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Issued: 2008.06.12
シリーズ・もっと身近に! 生物多様性(第12回)
 COP/MOP4&COP9が閉幕 2010年次回会合は愛知県名古屋市へ 〜ドイツ・ボンからの現地レポート(後編)
 3週間に及ぶ生物多様性条約(CBD)のCOP/MOP4&COP9(於ドイツ・ボン)が無事に閉幕しました。7,000人以上が参加する、規模の大きい会議となりました。
 最終日の5月30日15時過ぎに始まった午後のセッションでは、「次回の開催地は、愛知県名古屋市」と決定。また会合全体で、37に及ぶ決議が採択されています。
 COP10の名古屋開催の正式決定を受けて、日本国内の一部の報道では、早くも「名古屋ターゲット」だとか「名古屋議定書」、「ABS(遺伝資源アクセスと利益配分)の国際制度化」など、壮大な構想を描きはじめています。ただ、大きな枠組みの実現には、個別の“細かい”項目の討議と、各項目の進捗が欠かせません。
 例えば、ターゲットの議論のためには、モニタリングとアセスメントの項目での議論、ABSや議定書については法制度論や手続き論などが避けて通れません。
 30日に会合が終わり、まだ熱気醒めやらぬ中、COP/MOP4&COP9の議論を振り返り、農業・森林、ABS、海洋地域と保護地域、自治体によるイニシアティブ(別名 都市と生物多様性市長会議)など進捗のあった事例を交えて、会合全体を概観し、2010年10月に開催される愛知県名古屋市でのCOP/MOP5&COP10に向けた課題について整理します。
 目次
農業・森林の生物多様性
ABS(遺伝資源アクセスと利益配分)
海洋及び沿岸と、保護地域
自治体による生物多様性のイニシアティブ
フォーラムとしての生物多様性条約
まとめ
国連大学高等研究所(UNU/IAS)ザクリ所長からのメッセージ
愛知県名古屋市での開催が決まり、檀上にあがる環境大臣と自治体および経済界の代表
写真1:愛知県名古屋市での開催が決まり、檀上にあがる環境大臣と自治体および経済界の代表
 
農業・森林の生物多様性
 会議では、農業、森林の作業計画などが集中的に議論されました(こうして集中的に議論されることを、条約用語で「詳細検討」と呼びます)。なかでも、遺伝子組み換え技術、バイオ燃料などが争点となりました。
 バイオ燃料をめぐっては、生物多様性に及ぼす負の影響を最低限に抑え込むことと、持続可能な方法による利用の確立などが争点となりました。
 また、農林業分野の予防原則については、リオ宣言の原則を踏襲していくことが提案されました。ブラジルなどを中心に「すでに実施してきているため、新たに実施を決議していく必要がない」との主張もあり、議論はなかなかまとまりませんでしたが、最終的には『予防原則』という言葉も決議に残り、その適用を行っていくおおまかな方向性が確認されました。例えば、遺伝子組換え樹木について、予防原則に基づいた使用を行っていくことを決議しています。
 同時に、資金面に関して、先進国による発展途上国への支援のあり方についても、議長国となったドイツをはじめとして、各テーマで問題提起が行なわれました。メルケル独首相は、熱帯雨林破壊を防ぐために新たに資金を供給することを呼びかけ、ドイツでは2009から2012年までに5億ユーロ、2013年からは、毎年5億ユーロを使っていくことを表明しました。資金の内訳など詳細は不明ですが、巨額の拠出金が大きな話題となりました。
 また、G8における森林の保護地域への資金面でのイニシアティブについても、今回の会合で議論となり、枠組みを超えたやりとりがありました。
  
ABS(遺伝資源アクセスと利益配分)
 これまでの議論では、制度の内容や見通しが固まる前に、法的拘束力の有無が議論されるなど、ABSの配分の方法論やあり方よりも手続き論にかかる見解の相違が交渉を難航させてきました。意見が異なる国同士の交渉の中で、時に信頼関係が損なわれかねない厳しい局面も経ながら、国際制度についての話し合いが行われてきています。
 こうした中、今回の会合を通じて、それぞれ3回開催する、今後の作業部会(ワーキングループ)、専門家会合でまとめていこうという機運が出てきたことは評価されています。法的拘束力の有無と、どのような制度となるのかその内容についての議論はこれからですが、ひとまず2010年までの議論の手順であるロードマップに合意しています。
  
海洋及び沿岸と、保護地域
 保護地域の設立に関する基準やガイドラインについて、検討を行っていくことで合意されました。主権の及ばない海域における専門家会合の開催などについては議論が紛糾しましたが、保護地域の設立に関するステップ、また基準やガイドラインが、附属書の中に含まれました。
 COP7の決議では、保護地域のグローバルなネットワーク化を進めることとしています。今回の海洋にかかる決議は、そのネットワーク化に向けて一歩前進があったといえます。
 保護地域に関しては、作業計画の実施を一層促進するため、地域ごとに技術支援委員会(Technical Support Committee)の設置や政府開発援助(ODA)の増額などが決議されました。
 
