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No.019

Issued: 2002.02.28

ノンフロン冷蔵庫がついに国内で発売普及のカギを握るのは消費者の動向

目次
代替フロンは強力な温室効果ガス
ノンフロン冷蔵庫は冷媒に炭化水素を使用
欧州より発売が遅れた理由は冷却方式の違い
炭化水素の発火を防ぐためさまざまな工夫
他社も売れ行きを見て製品化を検討
グリーンピースは、ドイツの研究所と企業に委託してノンフロン冷蔵庫を開発。日本でも、グリーンピース・ジャパンが8年間に渡り家電メーカーにノンフロン冷蔵庫の開発を求めてきた。(写真提供:グリーンピース・ジャパン)

グリーンピースは、ドイツの研究所と企業に委託してノンフロン冷蔵庫を開発。日本でも、グリーンピース・ジャパンが8年間に渡り家電メーカーにノンフロン冷蔵庫の開発を求めてきた。
(写真提供:グリーンピース・ジャパン)

 冷媒にフロン代替フロンも使わない冷凍冷蔵庫が、ついに国内でも買えるようになりました。2002年1月から2月にかけて相次いで発売された「ノンフロン冷蔵庫」なら、オゾン層を破壊することもなく、地球温暖化を促進する心配もありません。ドイツでは、すでに家庭用冷蔵庫市場のほぼ100%を占めるというノンフロン冷蔵庫。国内での普及のカギは、消費者が握っています。

代替フロンは強力な温室効果ガス

松下電器が2002年2月に発売したノンフロン冷蔵庫「NR-C32EP」。同社では、94年に断熱材へのフロン使用を中止。冷媒のノンフロン化により、フロンを全く使わない冷蔵庫が誕生した。(写真提供:松下電器)

松下電器が2002年2月に発売したノンフロン冷蔵庫「NR-C32EP」。同社では、94年に断熱材へのフロン使用を中止。冷媒のノンフロン化により、フロンを全く使わない冷蔵庫が誕生した。
(写真提供:松下電器)

 「松下電器【1】がノンフロン冷蔵庫の発売を決定」—。2001年11月に発表されたこのニュースを聞き、環境NGOグリーンピース・ジャパン【2】のスタッフは、「ようやく発売にこぎつけた」と喜び合いました。
 グリーンピース・ジャパンでは、93年からフロンも代替フロンも使わない冷蔵庫の開発を求める「グリーンフリーズ」キャンペーンを実施。8年間に渡り、冷蔵庫の市場シェア1位の松下電器をはじめ、家電メーカー各社に商品化を要求してきました。
 グリーンピースではなぜ、ノンフロン冷蔵庫の開発を求め続けてきたのでしょうか。「フロンに替わって冷媒に使われるようになった代替フロンは、強力な温室効果ガスだからです」。同キャンペーン担当の鈴木かずえさんは言います。
 従来冷蔵庫の冷媒に使われていたフロンは、オゾン層破壊作用があるため、先進国では95年末までに生産・消費が全廃されました。そこでフロンに替わって採用されたのが、代替フロンと呼ばれるハイドロフルオロカーボン(HFC)。ところがHFCには、二酸化炭素(CO2)の1300倍という強力な温室効果作用があったのです。そこでグリーンピースでは、ノンフロン冷蔵庫の早期発売を訴えるキャンペーンを展開してきました。


ノンフロン冷蔵庫は冷媒に炭化水素を使用

東芝のノンフロン冷蔵庫。電力消費量も削減し、同容量(450リットル)の従来品に比べ10%の省エネを実現した。(写真提供:東芝)

東芝のノンフロン冷蔵庫。電力消費量も削減し、同容量(450リットル)の従来品に比べ10%の省エネを実現した。
(写真提供:東芝)

