一般財団法人 環境イノベーション情報機構

メールマガジン配信中

エコチャレンジャー 環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

No.075

Issued: 2018.03.22

琉球大学名誉教授の土屋誠さんが考える、サンゴ礁への恩返しとは

土屋 誠(つちや まこと)さん

実施日時:平成30年2月2日(金)
ゲスト:土屋 誠(つちや まこと)さん
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎

  • 琉球大学名誉教授
  • 琉球大学に在職中、琉球大学理学部長、日本サンゴ礁学会会長、環境省中央環境審議会臨時委員、などを歴任。専門は生態学。
  • サンゴ礁や干潟などの海岸生態系の動態解明やサンゴ礁島嶼生態系の保全が主要な研究テーマ。
目次
干潟で生物群集の動態を解き明かしたいと思ったのがきっかけ
サンゴは植物と共生する刺胞動物
白化が何か月も続くとサンゴが死んでしまう
サンゴ礁の生態系サービス
サンゴ礁は自然の堤防
白化が報告されたのは1980年代以降
平均気温が1℃上がるだけで大きな問題が起きます
サンゴ礁から貰ってきた恵みに恩を返すとき
サンゴ礁だけでなくサンゴ礁に暮らす生きものに関心を持ってもらいたい

干潟で生物群集の動態を解き明かしたいと思ったのがきっかけ

宮城県仙台市・蒲生干潟(環境省提供)

宮城県仙台市・蒲生干潟(環境省提供)

大塚理事長(以下、大塚)― 本日は、琉球大学名誉教授の土屋誠さんにお越しいただきました。土屋さんは、サンゴ礁や干潟などの沿岸生態系の動態解明あるいはその保全の研究に取り組まれるとともに、日本サンゴ礁学会会長や環境省中央環境審議会委員などとして活躍されてこられました。サンゴ礁生態系保全の国際的枠組みである国際サンゴ礁イニシアチブが、今年を3回目の国際サンゴ礁年に指定した機会に、土屋さんからサンゴ礁の保全に関するお話を伺いたいと思います。
最初に、土屋さんがこの研究分野を専攻されるようになったきっかけからお話いただけますか。

土屋さん― 子どもの頃から虫や魚に関心はありましたが、本格的に研究を始めたのは、大学に入ってからです。私が勉強したのは東北大学ですが、大学院に入って取り組んだテーマは、宮城県の蒲生干潟【1】の生物群集の動態解析です。蒲生干潟は、東日本大震災で大きな被害を受けたところです。
干潟は砂や泥でできていて、一見何もいませんが、掘ってみるとゴカイや貝、エビやカニなどが出てきます。蒲生は約5haの広さの干潟ですが、場所によってまったく違う生きものがいることに気づき、その違いというか、全体的な仕組みに関心を持ちました。特定の生きものの生態というより、干潟全体の生態系の仕組みを明らかにできると面白いなと思ったのがきっかけです。大学院の修了後、青森県にある東北大学の臨海実験所で採用してもらい、今度は、岩場の研究を始めました。岩場には、一般にムールガイと呼ばれているムラサキイガイ【2】が寄り集まって付着しているのですが、その中をほぐしていくと小さな生きものがたくさん出てきます。そういう固まりに興味を持ちました。

大塚― その固まりについて、もう少し教えていただけますか。

土屋さん― ムラサキイガイは、岩に何十匹と群れになって付いています。それを1匹ずつ解きほぐしていくと、中は他の小さな生きものの棲み処になっています。きれいな場所、あるいは港のようにちょっと汚れた場所など、環境の違いによって出てくる生きものが違うのです。私たちは生物群集と呼んでいますが、その全体的な構成を解き明かしてみたいと思ったのです。

大塚― その後、サンゴ礁の研究をしようと琉球大学に行かれたのですか。

土屋さん― 東北大学は昔からサンゴの研究でも知られており、研究室にはサンゴの標本がいっぱいありましたので関心はありました。サンゴ礁で生物群集の研究をするようになったのは、干潟の研究、あるいはムラサキイガイの研究の影響が大きかったかもしれません。

大塚― 干潟の研究とサンゴ礁の研究は、研究をする上での基本的な視点が似ているのでしょうか。

土屋さん― はい。世界中の海岸には、岩場があったり、干潟があったり、サンゴ礁があったりします。環境の違いを比較しながら何か面白いストーリーができないかという野望にもつながっています。


サンゴは植物と共生する刺胞動物

沖縄県波照間島ニシ浜のサンゴ礁(環境省提供)

