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アメリカ横断ボランティア紀行(第4話) マンモスケイブ国立公園での生活
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Issued: 2006.07.27
アメリカ横断ボランティア紀行(第4話) マンモスケイブ国立公園での生活
マンモスケイブ国立公園のキャンプストア。自動車がない私たちの最後の生命線だった。
 アメリカで自動車がないことは死活問題だ。
 ケンタッキー州の片田舎にあるマンモスケイブ国立公園では、最寄りのスーパーマーケットまで車で30分はかかる。それでいて、公共交通機関はまったくない。
 公園内には、キャンプストアが開店している。ただ、卵やソーセージなどは売っていても、野菜や雑貨がない。値段も高く営業時間が短い上に、近いとはいえ、宿舎から徒歩で片道15分ほどかかる。
 ボランティアをしていると毎日弁当が必要だし、肉体労働なのでお腹も減る。日本を出るとき、アメリカに着けば何でも買えるだろうと、食材はそれほど持参してこなかった。それも、到着から1週間ほど経って、すでに底をつきはじめていた。
 「いつでも買い物に連れて行ってあげるよ」と言ってくれたルームメイトもあまり当てにならない。しまいにはクラッカーすらなくなり、公園に来る途中にスーパーマーケットで手に入れた予備の長粒米を鍋で炊くことになった。お弁当は、そのパサパサのご飯に塩をつけただけのおにぎりを持っていくことに。豊かな国・アメリカにいながら、自動車がないためにとてもひもじい思いをすることになった。
アメリカ横断ボランティア紀行 INDEX はこちら
 目次
アメリカ生活での足となった、愛車ポンティアック・モンタナ
「ミュールマン」との出会い
国立公園の人手確保作戦
「女性の直感」──女性職員の思い切りと、ヨメさんの決断

アメリカ生活での足となった、愛車ポンティアック・モンタナ
購入したポンティアック・モンタナ。同じような年式の日本車に比べれば格安の価格だったが、全米各地で修理工場に通うことになった。

 こうしたこともあり、急遽、車を買うことにした。
 アメリカは驚くほど中古車相場が高い。そのくせ車検制度がないため、品質が悪い。そのためか故障の少ない日本車は引く手あまたで、ほとんど値落ちしないようだ。
 中古車屋の店員は、店舗の敷地に入るや否やどこからともなく笑顔で近寄ってくる。どこか信用がおけない。公園の職員に、よい店を紹介してほしいと頼んだが、皆、あまりよい思いをしたことがないらしく、歯切れが悪かった。
 そんな中、ボランティア・コーディネーターであるメアリーアンさんのご主人リーさんが、中古車購入の案内役を買って出てくれた。リーさんは、かつて別の公園で所長を務めたこともある公園の幹部職員の一人だ。マンモスケイブ国立公園では、退職までの間、上級契約担当官として勤務していた。最近新車を購入したので、そのディーラーならあまり悪質なことはしないだろうと案内してくださった。
 ディーラーに着いて、大体の予算を伝えた。もともとアメリカで車を買うつもりはなかったので、あまり予算に余裕はない。小型のセダンタイプなら安く手に入るが、妻はメアリーアンさんの乗っている公用車のようなワンボックスタイプの車がいいと言う。ナッシュビルまで迎えに来てくれたときの広い車内空間と乗り心地が忘れられなかったようだ。ワンボックス車を英語で何と言えばよいかわからなかったので、広告の切抜きを持参したところ、Mini van(ミニバン)という車種であることがわかった。
 リーさんが、「日本からわざわざ、マンモスケイブへボランティアに来てくれたんだ」と私たちのことを紹介すると、思いもかけず喜んでもらえた。そこから先は話が早かった。「その予算なら、この3台くらいしかない」とだいぶ奥の方から3台の車を出してきた。
 1台は日本車で、残りの2台はアメリカ製だった。妻は、その中から赤いポンティアックを選んだ。理由は「かわいい」から。他の2台より年式が2年くらい新しい。大きな凹みもなく、エンジンは3.6リッターのV型6気筒だ。“アメ車”にしては小さいが、せっかくアメリカにきたんだからと思って、この車に決めた。