自治体による生物多様性のイニシアティブ
 各国の州、県、市など地方自治体が生物多様性の保全に果たす役割について、「締約国会議」という国家間の会議であるという原則を堅持しつつも、決議として初めて言及しました。今後の展開に注目が集まります。
 ボン市(ドイツ)、クリチバ市(ブラジル)、モントリオール市(カナダ)と並んで名古屋市も積極的にイニシアティブに参加し、人口の多い都市と生物多様性の関わり方についての議論を深めました。また、名古屋市、石川県は里山に関するイベントなども実施しています。
市長会議の様子
写真2:市長会議の様子
名古屋市長の会見の様子
写真3:名古屋市長の会見の様子
 
フォーラムとしての生物多様性条約
 個別の内容に関する議論をする場として、締約国会議についての議論も交わされました。具体的には、並行する他の国際プロセスとの関連性や、国際社会で交錯するさまざまなテーマに対して生物多様性条約がどのような役割を果たしていくべきかという組織面での話し合いなどが進みました。
 組織面での話し合いの中では、条約が正しいフォーラムかどうか、他のプロセスとの間で重複がないかどうかをチェックする議論があり、バイオ燃料や気候変動などに関連した議論の中で特に議論が白熱していました。プロセスの重複を避けつつも、整合性を確保するための方法論についても議論が交わされました。
 モニタリングアセスメントの決議の中では、2005年3月に発表されたミレニアム・エコシステム・アセスメント(MA)へのフォローアップとして、類似した評価を行なうかどうかが注目を集めました。国際的科学機構(IMOSEB)とMAのグループが話し合った結果まとめたコンセプトノートは決議でも明記され、2つのプロセスが協力しながら、重複しないようにする努力が払われています。
 また、生態系や地域を限定して実施するサブグローバル・アセスメント(SGA;sub-global assessment)に関して、国連大学(UNU)が事務局として機能していくことを決議するなど、組織面での議論も一定の成果を得ました。
 
まとめ
写真4:「女性と生物多様性を話し合う部会」の会場風景
 ワーキンググループ部会の議長は、南アとタイの女性が2人で務めていました。この他、独メルケル首相とディークマン・ボン市長をはじめとして、今回のCOP9では女性たちの活躍も目立ちました。


 COP9閉会して間もない2008年6月1日、朝日新聞では生物多様性に関する社説を掲載し、気候変動枠組条約の京都議定書の経験を手本にした『名古屋議定書』の策定を訴えていました(社説『生物多様性―絶滅防ぐ「名古屋議定書」を』)。
 またCOP9の会期中、「2010年目標(2001 target)」に数値目標などを盛り込んだ『名古屋ターゲット』について会議場の通路で議論がおこったと報道されました。
 来たる2010年は、「2010年目標」やABSの国際制度が一定の結論を設定しているターゲットの年であり、また「国際生物多様の年」という普及・啓発の活動においても重要な節目の年に当たります。このような年に開催される締約国会議(COP10)で、締約国の総意によって議定書やターゲットが誕生すれば、条約の3つの目的を達成し、実践していくための大きな前進となりそうです。
 一方で、COP9での議論が示しているのは、丁寧に各論点での妥結点を探り、一つ一つの項目を着実に進め、条約目的達成のための実践を促していくことです。
 今回の会合で2010年の日本での開催が決まったわけですが、日本が議長国となるのは2010年のCOP10開会式から2012年のCOP11までです。締約国会議の開催はあくまでスタートであって、会議後に続く息の長い調整と長期的視野に立った戦略が求められます。
NGOによる意見交換・イベントも盛ん
写真5:NGOによる意見交換・イベントも盛ん
閉会の挨拶に聞き入る議長 ガブリエル・ドイツ環境大臣(写真中央の男性)
写真6:閉会の挨拶に聞き入る議長 ガブリエル・ドイツ環境大臣(写真中央の男性)
閉会し、後片付けが始まる生物多様性プラザの跡地
写真7:閉会し、後片付けが始まる生物多様性プラザの跡地

◆国際社会で反響の大きかったNGOの活動
 〜WWFのLiving Planet Index(5月18日リリース)を事例として

 今回の会議では、開催国・ドイツをはじめとする各国の報道は、初日と最終日を重点的にカバーしていました。
 5月18日、会期直前のタイミングで『生きている地球指数(リビングプラネット指数)』【1】の2005年の最新データを発表したWWFの活動への反響は特に大きいものでした。BBC(英国)やCNN(米国)などのテレビ放送、またドイツ国内でもっとも権威のある新聞フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング(FAZ)紙が紹介した他、豪州のMelbourne Herald Sun、インドのヒンデゥー紙など、中国、豪州、ニュージーランド、南ア、カナダでも報道されていました。
 テレビ局や新聞社の多くが、「人間活動によって野生生物種が危機に瀕している」と警告を発したのに対して、FAZは改善傾向がみられる欧州、特にドイツについて評価する論調の記事を掲載していました。残念ながら、欧州・北米に比べて、アジア太平洋地域は悪化傾向にあることを報告書は示しており、2010年のホスト国となる日本への風当たりは強くなりそうです。

