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Issued: 2007.06.14
地域を豊にする木質バイオマス
 ─南西ドイツからの報告─
 ここ数年の原油高により、ドイツでは薪や木質チップ、ペレットといった木質バイオマスの需要が急激に伸びている。その用途は主に熱生産。
 北海道並に冬が長く厳しいドイツでは、最終エネルギー消費(=最終消費者に利用されるエネルギー)の40%が建物の暖房や温水に使用されている。一般住宅では、建物のエネルギー消費の実に80%近くを暖房が占めている。
 居住面積150平米の一般民家の光熱費を見てみると、断熱性の優れた新築であれば年間10万円前後、築30年以上の断熱性能の低い古い建物であれば30万円以上になる。
 原油価格の上昇は、一般家庭にも経済的な負担増や将来への不安をもたらしている。このような状況において、ドイツではエネルギー単価がすでに石油より低くなっている木質バイオマスに、一般消費者や事業体の関心が向いているのである。
 木質バイオマスの生産は、林業事業体やその周りに集積する木材産業が担う。生産地はグローバル経済の影響で不利な状況に立たされている農村地域である。ここ数年の間に各地に生まれた木質バイオマス事業が、田舎に新しい希望の光を差し込んでいる。
 木質バイオマスというと、日本では、温暖化防止に役立つ石油代替エネルギーという側面が注目されることが多いが、今回のこのレポートでは、地域社会や経済への貢献という観点から、南西ドイツの木質バイオマス利用の事例を2つ紹介したい。
木質チップ細かいおが屑を圧縮して作られるペレット。
木質チップ細かいおが屑を圧縮して作られるペレット。
 目次
林業の残材を有効利用
酪農家のサイドビジネス
地域でお金が循環
林業の残材を有効利用
 ドイツにも、日本の森林組合に似た私有林所有者の共同体が各地にある。主な業務は、切り出された原木の共同販売。
 バイエルン州東部にあるケンプテン森林所有者共同体は、会員(森林所有者)が1,500人、総森林面積は8,000ha。この共同体は、木質バイオマスの需要がまだ少なかった1997年に、会員の共同出資で有限会社バイオマスホーフを設立した。
 森で木を伐採すると、製材用の丸太にもパルプ材にもならない部分が、木の体積にして20〜30%ほど生じる。樹幹部や腐りや曲がりがひどい部位である。これらの「残材」は、お金にならないので、普通は伐採後、「ゴミ」として林地に放置される。捨てられているものを有効に活用し、少しでも自分たち(森林所有者)の利益を増やそうというのが、バイオマスホーフ設立の主旨だった。
 5ヘクタールほどの敷地には、自動薪割り機が設置されている。「売れない」低質材が集められ、適当な大きさに割られ、2立方メートルほどの金網のボックスに入れられて、10ヶ月ほど乾燥させられる。太陽の熱を利用した温風乾燥施設(2週間で乾燥)もあり、薪材需要の多い冬場に備えている。その他、チップ材とペレットの貯蔵庫がある。チップ材は、移動式のチッパーによって林道端で残材をチップ化し、この施設に運ばれてくる。ペレットは、他の施設で作られたものを地域流通のために一次貯蔵している。
 バイオマスホーフは、いわゆる木質バイオマスの地域供給センターである。原料のほとんどはケンプテン周辺から集められ、地域の住民や企業、自治体施設などに供給される。運営するのは地域の森林所有者で、まさに地域の資源を循環させることで、地域にお金が落ちるシステムである。バイオマスホーフは、2005年、地域に新しく作られた大型熱供給施設の契約業者にもなり、地域経済循環をさらに強化した。
 需要が急速に伸びている木質系燃料であるが、その価格は、原油価格の高騰に連動して上昇している。一部の地域では、パルプの原料になる材よりも、木質バイオマスの原料費の方が高い価格で取引されるという現象も生じており、製紙産業と木質バイオマス産業の間で低質木の買取競争が起っている。買い手同士の競争は価格を上昇させるので、売り手である森林所有者にとっては歓迎すべきことだ。ケンプテン森林所有者共同体のアドバイザーでもある州の森林官ヴィルテンゾーン氏は、「製紙産業が長い間パルプの価格を低く抑えていたが、木質バイオマスという競争相手ができ、モノポール構造が崩れた。ようやく健全な状態になった」と満足気に語る。
ケンプテン森林所有者共同体の経営するバイオマスホーフの薪割り機
ケンプテン森林所有者共同体の経営するバイオマスホーフの薪割り機

製材用にもパルプにもならない低質材が集められ、薪にされる。バイオマスホーフ薪はボックスに入れて、最低10ケ月、天然乾燥させられる
