一般財団法人 環境イノベーション情報機構

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エコチャレンジャー 環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

No.019

Issued: 2013.07.10

NPO法人国際自然大学校・佐藤初雄理事長に聞く、社会問題を解決する“自然学校”の使命

佐藤初雄(さとうはつお)さん

実施日時:平成25年6月19日(水)14:00〜14:30
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎
ゲスト:佐藤初雄(さとうはつお)さん

  • NPO法人国際自然大学校理事長。
  • 79年財団法人農村文化協会栂池センター勤務、83年国際自然大学校設立。
  • NPO法人自然体験活動推進協議会代表理事、NPO法人神奈川シニア自然大学校理事長、日本野外教育学会理事などを兼務。環境省・文部科学省・農林水産省の各種研究会委員を歴任。著書『社会問題を解決する 自然学校の使命』(みくに出版)
目次
川遊びやハイキングをする中で子どもたちが変化していくのを見て、大学で学ぶのとは違うものを感じました
僕自身は、もともと「冒険学校」に関心がありました
子どもたちの外遊びの機会が減り、いろいろな歪みが生まれて社会問題化していました
われわれの校舎は、自然の中ということです
コミュニケーションとチームワークは、子どもだけでなく大人にも必要なのです
一見できそうもないことをやりとげることで、新たに挑戦する意欲を高めるのです
問題行動をする子、不登校の子、知的障害をもつ子をキャンプにつれていくと、すごく変わることがよくあります
自然学校などの存在をまず知っていただき、実際に見ていただきたい

川遊びやハイキングをする中で子どもたちが変化していくのを見て、大学で学ぶのとは違うものを感じました

大塚理事長(以下、大塚)― 本日は、EICネットのエコチャレンジャーにお出ましいただき、ありがとうございます。佐藤さんは、NPO法人国際自然大学校理事長として、自然体験活動をはじめ実践的な環境教育・自然教育の分野で活躍されておられます。本日は、自然体験活動を通じた環境教育の歴史や現状、さらには将来展望について伺いたいと思います。よろしくお願いいたします。
早速ですが、佐藤さんが国際自然大学校を設立されたきっかけや、当時の状況などをお話しいただけますか。

佐藤さん― 私は、教員になろうと教員養成コースのある日本体育大学に入り、そこで「野外教育」という授業に出合ったのです。授業と野外実習がありました。1年生で水泳実習、2年生でキャンプ実習、3年生でスキー実習、4年生でスケート実習が必修でした。野外教育という分野で、技術の習得だけでなく、チームワークとかコミュニケーションについて学ぶことに、新鮮さと魅力を感じました。学生時代に、子どもたちの夏休みのキャンプのリーダーをした時も、参加した子どもたちがすごく変化するのを実感したのを覚えています。

大塚― キャンプのリーダーは、大学の野外教育の授業とは別になさったのですか。

佐藤さん― はい。民間の企画で、リーダーを募集していたので応募したのです。キャンプは民宿を借りるもの、テントを立てるものなどさまざまでしたが、川遊びやハイキングをする中で子どもたちが変化していくのを見て、大学で学ぶのとは違うものを感じました。まさに野外教育だろうと思い、大学2年生の時、野外教育活動研究会というサークルを立ち上げたのです。「野外教育」の授業で習ったことを、より実践的にするとか、指導法に結びつけることを勉強しました。その時、学校の先生になるよりも、こういう教育を専門的にしたいと考えるようになったのです。卒業後4年たった26歳の時、大学時代の同級生と国際自然大学校を立ち上げたのです。

大塚― サークルでの実践が、設立に結びついたということでしょうか。

僕自身は、もともと「冒険学校」に関心がありました

佐藤さん― そうですね。学生の時、一緒に立ち上げた同級生と、将来的にこういう組織を創り、その活動で生活していけたらいいな、とよく話しました。
僕自身は、もともと「冒険学校」に関心がありました。世界中に、アウトワード・バウンド・スクール(OBS)【1】という冒険学校があります。大学の卒業時に、今で言えば卒業旅行として、国際自然大学校を一緒に立ち上げた同級生ともう1人の3人で、イギリスのOBSを体験しました。帰る頃に、財団法人農村文化協会が日本初の冒険学校を長野県の栂池高原に開設し、私はインストラクターとして就職しました。

