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エコチャレンジャー

環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

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環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

目次
持続可能性工学という新しい分野を切り拓く
2030年までにゼロエネルギー住宅を標準に
現在の技術で、ネット・ゼロ・エネルギー住宅は少しお金をかけさえすれば可能
【1】創エネ
 創エネルギーの略称。家庭においてエネルギーを節約するだけではなく、太陽光発電などのクリーンエネルギー(再生可能エネルギー)や家庭用燃料電池を利用して積極的にエネルギーをつくり出すこと。
【2】ライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment)
 それぞれの工業製品を対象に、資源の採取から製造、使用、廃棄、輸送などのすべての段階をとおし、環境影響を定量的、客観的に評価する手法。LCAと略称される。
【3】建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律
 2020年までの省エネ基準適合義務化の一環であり、平成27年3月24日に閣議決定された。主な内容は、@大規模な非住宅建築物(延べ床面積が2000m2以上)に対する適合義務及び適合性判定義務、A中規模以上の建築物(延べ床面積が300m2以上)に対する届出義務、B省エネ向上計画の認定(容積率特例)、Cエネルギー消費性能の表示。平成27年度の通常国会で法案が成立すれば、平成29年4月1日の施行を目指す。
【4】ネット・ゼロ・エネルギー
 建築物における一次エネルギー消費量を、建築物・設備の省エネ性能の向上、エネルギーの面的利用、オンサイトでの再生可能エネルギーの活用などにより削減し、年間での一次エネルギー消費量が正味(ネット)でゼロまたはおおむねゼロにすること。

No.033

Issued: 2015.05.22

第41回 慶應義塾大学教授・伊香賀俊治さんに聞く、建築の多面的特性と持続可能性工学が目指す視点[1]

実施日時:平成27年4月22日(水)16:00〜
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎

持続可能性工学という新しい分野を切り拓く

伊香賀 俊治(いかが としはる)さん
伊香賀 俊治(いかが としはる)さん
慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科教授。
1959年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業、同大学院修了。その後、東京大学で博士(工学)を取得。(株)日建設計 環境計画室長、東京大学助教授などを経て、2006年より現職。
専門は建築・都市環境工学。主な研究課題は、健康長寿を実現する住まいとコミュニティの創造(社会実証研究)、低炭素性・健康維持増進性・知的生産性・震災時の生活業務継続性のコベネフィットに関する研究など。
著書に、『CASBEE入門』、『建築と知的生産性』、『健康維持増進住宅のすすめ』、『熱中症』、『LCCM住宅の設計手法』、『最高の環境建築をつくる方法』など。

大塚理事長(以下、大塚)― EICネットのエコチャレンジャーにお出ましいただきありがとうございます。わが国では建築部門のエネルギー消費量が増加をつづけ、持続可能な社会を構築する上でも大きな課題になっています。伊香賀さんは、建築分野における持続可能性工学を唱え、「住まいと健康」や「住まいとコミュニティ」など新たな視点に立つ研究を精力的に展開されておられます。本日は、将来を見据えた建築分野における戦略などについてお伺いします。どうぞよろしくお願いいたします。
持続可能性工学の内容を伺う前に、そのような視点をもたれるようになった経緯からお話しいただきたいと思います。

伊香賀さん― 私は大学の学部と大学院で建築学を専攻し、大学院修了後は民間の設計事務所に勤めました。大学で、省エネあるいは今でいう創エネ【1】 を研究する研究室で勉強し、設計事務所で実際に設計を行い設計した建物の省エネ性能を検証する中で、持続可能性を強く意識するようになりました。1990年ころ、多くの学問分野で地球環境問題への取組みが進み、建築分野でも建築学会として本格的に取組むこととなり、私もかかわったのです。

大塚― 建築学という分野は、環境問題を身近に捉えているのでしょうね。

伊香賀さん― 身近というより、省エネなどの環境配慮は当然なのに、十分な配慮がなされていない建物が世の中に氾濫していたという認識でした。そのころ、工業製品を対象にライフサイクルアセスメント(LCA)【2】分析が盛んになり、建築分野におけるLCAを私が担当したのです。

大塚― 担当されたというのは、どのようなことだったのですか。

伊香賀さん― 建築学会として、LCAの評価方法、計算の仕方、データのまとめ方などの指針をつくることになり、その作業を担当したのです。ちょうどそのころの2年間、東京大学生産技術研究所に教官として働く機会を得ました。研究所では、LCAをはじめとする研究が盛んで、持続可能性工学という新しい分野を切り拓かれていた山本良一先生、安井至先生がいらっしゃり、建築分野には村上周三先生がおられました。私もその仲間に入れていただき、持続可能性工学を旗印にさせていただくことになったのです。