 店員は、一言「でもそれは、ポンティアックですよ」。日本人なら当然、日本車を買うものだと思っていたらしいのと、ポンティアックという車種がGM社(ジェネラルモータース社)の中でもっとも廉価なブランドで、アメリカではとにかく故障が多いという評判があるためだったらしい。当時はそんなことは露知らず、店員の言葉の意味もよくわからなかった。ただ、安かった上、リーさんと試運転した感じはなかなかよかった。
 その後、実際に故障は多かったものの、ゆったりした室内とスムーズな乗り心地、それになんとも愛嬌のある外観がすっかり気に入ってしまった。この「相棒」はよく故障したものの以降2年間、私たちを全米あちこちに連れて行ってくれた。
 購入した時点で既に走行距離数は10万マイル(約16万キロ)。研修の2年間、アメリカ大陸を一往復し、結果としてさらに3万4千マイル(約5万5千キロ)走行した。
 ちなみにガソリンは当時、公園の近くで1ガロン当たり1.25ドル(1リッターあたり約40円!)。後に全米でもっともガソリン代が高騰したカリフォルニア州に滞在したときでも、1ガロン2.40ドル(同約76円)であった。当然ながら、アメリカ人に日本のガソリン価格を説明しても、なかなか本気にしてもらえなかった。
「ミュールマン」との出会い
ホーチンズフェリー。一度に自家用車3台を運搬することができる。

 マンモスケイブ国立公園には自動車を渡すためのフェリーが2台運行されている。ともに、公園を東西にくねりながら流れるグリーンリバー(Green River)を渡るフェリーで、公園中央を南北に抜ける道路をつなぐグリーンリバーフェリー(Green River Ferry)と、公園区域西端に位置するホーチンズフェリー(Houchins Ferry)だ。フェリーといっても、車両を運搬するためのエンジン付の台船が、川の両岸を行ったりきたりする渡し船だ。
 ビジターセンターのすぐ近くを抜けるグリーンリバーフェリーに較べると、ホーチンズフェリーの通過台数は極端に少ないが、景色もよく、すぐ脇には駐車場やピクニックテーブル、キャンプ場も整備されている。気軽に魚釣りが楽しめる数少ないポイントで、多くの釣り人がボート持参でやってくる【傍注】
 公園での生活にも慣れてきた6月末、私たちもキャンプをすることにした。キャンプ場は基本的には無人で、ポストにお金と申込書を投入すればいい仕組みになっている。フェリーの運転手が管理人を兼ねている。
 ちょうどフェリー運転手が詰め所に戻ってきたので、申し込み方法を聞く。ところが、訛りが強く、話の半分も理解できない。「ここで火を炊いてもいいんですか」と質問したところ、「それは俺にはよくわからない」ととぼけた顔で言う。内心の困惑は隠せなかった。
 これが、後に妻の釣りの「師匠」となるアーバートさんとの出会いだった。年齢は50代半ば、恰幅がよく、典型的なケンタッキーおじさんの体型だ。「ミュールマン」と呼ばれ、職員の間でも信望が厚い。強面だが、とても親切な人だ。「ミュール」というのは、馬とロバのあいのこの使役動物で、馬よりも性格が温厚で、人懐っこい。「ミュールマン」の呼び名には、頼りになる力持ちという意味もある。
 フェリーは、1度に3台の車を運ぶことができる。対岸までの所要時間はだいたい2〜3分ほど。この間、公園の職員はフェリーの運転手と雑談を交わし、情報交換に努める。だから、フェリーの運転手は情報通だ。
 ただ、難しいジョークや皮肉を繰り出すアーバートさんとのやり取りは、若い職員にとって、試練だ。フェリーに乗っている2〜3分間、冷や汗をかきながら必死に「応戦」する。一瞬のうちに、次の次辺りを読んで返さないと相手にされないが、うまい返しにはとても満足そうな表情を見せる。
 ふりかえって、アーバートさんへの私の質問は、「Can I make fire here?」という間抜けな英語だった。アーバートさんの答えは、「(お前が無事火を起こせるかどうかまでは)俺にはわからない」「(このキャンプ場で火を焚くのは問題ないが)お前にその能力があるかどうか、俺は知らない」というわけだ。
 以降、マンモスケイブを去る日まで、アーバートさんのジョークにうまく切り返せたことはなかったが、アーバートさんは最後まで同じような態度を貫いてくれた。英語もろくに話せない日本から来た若造にも、懲りずにジョークを連発してくれたその態度は、アーバートさんなりのやさしさだったのかもしれない。ご夫人のキャロリンさんとともに、私たちはアーバートさんご夫妻に大変お世話になった。