大塚― 卒業と同時だったのですね。

佐藤さん― そうです。残念ながら、栂池でのOBSは、年に1回くらいのコースしか開くことができず、私は2年ほどで辞め、1982年にアメリカに渡りました。留学でなく遊学ですね。約100日間の冒険学校のインストラクター養成コースに参加し、その後、23日間の夏休みのコースにアシスタントインストラクターとしてかかわりました。さらに、YMCAのキャンプ場とテキサス州の野外教育センターに約1ヶ月滞在しました。
日本に戻った翌年、2人で国際自然大学校を立ち上げたのです。

大塚― アメリカのコースで一緒だったのは、アメリカ人だけだったのですか。

佐藤さん― そうです。日本人は私だけでした。

大塚― アメリカ人と日本人とでは、自然との付き合い方がずいぶん違うと思いますが、いかがでしたか。

佐藤さん― 日本とアメリカでは自然のスケールが違いますし、また国民性の違いもあります。ただ、教育手法というか、指導の仕方はすごく勉強になりました。もちろん、アメリカのシステムそのままでは通用しませんから、国際自然大学校では日本に合うようアレンジをしました。

子どもたちの外遊びの機会が減り、いろいろな歪みが生まれて社会問題化していました

マウンテンバイクで駆け抜ける!風を切って走るのは気持ちいいね。

編笠岳山頂!みんな素敵な笑顔です。

「フ〜ッ!フ〜ッ!」一生懸命ふいて、火を大きくしなきゃ!

大塚― 1983年に国際自然大学校を立ち上げられた頃の話をお願いします。

佐藤さん― 当時、子どもたちの外遊びの機会が減り、そのことによるいろいろな歪みが生まれ、社会問題化していました。私たちは、遊びの場を提供する活動を、ボランティアでなくお金をいただいて行おうとしたのですが、理解していただくには少し時間がかかりました。設立当時─今でもつづいているとも言えますが─、事業化することに苦労しました。

大塚― いろいろな考え方があるでしょうが、佐藤さんが言われたように、ボランティアでなく、仕事として取り組むのが大事だと思います。ところで、その頃の具体的な活動をご紹介ください。

佐藤さん― 私のアメリカでの経験では、サマーキャンプですと夏休みに1ヶ月か2ヶ月、最短でも1週間くらいかけて行われます。日本では、夏休み期間でも2泊3日とか3泊4日しかできないのです。そのため、夏休み以外にも分散させ、毎月1回、土曜・日曜をつかう「通年コース」を作りました。川や海に行くこと、ハイキングやウォーキングだけでなく、5月には田植え、10月には稲刈りもしました。ウォーキングでは、30キロメートルまでの幾つかのコースを用意し、子どもの年齢に応じ夜通し歩くのです。このような「通年コース」を現在もやっています。

大塚― どのくらいの子どもたちが参加したのですか。

佐藤さん― 最初は4人か5人、それが30人、40人と増えました。けれども、月に1回ですから限られています。そこで、企画そのものを自治体や企業に引き受けてもらおうと考えました。私たちと、自治体あるいは企業が企画の実施を分担するのです。

大塚― いろいろとご苦労されたのがよくわかります。対象は主に小学生ですか。

佐藤さん― そうです、小学校の3年生から6年生が中心です。自治体が主催した企画には、中学生を対象にしたものもあります。1984年に川崎市が企画した3泊4日の自然教室、今でいう林間学校は、市のすべての中学校で行うことになりました。私たちが委託を受け、ハイキングや飯ごう炊飯の指導のために、スタッフをクラスに1人ずつ派遣しました。私たちにとっては、平日の企画が魅力でした。

大塚― 今お話があった川崎市の場合、子どもの自然とのふれあいが希薄になったことが背景にあったのでしょうか。

佐藤さん― そうだと思います。1984年に、当時の文部省が自然教室推進事業として、全国の自治体に、学校における林間学校や自然教育を充実するよう通達を出しています。

大塚― 佐藤さんたちの動きがあったから、世の中が動いたのでしょう。

佐藤さん― たまたまタイミングが合ったのだと思います。「先見の明があるね」とよく言われましたが、私が卒業した直後に、たまたま国の自然教室推進事業がはじまったのだと思っています。

われわれの校舎は、自然の中ということです

大塚― 現在は、どのような体制で事業を展開されているのですか。

佐藤さん― 今はNPO法人になっています。職員が約50人、パートさんが約10人、全部で60人くらいで仕事をしています。東京と日光に拠点施設をおき、山梨県の日野春、沖縄、横浜、そして今年4月から埼玉と福岡にも拠点をおいています。

