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Issued: 2005.05.12
小さなツバルの向かう道
【写真1】上空から見たフナフチ環礁
 ツバル(Tuvalu)という国をご存知ですか? ツバルは、オーストラリアの北東に位置する小さな島国です。9つの島からなり、国土の総面積は26km2、東京都の品川区ほどの大きさしかありません。海抜は高いところで4mほどしかありません。地球温暖化による海面上昇や極端な気候変化の影響を大きく受けてしまう国です。温暖化防止の国際交渉では、小島嶼国からなる交渉グループ(AOSIS)【1】の中の象徴的な存在として、各国に温暖化対策の実施を呼びかけ、気候変動の影響への“適応策”【*囲み参照】のための資金援助を求めています。今回はツバルの首都フナフチ(Funafuti)の実情についてレポートします。
 目次
フナフチとは
海岸侵食の恐怖
フナフチのごみ問題
ツバルにおける“適応策”
(→拡大地図はこちら
【図1】ツバルの地図(出典:WorldAtlas. Com)

* 温暖化対策について -「緩和策」と「適応策」-

温暖化対策は「緩和策」と「適応策」に分類できます。緩和策とは温暖化の原因となる温室効果ガスを削減し、温暖化の進行を食い止め、大気中の温室効果ガスを安定させるものでたとえば、エネルギーの効率的利用、省エネ、CO2回収・蓄積、吸収源の増加がこの対策に当てはまります。適応策は温暖化しつつある気候へ自然・社会システムを調節して対応するもので、具体的には沿岸防護のための堤防や防波堤、水利用の高効率化、土壌の栄養素の改善、伝染病の予防といったものがあります。
→地球温暖化の影響・適応に関する国立環境研究所のホームページ
  http://www-iam.nies.go.jp/impact/


【1】 小島嶼国連合(AOSIS)
地球温暖化の国際交渉では、利害関係の似通った国が集まって交渉グループを作り、協力し合って自分たちの要望を主張します。AOSIS(小島嶼国連合)はその1つで、国土の海抜が低い国や、島国によるグループです(43か国が参加)。AOSISは、先進国に対して、温室効果ガスの大幅削減と適応措置への支援を要求しています。
→AOSISのサイト(英文のページ)
→EICネット環境用語集
フナフチとは
 フナフチは環礁で、複数の島から成り立っています。多くの人々はその中のフォンガファレ(Fongafale)島という細長い島に住んでいます。この島は一番幅の広い場所でも400mほどしかありません。幅の狭い場所では一度に両側に青い海を見渡すことができます。この島にツバルの全人口の40%以上が住んでいます。ツバルの人々の生活は、これまでほとんど自給自足農業や漁業に頼ったものでしたが、フナフチでは大半が貨幣経済に変わりつつあります。資源が乏しいため、食料などの物資を輸入したり、海外からの援助を受けたりしています。
 ツバルは、国連で後発開発途上国(LDC)【2】に認定されており、経済的には豊かではありませんが、大家族が助け合って平和に暮らしています。人々は皆おおらかで、すれ違うと笑顔で「タロファ(Talofa/ツバル語で『こんにちは』という意味)」と挨拶してくれます。物は少なくても人々の心の豊かさを感じることができる島です。
写真2 フォンガファレ島で一番幅の狭い場所   写真3 政府の建物近くのビーチ
【写真2】フォンガファレ島で一番幅の狭い場所   【写真3】政府の建物近くのビーチ


【2】 後発開発途上国(LDC)
現在、LDCと認定されているのは、世界全体で50か国です(アフリカ地域:34か国、アジア地域:10か国、大洋州地域:5か国、中南米地域:1か国)。具体的には、1人当たりGNIが750ドル未満、人口7,500万人以下等がLDCの基準とされています。
海岸侵食の恐怖
【写真4】テプカ島

 このように平和でのどかな島に、少しずつ変化が起きています。その一つが海岸侵食です。フナフチ環礁のどの島でも、海水が徐々に島の内部へ入り込んできています。特にフナフチ環礁の西部の保護地区に指定されている小島では、この現象をはっきりと見ることができます。
 その一つの島、テプカ(Tepuka)島では海岸沿いに多くのヤシの木が根こそぎ倒れていました。案内してくださった方の話では、おそらくサイクロン【3】が接近したときの高潮【4】の影響だろうとのこと。この保護地区付近では、すでにいくつかの小さな島は沈んでしまったといいます。自然の威力の大きさに人間はなすすべもありません。
 ツバルでは年々、極端な気候の変化や、海岸侵食、高潮、旱魃【5】などの被害が深刻になってきています。これらの影響は海岸侵食だけでなく、塩害による農作物の生産量低下【6】、異常気象による漁獲量の低下、水不足【7】などといった形で人々の生活に直接及んできています。
【3】 サイクロン
ツバルは熱帯で、もともとサイクロンの通り道とは考えられていませんでした。しかし近年サイクロンの頻度・強度が高まっているそうです。フナフチは、1972年、1990年、1997年には大きなサイクロンの被害を受け、我々が到着する2週間ほど前にもサイクロンが接近し、島に暴風雨をもたらしました。
【4】 高潮
2001年ごろからは海面の上昇も見られるそうです。気象庁のカエタ(Kaeta)氏の話では最近の高潮では、気象庁の建物が島の高い地域に位置するのにもかかわらず、数十センチ浸水したといいます。以前は水溜り程度の被害であったことから、確実に変化していると力説しています。
【5】 旱魃
1999年にフナフチは大旱魃の被害を受けました。
【6】 農作物の生産量低下
自然資源省のラウサヴェヴェ氏によると、主食であるキャッサバ・タロイモの生産量は低下しているとのことです。
【7】 水不足
以前は地下水も使えたそうですが、現在は海水が混じってしまい、すべての生活用水を雨水でまかなっています。
フナフチのごみ問題
【写真5】山積みになっているごみ

