一般財団法人 環境イノベーション情報機構

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エコチャレンジャー 環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

No.039

Issued: 2015.03.20

東京農工大学大学院・畠山史郎教授に聞く、PM2.5をはじめとする越境大気汚染の生成過程と対処方法

畠山史郎(はたけやま・しろう)さん

実施日時:平成27年2月20日(金)11:00〜
ゲスト:畠山史郎(はたけやま・しろう)さん
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎

  • 1951年東京都生まれ。東京大学大学院理学系研究科化学専門課程博士課程修了。理学博士。国立公害研究所大気環境部研究員、同主任研究員、国立環境研究所大気反応研究室長、アジア広域大気研究室長などを経て、現在、東京農工大学大学院農学研究院教授。2006年〜2008年及び2012年〜2014年日本エアロゾル学会会長。大気化学と越境大気汚染が専門。平成19年ハーゲン・シュミット賞受賞(「Atmospheric Environment」誌)、平成23年大気環境学会学術賞受賞、平成24年環境賞優良賞受賞(主催・日立環境財団)。著書に『酸性雨 誰が森林を痛めているか』日本評論社(2003年)、『越境する大気汚染−中国のPM2.5 ショック』PHP新書(2014年)、『みんなが知りたいPM2.5の疑問25』三浦和彦との共編著、成山堂(2014年)などがある。
目次
「酸性雨」よりも「越境大気汚染」の方がより本質を捉えた言葉として定着してきている
PM2.5のようなエアロゾルは、中国ではほぼ中和されているものの、長距離輸送され日本に到達するまでに酸性化が進む
二酸化硫黄は反応が比較的遅いため亜硫酸ガスとして長距離輸送され、途中でだんだんと酸化され硫酸に変わっていた
PM2.5は大部分が人為起源であり、排出規制をすることが重要
ライダーは、電波の代わりにレーザー光を発射し、遠くにある微小粒子などに衝突して反射あるいは散乱され戻ってくる光を望遠鏡で受け測定
1990年代の終わり頃、当時SEPAとよばれていた中国の「国家環境保護局」が中国の環境研究所と一緒に観測することを認めてくれた
環境の改善に必要な科学的なアプローチと政治的なアプローチの折り合いが重要
越境大気汚染は中国が大きな発生源だが、日本への影響は限定的で中国国民への影響がはるかに深刻

「酸性雨」よりも「越境大気汚染」の方がより本質を捉えた言葉として定着してきている

大塚理事長(以下、大塚)― 本日は、エコチャレンジャーにお出ましいただきありがとうございます。畠山さんは大気化学の研究者として、長年にわたり大気汚染、とくに酸性雨、光化学スモッグ、PM2.5などの原因究明に取組み、中国と日本の上空で航空機による観測も行ってこられました。本日は、春先から大きな問題になるPM2.5をはじめとする越境大気汚染について、私たちがどのように理解し、どのように対処したらいいかを中心にお伺いしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
PM2.5が、最近、とくに一昨年そして昨年と大きな問題になりました。黄砂も関心の的ですし、以前からの硫黄酸化物や窒素酸化物による光化学スモッグや酸性雨も気になります。最初に、日本における越境大気汚染について、その歴史からご紹介いただけますでしょうか。

畠山さん― 最初に注目された越境大気汚染は酸性雨でした。地球温暖化やオゾン層の破壊とならぶ地球環境問題として取り上げられたのです。実は、日本海側で冬に降る雪に多くの酸性物質が含まれていることは、北陸の中学校の生徒も自由研究で明らかにしており、その起源がアジア大陸ではないかと考えられていたのです。私たちは、科学的な根拠を得ようと1990年代初めに日本海で航空機観測を開始しました。その後、中国と共同し中国本土の上空でも航空機観測を行ってきました。観測の結果、酸性雨というのは大気中で生成した酸性物質が雨に溶けて降ることで、私たちは、大規模な大気汚染現象の一面を捉えた言葉であると主張してきました。最近では、酸性雨よりも越境大気汚染がより本質を捉えた言葉として定着してきています。


