一般財団法人環境イノベーション情報機構
エコチャレンジャー 環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

No.078

Issued: 2018.06.19

第78回 食品ロス問題の専門家・井出留美さんに食品廃棄の課題と解決の糸口を聞く

井出 留美(いで るみ)さん

実施日時:平成30年6月1日(金)
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎
ゲスト:井出 留美(いで るみ)さん

  • 食品ロス問題専門家、ジャーナリスト、博士(栄養学)
  • 奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学)。修士(農学)。
  • 食品企業広報室長として東日本大震災食料支援に関わった後、退社して(株)office3.11を設立。
  • 日本初のフードバンク「セカンドハーベスト・ジャパン」の広報を委託され、PRアワードグランプリ ソーシャル・コミュニケーション部門最優秀賞などを団体として受賞。著書に『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』(幻冬舎新書) 2018年など。
  • 第二回食生活ジャーナリスト大賞「食文化部門」を受賞。
  • 井出留美オフィシャルサイト: http://www.office311.jp
目次
東日本大震災がきっかけで独立し会社を設立
日本でも増えているフードバンク
食品ロスの基本も3R
水資源と食品ロスの関係
コンビニエンスストアの食品廃棄の課題
過剰なゼロリスク志向を見直し、制度を整える
関心のない人にもひっかかる言葉、テーマを考えてみては

東日本大震災がきっかけで独立し会社を設立

セカンドハーベスト・ジャパンの広報を担当していた時、福島県から避難していた方のところにも炊き出しに行った(井出留美さん提供)

セカンドハーベスト・ジャパンの広報を担当していた時、福島県から避難していた方のところにも炊き出しに行った(井出留美さん提供)

大塚理事長(以下、大塚)― 食品ロスは、私たちにとって身近な問題であると同時に、国連のSDGs(持続可能な開発目標)でも取り上げられているように、国際的にも大きな問題になっています。今回は食品ロスの削減に取り組んでおられる井出留美さんにお出ましいただきました。井出さんは、2017年度第2回「食生活ジャーナリスト大賞(食文化部門)」を受賞されるなど、この分野の一線で活躍されておられます。本日は、私たちが食品ロスの問題をどのように認識し、どのように振る舞うべきかに焦点をあてながら、お話を伺います。
はじめに、井出さんが食品ロスの削減に取り組むことになったきっかけを教えていただけますでしょうか。

井出さん― 最初に食品ロスに関わったのは、アメリカに本社があるグローバルの食品企業に勤めていた2008年です。アメリカではまだ食べられるけれども商品としては流通できないもの、例えば凹んだ缶詰やパッケージが破れた商品をフードバンクというところに寄付をする社会貢献の仕組みがあります。それを日本でも始めたらどうか、とアメリカの本社から話がきたのです。私は広報担当だったので、日本初のフードバンクであるセカンドハーベスト・ジャパン【1】へ、流通に乗らない自社製品の寄付を始めました。

大塚― 廃棄コスト削減にもなる食品寄付の取り組みについて、アメリカにはどのようなノウハウがあるのでしょうか。日本と違うのはどんな点でしょうか。

井出さん― アメリカでは食品を寄付することで税の優遇を受けられます。また、日本では寄付した品に不備があった場合、製造者の責任になるのですが、アメリカでは善意の寄付の場合、意図せざる事故であれば責任を問わない、善きサマリア人(びと)の法【2】という免責の法律があります。食品の製造業にとって寄付をしやすい2つのインセンティブです。ひるがえって日本を考えると、法制度が整っていないため食品メーカーの多くはまだ第三者に託すということがしづらい状況です。私が勤めていたのはグローバル企業で、本社からの提案という事もあって、日本でもすんなり取り組みが始まりました。

大塚― 2008年から企業の広報として食品ロス削減に関わられて、そこから現在にいたるまでにはどんなことがあったのでしょうか。

井出さん― 2011年3月11日の東日本大震災が大きな契機でした。震災後、自社の商品を支援物資として被災地に届けるために活動する中で、理不尽な無駄をたくさん見ました。例えばこちらから仮に490個の支援物資を持って行ったとしても、避難所に500人いると足りないので配りません。また、配布する食品の不均衡も目につきました。こちら側にはものすごい量があるのに必要としているところに配れないなど、なぜあのような未曾有の大震災の時に命をつなぐ食品を無駄にしてしまうのかということをたくさん経験しました。

大塚― 本当にたくさんの方が努力しているのに、なかなかうまく現地に届かないという話をよく聞きました。

井出さん― いろいろ考えたあげく、震災の年の秋に会社を退職しました。最終出社を終えてすぐに、企業時代に付き合いのあったセカンドハーベスト・ジャパンのトラックで石巻に行ったのですが、その帰り、団体の広報をやってくれないかと頼まれ、その後3年間携わることになりました。

