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Issued: 2008.03.19
コスタリカでエコ旅について考える
 エコツアーという言葉からイメージする旅のカタチは、人によってさまざまです。大自然や野生生物に触れる旅を、エコツアーと思っている人もいるでしょう。でも近年は、エコツアーやエコツーリズムという言葉を、きちんと定義して使うことが多くなりました。

 例えば環境省や関係団体が取りまとめたエコツーリズム憲章によると「エコツーリズムとは、自然環境などの資源を損なうことなく、自然を対象とする観光をおこして地域の振興を図ろうという考え方である」とし、その考え方を実践するためのツアーをエコツアーと呼んでいます。
 こうした旅の新しいカタチが生まれてきたのは、開発から保護・保全へ…と、人々の意識が少しずつ変化してきている現れかもしれません。この考え方を積極的に取り入れ、観光客を呼んでいる国・コスタリカを訪ね、エコ旅(※)の未来について考えてみました。

※今回のレポートでは、正式名で使う必要がある場合を除いて、エコツアーを「エコ旅」と呼んでいます。上記で定義されたようなエコツアーの大事な要素をお伝えしつつも、定義にとらわれ過ぎずにコスタリカの魅力をお伝えできればという思いを込めて…。
 目次
旅のはじまりは首都サンホセから
エコ旅の優等生・モンテベルデ
1970年代からエコ旅を始めていた森
44カ国の子ども達が守った森
地元の学校が運営する森
ナイトツアーの案内は爬虫類オタクのガイドさん
森を再生させて守る、活かす
旅の終わりにナマケモノやサルに出会う
■コスタリカについて
国・位置: 北はニカラグア、南はパナマと国境を接し、東はカリブ海、西は太平洋に面する
人口: 430万人
面積: 5万1,100平方キロ (四国と九州を合わせたくらいの大きさ)
公用語: スペイン語



* エコツーリズム憲章(環境省HP)
http://www.env.go.jp/nature/
ecotourism/charter.html
* 「特定非営利法人日本エコツーリズム協会が考えるエコツーリズム」と「社団法人日本旅行業協会におけるエコツーリズム」
http://www.eco-tour.jp/help/h_eco_teigi.html
旅のはじまりは首都サンホセから
あまり気ぜわしさを感じないコスタリカの首都・サンホセ

 中米の小国コスタリカ。常設の軍隊を持たない国としてテレビなどで紹介されることもあるので、名前を知っている人は多いかもしれません。軍隊を廃止し、そのぶん教育に力を注いで国民の地力を育て、さらに民主的な政治を取り入れてることで内政が安定し、治安も比較的よいため、観光客が安心して訪れることのできる国となっています。

 人口430万人の小国らしく、首都サンホセの街はどこか地方都市の風情が漂うのどかな雰囲気でした。環境先進国を目指している!と聞いていたので、街にその片鱗が見えるかな?と思っていたのですが、いたって何のエコ的要素もなく「なるほど、コスタリカの環境は、きっと自然保護、生態系保全がメインなのだろうな」と推察。実際に、都市の環境対策はまだまだこれからなのだとか。それでも少しだけエコ的要素を見つけてみました。

 ひとつは、スーパーにオーガニックコーヒーや自然素材を使った石けんなどが置いてあったこと。
 もうひとつは、ホテルで紹介しているツアーが、主に自然体験型のツアーだったことです。国が率先してエコツーリズムを推進しているだけあって、国じゅうどこにいってもエコ旅が楽しめるようにメニューが用意されていました。

エコ旅の優等生・モンテベルデ
 そんなサンホセを後にしてエコ旅を実感するために向かったのは、世界的にも貴重な熱帯雲霧林が広がるモンテベルデ地域。
 熱帯雲霧林とは、熱帯地域のしかも標高の高いところにあり、一年中100%近い湿度を保つ森のこと。熱帯とはいえ年間の平均気温は15〜22℃しかありません。1960年代後半にここを訪れた科学者が、霧に包まれた深い森に息づく、他では見られない固有種を含む豊かな生態系を発見し、世界的に注目された場所です。
 それ以来、地域の人はもとより、政府・NGO・科学者など多くの人の手によって保護・保全されてきました。と同時に、自然資源を目玉にした観光収入によって地域経済を活性化させてきたエコツーリズムの先進事例としても知られています。

