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エコチャレンジャー

環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

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エコチャレンジャー

環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

目次
「酸性雨」よりも「越境大気汚染」の方がより本質を捉えた言葉として定着してきている
PM2.5のようなエアロゾルは、中国ではほぼ中和されているものの、長距離輸送され日本に到達するまでに酸性化が進む
二酸化硫黄は反応が比較的遅いため亜硫酸ガスとして長距離輸送され、途中でだんだんと酸化され硫酸に変わっていた
PM2.5は大部分が人為起源であり、排出規制をすることが重要
ライダーは、電波の代わりにレーザー光を発射し、遠くにある微小粒子などに衝突して反射あるいは散乱され戻ってくる光を望遠鏡で受け測定
【1】エアロゾル
 気体中に浮遊する微小な液体または固体の粒子。
【2】華中(かちゅう)
 中国の揚子江と黄河に挟まれる地域。
【3】珪肺(けいはい)
 鉱山には大量の粉じん粒子(粒径が0.1〜150μm)が浮遊しており、小さな粒子(5μm未満)は吸入性粉じんを引き起こすことがある。これらの粒子が呼吸器官から吸入されて肺に沈着すると、じん肺とよばれる状態を引き起こすが、シリカの吸入・沈着の結果として発生するじん肺が珪肺とよばれる。
【4】杉本伸夫(すぎもとのぶお)
 独立行政法人国立環境研究所の研究者で、環境計測技術分野を専門とし、光アクティブ遠隔計測手法による大気観測などに取組んでいる。

No.033

Issued: 2015.03.20

第39回 東京農工大学大学院・畠山史郎教授に聞く、PM2.5をはじめとする越境大気汚染の生成過程と対処方法[1]

実施日時:平成27年2月20日(金)11:00〜
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎

「酸性雨」よりも「越境大気汚染」の方がより本質を捉えた言葉として定着してきている

畠山史郎(はたけやま・しろう)さん
畠山史郎(はたけやま・しろう)さん
 1951年東京都生まれ。東京大学大学院理学系研究科化学専門課程博士課程修了。理学博士。国立公害研究所大気環境部研究員、同主任研究員、国立環境研究所大気反応研究室長、アジア広域大気研究室長などを経て、現在、東京農工大学大学院農学研究院教授。2006年〜2008年及び2012年〜2014年日本エアロゾル学会会長。大気化学と越境大気汚染が専門。平成19年ハーゲン・シュミット賞受賞(「Atmospheric Environment」誌)、平成23年大気環境学会学術賞受賞、平成24年環境賞優良賞受賞(主催・日立環境財団)。著書に『酸性雨 誰が森林を痛めているか』日本評論社(2003年)、『越境する大気汚染−中国のPM2.5 ショック』PHP新書(2014年)、『みんなが知りたいPM2.5の疑問25』三浦和彦との共編著、成山堂(2014年)などがある。

大塚理事長(以下、大塚)― 本日は、エコチャレンジャーにお出ましいただきありがとうございます。畠山さんは大気化学の研究者として、長年にわたり大気汚染、とくに酸性雨、光化学スモッグ、PM2.5などの原因究明に取組み、中国と日本の上空で航空機による観測も行ってこられました。本日は、春先から大きな問題になるPM2.5をはじめとする越境大気汚染について、私たちがどのように理解し、どのように対処したらいいかを中心にお伺いしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
PM2.5が、最近、とくに一昨年そして昨年と大きな問題になりました。黄砂も関心の的ですし、以前からの硫黄酸化物や窒素酸化物による光化学スモッグや酸性雨も気になります。最初に、日本における越境大気汚染について、その歴史からご紹介いただけますでしょうか。

畠山さん― 最初に注目された越境大気汚染は酸性雨でした。地球温暖化やオゾン層の破壊とならぶ地球環境問題として取り上げられたのです。実は、日本海側で冬に降る雪に多くの酸性物質が含まれていることは、北陸の中学校の生徒も自由研究で明らかにしており、その起源がアジア大陸ではないかと考えられていたのです。私たちは、科学的な根拠を得ようと1990年代初めに日本海で航空機観測を開始しました。その後、中国と共同し中国本土の上空でも航空機観測を行ってきました。観測の結果、酸性雨というのは大気中で生成した酸性物質が雨に溶けて降ることで、私たちは、大規模な大気汚染現象の一面を捉えた言葉であると主張してきました。最近では、酸性雨よりも越境大気汚染がより本質を捉えた言葉として定着してきています。