 また、時に実力行使を伴う過激な行動で知られる国際NGO・グリーンピースは、子どもたちを動員した活動が目立ちました。政治的なイベントに子どもを動員することに対しては賛否が分かれるところですが、デモ行進、インタビューなどに子どもたちが登場しました。開会式の5月19日のドイツのテレビ報道では、わずか10〜15秒程度の独環境大臣のコメントに対して、グリーンピース・ドイツの特集にかなり時間が割かれ、世界の生物多様性の危機的な状況を報道していました。

COP会場内で、報道機関からインタビューを受けるグリーンピース関係の子ども
写真8:COP会場内で、報道機関からインタビューを受けるグリーンピース関係の子ども

 一方、日本のNGOはドイツNGOと共同で最終日に記者会見し、COP10に向けての課題と引継ぎに余念がありませんでした。


□報道関連


【1】 生きている地球指数(リビングプラネット指数)
「シリーズ・もっと身近に! 生物多様性 ──2010年に向けて(第1回)」図4参照
http://www.eic.or.jp/
library/pickup/
pu070719.html#b7
国連大学高等研究所(UNU/IAS)ザクリ所長からのメッセージ
ザクリ所長 サイン

 日本の皆様

 2010年に開かれる、生物多様性条約第10回締約国会議の招致が成功したこと、おめでとうございます。私は、名古屋市長、愛知県知事、愛知県と石川県の経済団体、中央政府、および市民社会が、日本におけるCOP10の開催招致に尽力してきた全体の過程を見てきました。横浜の国連大学高等研究所(UNU-IAS)と国連大学高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニットの代表として、私もこの過程に全力を注いでいます。

 COP9の間、「サトヤマ(里山)」は新しいキーワードになりました。5月28日のハイレベル会議には、石川県および愛知県知事、名古屋市長と環境省の職員が参加し、多くの参加者が里山について言及しました。閉会式で、鴨下環境大臣は参加者を歓迎し、感謝しました。私は、UNU-IASがサブグローバル・アセスメントと、里山のアセスメントの事務局を務めることが認められたことを誇りに思っています。里山という概念に関しては、日本人のみなさまの間にも多様な視点があると思います。私たちの科学的な報告書の結果がこのテーマについて実り多く建設的な議論を生むことができると確信しています。

 改めて、愛知県名古屋でのCOP10の主催が任命されたことに、御祝いを申し上げます。

Dear Friends in Japan,

I would like to congratulate you on your successful invitation to host the 10th Meeting of Conference of the Parties to the Convention on Biological Diversity in 2010. I have witnessed the Mayor of Nagoya, the Governor of Aichi and the economic organizations of Aichi-Nagoya, Ishikawa, the national government, and the civil society actively engaging in the entire process of promoting COP10 in Japan. As the Director of the United Nations University Institute of Advanced Studies (UNU-IAS) in Yokohama and the UNU-IAS Operating Unit Ishikawa/ Kanazawa, I am also fully committed to this process.

During COP9, Satoyama became a new key word. The high-level segment on May 28 involved the Governor of Ishikawa, Governor of Aichi, Mayor of Nagoya and senior-level Ministry of Environment officials, and many participants referred to the concept of Satoyama. At the closing ceremony, the Minister of Environment, Dr.Kamoshita thanked and welcomed the participants. I am proud to announce that UNUIAS has been endorsed to serve as the secretariat of the sub-global assessment and the assessment of Satoyama. I understand that there are different views, even amongst the Japanese, as to the specific meaning of this concept. I am convinced that the results of our scientific reports will generate fruitful and constructive discussions on this subject.

Congratulations, once again on your successful nomination to host COP10 in Aichi, Nagoya.

ザクリ所長と握手

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関連情報 |
  第9回生物多様性条約締約国会議(COP9)の報告
  国際持続可能な開発研究所(IISD):International Institute for Sustainable Development
 http://www.iisd.ca/biodiv/cop9/
  日本政府発表の会議概要
 http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=9798
 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/jyoyaku/bio_0805_gai.html
記事・写真:香坂玲

〜著者プロフィール〜
東京大学農学部卒業。在ハンガリーの中東欧地域環境センター勤務後、英国UEAで修士号、ドイツ・フライブルク大学の環境森林学部で博士号取得。環境と開発のバランス、景観の住民参加型の意思決定をテーマとして研究。帰国後、国際日本文化研究センター、東京大学、中央大学研究開発機構の共同研究員、ポスト・ドクターと、2006〜08年の国連環境計画生物多様性条約事務局の勤務を経て、現在、名古屋市立大学大学院経済学研究科の准教授。
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