 熱帯雲霧林は、熱帯とはいっても高地にあるので涼しく、また湿度が高いためかなりの確率で雨が降っています。
 私が訪れた11月中旬は、まだ雨期が終わらない頃で、滞在中は毎日雨でした。森を歩くには上から下までをしっかり覆ってくれる雨具が必須です。雨の中は決して歩きやすいものではありませんでしたが、雨を含んで厚みを増した森は、目に見えないような小さな生物から大きくそびえる樹木に至るまで、豊かな生態系をより深く感じることができました。

 モンテベルデまでは、サンホセからバスで約5時間。途中までは国道をスイスイ飛ばしていったのですが、モンテベルデに向かう道にバスがハンドルを切った瞬間、そこはでこぼこのオフロード。バスはゆっくりゆっくり凸凹を避けながら進んでいきました。国道とのあまりの落差にびっくり。車が通りやすいように道を整備する話はあるそうですが、生態系を守るためにあえて、凸凹道のままでいることを人々が選択してきたとのこと。
 私が話をした人の多くは「道が悪いのは生き物のため。それに一度にあまりたくさんの観光客が来ないから環境にいいんだ」と言っていました。
 一方で、「地元の住民としては、もう少し道を整備してほしい。今のままでは道が悪すぎて、4WDでしか走れない。4WDは環境面から考えてもいいとは言えないし、お金がなくて4WDが買えない人だっている」という意見もありました。
 それにしても、観光業にたずさわる人の口から「一度にたくさんのお客さんが来ない方が環境にいい」という言葉を聞くとは、ちょっとした驚きでした。こんな言葉を聞けるのも、エコ旅の特徴のひとつかもしれません。

1970年代からエコ旅を始めていた森
あたり一面が霧に包まれた深い森

 モンテベルデの自然保護区の中で一番有名なのは、その名を冠している『モンテベルデ雲霧林保護区(Monteverde Cloud Forest Biological Reserve)』でしょう。保護区としてがスタートしたのは1972年。非常に希少な生態系の発見によってこの地の保護が叫ばれたとき、この土地を所有していたクエーカー教徒の人たちが、私設の自然保護区としてこの地を保護・保全し、その費用の一部を観光収入でまかなうという方法をとったのです。

 管理、運営はサンホセに本部を置く研究機関『熱帯科学センター(Centro Cientifico Tropical)』が行っています。開設当初は年間数百人程だった来場者が、今では5万人以上。モンテベルデのエコ旅を楽しむ人は必ずと言っていいほど訪れる場所になっています。

 あたり一面が雲と霧に覆われた見晴らし台からの眺めは、この森が保っている膨大な水分量とそこで育つ無数の生き物の呼吸を感じさせてくれました。橋の上から森を見下ろすと、ところどころに咲いている赤や紫、白や黄色の花の色が森にアクセントを加えてくれています。
44カ国の子ども達が守った森
『この植物は何を感じているのだろう? 私はこの地球に生きている。私は誰?』と投げかける看板。哲学的な問答のようです。

 観光客が訪れる数は、モンテベルデ雲霧林保護区に比べ少ないものの、私有の自然保護区としては中央アメリカ最大の規模を誇っているのが、『子ども達の永遠の森(The Children’s Eternal Rainforest)』。日本を含む世界44カ国の子ども達からの寄付と呼びかけで、54,000ヘクタールの土地を買い取り、保全している森です。
 一般に開放しているのはそのうちのほんの一部ですが、遊歩道に立てられている看板の番号に沿って小冊子の解説を読んでいくと森の特徴が勉強できるようになっていたり、子ども達の手作り案内版があったりして、子どもに向けたメッセージを伝える場になっています。
 一方、それ以外の広大な保護地域の管理・運営には苦労も多いようでした。森の管理をしている『モンテベルデ・コンサベーション・リーグ(Monteverde Conservation League)』のスタッフに話を聞いたところ、保護地域周辺の人たちは、必ずしも全員が森の保全に理解があるわけではなく、意識を変えることの難しさを感じているとのこと。
 観光客が目にする「豊かな森、美しい自然」はほんの一部だけれど、いつまでもそれを楽しむことができるように、陰の裏方さんたちの日々のお仕事にも十分な資金が回るようにすることが、エコ旅には必要なのではないかなぁと感じました。
地元の学校が運営する森
森で不思議な形の植物をたくさん見つけました

