一般財団法人 環境イノベーション情報機構

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No.077

Issued: 2018.05.21

国立環境研究所社会環境システム研究センター長・藤田壮さんに聞く、社会動向予測を取り入れた気候変動適応策

藤田 壮(ふじた つよし)さん

実施日時:平成30年4月16日(月)
ゲスト:藤田 壮(ふじた つよし)さん
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎

  • 国立研究開発法人国立環境研究所社会環境システム研究センター センター長。
  • 大成建設で都市開発計画等に携わった後、大阪大学大学院工学研究科助手・助教授、東洋大学工学部環境建設学科教授、同大学院工学研究科地域産業共生研究センター長を経て、2005年に国立環境研究所水土壌圏環境研究領域水環境質研究室長、同アジア自然共生研究グループ環境技術評価システム研究室長を歴任。2013年より現職。
  • 2008年より中国科学院瀋陽応用生態研究所客員教授、2009年より名古屋大学 大学院環境学研究科連携大学院教授。2017年より東京工業大学先進エネルギー国際研究(AES)センター特任教授。土木学会の部門別委員会委員長や国の検討会委員を多く務める。
目次
社会・経済活動と環境を横断的につなげる研究
シミュレーションモデル作りから実際の社会作りまで関わる
温暖化対策は適応策研究を強化し緩和策との両輪で動かす
気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)で情報発信
対話型シミュレーションで自治体の将来シナリオに合わせた適応モデルを
これまでの観測研究の実績を活かしながらアジア太平洋地域への貢献を進める
曲がり角にきている環境研究、次の展開は環境を前提とした社会転換のありかた

社会・経済活動と環境を横断的につなげる研究

統合研究プログラムで取り組むさまざまな断面での「統合」
[拡大図]

大塚理事長(以下、大塚)― 本日は、国立研究開発法人国立環境研究所(以下、国環研)社会環境システム研究センター長の藤田壮さんにお越しいただきました。藤田さんは大阪大学および東洋大学の工学部/工学研究科で教育研究に携わられた後、2005年から国環研に移られ、高環境効率の都市・地域計画をはじめ、分野横断的のシステム開発の設計と評価などの研究を進めておられます。今日の主なテーマである、「気候変動適応」研究やその情報発信でも重要な役割を担っておられます。
早速ですが、今、藤田さんがセンター長をなさっている社会環境システム研究センターは、どのような研究をしているところなのでしょうか。

藤田さん― 国環研には現在、8つの研究部門【1】があり、その1つが社会環境システム研究センターです。国環研の研究は、前身である国立公害研究所(公害研)の頃から、自然環境の観測や解析が主でした。これに対し、社会環境システム研究センターは人間の社会・経済の活動と環境との関係に焦点をあてています。加えて、これからあるべき社会とはどのようなものかという研究を、自然科学や工学など理系からのアプローチだけではなく、経済学や社会学、法学などの社会科学を含め横断的につなげるのが特徴です。
現在進められている第4期中長期計画の課題解決型研究プログラムには、5つの重点研究分野があります。低炭素研究プログラムや資源循環研究プログラム、自然共生研究プログラムや安全確保研究プログラムに加え統合研究プログラム(統合PG)があります。社会環境システム研究センターは各プログラムに参加しつつ、統合PGを主に担当しています。

大塚― 統合研究プログラムについてご説明いただけますか。

藤田さん― 多様な環境課題を統合しようということ、環境・経済・社会の統合や、グローバルなスケールの研究とミクロな都市のスケールの研究の統合をめざしています。例えば、気候変動がどのような形で生態系や植生に影響を与えるかということを研究するだけでなく、飢餓のリスク等とどのように関わるかということまで研究します。低炭素、自然共生や循環だけではなく、他の分野も含めて、実際の社会に適合して研究しようというのが特徴です。


シミュレーションモデル作りから実際の社会作りまで関わる

大塚― それぞれの研究テーマはどのように決めるのでしょうか。また、1つのテーマは3年あるいは5年くらいの時間をかけてなされるのですか。

藤田さん― 統合研究プログラムは5年をかけて取り組んでいます。研究テーマは、政府や企業、さまざまな社会側の研究ニーズに応える場合もありますし、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)やCOP(気候変動枠組条約締約国会議)など国際社会で重要とされていること、研究として必要だと思われることを考慮して、所内外での議論を通じて決めています。
もう1つ、“社会実装”も、社会環境システム研究センターの重要なテーマです。シミュレーションしてモデルをつくれば、将来温暖化が進むとか、飢餓が進むという全体像を示せます。一方で、地域エネルギー事業や、あるいはコンパクト都市事業に展開することも重要と思っています。福島県の新地町と、環境と経済が調和する復興を支援する協定を4年前に結び、「スマート・ハイブリッドタウン構想【2】」などのお手伝いをしています。先日は、公民連携の地域エネルギー会社【3】が設立されました。分野間統合、スケール間統合、それから社会化するまでが我々の役割だと考えております。