2030年までにゼロエネルギー住宅を標準に

【図1】増大し続ける家庭・業務部門CO2排出量
【図1】増大し続ける家庭・業務部門CO2排出量
※拡大図はこちら

大塚― その前提になるかと思いますが、建築分野におけるエネルギー消費にかかわる状況をご紹介いただけますでしょうか。

伊香賀さん― 図1に示す、部門別のCO2(二酸化炭素)排出量の変化から分かるように、産業部門および運輸部門と違い、家庭部門・業務部門では排出量が1990年比で60%も増えています。この2つの部門が建築にかかわっており、家庭部門が住宅からのCO2排出量、業務部門がオフィス、学校、病院などの生産施設以外の建物からのCO2排出量を表すとみていいでしょう。
このような中で、国は2050年に向けCO2排出量を現行より8割減らすという目標をつくり、2030年までにゼロエネルギー住宅を標準にすることを環境省・国土交通省・経済産業省合同のロードマップに盛り込んだのです。
しかし、さまざまな法的な規制ができたにもかかわらず、最近まで厳しく守らなくてもいい状態がつづいていたのが実情です。

大塚― 状況は少しずつ変わってきたといえるのでしょうか。

伊香賀さん― 地球環境問題が表面化した1990年ころから、新しい技術がでてきたこともあり、大企業の本社ビルなどは徹底した省エネ対策を取り入れた建物でないと恥ずかしいという風潮になりました。また、国や自治体の建物も環境配慮を標榜するのが当然になりました。
とはいえ、大多数の建主の意識はまだ高くありませんし、以前に建てられた膨大な数の建物の省エネ性は旧態依然のままなのです。


現在の技術で、ネット・ゼロ・エネルギー住宅は少しお金をかけさえすれば可能

大塚― 本年3月に閣議決定された「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」【3】は、どのような効果が期待できるのでしょうか。

伊香賀さん― 今回の新法でようやく、大きなビル(延べ床面積が2000m2以上の非住宅建築物)に限定されてはいますが、2020年を期限に新しい建物の省エネ基準適合義務化が決まります。残念だったのは、先ほど申し上げた三省合同のロードマップにしたがい、2020年までにすべての新築建物の省エネ基準適合義務化に向かっていたのに、国会審議の最終場面で、小さい戸建て住宅がその対象から除外されたのです。

大塚― 大きなビルは目につきますが、小さい建物の方が圧倒的に多いでしょうから、たとえば床面積で比較するとどのようになるのでしょうか。

伊香賀さん― 床面の面積では、2000m2以上の建物の合計とそれ以下の建物の合計がほぼ同じくらいです。棟数では、小さい建物が約9割を占めています。

大塚― 国会審議で、小さい建物がなぜ対象から外されたのですか。

伊香賀さん― 小さい住宅の義務化が先送りされた理由の1つは、一般の人が自分のお金で建てる家に省エネ対策費用を義務づけると、家を建てる権利を奪うのではないかという点だったようです。
しかし、先進国の中で日本が遅れているのは確かです。大型ビルはようやくほかの先進国に追いついたものの、小さい住宅の省エネ基準の厳しさという点で日本は最低といえます。義務化が見送られた法案における基準ですら、先進国の中で最低レベルだったのです。

【図2】見えない価値の見える化による低炭素な住まい・まちづくりの推進
【図2】見えない価値の見える化による低炭素な住まい・まちづくりの推進 ※拡大図はこちら

大塚― 小さい住宅で省エネを達成するのに必要な経費はどうなのでしょうか。

伊香賀さん― 現在の技術で、「ネット・ゼロ・エネルギー」【4】と言いますか、あるいは建ててから壊すまでのCO2のネットの排出量をゼロにする住宅は少しお金をかけさえすれば可能です。ネット・ゼロ・エネルギーを目指し、大学対抗で競って建てた住宅が図2に示すものです。ただし、この住宅の場合もそうですが、最初に建てるときにお金が少し多くかかり、建てられてからの光熱費などは安くなるとはいえ、それでも元が取れるまでにはかなりの時間がかかるのです。
私たちが力を入れているのは、たんに建築費や光熱費としての出費だけでなく、住宅の質にかかわる人の健康、知的生産性、あるいは震災への対応などを視野に、金額に還元しにくいメリットについても説明し、一般の人びとに理解していただくことです。この主張は、低炭素社会の実現を目指すIPCC(気候変動に関する政府間パネル)のレポートにも盛り込まれています。


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