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シリーズ・もっと身近に! 生物多様性(第9回)
「広報・教育活動で広まる生物多様性 ──COP9に向けたドイツの取り組み」
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Issued: 2008.04.03
シリーズ・もっと身近に! 生物多様性(第9回)
 「広報・教育活動で広まる生物多様性 ──COP9に向けたドイツの取り組み」
COP9の正式ロゴ: 多様性と世界地図のイメージ(写真提供:ドイツ連邦環境省)
 2008年5月の生物多様性条約第9回締約国会議(COP9)まで、残すところ1ヶ月あまり。議長国となるドイツを始め、締約各国や関係団体の準備も熱を帯びてきました。会議は、ドイツのボンで開催されます。  条約締約国会議(COP)では、決議文書の採択を中心に、条約の実施状況や動向についての情報交換や議論が行なわれます【1】。一方で、“COP”というイベントは、生物多様性についての認知度や親しみを高めるための貴重な機会にもなっています。COPでは、過去の決議文書で、国連持続可能な開発のための教育の10年との連携や、各国の政策の雛形となる作業計画の策定など、グローバルな広報・教育の進展につながる活動について議論してきました。特に、06年5月にブラジルのクリチバで開催された第8回締約国会議(COP8)では、10の項目からなる優先的な活動項目を特定した。  今回は、COP開催直前のドイツにおける広報・教育・普及活動の取り組みに焦点を当てて、ドイツ政府や関係団体がどのように市民の周知・理解を得ようとしているかを追いました。
 目次
ナトゥーア・アリアンス
ドイツ連邦環境省の広報戦略:2段階のアプローチ
条約の教育・普及活動
2010年に向けて:開催国の覚悟が必要
ナトゥーア・アリアンス
 議長国のドイツでは、「生物多様性」というテーマを国民に広く知ってもらうために、広報活動を含むCOPの運営を目的に、ナトゥーア・アリアンス【2】という政府、企業、環境保護団体などからなるネットワークが組織されています。このネットワークで広報や普及を目指すのは、生物多様性という概念自体、それに「COP9」という政治的なイベントの内容とそのねらい、そして最終的にはCOP9での決めごとを一層推進していけるように社会的な雰囲気を醸成していくこととしています。  ナトゥーア・アリアンスの参加企業は、航空会社のルフトハンザ、自動車のフォルクスワーゲン、流通業大手のカール・シュタット、離乳食のヒップなどです。セクターも業種も異なる団体が協力してCOPを盛り上げていくために特別に結成されました。COP9のスポンサーとしてお金を出すだけではなく、それぞれの組織の強みを活かした活動を行います。例えば、ルフトハンザでは機内でCOP9のスポット公共広告を流し、またフォルクスワーゲンは生物多様性をテーマとした自動車の移動学習館を運営しています。
【1】 締約国会議の交渉の流れと歴史経緯
シリーズ・もっと身近に! 生物多様性(第2回)「国際交渉と生物多様性条約の歴史と展望」
http://www.eic.or.jp/library/
pickup/pu070816.html
【2】 ナトゥーア・アリアンス(Naturallianz)
文字通り訳すと、「自然同盟」。英語では、ネイチャー・アライアンス(Nature Alliance)。
機内誌に掲載された広告(写真提供:ルフトハンザ/(株)ザ・コンベンション)

生物多様性をテーマとした自動車の学習館」(フォルクスワーゲン社、マン社などが協力して実施)

ドイツ連邦環境省の広報戦略:2段階のアプローチ
 COP9に対して、ドイツ連邦環境省では2段階構成の広報戦略を立てています。
 第1段階では、「生物の多様性」について、普及活動を行います。人と自然との情緒的な結びつきを喚起しながら、綺麗で魅力的な自然のイメージを中心としたキャンペーンが行なわれます。ナトゥーア・アリアンスの各メンバーがそれぞれの政治、科学、産業などの分野で特化した広報を行ない、ドイツ連邦環境省が基礎となる情報について補完していく協力体制を構築しています。
ドイツ広報のポスター1 「Elephant(ゾウ)」(写真提供:ドイツ連邦環境省)

"All species are interdependent".

If we destroy one species, we endanger many more.

Birds and elephants are only two links in nature's species chain. And yet, about 15,000 animal and plant species are in danger of disappearing from this giant global web of life. Man is part of this web. If we carry on with 'business as usual' we will gradually destroy the entire natural basis of our lives.