大塚― 藤田さん自身のご専門に非常に近いですね。

藤田さん― そうですね。都市計画が私の大学院の修士課程でのテーマでしたが、統合評価モデルなどの分野と合わせて、都市計画と環境科学を組み合わせた分野の研究も社会環境システム研究センターの特徴の1つであるかとも思います。

新地駅周辺地区の風景(画像提供:福島県新地町)

新地駅周辺地区の風景(画像提供:福島県新地町)

福島県新地町の地域エネルギーセンターに作られるイメージ(画像提供:福島県新地町)

福島県新地町の地域エネルギーセンターに作られるイメージ(画像提供:福島県新地町)


温暖化対策は適応策研究を強化し緩和策との両輪で動かす

国立環境研究所の適応研究枠組み(平成29年)
[拡大図]

大塚― 社会実装のことを考えると、地球温暖化の問題は非常に大きいと思います。緩和策(Mitigation)と適応策(Adaptation)、特に適応策のことが最近大きな話題になっていますが、2つの特徴や相互の関係に触れながら、国環研で特に関心を持っておられることをお話しいただけますか。

藤田さん― 気候変動を抑制して影響をできるだけ許容できるような範囲に抑えようとする、それがいわゆる緩和研究です。一方で、気候変動の影響は避けられないので、それに対応していこうというのが適応研究です。緩和と適応というのは両輪だと思っています。どうやってCO2を減らすか、どうやって温暖化を抑制するかという緩和についての研究は、国環研として30年の歴史があります。これから適応研究も一層強化して、国内外で緩和と適応の両輪をまわしていきます。適応研究には4つの分野があります。1つ目は気候変動の影響を観測して監視する体制を強化するモニタリングの研究です。2つ目は、モニタリングを受けてシュミレーションモデルを使い影響を予測する研究で、高度化という言葉にしていますが、できるだけスケール(影響範囲)を詳細化していくことが、これからの課題になります。3つ目はどちらかというと社会科学の分野に近いのですが、気候変動が起こって温暖化が進むと社会にどんなデメリットがあるか、どんなコストがかかるか、これを脆弱性と言って定量的に科学的に評価しようとしています。こうした3つのテーマ研究をまず日本で先行させて、それをアジアに展開することを4つ目に掲げています。


気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)で情報発信

大塚― 適応研究については、2015(平成27)年11月に閣議決定された「気候変動の影響への適応計画」に基づいて国環研に作られた気候変動適応情報プラットフォーム【4】に期待が集まっています。このプラットフォームを、今後どのように運用していこうとされているのでしょうか。

藤田さん― 気候変動適応情報プラットフォームは、アダプテーションプラットフォーム、略してA-PLATと呼んでいます。誰にでもわかりやすく操作できるホームページを作り、気候変動の影響への適応に関する情報提供を行っています。
昨年、2017年からは環境省の地方環境事務所を中心に国内6ヶ所の地域適応コンソーシアム(共同事業体)を作っています。自治体や企業から各地域の適応対策の情報を集め、国環研がそれらを解析し加工してコンソーシアムに展開します。A-PLATが、地域のコンソーシアムと研究者側である我々との間のインターフェースになります。国環研が様々な国立研究開発法人や大学との連携のもとで研究の成果を整理して、A-PLATを通じて社会に発信するという発想です。

環境省 気候変動適応情報プラットフォームポータルサイト( http://www.adaptation-platform.nies.go.jp/index.html )

環境省 気候変動適応情報プラットフォームポータルサイト
http://www.adaptation-platform.nies.go.jp/index.html

環境省 気候変動適応情報プラットフォームポータルサイト( http://www.adaptation-platform.nies.go.jp/lets/conso/overview/index.html )

環境省 気候変動適応情報プラットフォームポータルサイト
http://www.adaptation-platform.nies.go.jp/lets/conso/overview/index.html


