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No. アメリカ横断ボランティア紀行(第22話) アラスカへ(その4)
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Issued: 2009.08.25
アラスカへ(その4)[1]
デナリ国立公園のパークロード。森林火災の煙が流れ込んでいた
 朝、荷物をまとめフェアバンクスに向けて出発する。出発前、少し早起きして、デナリ国立公園のパークロードを自動車で走ってみた。あいにく動物は1頭も姿を現さなかった。
 デナリ国立公園からフェアバンクスまでは車で3時間ほどの距離だ。来た時とは打って変わって空はどんより曇っている。よく見ると、太陽は出ているようなのだが、辺りが霞んでいる。森林火災の煙が流れ込んできているようだ。フェアバンクスの近郊で、かなり大規模な森林火災が発生していたのだ。



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 目次
チナ川州立レクリエーションエリア
自然公園のトイレ
ムースとの出会い ─その2─
チナ川州立レクリエーションエリア
チナ川州立レクリエーションエリアの中を走る道路

 フェアバンクス市街地を通り抜け、郊外のチナ川州立レクリエーション地域を訪れる。車道の両側にはタイガが続き、道と並行する形で小河川が蛇行している。川岸にはビーバーが積み上げたと思われる流木の小山があり、川沿いの湿原には一面水草が広がっている。何気ない風景だが、日本ではまず見ることのできない豊かな生態系が残されていることに気づく。

 「あれ、ムースじゃない?」
 助手席の妻が左手の湿原を指差す。道路からそう離れていないところで、1頭のムースが水草を食べていた。幸い前後に車は1台もない。静かに車を停め、しばらく観察することにした。こちらを見ることはないが、横目でこちらを気にしているようだ。
 しばらくすると、今度はもうひとまわり大きなムースが1頭現れた。角がないところを見ると、おそらく母親だろう。寄り添うようにして水草を食べはじめた。母親は時々こちらを見る。かなり車を気にしているようだったので、私たちは観察をやめて、また車を走らせることにした。デナリでは、バスの車窓から遠くにしか見ることのなかったムースが、ここではこんなに間近に見ることができた。それだけ、この水草の広がるウェットランドが豊かだということだ。

◇チナ川州立レクリエーションエリア(Chena River State Recreation Area)

 アラスカ州設立の州立レクリエーションエリア地域。1967年設立。フェアバンクスの東方にあり、面積は397平方マイル(約1,028平方キロメートル)。レクリエーション地域には車道(チナホットスプリング道路)が通り、湿地、森林、ツンドラなどが分布する。トレイル、キャンプ場やピクニックサイトが整備されており、年間利用者は約15万人。ムース、グリズリーベア、ビーバーをはじめ、多くの野生動物が生息している。

チナ川州立レクリエーションエリアおよび周辺図
チナ川州立レクリエーションエリアおよび周辺図


自然公園のトイレ
レクリエーションエリア内の情報ステーションとトイレ
レクリエーションエリア内の情報ステーションとトイレ
情報ステーションにはリーフレットホルダーと掲示板がついている
情報ステーションにはリーフレットホルダーと掲示板がついている
便槽式のトイレ。手前はクマよけのハッチのついたゴミ箱

 州立公園にはビジターセンターはなく、道路沿いに駐車場と情報ステーション、トイレが数箇所あるだけだ。情報ステーションは簡単なパネルとパンフレットのポケットがついているだけの施設だったが、必要十分といえる。
 トイレのブースは2つ。男女の区別はない。それぞれ洋式トイレ1穴のみの便槽式(いわゆるポットン便所)で、躯体は木造だ。実はこのトイレ、アメリカの国立公園の至るところにある。それも、どの公園でも基本的な構造は同じだ。室内は広々としていて、車椅子で入っても窮屈な思いをしないだろう。ただ、水や電気はなく、手を洗うことはできない。トイレットペーパーはついていて、切れていることはほとんどない。ただ、国立公園内では鉄筋コンクリート製のものが多いようだ。
トイレの内部子供用の便座も備え付けられている
トイレの内部子供用の便座も備え付けられている
トイレの後ろに立つパイプ

 このトイレの特徴は、便槽式なのに臭いがほとんどないことだ。その秘密は「煙突」と便槽の管理にある。トイレブースの後ろ側にニョキッと立っている煙突は、黒い塩ビ製のパイプだ。屋根くらいの高さだが、太さは30cmほどもある。このパイプが太陽光によってあたためられることにより、自然換気ができるのだそうだ。また、便槽は頻繁に汲み取りされ、汲み取り後に薬品を便層に入れる。利用者の多いトイレは別だが、これだけでほとんど匂わなくなる。

