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No.050

Issued: 2003.10.16

イギリスゴミの埋立削減に向け、排出量取引制度を導入

目次
新制度導入の背景〜増え続ける廃棄物、減らない埋立
導入までの経緯
制度の概要
新制度のメリットと今後の課題
リサイクルを進める自治体は埋立許可取引で有利に!?

リサイクルを進める自治体は埋立許可取引で有利に!?

 世界で初めて、全国的な温室効果ガスの排出量取引市場を成功させたイギリス。そのイギリスで、来年から、もうひとつ、新たな排出量取引制度が導入されます。それが、廃棄物埋立許可の取引制度です。これは、各地方自治体に埋立許可を割当て、この許可を自治体間で取引できるようにするものです。
 頑張ってゴミを減らし、割当てられた埋立許可より実際の埋立量が少なくなった自治体は、あまった埋立許可を他の自治体に売ることができ、一方、埋立許可よりも実際の埋立量が多くなりそうな自治体は、お金を払って埋立許可を購入しなければならなくなります。

 今回の欧州環境レポートでは、経済的インセンティブをうまく利用して、廃棄物の埋立量の削減を目指すイギリスの新制度について報告します。

新制度導入の背景〜増え続ける廃棄物、減らない埋立

イギリス環境・食糧・地方事業省の2001/02年度版市町村廃棄物管理統計より作成

イギリス環境・食糧・地方事業省の2001/02年度版市町村廃棄物管理統計より作成

 増え続けるゴミはイギリスにとっても深刻な問題です。特に、イギリスでは埋立による処理が中心となっているため、埋立量の増加が心配されています。市町村が回収する廃棄物の8割近くは、直接、埋立処分場に投棄されており【1】、埋立処分量は毎年約2%の割合で増えてきています。埋立以外の処理方法(焼却、リサイクル、コンポスト化など)による処理量も少しずつ増えてきてはいるのですが、いかんせん、ゴミの量の増加に追いつかないような状況です(図1)。
 廃棄物の中でも、台所からの生ゴミ、植木の剪定くず、紙・ダンボールなどの生分解性廃棄物については、埋立による環境影響が懸念されています。埋立によって、温暖化の原因となるメタンの発生、土壌や地下水の汚染、病害虫の発生、資源の無駄遣いにつながるおそれがあるためです。これらのゴミは、市町村が回収する廃棄物の6割以上を占めています。
 なお、埋立処分を抑制するため、イギリスでは、1996年から埋立税が導入されています。埋立量に応じて、一定の税金を納めるもので、埋立を避ける誘因になることが期待されています【2】。埋立が全体に占める割合は徐々に減ってきているのですが、1996年以降も、ゴミの総量の増加に伴って、実際の埋立量は依然、増え続けています。【3】


導入までの経緯

写真:生分解性廃棄物 大半はリサイクル、コンポスト化が可能

写真:生分解性廃棄物 大半はリサイクル、コンポスト化が可能

 埋立廃棄物による環境汚染や健康への影響を減らすため、EUは、1999年に「廃棄物埋立指令(99/31/EC)」を制定しました。指令では、それぞれの国ごとに、埋立処分される生分解性廃棄物を削減するための数値目標が定められています。
 イギリスの目標は以下のとおりです。

  • 2006年(遅くとも2010年)までに、埋立処分される生分解性廃棄物の量を1995年レベルの75%
  • 2009年(遅くとも2013年)までに、1995年レベルの50%
  • 2016年(遅くとも2020年)までに、1995年レベルの35%

 とすること。

 イギリスの場合、埋立量は1995年レベルから既に増えてしまっており、また、今後も一層の増加が見込まれているため、この目標は非常に厳しいものです【4】。こうした中、EUの目標を達成するための切り札として打ち出されたのが、埋立許可の取引制度です。これは、各地方自治体に生分解性廃棄物の埋立許可を割当て、自治体間での埋立許可の取引を認める一方で、許可する埋立の総量を段階的に削減していくものです。
 イギリス政府(当時の環境・交通・地域省)は、1999年10月付けの協議文書「埋立の制限」の中で、いくつかの政策オプションのひとつとして、埋立許可取引制度を提案しました。寄せられた意見の7割が、この新たな制度を支持したことを受け、イギリス政府は2000年の「廃棄物戦略2000」において、埋立許可取引制度を導入する方針を明らかにしました。2001年には2回目の協議文書「取引可能な埋立許可」を公表し、現在、この制度の基本的な事項を定める「廃棄物・排出取引法案」が議会に提出されているところです。