対話型シミュレーションで自治体の将来シナリオに合わせた適応モデルを

大塚― 適応策については、自治体が苦労している話を各地で聞きます。A-PLATとしてどのように貢献しようとされているのでしょうか。

藤田さん― 社会が気候変動に対して、どれだけ対策を打って、どれだけ投資をして、どのような行動展開につなげるかということの検討は、これから急速に具体化すると考えています。枠組み作りを国環研をはじめとする研究機関が行って、それを情報発信し、現場からの反応を受けて改善し、研究を進めるところが鍵かと思います。また、データの提供だけでなく、地域に固有な気候変動情報を提示できるようにしているとともに、実際に適応計画の策定を支える情報を提供することをめざしています。

大塚― 自治体の規模は本当に千差万別ですが、どれくらいのスケールで情報提供するのでしょうか。

藤田さん― 今は都道府県単位です。ホームページ上にある47都道府県の地図をクリックいただくと、2100年に2℃の上昇で収まるシナリオから6℃程度上昇するシナリオまで、気温や降水量、米の収量などを確認できます。こうした自然科学側の将来モデルは、2050年までに非常に詳細に自治体単位、場合によっては10キロメートル四方ぐらいまで予測できる可能性はあります。一方で、そこに人が住んでいるか、農業をしているのかといった社会科学に関連の深い将来予測モデルは、これからの研究テーマです。気候モデルと組み合わせ、その地域で2050年にどういう将来像が想定され、対策をしたらどうなるかについて、A-PLATを通じて提供したいと考えています。

大塚― 人口や土地利用は大きく変化する可能性が高いと思いますが、自治体レベルでの情報提供について方法論的には目途がつきつつあるのですか。

藤田さん― さらに詳細な自治体の単位までダウンスケールするためには、それぞれの地域で優先度の高いニーズは何か、あるいは将来的に自分達の自治体をどうしたいかなど、社会側のシナリオを関係者と研究者の対話の中でシミュレーションしていかなければと思っています。社会対話をすることでシナリオを作り計画を作るのは、ヨーロッパやアメリカでは事例も出てきています。将来の課題になりますが、そういう新しいタイプのシミュレーション研究も適応研究においては必要になるのではないかという議論をしています。

環境省 気候変動適応情報プラットフォームポータルサイト
					http://a-plat.nies.go.jp/webgis/index.html )

環境省 気候変動適応情報プラットフォームポータルサイト
http://a-plat.nies.go.jp/webgis/index.html

環境省 気候変動適応情報プラットフォームポータルサイト「環境省環境研究総合推進費S-8温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究(2010〜2014)」における影響評価の研究成果に基づく。

環境省 気候変動適応情報プラットフォームポータルサイト「環境省環境研究総合推進費S-8温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究(2010〜2014)」における影響評価の研究成果に基づく。


これまでの観測研究の実績を活かしながらアジア太平洋地域への貢献を進める

アジア太平洋適応情報プラットフォーム(AP-PLAT)( http://www.adaptation-platform.nies.go.jp/en/ap-plat/ )

アジア太平洋適応情報プラットフォーム(AP-PLAT)
http://www.adaptation-platform.nies.go.jp/en/ap-plat/

大塚― 国環研の適応研究の4つのプログラムの1つに、アジア太平洋地域への展開がありました。日本政府もCOP23で、「アジア太平洋適応情報プラットフォーム(AP-PLAT)【5】」の2020年までの構築を表明しています。日本の取り組むべきテーマは多いと思いますが、どうお考えですか。

藤田さん― まずは国内のA-PLATを先行します。その後、AP-PLATの構築を行うべく、各国と協議を始めています。地域ごとに必要になる情報、将来的な気候予測情報、あるいは社会的な統計情報にバラつきがあるので、国連機関やEUをはじめとする諸外国とも連携しています。その1つとして、オランダ政府とUNEP(国連環境計画)と日本政府とで、GCECA(ジーシャ:Global Centre of Excellence on Climate Adaptation)という適応の国際的なネットワークの拠点を2年前から始めました。GCECAには、環境省とともに国環研も創立メンバーとして入っています。
AP-PLATとしては、その国の適応計画を支援していくことはもちろん、相手国の個々の研究機関が持っている情報をひとつにまとめてその国の情報を集約したり、環境省が直接、相手国の自治体の支援を行ったりしていくことも議論しています。

大塚― 外国の自治体を日本の環境省が支援するのですか。

藤田さん― はい。これはすでに始まっていて、例えば国環研も参加して、東京大学と環境省がインドネシアの複数の自治体の適応計画作りを支援しています。さらに、国環研としては先ほどお話したように、30年以上の緩和研究の実績があり、アジアに観測地点ネットワークがあるので、その観測データを使いながら適応計画、あるいは適応の社会システム作りを支援できないかという議論も行っています。