 松下電器の発表後、東芝【3】もノンフロン冷蔵庫の発売を公表しました。2002年1月に東芝、2月に松下電器と相次いで市場に投入。5月には日立も発売を予定しています。3社のノンフロン冷蔵庫は、いずれも冷媒に炭化水素系のイソブタンを使っています。炭化水素は、自然界に存在する気体です。温暖化作用は二酸化炭素の3倍以下。寿命も数週間〜数カ月と短く、「温暖化への影響は無視できる程度」(グリーンピース・ジャパン)といいます。
 実はこの炭化水素を使った冷蔵庫は、ヨーロッパや中国などでは、すでに使用されています。「10年前に世界で初めてノンフロン冷蔵庫が発売されたドイツでは、ノンフロン冷蔵庫が家庭用冷蔵庫市場の100%近くを占めている」(同)ほどです。
 それでは、日本ではなぜこれまでノンフロン冷蔵庫が開発できなかったのでしょう。社団法人日本電機工業会(JEMA)【4】は、その理由を「冷蔵庫の冷却方式が違うため」(JEMA家電部)と説明します。


欧州より発売が遅れた理由は冷却方式の違い

 国内で発売されている多くの冷蔵庫は、ファンで冷気を庫内に送る仕組みで、「間冷式」と呼ばれています。一方、ヨーロッパなどで使われている冷蔵庫は、冷蔵庫の壁などに冷却機を設置して庫内を直接冷やす「直冷式」。
 湿気の多い日本では、直冷式だと水蒸気が凍って壁に霜がついてしまいます。そこで間冷式が主力となったわけです。さらに、国産の冷蔵庫は庫内にヒーターを備えており、自動的に霜取りできる仕組みになっています。
 ところが、炭化水素は可燃性です。万が一庫内に漏れてヒーターに触れたら、引火する危険があります。構造が複雑で部品が多いため、部品同士の接触で火花が飛び、ここから引火する可能性もあります。そこで、「安全性を確保するため、新たな技術開発が必要だった」(JEMA家電部)のです。フロンや代替フロンは不燃性のため、引火の心配がありませんでした。


炭化水素の発火を防ぐためさまざまな工夫

 「冷媒の量を45gと従来の3分の1に減らし、霜取り用ヒーターの表面温度を340℃と、イソブタンの発火温度(460℃)より下げました」。松下電器グループでノンフロン冷蔵庫の開発を担当した松下冷機株式会社・冷機研究所の石王治之所長は、発火を防ぐための工夫を説明します。
 この他にも、冷媒が流れるパイプの接合部を大幅に減らして冷媒の漏出を防いだり、接触式スイッチを非接触式にして庫内で火花が飛ぶのを防ぐなど、多くの工夫をこらして安全性を高めました。
一方、東芝では、冷媒の漏出を感知できる仕組みを開発。万が一冷媒が漏れ出した場合には、それ以上漏出しないよう制御したり庫内で拡散する装置などを装備しています。
技術的に克服すべき課題が多かったノンフロン冷蔵庫ですが、松下電器では開発に取り組んだ理由を、「トップメーカーの使命」(松下冷機冷機研究所・石王所長)と断言します。「地球温暖化防止京都会議で代替フロンが規制対象物質になったことや、2002年は地球サミット10周年にあたり、温暖化防止に対する気運が高まっていることも開発を後押しした」(グリーンピース・ジャパンの鈴木さん)との見方もあります。


他社も売れ行きを見て製品化を検討

 グリーンピース・ジャパンの鈴木さんは、「時間はかかったが、ようやく市場に出る日がきた」とノンフロン冷蔵庫の発売を歓迎しますが、同時に「懸念もある」と言います。それは、従来品より高い価格が売れ行きに与える影響です。松下電器製の320リットルタイプでは、メーカー希望価格は従来品より1万円高い14万円。
 松下電器では、「売れ行きを見て、大型機種の製品化を決める」(松下冷機冷機研究所・石王所長)としており、今回発売した製品の売れ行きがラインナップ拡大の決め手になります。他の家電メーカーの間でも、「ノンフロン冷蔵庫の商品化に向けた動きはあるが、先行して発売された製品の売れ行きを見極めている状況」(JEMA家電部)といいます。
 「せっかく発売にこぎつけたものの、売れなければ他のメーカーや他機種への波及効果が薄れてしまう」とグリーンピース・ジャパンの鈴木さん。ノンフロン冷蔵庫普及のカギは、消費者が握っているのです。


【1】松下電器
http://www.matsushita.co.jp/
【2】グリーンピース・ジャパン
https://www.greenpeace.org/japan/
【3】東芝
https://www.toshiba.co.jp/
【4】社団法人日本電機工業会(JEMA)
http://www.jema-net.or.jp/
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(記事:土屋晴子)

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