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エコチャレンジャー

環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

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エコチャレンジャー

環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

No.004

Issued: 2012.04.10

第4回 佐藤洋 国立環境研究所理事・エコチル調査コアセンター長に聞く、環境中の化学物質の子どもへの影響[1]

実施日時:平成24年3月27日(火)17:00〜
聞き手:一般財団法人環境情報センター 理事長 大塚柳太郎

エコチル調査は、胎児への曝露の影響を科学的に解明すること


佐藤洋(さとう ひろし)さん
独立行政法人国立環境研究所理事
東北大学大学院医学系研究科教授を経て、2011年4月より現職。
専門は衛生学、特に環境中毒学

大塚理事長(以下、大塚)― 本日はご多忙の中、エコチャレンジャーにお出ましいただきありがとうございます。佐藤さんは、国立環境研究所の研究担当理事、そして昨年1月からはじまったエコチル調査(子どもの健康と環境に関する全国調査)のコアセンター長として活躍されておられます。今日は、エコチル調査について、社会との接点を中心にお話を伺いたいと思います。
 はじめに、エコチル調査の目的および概要をご説明いただけますでしょうか。

佐藤理事― エコチル調査の大きな目的は、環境化学物質の胎児期曝露、すなわち、胎内にいる胎児に母親が摂取する化学物質が移行し、出生後の子どもの発育・発達に及ぼす影響を明らかにすることです。社会の中に、環境中の化学物質に対する漠然とした不安があると思います。10数年前に、環境ホルモンの健康影響が大きな問題になりました。また、魚貝類中のメチル水銀の胎児期曝露が心配されたこともあります。エコチル調査は、胎児への曝露の影響を科学的に解明することで、そういう漠然とした不安に対し答えを出すのが目的ともいえます。

大塚― 胎児期への母親の影響が大きく、今お話しがあった、魚貝類の摂取のような食習慣・食文化がかかわるとなると、日本人に特有の環境化学物質の影響があるとお考えなのでしょうか。

佐藤理事― 魚貝類のメチル水銀の話をしましたが、日本人の食事は世界的にみて魚貝類への依存が高いのはまちがいありません。魚貝類は、良質なタンパク源であり、健康に良い不飽和脂肪酸などの栄養素を多く含みます。一方で、魚貝類の体内で化学物質が生物濃縮することも事実です。メチル水銀だけでなく、PCBやダイオキシン類、あるいはまだ十分に研究が進んでいないPOPs類(残留性有機汚染物質)などの影響もあるでしょう。現在の日本の環境をみると、大気も水もきれいになり、化学物質の曝露源として重要なのは食べ物だろうと考えています。食べ物は国によって大きく異なりますので、日本で環境汚染物質の影響をていねいに調査することは大きな意義があります。

大塚― エコチル調査の大きな特徴は、10万組の母子を対象に13年間フォローすることですが、国際的にこのような調査は行われてきたのでしょうか。

佐藤理事― 一番有名なのは、デンマークのフェロー諸島で、住民が多く摂取する歯クジラに含まれるメチル水銀の影響を調べようと1980年代終盤にはじまった調査で、調査対象者は現在20歳くらいになっています。そのほか、セイシェル共和国の調査もあります。ノルウェーやアメリカでもエコチル調査に類似の調査が行われているのですが、対象者数、フォローする期間、対象化学物質の種類数からみて、エコチル調査が最も充実したプログラムといえます。


胎児は弱いうえに感受性が高いために曝露の影響が残りやすい

大塚― 日本はもちろん、国際的にもエコチル調査が重要な意味をもつことはよくわかりました。改めて、胎児に焦点をあてる意義について、乳児や幼児を対象にする場合との違いも含め、ご説明いただけますでしょうか。

【図1】エコチル調査の目ざすもの
【図1】エコチル調査の目ざすもの ※拡大図はこちら

佐藤理事― 胎児は、1つの受精卵からはじまって60兆を超える細胞に分裂します。その発生の過程で、いろいろな弱い部分があると考えられます。たとえば、神経系は胎児の発育後期に形成されますが、そのときに化学物質に曝露された影響が、発育・発達の過程で行動異常などの形で現れてくる可能性があります。言い換えると、胎児は弱いうえに感受性が高いために曝露の影響が残りやすいのです。もちろん、乳児期に母乳を介しての曝露も重要で、エコチル調査ではこの影響も明らかにしようと考えています。

大塚― 化学物質の影響として注目される食べ物について、多くの方々が心配するのは、どのような食物摂取パターンあるいは食習慣が問題なのかだと思います。そのような心配にも答えるプログラムなのでしょうか。