 実は、日本でも問題になるのがこうしたトイレの設置だ。もともと国立公園にあったトイレは汲み取り式で、「3Kトイレ(くさい、汚い、暗い)」と呼ばれた。そこで環境庁(当時)は平成3年に「トイレリフレッシュ事業」を導入して、国立公園のトイレの水洗化、バリアフリー化をすすめてきた。トイレは格段にきれいになったものの、当然ながら施設の規模は大きくなり、水道電気代金、浄化槽のメンテナンス費用の負担も比べ物にならないほど大きくなった。国も自治体も予算が減少する中で、こうした質の高いトイレの施設管理費用の問題は無視できないものとなっている。
 そのような日本のトイレ事情と比較して、アメリカのトイレ設置の考え方は単純明快だ。ビジターセンターなど多くの利用者が立ち寄り、トイレを使うところにはしっかりとした水洗トイレを作る。もちろん、下水施設もしくは大規模な浄化槽が併設されている。一方、展望台や路傍駐車場など比較的利用頻度が少ないところには、「緊急避難用」として、簡素な汲み取り式のトイレを配置する。設計や建設費用を節約するため、トイレの仕様は統一し、水も電気も必要のない構造としている。また、設置場所は車道のすぐ脇か駐車場だ。管理車両が横付けできるので、トイレットペーパー交換、掃除、汲み取り、修理などのメンテナンスが楽なのだ。メンテナンスさえしっかりしていれば、便槽式トイレでも結構快適だ。
 こうしたアメリカのトイレをみてみると、日本でも、利用者数の少ないところは、思い切って便槽式に立ち戻ってもいいのではないかという気にさせられる。

ムースとの出会い ─その2─
 車道沿いにムースを探していると、ほどなくまた1頭、川を渡っているところに遭遇した。路肩に車を停めて見ていると、トラックが1台停まった。
 「メスのムースだな。呼んでみようか?」
 トラックの男性は器用にムースの鳴き声を真似した。すると、ムースが不思議そうにこちらを見る。
 「ムースはオスだけが狩猟の対象になるんだ。猟期が終わるまでにあと1頭獲りたいんだけど、なかなか見つからないんだ。ムースの肉はおいしくて健康にもいい。肉の量も多いから、2頭も獲れば一冬中食べるのに困らないんだ」
 そう言うと、またトラックに乗り込み、ゆっくりと車道を走り始めた。道理でメスや子どものムースばかりが目につくわけだ。オスがすべて狩りつくされないか、少し心配になる。

 私たちは最初にムースを見かけた辺りに戻り、小さな沼の脇にある駐車場に車を停めた。車を降りると、ちょうど駐車場脇の歩道からムースが姿を現した。ウマほどもある大きさで、じっとこちらを見ている。角がないのでメスのようだった。しばらくこちらを見ていたが、ゆっくりと沼の方に向かって歩き始めた。私たちは静かにそれを見守った。その日も曇りで、内陸らしく冷え込み、手がかじかんでいた。
 ムースは、まだちらちらとこちらを気にしているようだったので、少し離れて観察することにした。するとムースは沼に入り、水草を食べ始めた。

 「うしろ、うしろ…」
 妻が緊張気味にささやく。後ろを振り返ると思わず「あっ!」と声が出そうになった。そこには別のムースがもう1頭いたのだが、ウマよりも2回りほども大きい。こうして間近で見ると、まるで「恐竜」のようだ。
 私たち2人と子どものムースとの間合いを測りながら、少しずつ近づいてくる。私たちはちょうど母子2頭を結ぶ線上に入り込んでしまっていたのだ。子連れの野生動物は危険だ。現に、この母ムースはかなりうろたえている様子が見てとれた。
 まず私が沼と反対側に移動した。その後、妻が走ってきた。その私たちの目の前を、母親のムースが子どもめがけて走っていった。あっという間のできごとだった。私たちは母親のムースが目の前を横切って行く姿を、固唾を呑んで見守った。
 2頭はようやく安心できたようで、子どもは母親のお腹の下にもぐって乳を飲んだ。私たちもようやく緊張が解けてきた。

 「先に逃げたでしょう、さっき」
 確かに、無我夢中で自分だけ先に逃げてしまった。口では何とでも言えるが、とっさの場面では自分の身を守るので精一杯だ。2人ともケガをしなかったのは、不幸中の幸いだった。
ムースの親子ようやく安心したのか、2頭で水草を食べながら沼の中を歩いていく
ムースの親子ようやく安心したのか、2頭で水草を食べながら沼の中を歩いていく
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