沖縄県波照間島ニシ浜のサンゴ礁(環境省提供)

大塚― 多くの人にとって、新聞やテレビで知ってはいても、サンゴ礁を実際に自分の目で見る機会は少ないのではないかと思います。サンゴあるいはサンゴ礁の特徴を教えてください。

土屋さん― サンゴ礁は、サンゴを中心とした生きものが作った地形です。北の地域の岩礁などは、地学的にでき上がったものですが、熱帯・亜熱帯のサンゴ礁は、生きものが作った自然であることが最も大きな特徴です。
重要なことは、サンゴとサンゴ礁を区別することです。サンゴは生きものを対象に使う名称で、サンゴ礁は地形を対象としています。専門的な話をしている人でも時々間違えてしまうほどです。サンゴは分類学的にいうと、いろいろなグループに分けられます。極端な言い方をすると、サンゴの仲間には北極に棲んでいるものもいます。私たちが通常沖縄でサンゴという場合は、潮が引いた時に潮溜まりに沢山いるサンゴたち、主に死んで石の固まりとなってサンゴ礁を作るサンゴたちを指します。ネックレスやネクタイピンに使われる宝石サンゴは、サンゴ礁を作るサンゴではなく、もっと深いところに暮らす別のグループのサンゴです。

大塚― そもそも、サンゴは生物種でいうと何の仲間になるのでしょうか。

土屋さん― サンゴは、刺胞を持っているので、クラゲやイソギンチャクと同じ刺胞動物の仲間です。この仲間たちは、触手と呼ばれる細長い器官が動物プランクトンを捕らえる手を持っています。触手には刺胞というカプセルがあり、この中に針と毒液が入っています。刺胞に動物プランクトンが触れると、毒液が発射され身体を麻痺させて動きを鈍らせて捕らえるのです。私たちがクラゲに触った時に赤くなるのと同じです。

大塚― サンゴが、クラゲやイソギンチャクと同じ刺胞を持っていることに驚かれる方も多いと思います。

土屋さん― そうですね。1匹のサンゴは、形としてはイソギンチャクみたいなものです。イソギンチャクの周りに骨があると考えればいいと思います。この骨が隣のサンゴと繋がっていき、それが死んで石灰岩になり、その上に新しいサンゴが成長してサンゴ礁を作ります。これが、造礁サンゴと呼ばれるものです。もう1つ、サンゴにとって重要なのが、大きさが0.01ミリほどの褐虫藻【3】と呼ばれる植物と共生していることです。動物の中に植物が棲むという非常に奇妙なシステムなのですが、実は、これを見つけたのは日本人なのです。

大塚― いつ頃の話ですか。

土屋さん― 岡山大学の川口四郎先生【4】によって論文が発表されたのは1944年です。動物の身体の中に植物がいると発表するのは、大変度胸がいることでしたが、今では高く評価されています。この褐虫藻がサンゴの身体から抜け出てしまう状況が「白化」と呼ばれる現象です。


刺胞動物の家系図(出典:日本サンゴ礁学会)
[拡大図]

サンゴ体の構造(出典:日本サンゴ礁学会)

サンゴ体の構造(出典:日本サンゴ礁学会)

サンゴが繋がってサンゴ礁をつくる

サンゴが繋がってサンゴ礁をつくる


白化が何か月も続くとサンゴが死んでしまう

大塚― 褐虫藻が抜け出るとは、どういうことでしょうか。

土屋さん― 通常、植物である褐虫藻は光合成をすることで、水中の二酸化炭素を吸収し酸素を放出し、動物であるサンゴがその酸素で呼吸をします。環境が悪化してくる、例えば温度が高くなる、あるいは逆に、ものすごく低くなると、褐虫藻が光合成できなくなり、活性酸素を出します。それにより褐虫藻も弱りますが、共生しているサンゴも困ってしまい、最終的に褐虫藻を追い出すことになるのです。このメカニズムについては、まだ、すべての研究者が認める説があるわけではありません。

大塚― 褐虫藻がサンゴからいなくなると、白化が始まるのですね。

土屋さん― サンゴは褐虫藻がいなくなると、白い骨格が透けて見えてきます。これが白化です。サンゴは動物プランクトンを食べているだけでは栄養が不十分で、褐虫藻からも栄養を貰っています。ですから、白化の状態が何カ月も続くと栄養不足になって死んでしまうのです。褐虫藻はサンゴの身体の中だけでなく、海藻の上にも岩の上にも生息しています。サンゴと褐虫藻の共同システムが再開されれば、サンゴは復活します。


