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シリーズ・もっと身近に! 生物多様性(第19回)
「海に浮かぶ動物園と生物多様性」:ヘルシンキのコルケアサーリ動物園を訪れて
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Issued: 2009.10.01
シリーズ・もっと身近に! 生物多様性(第19回)
 「海に浮かぶ動物園と生物多様性」:ヘルシンキのコルケアサーリ動物園を訪れて
マーケットのかもめ
 北欧の国、フィンランドのヘルシンキ市のコルケアサーリ動物園は、島全体が動物園として設計されています。人呼んで、「海に浮かぶ動物園」。来場者の多くは港からフェリーで海路、島に向かいます。
 動物園というと、娯楽やレジャーの対象としての利用がまずは思い浮かびますが、貴重種の保全の場だったり、私たちと動物の付き合い方を考えさせてくれる場だったりもします。
 今回は、動物たちのくらしと行動を眺めると同時に、生物多様性と動物園の役割について考えてみたいと思います。
 目次
市場の船場からフェリーで動物園へ
フィンランドと動物園の歴史と概略
あれっ 動物がいない…。なぜライオンを見ることができないの?
動物展示のジレンマ
結論
市場の船場からフェリーで動物園へ
 買い物客で混み合うヘルシンキの港のマーケット広場。豆、キノコの量り売りから、お土産品に絵葉書、サンドイッチやコーヒーまで売られていて、観光客と地元の人であふれ返っています。中には、船の上で野菜を売っている“お店”もあります。
マーケットの様子
マーケットの様子
船で野菜を売る人々
船で野菜を売る人々
 その人混みを掻き分けていくと、マーケット広場のはずれに、動物園のチケット売り場が見えてきます。フェリーがその目の前に停泊していて、たくさんの乗客が乗り降りします。
チケット売り場
チケット売り場
乗り降りの人々
乗り降りの人々
 出発時間がギリギリに迫っても待ち行列が長いと気を揉みますが、心配は不要です。出発時間になると切符売り場の窓口が下りて、「船の中で買ってください」というサインが表示され、船の中を切符売りの人が回ります。人気のある外のデッキの席は逃すことになるかもしれませんが、無事、フェリーに乗り込むことができます。
チケット売りと見回りの人
チケット売りと見回りの人
大人(12ユーロ) と 子供チケット(無料 0ユーロ)
大人(12ユーロ) と 子供チケット(無料 0ユーロ)
人気の甲板の席

 動物園へは地下鉄も通っていますが、夏はフェリーが人気です。冬になると、海が凍ってしまうため、フェリーは就航しませんが、地下鉄などの公共交通機関も通っています。  入場料は、フェリーで来場の場合は、12ユーロ(約1700円)、地下鉄なら動物園の入場料の7ユーロ(約1000円)のみ。円に換算すると、随分入場料が高い印象もありますが、比較的高い北欧の物価水準からすると、それぞれ1200円、700円という相場感です。  おまけの話ですが、ヘルシンキ市内は赤ん坊を含む6歳以下の子供をつれていると、大人の公共交通の料金が一人分免除されます。目に見える形で家庭・育児支援をしています。  出発して5分もすると、島が見えてきます。実際の航海は15分程度。ちょっとした小旅行気分です。
フィンランドと動物園の歴史と概略
 フィンランドは、旧石器時代からの先史時代、1155年〜1809年のスウェーデン時代、1809年〜1917年のロシアによる大公国時代、1917年の独立以降の現代の4つの区分に分けられます。相次ぐスウェーデンやロシアとの戦争で国土を失なったこともあり、ロシアからの独立記念日も祝われていますし、スウェーデン語が公用語になっているという歴史的経緯もあって道路などの標識もすべて2ヶ国語が並んでいます。
 波乱に満ちた歴史のなかでコルケアサーリ島も、釣り場、材木置き場、駐屯地などとして利用されてきました。ロシアから独立した後、1889年に動物園は開園し、1912年にヘルシンキ市に統合されたという、歴史ある動物園です。
 敷地面積22ha、動物が150種、植物が1000種程度で、岩が目立つ地形の中に建設されています。年間の訪問者数は、ヘルシンキの総人口とほぼ同じ、50万人程度です。
 さて、いよいよ島に到着して、上陸です。動物見学の期待はピークに達します。
遠方からみるコルケアサーリ動物園
遠方からみるコルケアサーリ動物園
いざ上陸:期待はピークに達します
いざ上陸:期待はピークに達します
あれっ 動物がいない…。なぜライオンを見ることができないの?
 上陸してすぐに、地図や案内パンフレットを販売している小屋があります。そこを抜けて、坂を上がっていくと、「ネコの谷」(Cat Valley)。いきなり大物のトラやライオンの檻が現れます。子どもたちの足も速まります。
 ところが、檻の中は植物ばかり。動物はほとんど見かけることができません。ライオン舎に至っては、絵まで飾ってあって、まるで、動物が見えないことが前提の様子。「動物園というより植物園?」という疑問を感じつつ、植物が生えている景観をみていながら通り過ぎます。
動物の見えない檻
動物の見えない檻
ライオンの絵が飾ってある檻
ライオンの絵が飾ってある檻
 結局、動物の姿をみないまま、「ネコの谷」を抜けて進んでいくと、やっと、保管用の檻(地図10番【1】)で、壁側の草のなかにレッサーパンダの姿を辛うじて姿を見つけることができました。
 シカの檻でも、植物の間から人間の方が覗き込むようなデザインになっています。

垣間見ることができたレッサーパンダ(地図の10)
垣間見ることができたレッサーパンダ(地図の10)
植物の間から覗き込むようにデザインされたトナカイの檻(地図の4)
植物の間から覗き込むようにデザインされたトナカイの檻(地図の4)
【1】  
コルケアサーリ動物園の地図(PDF)
カワウソからは動物も見えやすくなる(地図の2)