製材用にもパルプにもならない低質材が集められ、薪にされる。バイオマスホーフ薪はボックスに入れて、最低10ケ月、天然乾燥させられる
酪農家のサイドビジネス
地元森林官(右)と作業の打ち合わせをするヴュルツブルガー氏(左)

 グロッタータール村は、南西ドイツのバーデン・ヴュルテンベルク州シュバルツバルト地方の西部、フライブルク市から北に10キロの位置にある。この村で酪農と林業を営むヴュルツブルガー氏は、一見ごく普通の農家のおじさんである。
 彼は、5年前に木質バイオマスのサイドビジネスを始めた。森に残材となって捨てられている低質材をチップ化するという事業である。トラックに装着できる移動式のチップ製造機で林道端まで行き、その場で「林地ゴミ」をチップ化する。供給先は、周辺の集中発熱施設やコージェネ施設(発電と発熱を同時に行う)。学校、病院や新興住宅地に敷設された大規模な施設から2〜3世帯の小規模施設までさまざまだ。いずれも、一箇所でチップを燃焼させて熱湯を沸かし、それを地下の給水管を通して各建物の暖房やシャワーの熱源として供給する施設である。
 州による設備投資補助もあってか、ここ数年の間に木質バイオマスを原料とする発熱発電施設は随分増加した。それにともない、チップ製造者としてのヴュルツブルガー氏の仕事も増えた。
 3年前には、365キロワット、420馬力のモーターを搭載した大型のチッパーを37万ユーロ(約5,300万円)で購入した。この機械、クレーンの先についた大きな鋼鉄のハサミが残材を掴み取って、サメの歯のような尖った突起がいくつもついた歯車の回転するチップ製造機に押し込む。最大直径60cmの大木まで処理可能ということだ。轟音が響き、ものすごいスピードで残材が粉砕にされ、チップとなってトラックの後ろについたコンテナに噴出される。
 ヴュルツブルガー氏の現在のチップ生産量は、年間2万立方以上。地元の人を作業員として2〜3人パートで雇っている。
 「副業で始めた事業がほとんど本業になってしまった」と彼は言う。
 彼のように本格的に事業を展開している人物は少ないが、サイドビジネスとしてチッパーを購入し、副収入を得ている農家が、シュバルツバルト地方には多い。
ヴュルツブルガー氏が3年前に購入した大型の移動式チッパー粉砕された木がチップとなってコンテナに吹き入れられる
ヴュルツブルガー氏が3年前に購入した大型の移動式チッパー粉砕された木がチップとなってコンテナに吹き入れられる
地域でお金が循環
 南ドイツは、平地の多い北ドイツに比べて、山が多く、小規模な農家が多い。過去30年の間に、自由競争の原則が導入され、農産物の価格下落を招いた。
 土地条件のいい場所の農家は大規模化して、生産量を拡大することで対応した。しかし山間部では、地形的な理由から、規模拡大するにも限度がある。足りない収入は、他の仕事で補うしかない。
 1950年代から80年代にかけて、小規模農家は地元の製造業に職を見つけたが、グローバル化の影響で、その製造業も賃金の安い東欧や東南アジアに移転し、働き場所が少なくなった。このような状況のもと、兼業農家の新しい職場として、観光業と再生可能エネルギーによるビジネスが現在有望視されている。木質バイオマスはその代表選手と言っていい。
 利点は、地域内に雇用が生まれること。また融通の利くサイドビジネスで、本業の農林業も続けられる。
 地方の人間が都市の工場に働きに出れば、お金は都会の方向に動いていくが、地域の資源を活用する事業を地域で創出し、地域に雇用を生み出す木質バイオマスのようなビジネスであれば、地域でお金が循環する。外に向いていた地域経済のベクトルが内に向けば、気薄になりかけていた地域内の人々の交流やつながりも自ずと強化される。
 地域の資源で自らエネルギーを生産することは、遠い国で生産され、大手資本に支配されている化石燃料への依存度を低くすることにつながる。これにより、地域の人々に精神的余裕と自信が生まれる。
 筆者の知る地域エネルギー事業に関わる人々は、「ようやく自分たちの時代が来た」「これが未来のエネルギーだ」と希望に満ち溢れ、生き生きとしている。
南ドイツの農村の風景。この美しい牧草地の景観を維持管理するのは主に小規模の兼業農家。農業と両立できる木質バイオマスビジネスは、地域の景観資源を守ることにも貢献する。
南ドイツの農村の風景。この美しい牧草地の景観を維持管理するのは主に小規模の兼業農家。農業と両立できる木質バイオマスビジネスは、地域の景観資源を守ることにも貢献する。
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記事・写真:池田憲昭:http://www.ikeda-info.de
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