PM2.5のようなエアロゾルは、中国ではほぼ中和されているものの、長距離輸送され日本に到達するまでに酸性化が進む

大気中の粒子で、粒径が2.5マイクロメートル(μm)以下のものがPM2.5とよばれる(1マイクロメートルは1000分の1ミリメートル)
大気中の粒子で、粒径が2.5マイクロメートル(μm)以下のものがPM2.5とよばれる(1マイクロメートルは1000分の1ミリメートル) ※拡大図はこちら

大塚― 越境大気汚染では、汚染物質の「発生」、ついで「変質」と「輸送」、そして「沈着」という過程があろうと思います。まず、PM2.5についてご説明ください。

畠山さん― PM2.5の発生に最もかかわっているのは、中国と言わざるを得ません。最近、重要な原因物質の1つの二酸化硫黄(SO2)の放出量は減少傾向にあるようですが、もう1つの重要な原因物質の窒素酸化物(NOx)の放出量は依然増えつづけています。これらの物質は、工場や火力発電所における燃焼により、あるいは自動車の排ガスとして放出され、大気中で反応することにより一部が細かい粒子状物質になります。粒径が2.5マイクロメートル(μm; 1000分の1ミリメートルで、ミクロンともよばれる)以下のものがPM2.5です。
1月下旬、ワークショップに出席するため北京を訪れましたが、人びとは今年はだいぶましだと、街中でもあまりマスクをしていませんでした。とはいえ、PM2.5の濃度は200〜300μg/m3でしたから、日本だったら大騒ぎだったでしょう。
PM2.5のようなエアロゾル【1】は、中国ではほぼ中和されています。ところが、長距離輸送され日本に到達するまでに酸性化が進みます。とくに黄砂が飛んだり、低気圧や移動性高気圧が西から東に移動するとき、大規模な汚染が起きやすくなります。気象庁が黄砂情報を出すときには、その前に微小粒子が飛んできていますので、健康への影響も心配されます。


二酸化硫黄は反応が比較的遅いため亜硫酸ガスとして長距離輸送され、途中でだんだんと酸化され硫酸に変わっていた

大塚― 長距離輸送の際に起きる酸性化について、もう少しご説明ください。

畠山さん― 中国で使われている石炭や自動車のガソリンには、硫黄分が多く含まれています。燃焼とともに二酸化硫黄や窒素酸化物が大気中に排出され、酸化反応を受け硫酸あるいは硝酸になるわけです。中国では石炭を多く使うため、二酸化硫黄が多く排出されることはよく知られていますが、実はアンモニアも大量に放出されています。とくに華中【2】や東北部では農業と家畜飼育が盛んで、窒素を含む化学肥料が大量に使われる上に、家畜のし尿からもアンモニアが大量に出るからです。
私たちが上海沖の海上で採取した大気を測ったところ、アンモニアが多いために酸性ではなくアルカリ性でした。観測する前までは、中国から出ている大気汚染物質が日本の酸性雨の原因と予測していたのに、測ってみたら中和されていたのです。

インタビューで取り上げられた主な中国と日本の地名
インタビューで取り上げられた主な中国と日本の地名
※拡大図はこちら

中国・大連周辺で観測されたエアロゾル中のイオン成分の濃度(左の2つの棒グラフのセットが大連―丹東間、右の2つの棒グラフのセットが大連―青島間での観測結果)
中国・大連周辺で観測されたエアロゾル中のイオン成分の濃度(左の2つの棒グラフのセットが大連―丹東間、右の2つの棒グラフのセットが大連―青島間での観測結果) ※拡大図はこちら


大塚― 驚かれたでしょうね。

畠山さん― 本当に驚きました。その後に分かったことも含めると、二酸化硫黄は反応が比較的遅いですから、中国上空では酸化されきらず、二酸化硫黄の気体、すなわち亜硫酸ガスとして長距離輸送され、途中でだんだんと酸化され硫酸に変わっていたのです。