PM2.5のようなエアロゾルは、中国ではほぼ中和されているものの、長距離輸送され日本に到達するまでに酸性化が進む

大気中の粒子で、粒径が2.5マイクロメートル(µm)以下のものがPM2.5とよばれる(1マイクロメートルは1000分の1ミリメートル)
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大塚― 越境大気汚染では、汚染物質の「発生」、ついで「変質」と「輸送」、そして「沈着」という過程があろうと思います。まず、PM2.5についてご説明ください。

畠山さん― PM2.5の発生に最もかかわっているのは、中国と言わざるを得ません。最近、重要な原因物質の1つの二酸化硫黄(SO2)の放出量は減少傾向にあるようですが、もう1つの重要な原因物質の窒素酸化物(NOx)の放出量は依然増えつづけています。これらの物質は、工場や火力発電所における燃焼により、あるいは自動車の排ガスとして放出され、大気中で反応することにより一部が細かい粒子状物質になります。粒径が2.5マイクロメートル(μm; 1000分の1ミリメートルで、ミクロンともよばれる)以下のものがPM2.5です。
1月下旬、ワークショップに出席するため北京を訪れましたが、人びとは今年はだいぶましだと、街中でもあまりマスクをしていませんでした。とはいえ、PM2.5の濃度は200〜300μg/m3でしたから、日本だったら大騒ぎだったでしょう。
PM2.5のようなエアロゾル【1】は、中国ではほぼ中和されています。ところが、長距離輸送され日本に到達するまでに酸性化が進みます。とくに黄砂が飛んだり、低気圧や移動性高気圧が西から東に移動するとき、大規模な汚染が起きやすくなります。気象庁が黄砂情報を出すときには、その前に微小粒子が飛んできていますので、健康への影響も心配されます。


二酸化硫黄は反応が比較的遅いため亜硫酸ガスとして長距離輸送され、途中でだんだんと酸化され硫酸に変わっていた

大塚― 長距離輸送の際に起きる酸性化について、もう少しご説明ください。

畠山さん― 中国で使われている石炭や自動車のガソリンには、硫黄分が多く含まれています。燃焼とともに二酸化硫黄や窒素酸化物が大気中に排出され、酸化反応を受け硫酸あるいは硝酸になるわけです。中国では石炭を多く使うため、二酸化硫黄が多く排出されることはよく知られていますが、実はアンモニアも大量に放出されています。とくに華中【2】や東北部では農業と家畜飼育が盛んで、窒素を含む化学肥料が大量に使われる上に、家畜のし尿からもアンモニアが大量に出るからです。
私たちが上海沖の海上で採取した大気を測ったところ、アンモニアが多いために酸性ではなくアルカリ性でした。観測する前までは、中国から出ている大気汚染物質が日本の酸性雨の原因と予測していたのに、測ってみたら中和されていたのです。

インタビューで取り上げられた主な中国と日本の地名
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中国・大連周辺で観測されたエアロゾル中のイオン成分の濃度(左の2つの棒グラフのセットが大連―丹東間、右の2つの棒グラフのセットが大連―青島間での観測結果)
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大塚― 驚かれたでしょうね。

畠山さん― 本当に驚きました。その後に分かったことも含めると、二酸化硫黄は反応が比較的遅いですから、中国上空では酸化されきらず、二酸化硫黄の気体、すなわち亜硫酸ガスとして長距離輸送され、途中でだんだんと酸化され硫酸に変わっていたのです。

大塚― 上海より西、重慶などの大陸内部からも硫黄分が排出されているのではないでしょうか。

畠山さん― そうですね。重慶周辺も大きな発生源ですが、北京から上海にかけての東側の海沿いに非常に大きな工業地帯が連続するように立地しています。私たちが上海周辺から内陸の重慶周辺まで観測したところ、海の近くではアンモニアによって中和されているのに対し、重慶や成都のあたりでは中和が進まず酸性なのです。内陸部で酸性なのはアンモニアの発生量が少ないためです。一方、上海より東の海上では、海由来のアンモニアが少ないので、二酸化硫黄(亜硫酸ガス)が酸化され徐々に硫酸に変わり、日本に着くころには酸性になるのです。

PM2.5は大部分が人為起源であり、排出規制をすることが重要

沖縄県・辺戸岬で観察されたエアロゾルの粒径別濃度
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大塚― 非常にダイナミックですね。中国との共同研究については改めてお伺いするとして、PM2.5の健康影響についてご説明ください。

