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環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

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エコチャレンジャー

環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

No.033

Issued: 2014.10.10

第34回 トヨタ自動車株式会社技術統括部・河合大洋担当部長に聞く、燃料電池自動車の可能性と開発の現状[1]

実施日時:平成26年9月10日(水)10:00〜
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎

燃料電池の中で自動車に向いているのは、薄い高分子膜で水素イオン(H)の移動で発電する「固体高分子型」というタイプ

河合 大洋(かわい たいよう)さん
河合 大洋(かわい たいよう)さん。
1978年、トヨタ自動車入社
エンジン先行開発、欧州駐在、基礎・先行開発企画業務を経て、2001年〜2012年FC開発の部長を務める。
その後、技術統括部 担当部長としてFCV市場導入の企画・渉外活動、他社との協力体制構築を担当し、現在に至る。

大塚理事長(以下、大塚)―  本日は、EICネットのエコチャレンジャーにお出ましいただきありがとうございます。河合さんは、トヨタ自動車株式会社の技術統括部担当部長として、燃料電池車の開発で多方面にわたり活躍されておられます。本年度中に販売を開始されますので、この機会に燃料電池車の仕組み、開発の歴史、そして現状と今後の展望などについてお伺いしたいと思います。宜しくお願いいたします。
 早速ですが、燃料電池とはどのようなものかからお教えください。

河合さん― 燃料電池にもいろいろな種類があり、主に5種類が研究開発されています(表1)。その中で自動車に向いているのは、薄い高分子膜で水素イオン(H)の移動で発電する「固体高分子型」というタイプです。
 図1に示すように、ラップのように薄い高分子電解質膜が、Hだけを通す性質をもっており、その両側に触媒を塗ると、片側では水素(H2)が触媒作用でHとe-(電子)に分かれて、e-は回路を回りHは膜を通過します。一方、反対側では触媒作用で酸素が分解し、Hとe-と酸素(O2)が合体し水(H2O)ができるという仕組みです。水素と酸素から電気と水をつくるので、水の電気分解の逆のイメージですね。
 電解質膜に触媒を塗ったMEA(膜・電極接合体)を、セパレータという板で挟んだものがセル(図1の「単セル」)と呼ばれます。1枚のセルで1ボルトくらい発電します。セルを積層したものを「スタック」といいます。

【表1】燃料電池の構造  

燃料電池の構造
 【図1】燃料電池の構造 ※拡大図はこちら

大塚― いくつくらいのセルをつかい、大きさはどのくらいになるのですか。

河合さん― セルはA4の紙くらいの大きさで、「スタック」は数百枚のセルを積層します。積層したものを1つの箱に入れて「FCスタック」と呼んでいます。ご承知のように、出力あるいはパワーはキロワット(kW)で表され、電圧と電流の積になります。電圧を上げてパワーを出そうと思えば、セルの枚数を増やせばいいのです。一方、電流を多く流したければセルの面積を広くすればいいのです。私どもはシステム全体の効率を考え、面積と枚数の最適なバランスで設計しています。

大塚― 車種によって変えることもあるのですか。

河合さん― セルの設計は結構複雑ですので、種類をあまり増やすのは得策ではありません。できれば、セルは一種類にして積層枚数を変える事で、小型車から大型車までカバーしたいと思っています。

バラード社が、燃料電池を車など民生用に使おうと考えた発想は素晴らしいものでした

大塚― 燃料電池の歴史についても教えてください。

河合さん― 燃料電池の歴史は古く、1839年にイギリスのグローブ卿が発電の原理を実証したのですが、その時の出力は小さく、あまり見向きされませんでした。その後、1961年に、NASA(アメリカ航空宇宙局)が宇宙船用に開発を始めました。宇宙船の中で使う電気を燃料電池で発電し、水素と酸素からできる水を飲料水に使おうとしたのです。ほかに潜水艦の電源など、欧米諸国を中心に軍事用と宇宙用に開発が進みました。
 自動車を含めた民生用の開発として注目されるのは、1979年に設立されたカナダのバラード社が始めた、固体高分子型の燃料電池を使うチャレンジングな試みです。バラード社が、燃料電池を車など民生用に使おうと考えた発想は素晴らしいものでした。

大塚― チャレンジは成功したのですか。

河合さん― もちろん簡単ではなかったのですがダイムラー・ベンツ社、フォード社がバラード社の技術に注目し、自らも出資してバラード社の燃料電池を車に応用しようと考えたのです。1980年代後半のことでした。これが車への応用の最初で、このときから開発競争が世界中で始まったのです。