In May 2008, 190 countries will meet at the UN Conference on Biological Diversity in Bonn in order to put a stop to this loss. Help us conserve biological diversity. More information is available at www.naturallianz.de
 第2段階では、COP9という政治的なイベントが生物多様性の保全や理解を促進する上で絶好の好機となること、またそのために解決すべき課題があることなどをハイライトしながら、「人」をメッセージの中心に据えています。経済と生態系がどのように依存し合っているのかという点を強調しながら、「実は生物多様性の保全は人間自身の問題である」というメッセージを浮かび上がらせています。生物多様性は技術革新や経済成長の源泉であり、仕事、雇用、繁栄といった、人間社会が存続していくための基盤となっていることを明らかにしていくことが主眼とされています。
 この第2段階を象徴するポスターをモチーフにして、生物多様性保全のためのマラソン大会「ナチュラソン2008(Naturathon 2008)」が5月18日に開催されます【3】。報道ニュースに取り上げられることで、生物多様性とCOP9の認知度を広げようと、国際的なチームが10kmを走るものです。生物多様性条約事務局長とボン市市長によるオープニングイベントも行なわれます。

【3】 ナチュラソン2008
ナチュラソン2008
ドイツ広報のポスター2 「Running Woman(葉っぱランナー)」(写真提供:ドイツ連邦環境省)

 連邦環境省が用意した2種類のポスターでは、「ゾウ」のポスターよりも「葉っぱランナー」のポスターの方が反響が大きく、「あのランナーのポスターがほしい」という問い合わせが多かったと、連邦環境省の担当者は話します。ナチュラソンへの反響やその効果も期待できそうです。
ナチュラソンの告知ポスター(写真提供:ドイツ連邦環境省)

 COP9のテーマ・ソングも準備されました【4】。若者やこれまであまり生物多様性に関心がなかった層を取り込むことがねらいです。サビの部分をドイツ語と英語の両方で繰り返すなど、国際イベントらしい配慮もみられます。  以上、ドイツの広報の戦略についてみてきました。政府、企業、NGOが協力して、一つの同盟を設立していました。実際に、民間セクターが積極的に参画している様子などが伺えます。  また、2段階のキャンペーンなど、自然と人との情緒的な結びつきと、自分たちに関わりのある行事だということをともに強調しようと工夫を凝らしています。歌やマラソンという一般の市民にとっても親しみやすい企画も計画されており、ドイツの国内外で今後どれだけ関心が高まっていくか、注目されます。

 スポーツといえば、06年のFIFAワールドカップの際に、ドイツ連邦環境省は「グリーンゴール」という目標を掲げ、温暖化ガスの排出抑制、リサイクル、廃棄物削減をめざした大々的なキャンペーンを展開していました【5】。現職のガブリエル環境大臣は交渉準備で忙しく、マラソンを走る姿を見ることはできそうにありませんが、06年当時には緑の党のトリティン(Trittin)環境大臣(当時)が自らサッカーボールを蹴っていた姿が印象的でした。今回のキャンペーンにも、当時の経験がうまく生かされているようです。

■ドイツ連邦環境省のキャンペーン事務局(連絡先)
*Campaign on Biological Diversity*
*Federal German Ministry for the Environment, *
*Nature Conservation and Nuclear Safety *
*Telephone: +49 1888 305-0 (direct line: 4400)
Fax : +49 1888 305-2694**

【4】 COP9のテーマソングとその歌詞
Der Songtext zu "I'm a part of it"
the song to the conservation of Biodiversity "I'm a part of it" by the Hohner, a cultic band from Cologne
【5】 2006FIFAワールドカップの「グリーンゴール」
2006年FIFAワールドカップ ドイツ大会のコンセプトは「グリーンゴール」
条約の教育・普及活動
 生物多様性条約事務局では、教育や普及啓発の活動を「CEPA(セパ)」と呼んでいます。英語のCommunication, Education and Public Awareness(広報・教育・普及啓発)の頭文字をとった略称です。生物多様性条約だけではなく、ラムサール条約などでも同様の概念が用いられ、これら活動の取り組みの重要性が指摘されています。
 生物多様性条約では、条文の第13条に、CEPAに関連した活動を位置づけています【注】。本文中には、法律用語の "shall" (「〜をしなければならない」「義務づける」)という強い表現を使い、広報・教育・普及啓発の活動を行なっていくことや、他の国や国際機関と協力を図っていくことを、締約国の義務と位置づけています。
 00年のCOP5(ケニヤのナイロビ)で採択された決議を受けて、条約事務局は、UNESCO(国際連合教育科学文化機関)を中心としたパートナーとともに、「生物多様性の教育と普及啓発に関するグローバルイニシアティブ(Global Initiative on Biological Diversity Public Education and Awareness)」を発足させ【6】、一連の専門会合を開催してきました。その流れは、06年のCOP8(ブラジル・クリチバ)での「優先的な活動項目」へとつながっています。優先的な活動項目は、以下の10の項目から構成され、任務も条約事務局と締約国にそれぞれ振り分けています。
  • 具体的な実施形態を確立
  • 現時点での知識を評価し、必要な能力開発を特定
  • 鍵となるメッセージを形成
  • 報道機関・メディア対応の戦略を実施
  • ツールキットの作成を通じ、CEPAの戦略を実施
  • ワークショップの開催
  • グローバル・ネットワークの基盤整備と支援
  • 国際生物多様性の日を実施
  • 締約国会議と科学技術助言補助機関(SBSTTA)の知名度の向上
  • 生物多様性の公式・非公式な教育の整合性を強化