畠山さん― PM2.5が、循環器や呼吸器に影響していることは、多くの学術論文などで示されています。粒子状物質の呼吸器への影響として、昔から鉱山作業者がかかる珪肺【3】などが知られていたのですが、PM2.5は粒径がもっと小さく肺の奥まで入ります。微小な粒子には、農薬として用いられる硫安や硝安など水溶性の物質が多く、肺で血液に溶けることも関係していると思います。

大塚― PM2.5の中身と、粒子が小さいことの両方が関係しているのですね。

畠山さん― そうです。粒子であっても健康に問題ないものもあるわけです。私たちは、PM2.5の化学組成を知るために、沖縄県の辺戸岬や長崎県の福江島のように、大陸からの汚染物質を検出しやすいところで観測をつづけています。どちらの場所でも、小さい粒子の多くは人為的な汚染物質、とくに硫酸とアンモニアです。一方、大きい粒子は食塩、つまり海塩の粒子が中心です。このように、PM2.5は大部分が人為起源であり、排出規制をすることが重要なのです。

ライダーは、電波の代わりにレーザー光を発射し、遠くにある微小粒子などに衝突して反射あるいは散乱され戻ってくる光を望遠鏡で受け測定

黄砂飛来時の衛星写真。黄砂(黄土色)の前に、大気汚染性のエアロゾル(薄い白色)が来ている(濃い白色は雲を示す)。
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大塚― ついで、黄砂についてご説明ください。

畠山さん― 黄砂も、大気汚染物質を大規模に輸送する原因になります。黄砂自体が、呼吸器系や循環器系の病気あるいは花粉症を悪化させるとの報告もありますし、黄砂に含まれるさまざまな化学物質が、化学反応により大気汚染物質を変化させてもいます。
黄砂にはさまざまな監視がなされています。気象庁の黄砂情報は主に目視によっていますが、目にはっきり見えなくても、上空を通過する場合や、少量の場合もありますので、より的確な情報が必要です。現在では、ライダーとよばれるレーザー光を用いる遠隔計測によって、詳細なデータが得られるようになっています。

大塚― ライダーについて、もう少し詳しくお伺いできますか。

畠山さん― レーダーはよく知られていると思います。電波を発し、電波が物体に衝突し反射され戻ってくるところを測定するのです。ライダーは、初期にはレーザーレーダーともよばれたように、電波の代わりにレーザー光を発射し、遠くにある微小粒子などに衝突して反射あるいは散乱され戻ってくる光を望遠鏡で受け測定します。日本では、国立環境研究所の杉本伸夫さん【4】らが開発を進め、日本以外の多くのアジア諸国にも測定装置を置きライダーのネットワークをつくり、アジア地域の微小粒子の分布を明らかにしてきました。


1990年代の終わり頃、当時SEPAとよばれていた中国の「国家環境保護局」が中国の環境研究所と一緒に観測することを認めてくれた

大塚― 先ほどの話題に戻り、航空機を用いる大気観測を、中国と共同で行おうとされた契機などについてお話しいただけますでしょうか。

畠山さん― 先ほども申し上げたように、まず、酸性雨の原因をつかむために航空機観測をしようと考えました。その時には中国までは手を出せないので、中国と日本の間の海上で飛行機を用い大気を捕集したのです。

大塚― まず日本の領域内ではじめられたわけですね。

畠山さん― そうです。最初は日本海上空や東シナ海上空で行いました。そのころから、日本が主導したEANETとよばれる「東アジア酸性雨モニタリングネットワーク」【5】、それに刺激されて韓国が主導してはじめたLTPとよばれる「日中韓大気汚染物質長距離越境移動研究プロジェクト」【6】などが相次いでつくられ、行政担当者と我々のような研究者とが一緒になって大気汚染の検討をはじめたのです。従来からの、行政担当者だけ、あるいは研究者だけの組織とは大きく異なるものでした。私自身は、主にLTPに参加していました。LTPで中国の行政担当者に、我々が日本の海上で行ってきた航空機観測を、中国の上空でも行えないかと訴えたのです。

大塚― 何年頃のことでしょうか。

畠山さん― 1990年代の終わり頃、1998年か1999年でした。LTPのミーティングで何回か話した結果、当時SEPAとよばれていた中国の「国家環境保護局」が中国の環境研究所と一緒に観測することを認めてくれたのです。