サンゴ礁の生態系サービス

サンゴ礁の海で獲れる魚も生態系サービス

サンゴ礁の海で獲れる魚も生態系サービス

大塚― サンゴ礁と人間との関わりに、話を進めたいと思います。サンゴ礁は生態系サービスという意味で、私たち人間に多くの恩恵を施してくれているのではないでしょうか。

土屋さん― 生態系サービスという言葉が最初に使われたのは1980年頃ですが、特に有名になったのは、国連が世界の生態系の価値をまとめようという研究をした2000年以降です。私たちは子どもの頃から、自然からさまざまな恵みを与えてもらっていると言われてきたので、それを別の言葉で言い表しただけかなと思います。私はよく“サンゴ礁の恵み”と表現しています。第1に、サンゴ礁にいろいろな生きものがいることが、我々にさまざまな恵みをもたらしてくれるのです。第2に、日本のサンゴ礁は島の周りに発達しているので、台風の時などに高波を和らげる防波堤の役割を果たしてくれています。第3に、生きものが健康に暮らすことによって、サンゴ礁の美しい環境が維持されていることです。この3つの恵みが、サンゴ礁の生態系サービスの基本と考えています。

大塚― 私たちの暮らしへの直接的な影響という点からもお願いします。

土屋さん― サンゴ礁には魚が集まり、漁師さんたちの生業の場所になります。そして、美しい景観こそがサンゴ礁が本来的に持つ機能だと思います。とにかく綺麗ですし、私たちは心の安らぎを得ることができるのです。それは観光産業の発展にもつながります。私たちは環境教育の場としてもよく使いますが、教育や研究のためにも大変重要です。研究の例を挙げれば、癌の特効薬を見つけようとか、エイズの発症を押さえる物質が見つかるのではないかと、世界中の研究者がサンゴ礁で研究をしています。
グローバルな見方で考えた場合、地球環境の変化を我々に教えてくれるようなサービスもあります。200年、300年生きているサンゴですと、木の年輪と同じで骨の中に過去の出来事、例えば、洪水や温度環境の記録を残すことがあるのです。これらの研究を進めるのが私たち科学者の仕事です。

サンゴ礁は自然の堤防

サンゴ礁のリーフは天然の防波堤(環境省提供)

サンゴ礁のリーフは天然の防波堤(環境省提供)

大塚― 生態系の経済的価値についても議論が進んでいますね。

土屋さん― 先ほど生態系サービスの1つとして、防波堤の話をしました。例えば、1メートルの人工堤防を作る費用が平均200万円として、沖縄県の周囲全域2000キロの海を人工的な堤防で囲ったらいくらかかるか、すぐ計算できるわけですね。あるいは、観光でいらっしゃるお客さんが使う旅費のある部分をサンゴ礁の価値と捉えることもできます。
世界では、美しい自然を利用するための利用料を徴収している場所もあります。ある国では出国する時に、環境使用料を何ドルか払うことになっています。自然に恩返しをするための基金、お金を集めて自然保全に役立てるというアイディアは最近ではかなり普通になってきましたが、サンゴ礁はその重要な対象なのです。


白化が報告されたのは1980年代以降

Translated by permission from RightsLink ® :Springer, Coral Reefs, Coral bleaching: ecological perspective, Dr. Glynn, P. W. © Springer Nature (1993)

Translated by permission from RightsLink ® :Springer, Coral Reefs, Coral bleaching: ecological perspective, Dr. Glynn, P. W. © Springer Nature (1993)
https://link.springer.com/article/10.1007%2FBF00303779

大塚― 多くの方が気にされているサンゴの劣化についてですが、今ご説明いただいた白化現象はどのサンゴでも同じように起きるのでしょうか。

土屋さん― 違います。それぞれのサンゴで、例えば高温に対する耐久能力に違いがあります。同じ場所でも、このサンゴは白化しているけれども、隣のサンゴは健康に見えるということはよくあります。白化に限らず、水が濁っても結構頑張って暮らしているサンゴもあれば、すぐだめになってしまうサンゴもあります。それから、同じサンゴでも、沖縄では水温が30℃を超えると白化するのに、紀伊半島ではもっと低い水温で白化してしまうということもあります。サンゴは、それぞれの場所で変動する環境に適応しているのでしょうね。