制度の概要

 埋立許可の取引制度は、2004年から実施される予定です。今年8月下旬から11月下旬にかけて、その詳細に関する協議が行われています。ここでは、廃棄物・排出取引法案と現在協議中の文書をもとに、制度の詳細をご紹介します【5】

(1)埋立許可の割当

 まず、各カウンティ(日本の県に相当)の廃棄物処分当局【6】に対して、毎年、生分解性廃棄物の埋立許可が割り当てられます。埋立許可の単位はアラウアンス(Allowance)と呼ばれ、1アラウアンスで1トンの生分解性廃棄物を埋立てることができます。アラウアンスの総量は、現在(2003/04年度)の生分解性廃棄物の埋立量と同じ量からスタートし、その後、EU指令の目標に沿って、毎年、じわじわと削減されていきます。
 アラウアンスの分配方法は、初年度については、各当局の現在(2003/04年度)の生分解性廃棄物の埋立量がそのまま割り当てられる予定です。ただし、この方法だと、現在、大量の埋立を行っている当局が多くの割当てをもらって得をすることになります。これまで埋立量を削減してきた当局にも配慮し、目標年度(2009/10年度)には、現在の廃棄物の発生量に比例して配分するよう、割当方法を変化させていく予定です【7】

(2)取引・先物取引

図2 埋立許可取引の仕組み

図2 埋立許可取引の仕組み

 各廃棄物処分当局は、割り当てられたアラウアンスの量より、実際の埋立量が少ない場合には、あまった分を販売することができます。また、逆に、実際の埋立量の方が多くなりそうな場合には、アラウアンスを購入することができます(図2)。
 アラウアンスの取引は、環境庁が管理する電子掲示板に記録されます。各廃棄物処分当局は、電子掲示板に排出許可の販売や購入の希望を掲載し、相手方と直接交渉して、取引するアラウアンスの量、価格、時期などの条件を決定します。取引の結果(取引したアラウアンスの量、価格、相手方など)も電子掲示板に掲載されます。
 なお、当該年度分だけでなく、将来の年度のアラウアンスを取引する「先物取引」も認められています。

(3)バンキング、ボローイング

 各廃棄物処分当局は、あまったアラウアンスを将来使えるよう、「バンキング(banking=貯蓄)」しておくこともできますし、また、この先、配分される予定のアラウアンスを「ボローイング(borrowing=前借)」することもできます。いずれも、環境庁の電子掲示板に記録されます。
 ボローイングは、リサイクル施設の設置などを予定していて、将来、埋立量の減少が見込まれている当局に活用される見込みです。ただし、無計画なボローイングを防ぐため、環境庁の承認を得る必要があり、また、翌年配分されるアラウアンスの量の最大5%までという上限が設定されています。

(4)モニタリング及び罰則

 排出取引が機能するためには、各廃棄物処分当局が保有しているアラウアンスの量と、実際の埋立量がきちんと一致していなければなりません。この点をチェックする厳格なモニタリング、違反者への罰則が重要になってきます。モニタリングは、イギリス環境庁が毎年、実施する予定です。また、アラウアンスを超過して、違法に埋立てられた分については、高額な罰金を課すことが検討されています【8】