 カワウソ舎(地図の2)に進むと、ガラス越しの小川の中で泳ぐカワウソが見えてきます。観光客も熱心に撮影しています。これ以降、多くの動物は、岩山の上のヤギなど、距離はあるものの、きちんとみることができるようになりました。

 ただ、最初に通る「ネコの谷」は、わざわざ動物園に来ていることを思うと、なかなか納得がいくものではありません。
 動物園のホームページの「よくある質問」に答えがありました。
 質問はズバリ、「どうしてライオンを見れないの?」
 回答では、「ライオンは野性でも動物園でも一日18時間から20時間は寝るか休んでいます。ことに、活動的になるのは暗くなってから。早朝か夕刻遅くが、活動時間帯です。毎年9月に開催している、キャットナイトに参加すると、もっともアクティブなライオンたちの姿をみることができます」

 回答を読むと、やはり日中にフェリーでやってきた客には、トラやライオンが見えないことが前提のようです。
 関係者の方に聞くと、「やはり地元でも動物が見えるかどうか議論はあるところ。でも動物にとっていい環境が、人間にとって見やすい環境ではないことをまず知ってもらうという、教育的な意図もあります」とのことでした。
 
動物展示のジレンマ
 日本では、旭山動物園が「行動展示」という画期的な展示の仕方で、一躍動物園ブームを巻き起こしました。動物たちが動き回る様子を間近に、さまざまな角度から見ることができるその展示は、これまでの画一的な檻のなかで陳列する、百科事典のような展示とは全く別の革新的な施設でした。この成功は、日本中の動物園や水族館に多大な影響を及ぼしました。

 今回のコルケアサーリ動物園は、動物たちのスペースが広々と取ってあったり、本来の行動や生態系の再現が重視されている反面、観客の期待に応えようという意識はあまり見られないようにも感じます。

 これは、どちらがよいということではなく、目的や使命の違いと言えるのかもしれません。
 コルケアサーリ動物園では、「生物多様性の保全」を使命(Mission)としています。今後は、近隣の島(Hylkysaari島)を研究拠点として活用することも含めて、教育や研究への広がりを目指しています。また、2008年の世界の両生類の危機を訴える世界のキャンペーンに参画するなど、啓発活動も熱心です。
 
結論
 動物園の役割は大きく、展示(娯楽)、環境教育、種の保全、調査研究などが挙げられます。それぞれの動物園の歴史や文脈に応じて、どこの部分に重きを置いていくのかが変わっていくのでしょう。
 動物園は、経営的観点から捉えると、「娯楽」の側面を強調することになるのかも知れません。生物多様性の観点からも、知る、学習する場として、さまざまな種の動物を見ることができて、その姿を実際に見て感動を与えることの効果を強調する考え方もあるでしょう。間近で動いたり、動物特有の行動を見せてくれれば、感動もひとしおです。
 一方で、自然界の動物たちは、人間のためだけに都合よく行動したり、存在しているわけではありません。その意味で、生態系を再現した展示というのは、観客にとっては動物の姿もなかなか見ることができず、もどかしい部分もあるものですが、「ありのままの自然をみたい」という要求には忠実に応えているといえます。逆に言うと、そのもどかしさは、実際に姿を目の当たりにしたときの感動を大きくするかもしれません。
 海に浮かぶコルケアサーリ動物園、フェリーでの期待とはちょっと違った形でしたが、動物園と生物多様性を考える、よいきっかけとなりました。
◆小さな工夫

 動物の展示以外にも、訪問者が楽しんだり、会話のとっかりとなるような、ちょっとした工夫がなされています。
 まず、売店の売り物は、フェアトレードのものばかり。コーヒーや果物まで、他の国で生産されたものであれば、その地域の人々の生活や地域社会が成り立つように、環境、社会、経済への配慮に努めていることを示します。動物の展示だけではなく、多くの野生動物が生息し、生物多様性の豊かな発展途上国について、親子で話すきっかけになるかもしれません。
 個人的に一番びっくりしたのは、スカンク放つ異臭を再現する装置。「クサイ」というイメージは持っていたものの、どのような臭いを発しているのかは知りませんでした。装置からは、少しすっぱいような悪臭が発せられました。

スカンクの匂いがする機械
スカンクの匂いがする機械


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関連情報 |
  コルケアサーリ動物園のサイト
  (英語:ただし 右下に日本語の案内[PDF]有り)
 http://www.korkeasaari.fi/services/visitorinformation
  コルケアサーリ動物園の地図(PDF)
 http://www.korkeasaari.tx.fi/service.cntum?serviceType=serviceDocumentSection&documentId=40232
  ウィキペディア:コルケアサーリ(英語)
 http://en.wikipedia.org/wiki/Korkeasaari
  愛知県名古屋市の東山動植物園への地元学生によるインタビュー
  (動物園の役割についての議論があります)
 http://www.nagoya-cu.ac.jp/jimu/jyouhou/090605interview.html
記事・写真:香坂玲

〜著者プロフィール〜
東京大学農学部卒業。在ハンガリーの中東欧地域環境センター勤務後、英国UEAで修士号、ドイツ・フライブルク大学の環境森林学部で博士号取得。環境と開発のバランス、景観の住民参加型の意思決定をテーマとして研究。帰国後、国際日本文化研究センター、東京大学、中央大学研究開発機構の共同研究員、ポスト・ドクターと、2006〜08年の国連環境計画生物多様性条約事務局の勤務を経て、現在、名古屋市立大学大学院経済学研究科の准教授。
 ブログ:http://biodiversity.blog21.fc2.com/
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