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環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

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エコチャレンジャー

環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

目次
干潟で生物群集の動態を解き明かしたいと思ったのがきっかけ
サンゴは植物と共生する刺胞動物
白化が何か月も続くとサンゴが死んでしまう
【1】蒲生干潟
 仙台湾に注ぐ七北田川の河口に位置する干潟で、面積は約5ha。湿地や砂浜の植生群落が発達し、シギやチドリなどの渡り鳥が多く飛来する。
【2】ムラサキイガイ
 イガイ目イガイ科に属する二枚貝の1種。洋食の食材としては、近縁種とともにムールガイ(仏語:moule)と呼ばれる。
【3】褐虫藻
 サンゴやイソギンチャクなどと共生する植物プランクトン。宿主が出す二酸化炭素によって光合成を行い、生成した酸素を宿主が呼吸する共生関係にある。
【4】川口四郎
 岡山大学名誉教授。二枚貝類と共生藻の共生関係の解明など、サンゴ礁の生物学的研究で世界的に活躍。氏の寄付金により、日本サンゴ礁学会には、サンゴ礁研究における顕著な業績に対して「川口奨励賞」が設けられている。

No.075

Issued: 2018.03.22

第75回 琉球大学名誉教授の土屋誠さんが考える、サンゴ礁への恩返しとは[1]

実施日時:平成30年2月2日(金)
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎

干潟で生物群集の動態を解き明かしたいと思ったのがきっかけ

土屋誠(つちや まこと)さん
土屋誠(つちや まこと)さん
琉球大学名誉教授
琉球大学に在職中、琉球大学理学部長、日本サンゴ礁学会会長、環境省中央環境審議会臨時委員、などを歴任。専門は生態学。サンゴ礁や干潟などの海岸生態系の動態解明やサンゴ礁島嶼生態系の保全が主要な研究テーマ。

大塚理事長(以下、大塚)― 本日は、琉球大学名誉教授の土屋誠さんにお越しいただきました。土屋さんは、サンゴ礁や干潟などの沿岸生態系の動態解明あるいはその保全の研究に取り組まれるとともに、日本サンゴ礁学会会長や環境省中央環境審議会委員などとして活躍されてこられました。サンゴ礁生態系保全の国際的枠組みである国際サンゴ礁イニシアチブが、今年を3回目の国際サンゴ礁年に指定した機会に、土屋さんからサンゴ礁の保全に関するお話を伺いたいと思います。
最初に、土屋さんがこの研究分野を専攻されるようになったきっかけからお話いただけますか。

土屋さん― 子どもの頃から虫や魚に関心はありましたが、本格的に研究を始めたのは、大学に入ってからです。私が勉強したのは東北大学ですが、大学院に入って取り組んだテーマは、宮城県の蒲生干潟【1】の生物群集の動態解析です。蒲生干潟は、東日本大震災で大きな被害を受けたところです。
干潟は砂や泥でできていて、一見何もいませんが、掘ってみるとゴカイや貝、エビやカニなどが出てきます。蒲生は約5haの広さの干潟ですが、場所によってまったく違う生きものがいることに気づき、その違いというか、全体的な仕組みに関心を持ちました。特定の生きものの生態というより、干潟全体の生態系の仕組みを明らかにできると面白いなと思ったのがきっかけです。大学院の修了後、青森県にある東北大学の臨海実験所で採用してもらい、今度は、岩場の研究を始めました。岩場には、一般にムールガイと呼ばれているムラサキイガイ【2】が寄り集まって付着しているのですが、その中をほぐしていくと小さな生きものがたくさん出てきます。そういう固まりに興味を持ちました。

大塚― その固まりについて、もう少し教えていただけますか。

土屋さん― ムラサキイガイは、岩に何十匹と群れになって付いています。それを1匹ずつ解きほぐしていくと、中は他の小さな生きものの棲み処になっています。きれいな場所、あるいは港のようにちょっと汚れた場所など、環境の違いによって出てくる生きものが違うのです。私たちは生物群集と呼んでいますが、その全体的な構成を解き明かしてみたいと思ったのです。

大塚― その後、サンゴ礁の研究をしようと琉球大学に行かれたのですか。

土屋さん― 東北大学は昔からサンゴの研究でも知られており、研究室にはサンゴの標本がいっぱいありましたので関心はありました。サンゴ礁で生物群集の研究をするようになったのは、干潟の研究、あるいはムラサキイガイの研究の影響が大きかったかもしれません。

大塚― 干潟の研究とサンゴ礁の研究は、研究をする上での基本的な視点が似ているのでしょうか。

土屋さん― はい。世界中の海岸には、岩場があったり、干潟があったり、サンゴ礁があったりします。環境の違いを比較しながら何か面白いストーリーができないかという野望にもつながっています。