ホーチンズフェリーのキャンプ場。
ホーチンズフェリーのキャンプ場。
アーバートさんの予想通り、悪戦苦闘することになった火起こし。
アーバートさんの予想通り、悪戦苦闘することになった火起こし。
【傍注】 マンモスケイブ国立公園の釣り事情
 マンモスケイブ国立公園内では、ケンタッキー州の定める遊漁規制(持ち帰ることのできる大きさや重量)などが適用されるが、州の遊漁証は必要ない。このため、平日の早朝からボートをトラックで牽引した釣りの常連が、続々とやってくる。獲物はナマズかブルーギル。
 川には巨大なコイがたくさんいるらしいが、こちらでは「外来種」で、誰も食べない。増えすぎて困っているらしく、うまい食べ方があったら教えて欲しいといわれた。一方、日本で問題になっているブルーギルは、ケンタッキー州のこの地域ではフライにすると一番美味しいとされている。
 外来種対策のための日米料理教室を開催してみると、案外効果が大きいかもしれない。
国立公園の人手確保作戦
メンテナンス部門のジェシーさんから、芝刈り機の説明を受ける。

 アメリカの国立公園は実に職員が多い。ビジターセンターのカウンターや公園内のフェリーの運転手、道路脇で芝刈りをしている人まで、ほとんどが連邦政府職員(政府職員)だ。これに、ボランティアが加わる。公園内はどこへ行っても職員がいるかのような錯覚を覚えるほど、人員が充実している。
 公園で働く政府職員には、常勤職員(通称パーマネント)と臨時職員(通称シーズナル)の2種類がある。夏期の繁忙期にビジターセンターで見かける職員はほとんどがシーズナルで、学生あるいは大学を卒業したもののまだ仕事が見つかっていない若者が多い。中には臨時職員の身分で通年勤務している熟練職員もいるが、平たく言えば長期アルバイトのようなものだ。
 一方、ボランティアスタッフには、学生からリタイアした中高年者まで、実に様々な人が参加している。多くの人は、ボランティア活動を安価でかつ社会的に意義のあるレクリエーションと考え、参加しているようだった。ただ、中には10年間以上にわたって、毎週土曜日にビジターセンターのカウンター業務に従事しているベテランボランティアもいる。職員と遜色のない業務をこなしていて、公園側でもボランティアを重要なマンパワーと認識している。ボランティアたちの興味関心や、勤務スケジュールなどの要望を細かく聞くなど、職員がボランティアの世話のためにかなりの労力を割いている。公園職員は公務員の常で書類仕事が多く、季節雇用職員やボランティアなどの協力がなければ山積している業務をこなすことができないという事情もあるようだった。
 ボランティアの中には、学生インターンも含まれている。インターン制度の典型的な例がSCA(Student Conservation Association)奨学生である。SCA奨学生は、待遇としては食費、交通費の支給を受けるだけのボランティアだが、2〜3ヶ月の勤務に対して、1,000米ドル程度の奨学金が支給される。国立公園局はSCAという組織に対して、奨学金相当額を支払っている。在学中もしくは卒業した意識の高い学生にインターンの機会を与え、学費の補助を出す、おもしろい制度だ。
 夏期にSCA奨学生としてボランティアに来ていた優秀な学生が、その後、臨時職員として採用されたという例もある。優秀な学生を採用するための“試用期間”としての性格も持っているようだ。奨学金の額は少ないが、学生の多くは夏期休暇中学生寮を出なければならないため、無料の宿舎があれば負担も相当軽減される。おまけにアルバイト程度とはいわないまでも、小遣いまでもらえるわけだ。自分の進路を考え、必要なコネを得るためにもこの制度は魅力的なようだ。
「女性の直感」──女性職員の思い切りと、ヨメさんの決断
デイビスご夫妻はいずれも国立公園局職員。ご主人のリーさんは、自動車購入を手取り足取り手伝ってくれた。奥様で、公園のボランティア・コーディネーターのメアリーアンさんは典型的「肝っ玉母さん」。ご夫妻の助けがなければ、この研修は実現しなかっただろう(夫妻のご自宅前にて)。

 研修を通して、世の女性の決断力、言い換えれば「女性の直感」のすごさを改めて実感した。研修には節目節目で思いもよらぬアクシデントがあり、その度に様々な「決断」が求められた。そんな時、「運命共同体」としての妻の直感が、結局は正しかったことを思い知らされる機会が何度もあった。その理屈ではない、しかしながら極めて現実的な決断は、驚くほど高い確率でよい結果をもたらした。私たち男性には到底かなわない何かがあるのではないか、そんな思いを強くした。