大塚― トヨタをはじめ日本ではどうでしたか。

河合さん― 弊社は1992年から燃料電池の研究を始めました。それ以前から、日米欧などで研究に着手されていたメーカーもあったかと思いますが、1992年当時は、実験室の中で燃料電池を作動させるレベルで、車への応用はまだまだという段階でした。

大塚― 話が逆になったかもしれませんが、燃料電池の登場に深くかかわる自動車の歴史を振り返っていただけますでしょうか。

河合さん― 最初につくられたのは蒸気自動車、ついで電気自動車です。その後、ガソリン自動車がベンツにより開発されたのです。1880年代のことです。ガソリン自動車が20世紀を席巻したのですが、いくつかの大きな理由がありました。第1は技術革新です。たとえば、エンジンをかけるのに手動でなく電気を用いるセルフスターターが実用化しました。第2に、フォード社が大量生産ラインをつくり、価格を4分の1くらいまで下げるのに成功したことです。そして、最大の理由は、幸運にも20世紀には安い石油が大量に供給されたのです。

大塚― ガソリン車全盛時代を迎えた理由がよく分かります。

自動車メーカーは、石油を大切に使いながら、石油でない新しいエネルギーを用いた車を開発、市場導入も進めようとしている

河合さん― 21世紀がなぜ「水素の時代」なのかをお話しする前に、20世紀後半の状況を整理しておきたいと思います。20世紀には石油が大量に安く供給されたのですが、21世紀になると翳りが出てきました。供給量と価格高騰への不安です。もう1つ重要になってきたのが、地球温暖化をもたらすCO2の排出量の増加ですね。昨今の暴風雨とか洪水などの気候変動も、大気中のCO2濃度の上昇によるところが大きいと言われています。この2つの理由から、自動車メーカーは、石油を大切に使いながら、石油に頼らない新しいエネルギーを活用した車の開発、市場導入も進めています。

大塚― 対象としているエネルギーをご紹介ください。

河合さん― バイオ燃料、電気、水素の3つが有力です。しかし、バイオ燃料については供給量が世界的にみて十分ではありません。ブラジルのように、サトウキビからバイオエタノールを大量につくれれば国内の供給はできますが、そのような国は限られています。その上、食料とのバッティングや気候の影響による収穫量の不安定さも危惧されます。それに対して、電気と水素には量的な問題はありません。しかし、体積あたりのエネルギー密度が小さく、車で運ぼうとすると航続距離が短いという大きな課題があります。たとえば、同じ体積で積めるエネルギーの量をガソリンと比較すると、電気はリチウムイオンバッテリーで約1/50、高圧水素も約1/7です。とても液体燃料にはかなわないのです。

大塚― この課題に自動車業界はどう対処してきたのですか。

河合さん― 出現した歴史が古い電気自動車については技術的な検討も早くから始まったのですが、ここでは、燃料電池車を念頭に、水素をどう貯めてどう運ぶかについてお話しします。
 1980年代には、現在のような、700気圧の高圧タンクをつくる技術はありませんでした。ダイムラー社は、メタノールを燃料として積んで、車の上でメタノールから改質して水素を取り出し、その水素で燃料電池を動かす技術開発に取り組みました。実際、この技術をつかった燃料電池車が1990年代につくられたのです。
 一方、1980-90年代はガソリン車の排気ガス規制が大きな問題になったときでした。バッテリーEVの課題を解決する候補として、1990年代に燃料電池に白羽の矢が立てられたのです。その後、車の中でメタノールを改質することと対比させ、水素を直接車に積むことができれば複雑な過程を避けられると注目されたのです。2000年以降は、水素を積む技術開発が世界的なコンセンサスになりました。私が燃料電池車開発チームのメンバーになった2001年は、ちょうどこのころでした。

大塚― 先ほどお話しいただいた体積エネルギー密度についてご説明ください。

河合さん― 水素をつかってガソリン車と同じ航続距離にするには、体積エネルギー密度が7分の1というハンディキャップを解消しなくてはなりません。そのために、タンクのサイズをガソリン車の約2倍にし、燃費効率をガソリン車の3〜4倍に高めるのです。原理はこのとおりですが、パワーを出す技術、耐久性を高める技術など、さまざまな技術革新が必要でした。大きなFCスタックでもパワーが出なかったり、パワーはあっても100時間程度運転したら壊れてしまうことさえあったのです。



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