    (※試訳:専門用語等を省略しています)

 また、COP8の決議では、来たる2010年を「国際生物多様性年」と宣言するよう呼びかけており、2007年1月に第61回国連総会の決議(61/203)として採択されました【7】
【6】 生物多様性の教育と普及啓発に関するグローバルイニシアティブ
Global Initiative on Biological Diversity Public Education and Awareness
【7】 国際生物多様性年
Resolution adopted by the General Assembly: 61/203. International Year of Biodiversity, 2010
【注】生物多様性条約 13条原文
The Contracting Parties shall:
(a) Promote and encourage understanding of the importance of, and the measures required for, the conservation of biological diversity, as well as its propagation through media, and the inclusion of these topics in educational programmes; and
(b) Cooperate, as appropriate, with other States and international organizations in developing educational and public awareness programmes, with respect to conservation and sustainable use of biological diversity.

[訳]
第13条 コミュニケーション、教育、普及啓発
 締約国は、次のことを行なわなければならない。
 (a) 生物の多様性の保全の重要性及びその保全に必要な措置についての理解、各種の情報伝達手段によるそのような理解の普及並びにこのような題材の教育事業の計画への導入を促進し及び奨励すること。
 (b) 適当な場合には、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する教育啓発事業の計画の作成に当たり、他国及び国際機関と協力すること。

 ※出典: http://www.biodic.go.jp/biolaw/jo_hon.html を一部変更


2010年に向けて:開催国の覚悟が必要
 2010年は、同年までに生物多様性の損失速度を顕著に減少させるという「2010年目標」の節目の年に当たります。さらに、国際生物多様性年として、生物多様性の認知度や普及を一層進めることが期待されています。  COP10のテーマ候補として議論されているのは、「開発と生物多様性」(未定)など。貧困緩和や人間社会の基盤としての生物多様性の役割が前面に出てくる予定です。  他にも、英米仏などの世界トップクラスの博物館の移動展覧会、南アのFIFAワールドカップとの何らかの連携などが議論されています。COP9での議論を受けて2年先に開催される会議のため、まだ詳細は決定していませんが、2010年は「生物多様性」の周知や取り組み促進の上で大きなチャンスであるとともに、開催国(予定)となる日本にとって、生物多様性のより一層の普及のために大きな覚悟が求められそうです。

 最後に、「カウントダウン2010」【8】では、生物多様性をテーマにしたサスペンス仕立てのアニメーションドラマを公開しています。題して『The BioDaVersity Code(ダヴァーシティ・コード)』。美術館で起きた殺人事件を題材として話題を呼んだ『ダビンチ・コード』をモチーフにしたものです【9】

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【8】 カウントダウン2010
 IUCN(国際自然保護連合)を母体とした国際ネットワーク。COP6において決議された2010年目標の実現に向けて機運を高めるための活動を行っている。主旨に賛同する行政、団体等が行動宣言文を表明し、加盟。生物多様性条約においても支持されている活動。  08年3月現在、COP9開催国のドイツを含めた31カ国、41の政府機関、170の地方自治体、45の民間企業、17の大学機関、270のNPO組織が加盟している。地域別では、ヨーロッパから481、アジア・オセアニアから80など。
http://www.countdown2010.net/
【9】 The BioDaVersity Code
カウントダウン2010 サスペンス・アニメ The BioDaVersity Code (英語のみ)
http://www.countdown2010.net/
daversity/ (英語版のみ)
関連情報 |
  第9回生物多様性条約締約国会議公式サイト(条約事務局)
 http://www.cbd.int/cop9/
  第9回生物多様性条約締約国会議公式サイト (ドイツ連邦環境省)
 http://www.bmu.de/english/nature/un_conference_on_biological_diversity_2008/
general_information/doc/39656.php
  生物多様性条約について(環境省生物多様性センター)
 http://www.biodic.go.jp/cbd.html

(写真等の提供)
 Fig1および4〜6は、ドイツ連邦環境省より、許可を得て掲載。
 Fig2は、ルフトハンザ/(株)ザ・コンベンションより、許可を得て掲載
 Fig3は、フォルクスワーゲンより、許可を得て掲載

記事・写真:香坂玲

〜著者プロフィール〜
東京大学農学部卒業。在ハンガリーの中東欧地域環境センター勤務後、英国UEAで修士号、ドイツ・フライブルク大学の環境森林学部で博士号取得。環境と開発のバランス、景観の住民参加型の意思決定をテーマとして研究。帰国後、国際日本文化研究センター、東京大学、中央大学研究開発機構の共同研究員、ポスト・ドクターと、2006〜08年の国連環境計画生物多様性条約事務局の勤務を経て、現在、名古屋市立大学大学院経済学研究科の准教授。
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