曲がり角にきている環境研究、次の展開は環境を前提とした社会転換のありかた

大塚― 複数の機関とコラボレーションをしながらの事業は非常にご苦労が多いと思いますが、国環研は特に緩和研究には多くの実績を持っているので、ぜひ貢献していただければと思います。
最後に、ほぼ30年にわたり環境研究に第一線で携わってこられている藤田さんが、いまの環境研究に関して思うところを一言お願いします。

新地町と連携するドイツの地域エネルギー先進都市 ザーベック町の様子
		(撮影:藤田壮、右写真はザーベック熱供給センターのパネルより)

新地町と連携するドイツの地域エネルギー先進都市 ザーベック町の様子
(撮影:藤田壮、右写真はザーベック熱供給センターのパネルより)

藤田さん― 先日、環境研究がある種の転換点にきているのではないかという議論を、我々の年代の研究者グループで行う機会があったのですが、議論を通じて次のように思っています。
1967年の公害対策基本法制定から30年くらい経った1990年代から2000年代の初めが、環境研究の1つのピークでした。1997年のCOP3での温暖化の議論、さらに資源循環の議論があり、多くのことが環境という枠の中で研究されていた時代がありました。
そこからさらに20年近く経った現在、レジリエンスなど、ある意味では環境よりも広いテーマの中で、環境の価値や力を、1つは国土や都市のインフラづくりに、1つは産業づくりに、そして社会づくりに展開する、新たなタイプの環境研究が求められてきていると思っています。例えばドイツやオランダなどヨーロッパに行くと、すべてが環境のもとで社会転換をしようとしていますが、日本はまだ、低炭素よりは景気、社会の資源循環よりは新しい産業という議論が主流です。環境が社会づくりの基盤であり前提になるということを、より多くの人々に納得いただけるように、科学的でありつつ、よりシンプルにより透明性をもって説明するのが、これからの研究者側の課題になると思います。そのためにも、インターネットを使ったコミュニケーションは重要で、EICネットのように情報を通して社会に対し新しい方向転換の布石をうつような試みを、我々の研究所でも意識的に進めないといけないとも思っています。


大塚― まさにお話いただいたように、環境か経済かと言っている場合ではないですよね。私達もできるだけのことができればと思います。本日は、どうもありがとうございました。

国立研究開発法人国立環境研究所社会環境システム研究センター長の藤田壮さん(右)と、一般財団法人環境イノベーション情報機構理事長の大塚柳太郎(左)。

国立研究開発法人国立環境研究所社会環境システム研究センター長の藤田壮さん(右)と、一般財団法人環境イノベーション情報機構理事長の大塚柳太郎(左)。


【1】8つの研究部門
国立環境研究所には以下の8つの研究実施部門がある。地球環境研究センター、資源循環・廃棄物研究センター、環境リスク・健康研究センター、地域環境研究センター、生物・生態系環境研究センター、社会環境システム研究センター、環境計測研究センター、福島支部。
【2】福島県新地町のスマート・ハイブリッドタウン構想
情報通信技術とコミュニティを支える社会の仕組みを組み合わせることで、災害による避難や移転などで失われがちな地域の「絆」を再生しようというもの。国立環境研究所の他、福島県、大学、環境省、経済産業省、エネルギー事業者、メーカー、IT事業者などと連携している。
https://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/60/column1.html
【3】エネルギーセンターがオープン
福島県新地町、新地スマートエネルギー設立 新地駅周辺に電気や熱を供給(EICネットニュースより)
【4】気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)
気候変動の影響への適応に関する情報を一元的に発信するためのポータルサイトで、地方公共団体、事業者、個人が、気候変動への対策(適応策)を検討することを支援することを目的として、必要な科学的知見(観測データ、気候予測、影響予測)や関連情報を収集・整備し、ステークホルダー間の情報共有を促進することを目的とする。
http://www.adaptation-platform.nies.go.jp/
環境用語「気候変動適応情報プラットフォーム」
【5】アジア太平洋適応情報プラットフォーム(AP-PLAT)
日本で展開される気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)で蓄積されたノウハウを、アジア太平洋地域に拡げたものを2020年までに整備予定。途上国の行政・研究機関などと協働して、気候変動に関する情報を収集、加工し、情報共有を行うことを目的とする。
http://www.adaptation-platform.nies.go.jp/en/ap-plat/
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