でとってみたらどうかな」
 さっそく、3秒間隔でトラッキングをとってみる。今度はうまくいった。ところが、すぐにメモリーがいっぱいになってしまうことがわかった。試行錯誤の結果、だいたい7秒間隔ならほぼ歩道の線形が記録でき、メモリーも持つことがわかった。
 「こういうサイトがあるのを知ってるかい?」
 スコットさんが教えてくれたのは、あるGPSメーカーのサイトだった【7】
 「フリーソフトなんだけど、受信可能な衛星の個数などがわかるんだ」
 ソフトウェアをダウンロードして、衛星の「暦」をインポートすると、1週間程度先までの衛星の「天気予報」が出てくる。GPSは、一般に受信できる衛星電波の数が多ければ多いほど精度が高くなる。また、DOPなるノイズの指標もあって、それが高いと精度が下がる。これと実際の天気予報を組み合わせて調査計画を練ることになる。衛星の電波は葉や幹が濡れていると散乱してしまうので、前日の天候も影響してくるからだ。
【7】 GPSのフリーソフト
GPSのフリーソフト(Trimble Planning Software Downloads)
人工衛星の「暦」をダウンロードできるサイト(GPS almanac in SSF file format)
バックパック型受信機とGPS端末(右手に持っているもの)

 スコットさんとの相談の結果、私たちは高性能のバックパック型受信機と、普及タイプのGPS端末を1台ずつ持って歩道の調査に挑戦することになった。普及タイプといっても上位機種に外部アンテナをつけたものだ。
 「外部アンテナは、できれば真上を向いているのがいい。帽子の上とかバックパックの上にあるとよく電波を拾ってくれるよ」
 スコットさんのアドバイスだ。そういえばスコットさんのザックの上には金属板が貼ってある。
 丸く薄い金属板は、アンテナのサイズにぴったりだ。外部アンテナは、本来車のナビゲーションをする際に屋根に付けて使用されるものだ。そのため、5cm四方の四角いアンテナの底には磁石が入っている。金属板があれば、アンテナを簡単に固定することができる。
 「これ何だかわかるかい? プリングルスの底だよ」
 すぐに反応したのは妻だった。
 「ポテトチップスの?」
 「そうそう。あの筒の底についているこの板が一番いいんだ」
 早速帰り道でプリングルスを購入し、夕食の前に2人で食べる。底板を取り出して、ボランティアハウスに残されていた帽子からよさそうなものを見繕ってシリコンで貼り付けた。
 二次林調査の合間に天候や衛星の状態のいい日が2日ほどあった。調べてみると衛星の状態もよかった。調査の当日、あらかじめ用意しておいた調査用具やバッテリーなどを車に積み込む。調査地点まで車で片道1時間弱。途中、外部アンテナを車の屋根につけGPSの電源を入れる。スコットさんによると、GPSには「慣れ」のようなものがあって、しばらく衛星電波を受信していると、自分の位置を学習するような機能があるそうだ。電波状態のいいところで十分慣れさせると、多少電波状態が悪くなっても誤差は小さくなる。実際に電源を入れて置いてみると、徐々に受信している衛星の数が増えてくるのがわかる。また、GPSには、一時的に受信電波がなくなっても、しばらくの間現在位置を予想してくれる機能もある。慣れさせておくと、この機能が安定してより長い時間働くことがわかった。また、一時見失った衛星を再認識するのも早いようだ。
 途中から原生林に入ると、道路は未舗装路になる。道路は想像以上に細く曲がりくねっている。巨木が道の両側に立っているところなどは車1台が通り抜けるのがやっとだ。それだけに、原生林のすばらしい雰囲気を満喫することができる。
バックパック型のアンテナを背負って歩道を歩く

 調査地点に到着し、車を路肩の駐車スペースに停める。アンテナを車から帽子に移す。今回は妻が「GPS帽子」をかぶることになった。
 原生林の中では、GPSの感度が相当低下する。レッドウッドの巨木が立ち並び、樹冠が閉じていることから、電波が届きにくくなっているためだ。また、歩道は谷筋にあり時々谷間が深くなるが、そのようなところは受信できる衛星の数そのものが減ってしまう。一時的に電波の切れる衛星を再度認識できるよう、極力そのような時間を短くしたい。そのため、谷間は早足で、樹冠が開けているところはゆっくりと歩く。行きは予想通り衛星の電波状態もよく、2台ともにバッテリーやメモリーも大丈夫だった。
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