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環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

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環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

目次
海洋研究開発機構の北極観測は1990年代初めから始まる
北極の海氷面積は薄く、小さくなっている
北極の気温は10℃近く上昇し、海氷が今世紀半ばにほぼなくなる
【1】国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)
 海洋に関する基盤的研究開発、海洋に関する学術研究に関する協力等の業務を総合的に行うことにより、海洋科学技術の水準の向上を図るとともに、学術研究の発展に資することを目的とした組織。
 JAMSTECの研究部門のひとつである「北極環境変動総合研究センター」は、海洋を中心に北極の環境変動研究及び技術開発を総合的に推進し、科学技術の側面から北極評議会(AC)などの国際的な北極政策の枠組みに貢献することを目的としている。
"https://www.jamstec.go.jp/iace/j/
【2】海氷
 海水が凍結したもの。海水は塩分を含むため、凝固点は-1.7〜-1.8℃くらい。同じく海に浮いている氷山など淡水由来の氷とは性質が違うため、区別して考えることが多い。

No.082

Issued: 2018.10.19

第82回 海洋研究開発機構の菊地隆さんが見てきた北極の海氷減少と環境変化[1]

実施日時:平成30年9月12日(水)
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎

海洋研究開発機構の北極観測は1990年代初めから始まる

菊地 隆(きくち たかし)さん
菊地 隆(きくち たかし)さん
国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC) 北極環境変動総合研究センター長代理 兼 北極環境・気候研究ユニット ユニットリーダー

 北海道大学大学院理学研究科 博士後期課程修了。専門は、海洋物理学、極域海洋学、極域気候学。
 1996年、海洋科学技術センター(現:海洋研究開発機構)に入所、以後、北極海の環境/気候変化に関わる観測研究に従事。1997年から研究チームの一員として参加以来、これまでに25回の北極海観測歴がある。
 主な国際的な北極研究に関する活動に、IABP(International Arctic Buoy Programme: 国際北極ブイ計画)執行委員会メンバー(2008年〜)、PAG(Pacific Arctic Group: 太平洋側北極海研究グループ)(2012年〜・2016年11月から議長)。北極評議会の作業部会で取りまとめている環境報告書の執筆者グループの一員でもある。

大塚理事長(以下、大塚)― 本日は、国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)【1】で、長年にわたり北極圏の環境、とくに海洋環境の変化とその影響に関する研究に取り組んでおられる菊地隆さんにお話を伺います。
JAMSTECは日本で最先端の海洋研究をされていますが、北極圏では主にどのような調査をされているのですか。

菊地さん― 日本では、20世紀中頃から研究者個人のレベルで、アメリカなどの研究者と協力した北極での研究が行われていました。その中で、JAMSTECが最初に北極観測を始めたのは、1990年初めになります。2015年には、JAMSTEC内に北極環境変動総合研究センター(IACE)を立ち上げました。ここでは、「北極環境・気候研究」「北極海洋生態系研究」「北極化学物質循環研究」「北極域気候変動予測研究」「北極観測技術開発」の5つのユニットに分かれ、北極の環境に関するあらゆる事象の調査研究をしており、私は北極環境変動総合研究センター長代理とともに、北極環境・気候研究のユニットリーダーを務めています。
 JAMSTECの海洋地球研究船「みらい」は、1998年に初めて北極に行ってから20年間に15回北極航海を行いました。氷のあるところには入れないのですが、氷がなくなった北極の調査には適しています。例えば、北極なのに温帯低気圧のような雲の発達過程が見られることや、氷がなくなった海で日本近海で見られるような渦活動が活発に起き、生物の活動にも関係すること、海洋酸性化の進行などについて調べています。

大塚― 「みらい」は1回にどのくらいの期間、航行するのですか。

菊地さん― 港を出て港に戻ってくるまで最長で45日です。積んでいける食料などの関係で決められています。

大塚― 専門家、研究者は何人くらい乗船されるのでしょうか。

菊地さん― 定員80名のうち、研究者及び観測技術員が44-46名で、船員が34-36名です。これまではほぼ毎年、1年のなかで一番氷が少なくなる9月頃を中心に観測航海を行ってきました。

大塚― 氷の少ない時期に行って、氷ができる前に帰ってくるわけですね。

菊地さん― その際、船が行けない時期の海洋のデータをとるために海の中に観測装置を入れて、重要な地点での通年データを長期にわたって取っています。アラスカの一番北にあるバローという町の沖合には、太平洋側から北極海に流れていく太平洋起源の海水の約6割が通る場所があります。そのバロー沖で、どれぐらい流れがあって、どのぐらいの塩分の水が通っているのか、そこを通ってどれくらいの熱が北極に入っているかなど、2000年から現在までデータを取っています。同じように各国の研究機関や大学などによって、北極海の流れの鍵となる重要な場所で海洋環境の長期モニターが行われています。

海洋地球研究船「みらい」(2016年北極航海から)
海洋地球研究船「みらい」(2016年北極航海から)

北極の海氷面積は薄く、小さくなっている

大塚― これまでに長期の調査・研究の積み重ねがあるのですね。そのなかで、北極圏の海氷【2】が実際にどの程度減少しているのか、最終的にはすべての海氷が消失してしまうのかなど、基本的な状況についてご紹介ください。

菊地さん― 北半球の海氷は、冬に増えて3月ぐらいに一番面積が広くなり、そこからどんどん融けて夏の終わりの9月に一番小さくなります。人工衛星による観測が始まった1979年から20世紀のうちは、9月の最小面積が650万〜700万平方キロメートルくらいで推移していました。その時から見て明らかに減少しています。