大塚― ご自身の会社はどのような経緯からつくられたのですか。

井出さん― 当初はとにかく現地に行きたいという思いがあって、あまり先の事は考えていませんでした。会社を立ち上げることも考えていなかったのですが、セカンドハーベスト・ジャパンの広報の他にもいくつか仕事をいただいたので、良い機会だと思い株式会社office 3.11を立ち上げました。自分の誕生日でもあり転機でもある3月11日が会社名に入っています。


日本でも増えているフードバンク

東日本大震災後、商品棚が空っぽになった宮城県石巻市内のスーパー(井出留美さん提供)

東日本大震災後、商品棚が空っぽになった宮城県石巻市内のスーパー(井出留美さん提供)

大塚― 井出さんが食品ロスに関わる最初のきっかけともなったフードバンクの発想は、日本でも浸透してきているとお考えですか。

井出さん― 放物線を描くように浸透してきたなと思います。セカンドハーベスト・ジャパンができたのが2000年で、2番目は2003年、フードバンク関西という兵庫県の団体でした。その後2007年頃にテレビでフードバンクの特集が放送された時に、日本の大手冷凍食品メーカーのニチレイも寄付していることがわかって、寄付をする側の日本の企業のハードルもだいぶ下がり、沖縄県や山梨県、そして広島県にもひろがりました。次の転機は、やはり2011年かなと思います。

大塚― 工場が被災して、首都圏でも買い占めなどがあって棚から食べものが消えてしまい、いつもあるのが当たり前ではないのだということを多くの人が感じるきっかけとなりましたね。

井出さん― 食品製造業で需要と供給のバランスが崩れ、フードバンクへの問い合わせが増えたという事実もあります。例えば、福島県では放射性物質が拡散して、飲み水が大量に必要でした。それでどんどん生産したのですが、ダブついてしまうことがあり、今までは二の足を踏んでいた、石橋を叩いていたような大手の食品製造業からフードバンクに問い合わせが増えました。

大塚― 社会的に認知されだしたのもこの頃ですね。

井出さん― 2012年には農林水産省と流通経済研究所と製造業、卸売業、小売業で食品ロスを生み出す商慣習を検討するワーキングチームが立ち上がりました。2015年には生活困窮者自立支援法が制定され、そうした流れに付随してフードバンクも増えてきました。流通経済研究所の調べでは、現在、全国に77のフードバンクがあるといわれます。活動主体の多くはNPOですが、一部、例えば群馬県の太田市では市が、島根県安来市では社会福祉協議会がやっている例もあります。


食品ロスの基本も3R

すぐたべくん:「すぐに食べる」商品については、賞味期限や消費期限が近い商品から購入するよう呼びかけるキャラクター

すぐたべくん:「すぐに食べる」商品については、賞味期限や消費期限が近い商品から購入するよう呼びかけるキャラクター

大塚― 冒頭でSDGsにも関係するという話をさせていただきましたが、食品ロスに関して、この点だけは理解してほしいことをご紹介ください。

井出さん― 食品も環境のキーワードである3R(スリーアール)が重要です。そして、第1にリデュース、第2にリユース、第3にリサイクルという優先順位をぜひ意識してください。3Rが横並びで理解されているようなので、気になります。

大塚― リサイクルという言葉に比べて、リユースとリデュースはなじみが薄いのかもしれません。

井出さん― メディアの取材を受ける時に、必ず「リデュースが一番です」と口酸っぱく言うのですが、やはり、大量のお弁当やパンがリサイクルされる映像などは衝撃的なのでメディアに好まれるのですよね。

大塚― フードバンクはリユースですね。

井出さん― フードバンクの広報をしているときは「リユースをすることによって結果的にはリデュースになります」と言っていましたが、テレビは「困った人が助かります」という、人の善意に訴えるわかりやすい説明をします。それ自体、悪い訳ではないのですが、まず最初に優先順位をきちんと理解して欲しいなと思います。
農水省の最新の値で、食品ロスは年間646万トンです。東京都環境局では、都民が一年間に食べる量と同じくらいだと例えています。私も講演では、「魚介類の年間消費量とほぼ同じくらいです」とか、「世界の食糧援助量320万トンの約2倍です」と言い換えて伝えています。

大塚― 世界で起こっていることと比較するなど、それぞれ伝え方も工夫をされているのですね。
身近な生活で、買い過ぎや食べずにそのまま捨ててしまうことなど、どうやったら減らせるでしょうか。