大塚― 中国の行政機関がよく動いてくれましたね。

畠山さん― その頃まで、中国は大気汚染物質や黄砂が出ていることは認めても、すべて国内に落ちており外国に影響を与えていないと頑なな態度でした。ところが、朱鎔基さんが首相になり、汚染物質や黄砂が国を越えていることがはじめて認められたのです。
中国でのもう1つのポイントは、観測計画の立案過程にかかわっています。多くの計画は研究者がつくるため、中国のカウンターパートも大学の研究者などであり、管轄する中国政府の部署も日本の文部科学省に相当するものだったと思います。中国は日本以上に行政の縦割りがきつく、そのような部署は大気観測の許可を出せないのです。外国人が中国で観測したいという要望は多く、アメリカも随分前から交渉をしていたようですが、断られつづけていたのです。私たちは、日本の国立環境研究所のスタッフとして中国の環境研究所と共同研究をつづけており、その積み重ねの上に観測の申請を出したことが許可につながったと思います。

環境の改善に必要な科学的なアプローチと政治的なアプローチの折り合いが重要

中国における最初の観測で使った飛行機
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大塚― 許可されてからも、多くの苦労があったのでしょう。

畠山さん― 最初の航空機観測に、香港に近い珠海(チューハイ)という都市にベースをもつ飛行機会社を使いました。問題は、飛行機を北京に近いところまで飛ばすのに、中国のたくさんの軍区の上空を通過するのですが、すべての軍区から許可を得る必要があったことです。全部の許可はなかなか下りず、「いざ観測」の気持ちになってから、ずいぶん待たされました。
大気を採集するのは中国人です。観測のために飛行機はさまざまな所に降りますが、そのほとんどは軍の飛行場で、外国人は近寄れないからです。大連をベースにしたとき、観測のために大連の近くの旅順軍空に向かっていたところ、「あなたは日本人で顔では見分けがつかないだろうから一緒に連れて行くけれど、近づいたらしゃべるな」と。

大塚― 畠山さんは、日中あるいは日中韓の共同研究を長く経験され、どのように感じてこられましたか。

畠山さん― いろいろな経験をしましたが、中国の研究者も徐々に力をつけてきましたし、共同研究を進めた意義は大きかったと思っています。研究者同士は、まったく問題なく共同研究を進めることができます。問題は、環境の改善に必要な科学的なアプローチと政治的なアプローチを、どう折り合いをつけていくかだと思います。私たちが経験したように、科学者と行政担当者が一緒にテーブルについて検討する状況を発展させてほしいと願っています。
共同研究が重要な成果をもたらす例として、私たちの最新の情報を紹介させていただきます。先ほども触れたように、私は今年の1月22日から24日まで北京のワークショップに行き、以前から共同研究をしている中国の環境研究者と双方のデータを検討してきました。この3年間、中国側は青島(チンタオ)がある山東半島の北の渤海湾上の小さな島で、日本側は沖縄本島北端の辺戸岬で、同時に観測をしてきたのです。2つの場所は1300〜1400キロメートル離れています。データを比較すると、エアロゾルの濃度は圧倒的に中国で高く、日本にくるとどんどん低下します。ただし、沖縄までの海上で海塩粒子などが加わり、ナトリウムや塩素の濃度は沖縄の方が高くなります。また、船からの重油の排気ガス中にバナジウムが多く含まれますので、バナジウム濃度は中国より沖縄で高くなっています。
少々専門的ですが、マンガンがほとんど土壌起源なのに対し、バナジウムは土壌と船舶排ガスの両方に含まれます。この特性を利用し、両地域の大気中のバナジウムとマンガンの濃度を比較した結果、沖縄の大気に含まれるバナジウムの約6割が船舶起源であることがわかりました。

越境大気汚染は中国が大きな発生源だが、日本への影響は限定的で中国国民への影響がはるかに深刻

大塚― 共同研究の発展を期待しています。ところで、PM2.5については国内での発生も無視できないようですが、現在の状況を踏まえ、私たちは大気汚染をどう認識し、どのような行動をとるべきとお考えですか。