大塚― 21世紀、つまり2000年頃から変化がみられたのですね。

菊地さん― 20世紀の終わりぐらいから減りはじめ、2002年、2005年、2007年、2012年と最小面積を更新しています。2012年の最小面積はおよそ320万平方キロメートルでした。

大塚― 20年で約半分になっていますね。

菊地さん― 最近はだいたい350万から500万平方キロメートルの間です。海氷が最大になる2月後半から3月前半の面積も、1979年は1667万平方キロメートルだったのが、2017年は1455万平方キロメートルまで減っています。

大塚― 面積以外に、厚さも海氷減少に関係しているのでしょうか。

菊地さん― おおいに関係しています。人工衛星で厚さを測るのは難しいのですが、代わりに氷の動きと年々の海氷面積の変化を調べて氷の年齢、数え年みたいなものを計測することができます。

大塚― その「氷の数え年」について、具体的に教えていただけますか。

菊地さん― 衛星画像から、キロメートルの単位で海の氷が動くのがわかります。氷が北極海を移動しながら面積の増減を繰り返しているのを1年単位で観測し、その海氷ができてから1年、2年、3年…と年数を付けていくのです。それに加え、氷の上に置いてその位置などを追跡できる漂流ブイの情報をもとに氷の動きを観測し、衛星画像と合わせて判断しています。海氷は年数を経るほど冬の成長によって厚くなるので、厚さと置き換えて考えることができます。以前は数え年が4〜5年以上の厚い氷が北極の海を広く覆っていたのですが、最近は海氷の融解が進んだり、北極海から出ていく氷が多かった年があったりして、多くが1〜2年のものになっています。つまり、面積が小さくなって氷が若く、薄くなっているのです。

地図でみる北極海の海氷年齢の変化
地図でみる北極海の海氷年齢の変化(NSIDC Arctic Sea Ice News & Analysis, monthly archives: October 2017, Figure 4b, https://nsidc.org/arcticseaicenews/2017/10/, W. Meier/National Snow and Ice Data Center, M. Tschudi et al.)
※拡大図はこちら

グラフでみる北極海の海氷年齢の変化(NSIDC Arctic Sea Ice News & Analysis, monthly archives: October 2017, Figure 4b, https://nsidc.org/arcticseaicenews/2017/10/, W. Meier/National Snow and Ice Data Center, M. Tschudi et al.)
グラフでみる北極海の海氷年齢の変化(NSIDC Arctic Sea Ice News & Analysis, monthly archives: October 2017, Figure 4b, https://nsidc.org/arcticseaicenews/2017/10/, W. Meier/National Snow and Ice Data Center, M. Tschudi et al.)
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北極の気温は10℃近く上昇し、海氷が今世紀半ばにほぼなくなる

大塚― 作られる海氷より、減っている海氷のほうが多いということでしょうか。

菊地さん― はい。それはとても重要なポイントです。「温暖化が進行して北極の氷が融けやすくなった」とよくいわれますが、新たに作られる海氷も減っているのです。そしてこの海氷の融解や生成に大きく影響するのが、雪・氷と海水との反射率(アルベド:Albedo)の違いになります。雪や氷の反射率は85〜90%なので太陽の光(熱)のほとんどを反射する(はねかえす)のですが、海水面の反射率は約10%しかありません。ほとんどの光(熱)を吸収します。つまり、氷が融けると、融けた水面に太陽の光があたって、海が温まります。海が温まるとその熱が氷を融かし、さらにそこに太陽の光が入って海の氷が融けて…というようにどんどん氷が減っていきます。これがアイス・アルベド・フィードバック(Ice-Albedo Feedback)と言われる海氷融解の増幅効果です。また夏が終わって秋になったとき、以前であれば、海氷が残っていた海はそれほど温度が高くありませんでした。そのために、寒くなればすぐに氷が張り始めていました。しかし最近では、夏の間に海が太陽の光で温められているため、まずは海水を冷やさないと氷ができない事態になっているのです。夏の海氷減少が秋の氷のでき始めを遅らせて、作られる海氷が減るのです。また、海の熱が大気に出ていくので、秋から冬にかけて北極の気温が上がっています。地球全体の気温が2100年までに2℃から3℃上がるかもしれないといわれている時に、北極は8〜9℃、もしかすると10℃も上昇するといわれています。

大塚― 8℃とか9℃、あるいは10℃も上がるということは、海氷がほぼなくなるという状況が想定されているのでしょうか。

菊地さん― はい。例えば今すぐに二酸化炭素排出を全部やめたからといって、変化はもう止まりません。今世紀半ばぐらいまでには、おそらく海氷がほぼなくなるといわれています。北極の海氷減少については、残念ながら臨界点を越えてしまったと思います。

緯度帯毎の年平均気温偏差の経変変化(1951-1980年からの差の分布, NASA GISS Surface Temperature Analysis, https://data.giss.nasa.gov/gistemp/graphs/ のデータより作成)
緯度帯毎の年平均気温偏差の経変変化(1951-1980年からの差の分布, NASA GISS Surface Temperature Analysis, https://data.giss.nasa.gov/gistemp/graphs/ のデータより作成)
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結氷期(前年10月〜5月)の平均気温分布(左:1948〜2009年の平均、右:2008-2009年の結氷期)
結氷期(前年10月〜5月)の平均気温分布(左:1948〜2009年の平均、右:2008-2009年の結氷期)
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