 これまでご紹介した二つの保護区に比べると面積は小さいものの、モンテベルデのエコ旅を語る上で忘れてはいけないのが、『サンタエレナ自然保護区(Santa Elena Cloud Forest Reserve)』です。
 土地は国の所有ですが、管理・運営は地元のサンタエレナ技術学校の父兄で構成される実行委員会が担当しているのです。しかも、入場料収入や売店での販売収入などを使って、保護区の管理運営だけではなく、学校の運営や地元小学校に対する環境教育まで行っているというのだから驚きました。
 学校では生態学を教えていて、卒業生は、訓練を受けた後に保護区のスタッフやガイドになることもあるとのこと。地域の自然や文化を守りながら、それを使って観光を成り立たせているだけでなく、次世代を育てているのです。
 有名な観光地であっても、将来を考えずに今の利益だけを追求していたら、「昔はもっとよかったのに」と、いつの日か訪れる人をがっかりさせてしまうかもしれません。エコ旅の要素のひとつ、「地域の人の関わり」の大事な一面を見ることができました。

ナイトツアーの案内は爬虫類オタクのガイドさん
 エコ旅の楽しみ方のひとつに、ガイドツアーがあります。モンテベルデで、生き物の夜の生態を観察するナイトツアーを案内してくれたのは、地元出身の若手ガイドさん。日中はカエルの展示施設で観光客向けの説明員や研究員として働き、夜はフリーランスのツアーガイドをやっているとのこと(フリーランスのガイドは、コスタリカでは珍しくありません)。
 少しぎこちないしゃべり方の彼の後に付いて、暗闇に潜むハナジロアナグマ(アライグマの仲間)やちょっと不細工な顔の夜行性のほ乳類・キンカジュー、枝の上で眠っている鳥たちや巨大蜘蛛タランチュラなどを探しあてながら歩いていきます。
 ガイドさんは基本的に物静かで、口数はそれほど多くないタイプの様子。ところが、樹上高くでとぐろを巻く蛇を見つけるや否や一変! 堰を切ったように蛇や爬虫類について解説し始めたのです。
 「あの蛇の特徴は…」、「ここには○○種類の爬虫類がいて…」などなど、説明をだしすと止まりません。その熱意は痛いほど伝わったのですが、私には、蛇の黒と黄色の柄がきれいだったことと、それが毒を持っていることぐらいしか、記憶に残りませんでした。ガイドさん、ごめんなさい…。

 「どうやって森や生き物のことを勉強したの?」
 ツアーが終わって、彼に聞きました。
 「大学に通ってはいないけど、専門科目だけは受講したんだ。それに、子どもの頃からこの辺りの森にいつも入っていたから、自然と覚えたこともあるよ」とのこと。
 遊びながら覚える…地元出身のガイドさんだからこそ、の強みですね。

森を再生させて守る、活かす
 モンテベルデで保護区のガイドツアーに参加しているとき、ガイドさんがよく「ここは原始の森、あそこは二次森林」と、森の種類を分けて説明していることに気がつきました。素人目には、どちらがどちらか、正直見分けがつかないところもあります。
 でも、あるガイドさんの話を聞いて、二次林の大切さを改めて認識しました。