井出さん― 冷蔵庫がキーポイントだと思います。仕事でも、インプットしたら、それをアウトプットしていくというのは大事ですが、冷蔵庫も循環を作ってみてはいかがでしょう。例えば、土日に買い出しをして、それを月・火・水・木・金でできるだけ使い切っていくと、使い切った時の清々しさを味わえます。ずっと入れっぱなしにしておくと味わえない、買い過ぎたら達成できないですよ(笑)。


水資源と食品ロスの関係

バーチャルウォーターの輸入量(環境省_平成25年度版 図で見る環境・循環社会・生物多様性白書より)

バーチャルウォーターの輸入量(環境省_平成25年度版 図で見る環境・循環社会・生物多様性白書より)

大塚― EICネットは環境問題を扱うことが多いのですが、食品ロスの問題を環境問題としてみた場合、大事なポイントは何でしょうか。

井出さん― 水資源という視点は、意外と見えていないように感じます。よく講演で、ハンバーガー1個を作るのに、どれぐらい水を使うと思いますかと聞いて、①30リットル、②300リットル、③3,000リットルの3者択一で手をあげてもらうのですが、当たる人が少ないです。(ちなみに答えは③3,000リットル)
環境省のバーチャルウォーターの考え方ですが、実は、海外から輸入をしている牛肉は大量の水資源を使っていますし、牛の飼料を作るにも水は使われます。SDGsでも6番目に「安全な水とトイレをみんなに」という目標があります。世界中で約8億4400万人がきれいな水に到達できていないのに対し、日本は蛇口をひねれば真水が出ますから、その感覚がわからないのかもしれません。


コンビニエンスストアの食品廃棄の課題

コンビニエンスストア オーナーによる食品ロスの調査(Yahoo!ニュース井出留美さんコラム「こんなに捨てています・・」コンビニオーナーたちの苦悩 より)

コンビニエンスストア オーナーによる食品ロスの調査(Yahoo!ニュース井出留美さんコラム「こんなに捨てています・・」コンビニオーナーたちの苦悩 より)

大塚― 話は変わりますが、コンビニエンスストアなどは食品がかなり大量に廃棄されていると聞きますが、システム的に改善できそうな可能性はあるのでしょうか。目標を立てて減らそうとしているというのは、新聞などでも見るのですが、なかなか難しいのでしょうか。

井出さん― 業界をピラミッドに例えてみます。メーカーからすると小売店がトップにいます。特に全国に展開している小売りだと、それだけ取扱量も多くなりますし、メーカーは複数の競合会社から選ばれる立場なので弱いです。そして、欠品をするとペナルティや取引停止の可能性もあるので、見込みより多めに作っておくことになり、結果的に在庫を抱えすぎてしまうことがあります。このように業界ごとのヒエラルキーがあります。コンビニ業界では本部が一番上にいて、オーナーさんがいるという図式です。また、捨てた方が本部は儲かるコンビニ会計という独自のシステムがあります。仕入れて売れなかった分の原価はオーナーさん持ちなので、スーパーでは当たり前の見切り販売、値下げ販売が、コンビニでは全国で1%くらいしか行われていないのが現実です。

大塚― 即効薬はないと思うのですが、将来考えられる改善の方向性はありますか。

井出さん― 例えば、全国にまだあまり知られていない事例なのですが、欠品OKと言っている福岡県のスーパーマーケットがあります。コンビニにも、そうした良い事例を知らせていきたいです。


過剰なゼロリスク志向を見直し、制度を整える

3分の1ルールの概念図。製造から賞味期限までの期間を3分の1ずつ均等に分け、最初の3分の1を「納品期限」、3分の2を「販売期限」としている。期限を過ぎたらメーカーへ返品もしくは廃棄となる。(井出留美さん提供)

3分の1ルールの概念図。製造から賞味期限までの期間を3分の1ずつ均等に分け、最初の3分の1を「納品期限」、3分の2を「販売期限」としている。期限を過ぎたらメーカーへ返品もしくは廃棄となる。(井出留美さん提供)

大塚― いまお話いただいた商慣習のほかに、賞味期限の表示で課題となっていることがあるようですね。

井出さん― 賞味期限の年月表示についてです。現在、法律上は3カ月以上賞味期限があるものについては、日付を抜いて良いのですが、ペットボトルや缶詰、レトルト食品を見るとまだ日付が入っているものが多いです。もちろんメーカーの立場から、トレーサビリティを担保しないといけないのは理解できます。でも、数字を入れなくても、記号など他の方法でそれは担保できます。賞味期限が本当にネックになり、それに安全係数がかけられているので、納入期限や販売期限がものすごく前倒しになっています。