大塚― スクーリングはどのように実施されているのですか。

佐藤さん― 日光と日野春には、キャンプ場や宿泊施設があり、冒険教育をしています。日野春には、一見するとフィールドアスレチックのような施設もあります。ほかのところは、事務所があって職員がいるだけです。われわれの校舎は、自然の中ということです。
東京の場合ですと、たとえば高尾山や多摩川、あるいは海に行くために、新宿に朝に集合し夕方の5時ころに戻って解散するのがふつうです。日野春に行く時は、新宿に集合して電車でキャンプ場に直行し、2泊3日か3泊4日して戻ってきます。

大塚― 活動の中に田植えなどもあり驚いたのですが、職員の方がすべての活動を受けもつのでしょうか。

佐藤さん― それぞれの活動に、職員が1人から3人つき、10人くらいの学生のボランティアにかかわってもらっています。田植えや稲刈りは農家の方に教えていただきますが、職員はいろいろな経験をもち、山登り、川遊び、スキーなどの基本的な技術を学んでおり、学生さんたちに指導法も伝えています。学生さんには、救急法などの安全管理についても勉強してもらっています。

コミュニケーションとチームワークは、子どもだけでなく大人にも必要なのです

大塚― ところで、貴大学校のホームページを拝見すると、「子どものため」「親子のため」「大人のため」の自然体験活動と書かれていますね。

佐藤さん― 子どもの自然体験活動を皮切りに事業をはじめましたし、今も子どもが主たる対象です。ただ、事業を進めていくうちに、企業の社員研修の中でも私たちと同じようなことを求めていることに気づきました。企業に勤めている方々も、自然の中での体験が少ないのですよ。自然の中では、皆が対等に協力し合わなければならない状況が生まれます。コミュニケーションとチームワークは、子どもだけでなく大人にも必要なのです。
自然の中では、ふだんの学校や家庭では出会わない場面が多く、教育的な効果が高くなると思います。最も磨かれるのが、チームワークであったり、コミュニケーションであったり、自然の中でこそ発揮されるチャレンジ精神であったりするのです。言葉だけでなく、自分の体験の中で得られることも大きな教育効果につながるのです。

大塚― 子ども向け以外に、親子向けの企画もなさっているのですか。

佐藤さん― 子どもに参加してもらうには、親に理解してもらう必要があります。ところが、今の多くの親はご自身が自然体験をあまりもっていないのです。ですから、まずは親子で一緒にバーベキューをするなど、楽しみながらコミュニケーションを促進してもらう機会として、親子のプログラムも行っています。ただ、親がくると子どもが親を意識するし、親も子どもを意識し、場合によっては子どもがすることを止めようとすることさえあるので、子どもだけのスクーリングを原則にしています。

一見できそうもないことをやりとげることで、新たに挑戦する意欲を高めるのです

草をかき分け、みんなで進みます。さて、今日は何をして遊ぼうか?

水かけごっこも本格的!夏の暑さも吹き飛びます。

大塚― 多くの子どもたちを相手にさまざまな活動をなさってこられ、どのようなことが印象に残っていますか。

佐藤さん― よく報告を受けるのは、スクールから帰って、いろいろなことに挑戦する意欲が高まったということです。そのきっかけになるのは、今まで経験したことのない、たとえば川の沢登りのように一見できそうもないことをやりとげることです。その結果が、学業、部活、あるいは稽古事に新たに挑戦する意欲を高めるのです。
このように、自然体験型の環境教育が私たちの原点ですが、体験の中から自然を守りたいという気持も生まれますし、自分が自然の一部だと認識することにつながるのだろうと思っています。

大塚― 貴大学校の名前に「国際」が入っていることについて、佐藤さんの思いをお聞かせ下さい。

佐藤さん― 自然体験は、ともかく体験して、ものを考えることですから、海外を経験すると、日本の良さも悪さもずっとよくわかるでしょう。私の経験からも、自然体験型の環境教育に国境はないと思います。私たちも周年ごとに、子どもたちや職員と一緒に、10周年にモンゴル、20周年にアメリカのヨセミテ国立公園、25周年にオーストラリアのケアンズに行きました。海外の自然を体験し、日本と比較する中から、「国際」が意識されてくると思っています。

大塚― 子どもは、外国の自然にも順応しやすいのでしょうね。

佐藤さん― そうですね。自然の中に入ってもそうですし、海外に行ってもそうですね。大人のように、世間体を考えることもないし、恥じらいもないですから。言葉が通じなくてもコミュニケーションしていきますね。