畠山さん― 日本の大気は、光化学オキシダント【7】などの一部を除き環境基準内であり、日本の空は世界のどこにも負けないくらいきれいだと思います。とはいえ、大気環境は地球温暖化や成層圏のオゾン層の破壊などに密接に結びついていますから、一人ひとりがさまざまな状況に目配りをつづけることが大事です。
越境大気汚染については、たしかに中国が大きな発生源で、大陸に近い九州をはじめとする地域では影響が大きいのですが、それでも日本への影響は限定的とみていいと思います。中国国民への影響がはるかに深刻なのですから、日本への影響を何とかしてくれと騒ぎ立てるより、我々がもっている科学や技術の情報や経験を伝え、影響を軽減できる方向に進めるよう助言することが適切と思います。

大塚― 最後になりますが、EICネットをご覧いただいている皆さまに向け、畠山さんからのメッセージをいただきたいと思います。

畠山さん― 私は子どものころ、東京の大田区蒲田の近辺に住んでいました。近くの川崎市などの工場から立ち上る色とりどりの煙は、一見きれいではありましたが、いろいろな有害物質を含んでいたわけです。また、私が大学1年の時に、いわゆる「光化学スモッグ」事件が起き、高校生が放課後に校庭を走っていてバタバタ倒れたことにも出会いました。これらの時代に比べると、今の煙はほとんど真っ白ですね。しかも、煙突から出たばかりは透明で、先のほうが白いのはほとんどが水蒸気のことを示しています。
しかし中国では、まだまだモクモクと煙が出ています。中国の状況が健康にいいわけはありません。中国政府は国民の健康を守る努力を本格化しなくてはならないと思います。私たちが、中国人の被害を軽減するよう助けてあげられるといいと考えています。
日本がここに到るまでに、官民による多くの努力があったことは、私が述べるまでもありません。皆さまには、日頃のご自分の生活を思い出しながら、国や自治体がどのような取組みをしているか、今後どのような取組みを進めるかにも目を光らせていただきたいと思います。
最後になりますが、先ほどお話しした、中国の山東半島近くの島と沖縄の辺戸岬での共同研究のつづきを紹介させていただきます。昨年9月に、私が勤めている東京農工大学にグローバルイノベーション研究機構ができ、私の研究室がその1つに選ばれました。この機会に、日中の共同研究をさらに発展させ、韓国・台湾・香港も加えたネットワークで、東アジアにおける越境大気汚染の全容の解明を進めたいと計画しています。

大塚― ますますお忙しくなりそうですね。新しい成果に期待したいと思います。本日はどうもありがとうございました。

東京農工大学大学院教授の畠山史郎さん(右)と、一般財団法人環境イノベーション情報機構理事長の大塚柳太郎(左)。


注釈

【1】エアロゾル
気体中に浮遊する微小な液体または固体の粒子。
【2】華中(かちゅう)
中国の揚子江と黄河に挟まれる地域。
【3】珪肺(けいはい)
鉱山には大量の粉じん粒子(粒径が0.1〜150μm)が浮遊しており、小さな粒子(5μm未満)は吸入性粉じんを引き起こすことがある。これらの粒子が呼吸器官から吸入されて肺に沈着すると、じん肺とよばれる状態を引き起こすが、シリカの吸入・沈着の結果として発生するじん肺が珪肺とよばれる。
【4】杉本伸夫(すぎもとのぶお)
独立行政法人国立環境研究所の研究者で、環境計測技術分野を専門とし、光アクティブ遠隔計測手法による大気観測などに取組んでいる。
【5】EANET(東アジア酸性雨モニタリングネットワーク)
日本政府が主導し、1998年に設けられた東アジアにおける政府間の枠組み。東アジアにおいて酸性雨問題への共通理解を形成し、酸性雨による環境への悪影響を防止するための政策決定に有益な情報を提供し、参加国間での協力を推進することを目的とする。
【6】LTP(日中韓大気汚染物質長距離越境移動)
韓国の環境部と韓国国立環境研究院が中心となって組織した酸性雨等に対する日中韓の共同研究プロジェクト。北東アジアの越境大気汚染問題に対して、モニタリングおよびモデリング分野の共同研究を行い、黄砂や大気汚染物質の長距離輸送の実態把握とモデル化を目的とする。
【7】光化学オキシダント
窒素酸化物と炭化水素とが光化学反応を起こして生じる、オゾンなどの酸化性物質の総称で、光化学スモッグの原因になる。
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