大塚― 上海より西、重慶などの大陸内部からも硫黄分が排出されているのではないでしょうか。

畠山さん― そうですね。重慶周辺も大きな発生源ですが、北京から上海にかけての東側の海沿いに非常に大きな工業地帯が連続するように立地しています。私たちが上海周辺から内陸の重慶周辺まで観測したところ、海の近くではアンモニアによって中和されているのに対し、重慶や成都のあたりでは中和が進まず酸性なのです。内陸部で酸性なのはアンモニアの発生量が少ないためです。一方、上海より東の海上では、海由来のアンモニアが少ないので、二酸化硫黄(亜硫酸ガス)が酸化され徐々に硫酸に変わり、日本に着くころには酸性になるのです。

PM2.5は大部分が人為起源であり、排出規制をすることが重要

沖縄県・辺戸岬で観察されたエアロゾルの粒径別濃度
沖縄県・辺戸岬で観察されたエアロゾルの粒径別濃度
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大塚― 非常にダイナミックですね。中国との共同研究については改めてお伺いするとして、PM2.5の健康影響についてご説明ください。

畠山さん― PM2.5が、循環器や呼吸器に影響していることは、多くの学術論文などで示されています。粒子状物質の呼吸器への影響として、昔から鉱山作業者がかかる珪肺【3】などが知られていたのですが、PM2.5は粒径がもっと小さく肺の奥まで入ります。微小な粒子には、農薬として用いられる硫安や硝安など水溶性の物質が多く、肺で血液に溶けることも関係していると思います。

大塚― PM2.5の中身と、粒子が小さいことの両方が関係しているのですね。

畠山さん― そうです。粒子であっても健康に問題ないものもあるわけです。私たちは、PM2.5の化学組成を知るために、沖縄県の辺戸岬や長崎県の福江島のように、大陸からの汚染物質を検出しやすいところで観測をつづけています。どちらの場所でも、小さい粒子の多くは人為的な汚染物質、とくに硫酸とアンモニアです。一方、大きい粒子は食塩、つまり海塩の粒子が中心です。このように、PM2.5は大部分が人為起源であり、排出規制をすることが重要なのです。

ライダーは、電波の代わりにレーザー光を発射し、遠くにある微小粒子などに衝突して反射あるいは散乱され戻ってくる光を望遠鏡で受け測定

黄砂飛来時の衛星写真。黄砂(黄土色)の前に、大気汚染性のエアロゾル(薄い白色)が来ている(濃い白色は雲を示す)。
黄砂飛来時の衛星写真。黄砂(黄土色)の前に、大気汚染性のエアロゾル(薄い白色)が来ている(濃い白色は雲を示す)。 ※拡大図はこちら

大塚― ついで、黄砂についてご説明ください。

畠山さん― 黄砂も、大気汚染物質を大規模に輸送する原因になります。黄砂自体が、呼吸器系や循環器系の病気あるいは花粉症を悪化させるとの報告もありますし、黄砂に含まれるさまざまな化学物質が、化学反応により大気汚染物質を変化させてもいます。
黄砂にはさまざまな監視がなされています。気象庁の黄砂情報は主に目視によっていますが、目にはっきり見えなくても、上空を通過する場合や、少量の場合もありますので、より的確な情報が必要です。現在では、ライダーとよばれるレーザー光を用いる遠隔計測によって、詳細なデータが得られるようになっています。

大塚― ライダーについて、もう少し詳しくお伺いできますか。

畠山さん― レーダーはよく知られていると思います。電波を発し、電波が物体に衝突し反射され戻ってくるところを測定するのです。ライダーは、初期にはレーザーレーダーともよばれたように、電波の代わりにレーザー光を発射し、遠くにある微小粒子などに衝突して反射あるいは散乱され戻ってくる光を望遠鏡で受け測定します。日本では、国立環境研究所の杉本伸夫さん【4】らが開発を進め、日本以外の多くのアジア諸国にも測定装置を置きライダーのネットワークをつくり、アジア地域の微小粒子の分布を明らかにしてきました。


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