 また、アメリカの国立公園では、どこも女性職員が元気に働いていた。働きながら子育てをして、定年まで勤務することも珍しくない。行く先々で「肝っ玉母さん」という雰囲気の女性職員に出会ったが、彼女たちの「思い切った(もしくは小さなことにこだわらない)」決断が、何度となく私たちの危機を救ってくれた。
 日本では、どうしても女性職員が結婚や出産を契機に職を辞してしまうケースが多い。女性が活躍できる場が増えれば、仕事のやり方自体もかなり変わってくるのではないだろうか。

・バックナンバー(導入編第1話第2話第3話
<妻からの一言>
 日本で問題になっているブルーギルはもともと北米原産の淡水魚です。日本では外来種ですが、マンモスケイブ国立公園ではブラックバスやキャットフィッシュ(ナマズ)とともに「在来種」として人気の釣魚です。それも、地元の人たちの間では、ブルーギルが「一番うまい」魚だという声が多い。からかっているものとばかり思って話を聞いていると、「なぜ日本でブルーギルが問題になっているのかわからない」と、本当に不思議そうです。公園の職員でフェリー運転手のアーバートさんが、「今度ごちそうしてやるよ」と申し出てくれました。
ブルーギルフライとチリの昼食。写真の左からキャロリンさん、アーバートさん、SCA奨学生のカーリーさん。
ブルーギルフライとチリの昼食。写真の左からキャロリンさん、アーバートさん、SCA奨学生のカーリーさん。
 いつもは森の中で食べるランチですが、昼時になってフェリーの詰め所へ行くと、夫人のキャロリンさんがブルーギルのフライの準備をしていました。やはり揚げたてがおいしいということで、私たちが到着するのを待ってから揚げ始めます。おかずは、これも南部料理のチリというトマト風味の野菜のスープ。キャロリンさんのチリはちょっと甘めでとても食べやすい。レシピを教えていただき、行く先々でふるまったところ、アメリカ人にもとても好評でした。
 一口大に切ったブルーギルのフライは、まったく臭みがありません。料理の秘訣を聞くと、捌いた身を真水にさらすことと、コーンミール(トウモロコシの粉)やカレー粉をまぶして揚げること。大量のフライがあっという間になくなっていきました。確かにブルーギルの身は薄くて、この南部風のフライはとても食べやすい。「おいしい、おいしい」とフライを食べていると、「今度は釣りに連れて行ってやろう」と誘ってくれました。
ブルーギルのフライ。
ブルーギルのフライ。
 ブルーギルは、延べ竿でボートや岸から釣ることができます。エサはミルクワームと呼ばれる小さなイモムシ。釣れたブルーギルは、手のひらほどの大きさのものは食用に、小ぶりなものは逃がすか、ナマズ釣りの生き餌にします。ナマズは身の厚い淡白な白身の魚で、ブルーギルと同様にフライにしていただきます。
ブルーギルの捌き方をアーバートさんに教えていただく。
ブルーギルの捌き方をアーバートさんに教えていただく。
 ご夫妻と一緒にボートに乗り込み、川岸の水草が生えている辺りを丹念に探っていきます。群れに遭遇すると一斉に当たりがきます。3人で2時間ほども釣ると、バケツ一杯分くらい釣れます。早速岸に上がって、ピックアップトラックの荷台を下ろし、大きな木のまな板の上で、フレイナイフ(魚をさばくためのナイフ)を使って手早く捌いていきます。魚はまず3枚におろし、腹の小骨の多いところを削ぐか、まるごと切り落としてしまいます。皮を剥いでたっぷりのミネラルウォーターにさらし、内臓は後ほど川に捨ててしまいます。捌き方も教えていただき、持ち帰った魚をボランティアハウスで捌いて、みんなで食べました。
 ケンタッキー州といえば、日本でもおなじみのケンタッキーフライドチキンが生まれた地です。もちろん分厚いステーキやハンバーガー、フライドチキンも食卓にのぼりますが、意外にも川魚のブルーギルやキャットフィッシュ(マナズ)が人気だなんて、とても驚きました。
ナマズ釣りにも連れて行っていただきました。
ナマズ釣りにも連れて行っていただきました。
お土産としていただいた、ナマズ。
お土産としていただいた、ナマズ。
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