新制度のメリットと今後の課題

参考写真:ガーデニングが盛んなイギリスでは コンポストへの期待も

参考写真:ガーデニングが盛んなイギリスでは コンポストへの期待も

 埋立許可取引制度のメリットは、まず、埋立量を確実に一定の水準以下に抑えることができる点です。埋立税ではどの程度の税率を設定すれば、埋立量が減るのか予測するのが難しかったのですが、埋立許可取引制度では、アラウアンスの量を減らすことで、埋立量をコントロールすることができます。EUの数値目標は、今後12〜16年のうちに、埋立量を65%減らすという非常に野心的なものですが、これを着実に達成することが期待できるわけです。
 また、各地方自治体にとっては、それぞれの地域の状況に応じた柔軟な対応をとれる点が魅力です。ゴミの発生を抑制する、リサイクルを進める、あるいはお金を払って他の地方自治体からアラウアンスを買うなど、それぞれ、最も費用対効果の高い対策を選択することができます。これは、埋立量の削減にかかる全体的なコストを最小限にすることにもつながります。
 しかし、課題もいくつかあります。まず、アラウアンスの割当が、現在の埋立量、あるいは現在の廃棄物の発生量を基準に行われるため、これまでに廃棄物の発生抑制に努めてきた地方自治体にとっては不利になる点です。衡平性の観点から、各地方自治体の人口や過去の廃棄物の削減傾向を加味するなど、アラウアンスの割当方法を工夫すべきだという考えもあります【9】
 また、環境保護団体は、地方自治体が、手っ取り早く埋立量を削減するために、焼却処分に頼り、焼却場の増加につながるのではないかという点を心配しています。グリーンピースは、地方自治体に対して、3Rの原則(リデュース、リユース、リサイクルという優先順位)に従って対策を講じるよう求めています。また、地球の友は、埋立税の税収を活用して、コンポストやリサイクルを進める方向に政府が誘導すべきだと主張しています。
 廃棄物や埋立の削減は、多くの国に共通の悩みです。日本でも、環境省が、平成12年に廃棄物・リサイクル分野における、排出量取引や税・課徴金の活用について検討したことがあります【10】。イギリスの埋立許可取引制度は、「ヨーロッパでも初めて」(イギリス環境・食糧・地方事業省)となることから、2004年からの運用状況が注目されます。


【1】
廃棄物の破砕・圧縮など、事前処理を経て埋め立てるケースも含む。
【2】
1996年当初、安定廃棄物は1トン当たり2ポンド、他の廃棄物は1トン当たり7ポンド。その後、税率は段階的に引き上げられている。長期的には、1トン当たり35ポンドにまで引き上げる予定。
【3】
1996/97年度から、2001/02年度にかけて、廃棄物の総量は毎年平均約3%ずつ増加し、埋立処分される廃棄物の量も毎年平均約2%ずつ増加している。ただし、埋立処分に回される廃棄物の割合は同時期、84%から77%へと減少している。
【4】
環境・食糧・地方事業省は、2004/05年度から2009/10年度にかけて、生分解性廃棄物の排出量が16%増加すると推計している。
【5】
この協議文書(8月29日公表)は、イングランドを対象としたもの。ウェールズ、スコットランド及び北アイルランドにおいては、同様の制度に関する協議文書が別途、用意される。
【6】
廃棄物処分当局(Waste Disposal Authority)は、原則として各カウンティごとに置かれているが、広域処理などのため、県単位でないケースもある。
【7】
廃棄物の発生量に比例して割当てる方法は、廃棄物の発生量に比して、埋立量が少ない当局にとって有利となる。シフトの方法については、均等にシフトする線形軌道方式と、前半期の負担を軽く、後半期の負担を重くする後半負担増方式の2つが提案されている。
【8】
罰金の額は、超過分1トンに対して、埋立回避のためにとられる方策で最も経費がかかる手段(現在検討中だが、台所ゴミのコンポスト化のような方法とされる)を講じた場合のコストの2倍となる予定。
【9】
割当方法については、各地方自治体の人口、1995年時点での生分解性廃棄物の発生量または埋立量などに基づく方法も検討された。人口については、廃棄物の発生量との間に必ずしも明確な相関関係がないこと、また1995年時点のデータは、各廃棄物処分当局ごとに集計されていないことなどが問題となり、現在の方式に反映されていない。
【10】
『廃棄物・リサイクル対策における経済的手法の活用に向けて ―その適用に伴う効果、実施上の留意点―』(廃棄物・リサイクル対策における経済的手法の活用方策の在り方に係る検討会報告書)

関連情報

  • イギリスの最新の市町村廃棄物統計(Municipal Waste Management Survey 2001/02)
  • イギリス廃棄物戦略2000(Waste Strategy 2000)
  • 廃棄物・排出取引法案(the Waste and Emissions Trading Bill)
  • 埋立許可取引制度の詳細に関する協議文書
  • イギリスの温室効果ガス排出量取引制度について
  • 温室効果ガス排出取引 1年目の成果を発表
アンケート

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【アンケート】EICネットライブラリ記事へのご意見・ご感想

※取材に当たっては、イギリス環境・食糧・地方事業省 廃棄物戦略課のレイ・アルダートン氏にお世話になりました。この場を借りて御礼申し上げます。

(記事・写真:源氏田尚子)

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