問題行動をする子、不登校の子、知的障害をもつ子をキャンプにつれていくと、すごく変わることがよくあります

大塚― ところで、子どもの意志と関係なく、親がスクーリングに申し込んでこられることも多いのですか。

佐藤さん― ほとんどがそうです。当然ですが、自分の子どもの教育のために申し込まれる方が多くおられます。しかし、言い方はむずかしいのですが、問題行動をする子どもとか、不登校の子どもとか、知的障害をもつ子どもがくることもよくあります。とくに知的障害をもつ子どもは自然体験をしにくいので、そのような子どもたち向けのコースを作っています。彼らをキャンプにつれていくと、すごく変わることがよくあります。それを見ている親がびっくりするわけです。このような事業も、私たちの1つの使命と思っています。

大塚― 知的障害をおもちのお子さんの場合、マンツーマンで対応するのですか。

佐藤さん― 福祉系の学生さんがリーダーに付いてくれます。自然体験にかかわることは学生さんにとって刺激的ですし、彼らが施設などで将来働く時にも役立つでしょうし、一所懸命してくれます。

大塚― やりがいのある仕事ですね。

佐藤さん― そうですね。ただ、経済的な負担をすべて親にお願いせざるを得ないことが気になっています。このような子どもたちへの資金援助や、ボランテティアとして手伝ってくれる人が増えることを願っています。

大塚― 自然体験あるいは自然教育の将来について、佐藤さんはどうお考えでしょうか。

佐藤さん― ご存知かもしれませんが、八ヶ岳の麓に俳優の柳生博さんが住んでおられます。彼とは20年もお付き合いさせていただいており、話す機会も多いのですが、僕らがしているような仕事がなくなるのが理想だと、柳生さんもよく言われます。つまり、僕らのような組織がなくても、子どもが、大人もですが、自然の中で過ごし、自然を大事にするのが理想なのです。もっとも、柳生さんは同時に、これからはもっと大事な仕事になるとも言われています。

大塚― 本来はなくなるのが理想というのはわかりますし、現実にはますます必要というのもよくわかります。

自然学校などの存在をまず知っていただき、実際に見ていただきたい

佐藤さん― われわれも一所懸命頑張っていますが、自然体験にかんする社会的な認知がまだまだ不足していると思っています。この分野で働く人たちの基盤も十分でなく、底上げをしたいと考えているところです。
私たちが国会議員に働きかけ、自然体験活動推進法(仮称)を作る計画を進めています。超党派の自然体験活動推進議員連盟ができており、法案の骨子もできあがっています。

大塚― 推進法ができ、幅広い活動を展開されることを期待していますが、その第一のターゲットは学校ということでしょうか。

佐藤さん― 学校は義務教育ですから、誰もが経験するという意味で、最も大事なターゲットになるのはまちがいありません。ところが、学校が自然体験を進めるにも、多くのことがかかわります。1つの例をあげると、生徒たちが200人規模で泊まれるような施設が、現在は減ってきているのです。国なり自治体にしっかりサポートしてほしいと思います。その上で、学校教育の一環として自然体験をするのが理想的で、学校の先生ができない部分をわれわれのような団体がお手伝いするのがいいと考えています。もう1つは、企業などにもわれわれがしている活動のことを知っていただきたいのです。もちろん、われわれももっと広く社会に働きかけなくてはと感じています。

大塚― 最後になりますが、EICネットの読者の方々に、佐藤さんからのメッセージをいただきたいと思います。

佐藤さん― 今はホームページなどで多くの情報に接することができるようになっていますので、自然学校などの存在をまず知っていただきたいと思います。そして、できることなら、どんなことが行われているかを実際に見ていただきたいと思います。現在の社会の中でどのような活動が必要かを、多くの方々、あるいは企業の立場からも、お考えいただきたいのです。

大塚― お話を伺い、ご苦労されていることがよくわかりました。佐藤さんには、ますますご活躍いただきたいと思います。本日はありがとうございました。

NPO法人国際自然大学校理事長の佐藤初雄さん(右)と、一般財団法人環境情報センター理事長の大塚柳太郎(左)。


注釈

【1】アウトワード・バウンド・スクール(OBS)
「アウトワード・バウンド(Outward Bound)」は、「出港準備ができた」を意味する海事用語。ドイツの教育者クルン・ハートが1941年にイギリスのウェールズで創った短期スクールの名称に初めて用いられた。その後、野外活動、サバイバル訓練、各種スポーツを対象に、相互信頼とチームワークを培う社会教育施設として世界各地に広がった。
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