宮城県仙台市・蒲生干潟(環境省提供)
宮城県仙台市・蒲生干潟(環境省提供)


サンゴは植物と共生する刺胞動物

沖縄県波照間島ニシ浜のサンゴ礁(環境省提供)
沖縄県波照間島ニシ浜のサンゴ礁(環境省提供)

大塚― 多くの人にとって、新聞やテレビで知ってはいても、サンゴ礁を実際に自分の目で見る機会は少ないのではないかと思います。サンゴあるいはサンゴ礁の特徴を教えてください。

土屋さん― サンゴ礁は、サンゴを中心とした生きものが作った地形です。北の地域の岩礁などは、地学的にでき上がったものですが、熱帯・亜熱帯のサンゴ礁は、生きものが作った自然であることが最も大きな特徴です。
重要なことは、サンゴとサンゴ礁を区別することです。サンゴは生きものを対象に使う名称で、サンゴ礁は地形を対象としています。専門的な話をしている人でも時々間違えてしまうほどです。サンゴは分類学的にいうと、いろいろなグループに分けられます。極端な言い方をすると、サンゴの仲間には北極に棲んでいるものもいます。私たちが通常沖縄でサンゴという場合は、潮が引いた時に潮溜まりに沢山いるサンゴたち、主に死んで石の固まりとなってサンゴ礁を作るサンゴたちを指します。ネックレスやネクタイピンに使われる宝石サンゴは、サンゴ礁を作るサンゴではなく、もっと深いところに暮らす別のグループのサンゴです。

大塚― そもそも、サンゴは生物種でいうと何の仲間になるのでしょうか。

土屋さん― サンゴは、刺胞を持っているので、クラゲやイソギンチャクと同じ刺胞動物の仲間です。この仲間たちは、触手と呼ばれる細長い器官が動物プランクトンを捕らえる手を持っています。触手には刺胞というカプセルがあり、この中に針と毒液が入っています。刺胞に動物プランクトンが触れると、毒液が発射され身体を麻痺させて動きを鈍らせて捕らえるのです。私たちがクラゲに触った時に赤くなるのと同じです。

大塚― サンゴが、クラゲやイソギンチャクと同じ刺胞を持っていることに驚かれる方も多いと思います。

土屋さん― そうですね。1匹のサンゴは、形としてはイソギンチャクみたいなものです。イソギンチャクの周りに骨があると考えればいいと思います。この骨が隣のサンゴと繋がっていき、それが死んで石灰岩になり、その上に新しいサンゴが成長してサンゴ礁を作ります。これが、造礁サンゴと呼ばれるものです。もう1つ、サンゴにとって重要なのが、大きさが0.01ミリほどの褐虫藻【3】と呼ばれる植物と共生していることです。動物の中に植物が棲むという非常に奇妙なシステムなのですが、実は、これを見つけたのは日本人なのです。

大塚― いつ頃の話ですか。

土屋さん― 岡山大学の川口四郎先生【4】によって論文が発表されたのは1944年です。動物の身体の中に植物がいると発表するのは、大変度胸がいることでしたが、今では高く評価されています。この褐虫藻がサンゴの身体から抜け出てしまう状況が「白化」と呼ばれる現象です。


刺胞動物の家系図(出典:日本サンゴ礁学会)
刺胞動物の家系図(出典:日本サンゴ礁学会)
※拡大図はこちら

サンゴ体の構造(出典:日本サンゴ礁学会)
サンゴ体の構造(出典:日本サンゴ礁学会)

サンゴが繋がってサンゴ礁をつくる
サンゴが繋がってサンゴ礁をつくる


白化が何か月も続くとサンゴが死んでしまう

大塚― 褐虫藻が抜け出るとは、どういうことでしょうか。

土屋さん― 通常、植物である褐虫藻は光合成をすることで、水中の二酸化炭素を吸収し酸素を放出し、動物であるサンゴがその酸素で呼吸をします。環境が悪化してくる、例えば温度が高くなる、あるいは逆に、ものすごく低くなると、褐虫藻が光合成できなくなり、活性酸素を出します。それにより褐虫藻も弱りますが、共生しているサンゴも困ってしまい、最終的に褐虫藻を追い出すことになるのです。このメカニズムについては、まだ、すべての研究者が認める説があるわけではありません。

大塚― 褐虫藻がサンゴからいなくなると、白化が始まるのですね。

土屋さん― サンゴは褐虫藻がいなくなると、白い骨格が透けて見えてきます。これが白化です。サンゴは動物プランクトンを食べているだけでは栄養が不十分で、褐虫藻からも栄養を貰っています。ですから、白化の状態が何カ月も続くと栄養不足になって死んでしまうのです。褐虫藻はサンゴの身体の中だけでなく、海藻の上にも岩の上にも生息しています。サンゴと褐虫藻の共同システムが再開されれば、サンゴは復活します。


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