大塚― 安全係数とはどのようなものでしょうか。

井出さん― リスクを考慮し、実際の賞味期限に掛け算する1未満の数字のことです。たとえば10ヶ月の賞味期限のカップラーメンでしたら、そこに0.8を掛け算し、8ヶ月が「賞味期限」となります。国(消費者庁)は0.8以上を推奨していますが、実際に聞いてみると0.7、0.6、以前は0.3にしている会社もありました。
また、これも日本の商慣習のひとつで、3分の1ルールというものがあります。製造業が小売店に商品を納入する期限を、製造日から賞味期限までの3分の1以内にする慣習的なルールです。さらに、小売店での販売期限をそこから3分の1としているので、賞味期限までまだ十分な期間があるのに、販売せずに廃棄されることがあります。これは極端な「ゼロリスク志向」ですよね。

大塚― 食品ロスが問題になったことによって、変わろうという動きはあるのでしょうか。

井出さん― 大手の小売業は納入期限を2分の1に伸ばしたり、販売期限を賞味期限ギリギリまで延長したりすることでロスを10%削減したという実証実験の成果があります。ただ、中小の小売業者までは取り組みが進んでおらず、3分の1どころか5分の1というところも存在します。日本は1割の大企業に対し、9割が中小企業なので、そこがネックになっています。

大塚― まずは大手が取り組むことで、中小に波及していくといいですね。

井出さん― 昨年(2017年)の5月、農林水産省と経済産業省が連名で「食品ロス削減に向けた加工食品の納品期限の見直し及び賞味期限の年月表示化の取組について」という通知を出しています。制度がもっともっと後押ししてくれるよう、働きかけていきたいと考えています。


関心のない人にもひっかかる言葉、テーマを考えてみては

大塚― 最後に、少し幅を広げて、井出さんがEICネットを見ている方に伝えたいことをご紹介ください。

井出さん― 環境はともすると、本当に意識の高い人しか関心を持たないというところがあって、もっと広めていくためには、いかに関心がない人に振り向いてもらうかも大事かなと思います。私が食品メーカーに勤めていた時に小学校のPTAや学校保健会などから食育の講演を頼まれることが何度もありました。でも、食育講演会と銘打つと、既に熱心にやっている親御さんしか来ません。本当は関心のない親御さんに伝えたいので、ある時「モデルの美肌術」というテーマでやりました。たまたまその時、モデルの卵にアンケートを取って、彼女たちが肌をきれいに保つために何をしているかと聞いていました。私たちは、彼女たちがきっとエステに行って、高い化粧品を使っているのだと予測していたのですが、ふたを開けたら1位の答えが睡眠だったのです。それ以外のトップ5も便秘をしない、栄養バランスをとる、朝食を摂るなど、すべて生活習慣でした。美のプロフェッショナルは、そういう基本的なところをしっかりやっている、という話から食育にスムースにもっていけるように感じました。
EICネットのようなサイトを見ている方は、本当に熱心で意識が高く、勉強していらっしゃると思います。しかし、みんなが環境問題に関心を持っているわけではないので、どうやって関心のない人の心にひっかかるようなしかけ(フック)を作るかを考えると良いかなと思います。

大塚― 身につまされるご意見、ありがとうございます。これからも、企業やNPOの広報で培われたご経験と栄養に関する見識を活かしてのご活躍をお祈りいたします。

食品ロス問題専門家・ジャーナリストの井出留美さん(右)と、一般財団法人環境イノベーション情報機構理事長の大塚柳太郎(左)。
食品ロス問題専門家・ジャーナリストの井出留美さん(右)と、一般財団法人環境イノベーション情報機構理事長の大塚柳太郎(左)。


【1】セカンドハーベスト・ジャパン
日本で初めてのフードバンク。食品製造メーカーや農家、個人などから、まだ充分食べられるにも関わらずさまざまな理由で廃棄される運命にある食品を引き取り、それらを児童擁護施設の子どもたちやDV被害者のためのシェルター、路上生活者などに届ける活動を行なっている。正式名称は、認定特定非営利活動法人セカンドハーベスト・ジャパン。http://2hj.org/
【2】善きサマリア人(びと)の法
公共の場で緊急自体が発生した場合、窮地に陥った人を救うために無償で善意の行動をとった人は、過失責任を問われない、という趣旨の法である。アメリカのすべての州やカナダで法制化されている。災害に見舞われたり急病になったりした人などに対して行う行為を意図する場合が多いが、フードバンクなどの食料支援にも適用する。