 ツバルで問題になっているのは気候変動問題のようなグローバルな問題だけではありません。海外からの新しい技術・物資が島に入ってくるようになり、新たな問題が出現してきました。中でも深刻なのはごみ問題です。
 フォンガファレ島の海岸を歩くと、あちらこちらにペットボトル、プラスチック、ガラスの破片などを目にします。ツバルでは、空間的・コスト的にごみ焼却施設を設置することができず、島の北部には種々雑多なごみが無造作に積み上げられています。
 公衆衛生省のネルソン博士は、こうして野積みにされたごみから出る汚水問題を懸念しています。高潮などで島の内部に海水が入り込んだときに、ごみによって汚染された水が拡散し、皮膚病などの健康被害をもたらすからです。
ツバルにおける“適応策”
【写真6】首相のトアファ氏

 現在、ツバルは、世界中で問題となっている2つの環境問題にもっとも深刻なかたちで直面しています。どちらも対策のための資金・技術力不足が大きな障害となっており、今後も海外からの支援が必要です。特に、気候変動問題は、ごみ問題よりもはるかに深刻な問題として受け止められています。ツバルの国の存続をも脅かすほどの重大な問題であるためです。
 ツバルでは、気候変動の影響がすでに現れており、今後さらに海面上昇や異常気象などの影響を受けることが予想されることから、その影響に対する“適応策”【8】が必要だと、ツバルの首相のトアファ(Toafa)氏は言います。しかし、ツバルでは、“適応策”の選択肢があまりにも限られているのが現状です。
 まず第一に、コストの問題があります。ツバルは元々経済力が弱い上に、気候変動が農業・漁業などの主要産業に深刻な影響を及ぼし、“適応策”を行うための資金源を確保することが困難になってきています。また、気候変動問題に関する知識を有する専門家の数も不足しています。珊瑚質であるフナフチでは護岸工事が困難であるといった技術的な問題も生じています。
 そもそも、気候変動問題の原因は先進国にあるにもかかわらず、その影響は、こういった島国や途上国が真っ先に受けてしまいます。ツバルのような小さな島国を救うには、先進国が途上国の“適応策”を実施するための資金的・技術的な援助を行っていくことに加えて、むしろ率先して、これまで以上の温暖化防止のための努力、つまり“緩和策”に取り組んでいくことが必要です。
 ツバルは小さな国ですが、現在このような大きな問題を抱えています。トアファ氏の「この国が海に沈んでほしくない。若い世代に残したい」という願いを見過ごすわけにはいきません。美しい自然に囲まれ、陽気な人々が暮らすこの国を、守れるかどうかは私たちの手にかかっているのです。
【8】 ツバルの適応策
ツバルに必要な適応策としては、水供給・衛生の改良、伝染病への準備、住居の補強、洪水・津波に対する警報装置の設備、漁業管理・農業管理などが考えられます。
写真7 フナフチ環礁の島の一つのヴァサフア島   写真8 帰国の際、自然資源省のラウサヴェヴェ氏にかけてもらった貝のネックレス
【写真7】フナフチ環礁の島の一つのヴァサフア島   【写真8】帰国の際、自然資源省のラウサヴェヴェ(Lausaveve)氏にかけてもらった貝のネックレス
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関連情報 |
  日本の外務省のホームページ(ツバルの概要)
 http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/tuvalu/
  Tuvalu online
 http://www.tuvaluislands.com/
参考図書 |
  神保哲生(著), 2004年・春秋社
 「ツバル ―地球温暖化に沈む国」
  遠藤秀一(著), 2004年・国土社
 「ツバル ―海抜1メートルの島国、その自然と暮らし フォトドキュメント」
記事:
東京工業大学大学院 社会理工学研究科M2 森田香菜子
国立環境研究所 社会環境システム研究領域 環境経済研究室研究員 久保田泉
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