大塚― サンゴ礁の白化が日本で最初に大きく報じられたのは1998年で、沖縄の海で広範囲に発生したと記憶しています。

土屋さん― サンゴの白化が歴史的にどのように報告されてきたかについて、米国のマイアミ大学の研究者が1992年に論文【5】を発表しています。

大塚― どのような内容なのですか。

土屋さん― 1800年代からのサンゴ礁に関する論文を精査して、その中に白化現象という言葉や、白化の写真が紹介された論文を検証しているのです。その結果、白化が1980年以降に見られる現象であるということをみつけました。一方、オニヒトデの被害などによるサンゴの大量死は以前から起こっていたことが報告されていました。


平均気温が1℃上がるだけで大きな問題が起きます

石西礁湖(環境省提供)

石西礁湖(環境省提供)

大塚― 1980年ころに何があったのでしょうか。

土屋さん― 気候変動が国際的に認識され始めたころです。産業革命前の気温・水温が比較的安定していた頃から、平均水温が1℃上がった頃と言われています。わずか1℃の上昇で本当に白化が起きるのかと、最初は多くの人が不思議に思いました。熱帯の生きものだから1℃くらいの温度上昇には耐えられるのではないかという意見もありました。しかし、実験が繰り返され、情報を整理していくと、平均1℃という上昇はサンゴにとって、とても大変な上がり方であることが確認されました。平均値ということは、時にはそれよりも数℃も高くなることもあるわけで、そういう時に白化が起きたことも確認されてきました。白化は、人間活動の影響と言えるのです。

大塚― 今年に入ってからも白化の深刻な影響が報告された日本最大級のサンゴ礁、石西礁湖【6】の状況はどうでしょうか。

土屋さん― 去年の夏に石西礁湖の何か所かをまわってきました。白化しているのではなく、もう死んで岩になった状況が広がっていました。70%か、80%以上のサンゴが死亡していました。今、環境省は自然再生推進法に基づいて、協議会を作ってサンゴを復活させようとしています。人工的にサンゴの植え付けをし、時々回復の兆しが見られるのですが、次の年に温度が高くなり白化してしまうとまた死んでしまいます。そのいたちごっこを繰り返しています。ですから、再生事業がうまくいっているとは言えないのです。

サンゴ礁から貰ってきた恵みに恩を返すとき

国際サンゴ礁年2018のポスター(環境省提供)

国際サンゴ礁年2018のポスター(環境省提供)

大塚― 地域レベルではなかなか解決しがたい問題ですね。

土屋さん― 今までは、地域から白化に対する情報発信をあまりしてきませんでした。けれども、これからはサンゴ礁からもっとグローバルな発信をすべきと考え、「国際サンゴ礁年」である今年は、「つながる、広がる、支えあう」というテーマで活動しています。環境省が進めているサンゴ礁の保全計画でも、サンゴ礁とともに暮らしている私たちが日常から行動することで、地球全体が良くなるように積極的に情報発信していこうとしています。

大塚― ご紹介いただきました「国際サンゴ礁年2018」のオープニングシンポジウムで、土屋さんは「サンゴ礁生態系と共生する社会の実現」という題目でご講演されました。そのポイントをご紹介いただけますか。

土屋さん― サンゴ礁から私たちはいろいろな恵みを貰ってきました。貰ってきただけではなく、貰い過ぎてサンゴ礁を悪くしてしまったことを考えると、自然に対して、恩を仇で返しているような状況であると言ったのです。サンゴ礁だけでなく、自然に対してどんなお返しができるかを考えようというまとめをしました。ただ、具体的にそれがどういうことかはとても難しいことなので、それぞれの地域でお酒を飲みながら話をする時に、こんなこともできるのではないか、という話をしているところです。

大塚― グローバルな課題の1つに、気候変動問題への対応もありますね。

土屋さん― パリ協定では、産業革命時の気温からの上昇を2℃以内に、できれは1.5℃以内に抑えようとしていますが、サンゴ礁の研究者はそれでは不十分であると言っています。なぜかというと、産業革命前より1℃高い気温でも、1998年に世界的な規模で白化が起きた時の気温を超えているからです。サンゴ礁の地域では、もっと厳しく考えるべきであると主張し始めています。
私たちが原始の時代の世界に戻ることは無理ですから、どの辺りにまで戻ることができ、将来に向かってどう自然と共生できるかを考える時だと思います。ひょっとしたら50年や100年ではなく、1000年なのか、1万年なのか、長い時間を見据え、自然と人間の共存のための大きな目標を作る時かもしれません。具体的には、基金を集めて、それを保全に役立てようとか、個々の暮らしを見つめ直して地球温暖化・気候変動を和らげるための努力をしようと話をしました。それらが短期間にうまく進むとは思っていませんが、努力はしなければいけないというのがシンポジウムのまとめでした。