=ガイドさんの話=
   コスタリカには、個人所有の自然保護区があります。例えば、私の親戚が所有している保護区は、20年前は牧場でした。当時から土地の半分は原生林のままで、残り半分が切り開かれていたのですが、エコツーリズムが徐々に広がって行く中で、原生林はそのままに、牧草地の部分を森に戻していきました。現在、森に戻した部分は二次林となり、たくさんの動物や鳥が戻ってきています。  彼らは森の中にトレイル(遊歩道)をつくり、様々な自然観察のための設備をつくって観光客を呼んでいます。それによって、牧場をやっていた頃よりも高収入を得ているのです。  これは森にとって本当にいい事なんです。もし牧場を経営していたら、どんどん森を切り拓いていかねばなりません。消費する一方です。  このように、たくさんの人々が牧場を辞めて二次林を育てているので、半世紀前より混合森林(原生林と二次林が交ざったもの)が増えて、生態系が戻ってきているのです。
『遊歩道を外れないでくださいね。自分ひとりだけならいいか…と思う人が100人、200人といたら、森が傷ついてしまいます』

 コスタリカでは、森と森をつなげて生き物が自由に行き来できるようにすることで、豊かな生態系を維持しようという「森の回廊計画」が行われています。そのためにも森を作っていくことはとても重要なのです。
 案内をしてくれたガイドさんの話を聞き、見事に再生した二次林を体験しながら、一度失われてしまったものを再生させることが、今の時代ほど重要なときはないのではないかと思わずにはいられませんでした。

 エコ旅なんだから、原始から手つかずの森を堪能するのが当たり前のように思っていましたが、二次林の存在もこれからのエコ旅には欠かせないものかもしれません。
旅の終わりにナマケモノやサルに出会う
 国土の4分の1が国立公園や自然保護区に指定されているコスタリカで、そのすべてを見て回るのは大変。でも、少しはモンテベルデ以外も見ておきたいと思い、太平洋に面した『マヌエル・アントニオ国立公園』を訪ねることにしました。ここは、国内で最も小さい国立公園でありながら、首都サンホセからのアクセスがよく、美しい海があって、歩きやすい遊歩道からは誰でも比較的簡単に野生動物を見つけることができる気軽さがあります。国内で最も有名な観光地のひとつとなっています。

 公園入り口でまず目についたのが、観光客に自分を売り込むガイドさん達の姿でした。最初は「怪しい…」と思って様子を見ていたのですが、どうやらきちんとした資格を持った人たちで、4〜5人のお客さんを確保すると、順次ツアーをスタートさせている様子。聞くと、多くはフリーランスのガイドさんで、ガイド料の一部を国立公園に還元し、管理運営に協力しているとのこと。それ以外に、ツアー会社に所属して団体客を案内する人もいるのだとか。
 実際にガイドを頼んでみると、さすがに公園を熟知していて、ひとりでまわるより何十倍もの密度で動植物の魅力を堪能することができました。
 おなじみのナマケモノや顔から首の部分が白いノドジロオマキザル、わずか数センチの大きさのコウモリや木の幹の色と同化している鳥、他にもワニやトカゲなどなど。こんなにも野生動物を間近で見られるなんて、何て幸せな場所でしょう!

 そんなマヌエル・アントニオ国立公園の悩みは、観光客が増えたこと。近隣にホテルや観光施設が増え、ゴミが増えたり水が汚れたりと、周辺環境に影響が出ているとのこと。また、野生動物にエサをあげてしまう観光客も後を絶ちません。人間が与えた食べ物が原因で病気になってしまう動物がいるなど、野生と人との関係も課題です。
 こうした悩みは、エコ旅を推進する観光地の多くが直面していることでもあると思います。エコ旅の感動体験をいつまでも味わうことができるように、それぞれの観光地が課題を解決するための取り組みと成功事例を共有していけたらよいなぁと、旅の最後に考えました。
高感度望遠鏡をのぞくと、こんなに間近に動物や植物を観察することができます
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記事・写真:原田麻里子

〜著者プロフィール〜
 二世帯同居をしていた祖父が、庭に生ゴミを埋めたり壊れた物を何度も直して大事に使っている姿を見て育ったせいか、気がつくと自然の営みが好きで「何でも使い捨て」が気になるオトナに。現在は、NPO/NGOコーディネーターとして活動中。「気になることは体験してみる。気になる場所には行ってみる」がモットー。
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