佐藤理事― エコチル調査では、具体的にどのような食生活が良いか悪いかまでは考えていません。それぞれの化学物質が、影響を及ぼすか及ぼさないか、及ぼす場合には摂取量と影響がどのような関係になっているかを明らかにする計画です。しかし一方で、エコチル調査で食品の摂取頻度を把握しますので、それぞれの環境汚染物質あるいは化学物質の食品中の含有量のデータベースと合わせれば、食生活パターンとも関連づけることができるでしょう。
 エコチル調査では、個人情報を消去した形のデータを、エコチル調査に参加しない研究者にも公開しますので、このテーマでしたら栄養学の専門家に解析してもらえることを期待しています。

大塚― 主たる対象の化学物質ですが、エコチル調査で分析しようとしているのはどのくらいの種類になるのでしょうか。

佐藤理事― 水銀や鉛などの重金属類、POPs類、農薬などの多くの化学物質を対象にするのですが、最終的な数はまだ決定していません。それにはいろいろな理由があります。まず、気になる化学物質は多くあるものの、化学物質の濃度の分析に用いる試料は、たとえばお母さん方の血液や臍帯血ですから、分析につかえる量に限りがあることです。もうひとつは、たとえばダイオキシンとPCBは一方が高ければ他方も高いという関係なので、どちらかを測ればすむかもしれません。もちろん、予算のことも考えなくてはなりません。

大塚― 出生してから、乳児期・幼児期の段階を経てフォローする13年という期間を設定されたのは、どのような考えに基づいておられるのでしょうか。

佐藤理事― 子どもが生まれてからの発達段階を考えると、乳児期、小学校に入るころまで、小学校を終えてから思春期がはじまる中学校に入るころまで、それから成熟して20歳代ぐらいまでに分けられると思います。人間の一生となると、次世代の出産をするまで、今ですと30歳前後でしょうか、そこまでやるべきとの考えもあるでしょう。いろいろな意見を踏まえて、まずは思春期を迎えるところまでとしたのですが、ほぼ思春期がはじまる13歳としたのは医学的な見地からも妥当と思います。

大塚― 人間の健康への影響、病気もそうでしょうが、その原因として昔から「遺伝と環境」とよく言われてきました。子どもが生まれてから10年あるいは15年経ってから、化学物質の影響がでることはどう考えればいいのでしょうか。


「走りながら考える」という方針


右:佐藤洋さん
左:一般財団法人環境情報センター理事長の大塚柳太郎(聞き手)

佐藤理事― 一番わかりやすいのは、ご存知のように、同じ汚染物質に同じような曝露を受けても、影響が出る人と出ない人がいることです。それは、遺伝的な背景が違うために代謝機構が違っている可能性が考えられます。エコチル調査は、このような関係をはっきりさせる設計になっています。もう少し具体的に申し上げると、臍帯血を出産時に採取させていただき、DNAを含む分子生物学的な解析ができるようになっています。ただし、分子生物学的な解析は技術的な進歩が激しいものですから、具体的な分析内容などはもう少し経ってから決めることにしています。「走りながら考える」という方針です。

大塚― 少し話が変わるかもしれませんが、今までに3回のエコチャレンジャーのインタビューをしたところ、昨年3.11の東日本大震災のことが毎回話題になりました。エコチル調査は、基本的な枠組みがずっと前に決められたわけですが、大震災の影響は考慮されるのでしょうか。

佐藤理事― エコチル調査は、化学物質の影響を把握することが最大の目的ですが、健康にかかわる要因を幅広く考慮していますので、化学物質以外の要因とも関連づけられる可能性はあります。宮城県と福島県の参加者を対象に、震災の影響、その後の生活上での困難さやストレスの影響、あるいは放射線被曝の影響も把握できるかもしれません。ストレスについてのアンケートはエコチルの調査項目にはいっていますし、放射線の被曝量はエコチル調査ではできませんが、福島県による調査結果を利用できる可能性があると思います。
 しかし、大きな問題が2つあります。第1に、放射線に被曝されたときの状況を捉えるのがむずかしく、何が低濃度放射線被曝の影響かを特定すること自体もむずかしのです。第2に、エコチル調査に参加される方の問題があります。宮城県では、被災地の石巻市や気仙沼市で応募が再開され順調に進んでいますが、福島県の避難地域では、10数人の方が登録された段階で地震が起き、それ以降はリクルート業務ができない状態がつづいています。

大塚― 被曝にかかわる充分な情報を得るのは大変なことかもしれません。しかし、大震災の影響をできる限り明らかにすることは科学者の責務と思いますので、よろしくお願いいたします。

佐藤理事― はい。その可能性についていろいろな面から検討している段階です。


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