サンゴ礁だけでなくサンゴ礁に暮らす生きものに関心を持ってもらいたい

「サンゴしょうのおとぎ話〜なかよし家族の観察ノート〜」土屋誠著(2016年、(株)東洋企画印刷)

「サンゴしょうのおとぎ話〜なかよし家族の観察ノート〜」土屋誠著(2016年、(株)東洋企画印刷)

大塚― 最後になりますが、EICネットの読者に土屋さんからのメッセージをいただけますでしょうか。

土屋さん― サンゴ礁にはいろいろな人が関わっています。漁師さんはもちろん、研究で関わる人、観光でいらっしゃる人、遊びにくる人、いろいろですね。それぞれの人によって表現は違うのかもしれません。でも、サンゴ礁にもっと関心を持ってもらいたい、サンゴ礁だけでなくサンゴ礁に暮らす生きものに関心を持ってもらいたいというのが第一です。
最近痛感しているのは、沖縄でもサンゴのことを知らない子どもが多いのです。小学生の教科書にサンゴは出てこず、学校で習わないからやむをえません。一方で、保全をしようとする人たちは、もっと努力をしなければいけないと思っています。あるいは多くの大人が小さい頃に自然と親しんだような状況を、これから作り上げていくことができればいいなと思います。自然がたくさん残っている場所と大都会とでは違いますけれども、大都会は大都会なりに自然の楽しみ方があるはずです。東京でも、例えば日比谷公園に行けば、たぶん私は1日中子どもたちといろいろな話をしながら付き合えると思います。私が、子どもたちをサンゴ礁に連れて行って観察した様子をまとめた本があります。「サンゴしょうのおとぎ話」という題名で、誰でも見られる生きものについて、こんな風に面白がってほしいという手ほどきをした内容です。
また、大人の方々にはサンゴ礁と自然の保全についてもっと配慮してもらいたいと考えています。私たちはどうしても利便性を追求しがちですが、何か1つでもいいから我慢するような生活の変化をしていただければと期待しています。

大塚― 土屋さんから、サンゴとサンゴ礁について広い視野からお話をいただきました。その上で、解決が難しい問題があることとともに、そのような状況の中でも私たちがとるべき行動への示唆もいただきました。国際サンゴ礁年をきっかけに、状況を少しでも改善できればと感じました。本日は、どうもありがとうございました。

琉球大学名誉教授の土屋誠さん(右)と、一般財団法人環境イノベーション情報機構理事長の大塚柳太郎(左)。

琉球大学名誉教授の土屋誠さん(右)と、一般財団法人環境イノベーション情報機構理事長の大塚柳太郎(左)。


【1】蒲生干潟
 仙台湾に注ぐ七北田川の河口に位置する干潟で、面積は約5ha。湿地や砂浜の植生群落が発達し、シギやチドリなどの渡り鳥が多く飛来する。
【2】ムラサキイガイ
 イガイ目イガイ科に属する二枚貝の1種。洋食の食材としては、近縁種とともにムールガイ(仏語:moule)と呼ばれる。
【3】褐虫藻
 サンゴやイソギンチャクなどと共生する植物プランクトン。宿主が出す二酸化炭素によって光合成を行い、生成した酸素を宿主が呼吸する共生関係にある。
【4】川口四郎
 岡山大学名誉教授。二枚貝類と共生藻の共生関係の解明など、サンゴ礁の生物学的研究で世界的に活躍。氏の寄付金により、日本サンゴ礁学会には、サンゴ礁研究における顕著な業績に対して「川口奨励賞」が設けられている。
【5】米国のマイアミ大学の研究者が1992年に発表した論文
 Glynn, P. W. (1993) Coral bleaching: ecological perspective. Coral Reefs, 12(1), 1-17. https://link.springer.com/article/10.1007%2FBF00303779
【6】石西礁湖(せきせいしょうこ)
 「石西」とは、石垣島の「石」と西表島の「西」から名づけられた。石垣島と西表島の間に、東西約20キロ、南北約15キロにわたって広がり、竹富島、小浜島、黒島、新城島の周辺の海域が含まれる、日本最大のサンゴ礁海域。
アンケート

この記事についてのご意見・ご感想をお寄せ下さい。今後の参考にさせていただきます。
なお、いただいたご意見は、氏名等を特定しない形で抜粋・紹介する場合もあります。あらかじめご了承下さい。

【アンケート】EICネットライブラリ記事へのご意見・ご感想