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No.039

Issued: 2002.12.19

陶磁器のリサイクル使えなくなった食器が再び食器に生まれ変わる

目次
不要になった陶磁器を百貨店が引き取り
使わなくなった陶器製の食器を美濃焼の食器に再生
磁器の生産工程で出るくずもリサイクル
東武百貨店では、開店40周年記念催事の一環として、家庭で使わなくなった陶磁器製の食器の引き取りを実施。同時に、再生食器の販売を開始した。

東武百貨店では、開店40周年記念催事の一環として、家庭で使わなくなった陶磁器製の食器の引き取りを実施。同時に、再生食器の販売を開始した。

 ひびが入ったりかけたりして使えなくなった陶磁器製の食器は、ほとんどの自治体で不燃ごみとして埋め立て処分されています。その量は、不燃ごみの5〜6%を占めるといわれます。最近、陶磁器の産地を中心に、こうした廃陶磁器をリサイクルしようという気運が高まっています。これまでは廃棄するしかなかった陶磁器ですが、ようやく再生への活路が見えてきました。

不要になった陶磁器を百貨店が引き取り

東武百貨店の大感謝祭

東武百貨店の大感謝祭

再生食器は品質も価格も従来品とほとんど変わらない。

再生食器は品質も価格も従来品とほとんど変わらない。

 東京・池袋の東武百貨店。今年(2002年)10月31日からの1週間、食器売り場の1コーナーに行列ができました。並んだ来店客は、手に手に重そうな紙袋やダンボール箱を持参しています。先頭の女性が袋から取り出したのは、ふちのかけた陶器の皿やひびの入った湯のみ。「捨てるに捨てられず困っていたので、助かった」と売り場の店員に渡して帰っていきました。
 東武百貨店は、同期間に、開店40周年記念催事の一環として、家庭で使わなくなった食器の引き取りを実施。茶碗や皿、湯のみ、急須など陶磁器製の食器を持参した顧客から、無料で引き取りました。
 「予想以上に多くのお客様が食器を持ってきてくださり、関心の高さに驚いた」と話すのは、このイベントを企画した、リビング美術部・食器担当セールスマネージャーの安藤公治さん。食器を持参した顧客用に粗品を用意したところ、数が足りなくなるほどの盛況ぶりだったといいます。7日間で不要な食器を持ち込んだ人は、2,370人。食器の量は約5トンにのぼりました。


使わなくなった陶器製の食器を美濃焼の食器に再生

廃陶磁器を原料に使った美濃焼「土色彩生」

廃陶磁器を原料に使った美濃焼「土色彩生」

 東武百貨店で回収した食器は、美濃焼の産地、岐阜県多治見市に運ばれ、再び陶器に生まれ変わります。廃陶磁器を原料に使った美濃焼は、「土色彩生」のブランド名で商品化されています。東武百貨店でも、イベントと同時に販売を開始しました。
 土色彩生は、窯元や流通商社など、美濃焼の生産、流通、販売に携わる企業や組合、研究機関が「グリーンライフ21プロジェクト」【1】という美濃焼のリサイクルプロジェクトを立ち上げ、共同で開発。2000年4月から本格的に販売を開始しました。原料のうち、重さにして20%に廃陶磁器を使っています。すでに9つの窯元が製品化し、一部の百貨店や専門店で販売しています。
 「天然の土を原料に使う陶器は、本来は環境にやさしい製品」。グリーンライフ21プロジェクトの事務局を務める岐阜県セラミックス技術研究所の長谷川善一さんは、陶磁器のリサイクルに取り組んだ理由を話します。「ところが、廃棄された後は土にかえらず、環境に負荷を与えている。そこで、陶磁器の廃棄物を減らす必要があると考えた」。
 グリーンライフ21プロジェクトにかかわる陶磁器の回収拠点は、東京都北区のリサイクル・環境学習施設「富士見橋エコー広場館」【2】など全国約15カ所。回収した陶磁器は、直径5mm程度に粗破砕した後、粘土やけい石などの原料に混ぜ、再び破砕機で7〜8ミクロンまで細かく砕きます。これが陶器の原料の約20%に使われます。できた陶器の品質は、天然原料だけを使った従来品とほとんど変わりません。価格も従来品並みです。


磁器の生産工程で出るくずもリサイクル

陶磁器の生産工程で出るくずを原料に使った有田焼「白磁彩生」

陶磁器の生産工程で出るくずを原料に使った有田焼「白磁彩生」

 有田焼の産地、佐賀県有田地方(西松浦郡有田町およびその周辺)でも、磁器の生産工程で出る廃棄物を磁器原料にリサイクルする動きに取り組んでいます。
 磁器を製造する過程では、ひび割れや傷などにより商品にならない磁器くずなどが廃棄されます。その量は、佐賀県だけで年間約380トンにのぼると試算されています。佐賀県窯業技術センターは、有田焼の関係団体や窯元などから依頼を受け、2001年度に磁器くずのリサイクル技術開発に着手。原料のうち、重さにして21%の磁器くずを含む、リサイクル磁器の実用化に成功しました。白磁と呼ばれる白色の磁器が再生され、製品は「白磁再生」というブランド名で販売されています。
 原料に使ったのは、製造工程で出る廃棄物のうち、(1)素焼きくず、(2)磁器くずで色の付いていないもの、(3)「ハマ」と呼ばれる、焼成時に磁器を乗せる皿状の台 ―の3種類。5mm程度の大きさに粗粉砕し、粘土の原料に混ぜて、再び数ミクロンの大きさまで砕きます。これを練り土として使います。佐賀県窯業技術センターでは今後、磁器くずの含有量を増やす方法を研究していく予定です。

 使えなくなった陶磁器や生産工程で出る陶磁器くずを再び陶磁器に―。生産者や研究機関、販売店などさまざまな立場の関係者が、このように陶磁器のリサイクルに取り組み始めています。今後こうした動きが広がり定着するかどうかは、消費者の意識次第といえそうです。



回収した陶磁器(写真上の左)は、直径5mm程度に粗破砕(写真上の右)した後、粘土やけい石などの原料に混ぜ、再び破砕機で7〜8ミクロンまで細かく砕く(写真下)。この陶土を原料に陶器を作る。

【1】グリーンライフ21プロジェクト
グリーンライフ21・プロジェクト(GL21)
全国の回収拠点も掲載
【2】富士見橋エコー広場館
富士見橋エコー広場館(東京都北区)
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