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No.
Issued: 2010.06.18
−2009年中国環境白書を読む−
2010年6月3日、今年の中国環境白書(「2009年中国環境状況公報」)が発表された。同日に行われたプレスリリースでは、世界的な金融危機の中で取り組んだ7つの措置(成果)と今年重点的に取り組むべき6つの主要な業務を発表している。2009年中国環境状況公報のポイントをまとめてみた。
まず白書では冒頭で2009年の環境汚染の状況について次のように総括している。
白書の各論をもとに具体的な汚染状況の概要をまとめると次のようである。
七大水系(長江、黄河、珠江、松花江、淮河、海河、遼河)の汚染状況を見たのが図1である。図中の水質分類のうちI〜III類は飲用水として利用可能な水質である。南方地域にある水量が豊富な長江と珠江の水質は比較的良好であるが、松花江と淮河は軽度の汚染、黄河と遼河は中度の汚染、海河は重度の汚染であるとしている(河川の位置は図2参照)。
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また、国が直接管理する26の重点湖沼(ダム)の汚染状況は図3の通りであり、窒素及びリンを主因とする富栄養化が進んでいる。中でも雲南省にあるデン池の富栄養化による汚染が最もひどい(写真参照)。
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都市の大気については全国612(2008年は519)の都市でモニタリングが行われたが、基準の達成状況は図4のとおりであり、3級基準(特定工業地区に適用される最も緩い基準)にも達していない都市数は8(2008年は7)となっている。酸性雨の分布状況は図5の通りである。
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全国の工業固体廃棄物(日本の産業廃棄物に概ね相当)の発生量は7.3%増え、約20.4億トンに達した。図6からわかるように毎年増加の一途をたどっている。
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一方、主要な汚染物質である化学的酸素要求量と二酸化硫黄の全国総排出量は前年比でそれぞれ3.27%、4.60%低減した(図7、8)。
2009年は世界的な金融危機という困難の中で環境保全対策に取り組んだ1年であった。白書及びプレスリリースによれば、主要な施策として次のような措置を実施したとしている。中国独特の表現があってわかりにくい部分もあるが、多少の解説を付け加えながらポイントを紹介してみたい。なお、見出しは筆者がつけたものである。
プレスリリースを行った張力軍副部長(副大臣に相当)は今年取り組むべき主要な業務として以下の6点を強調した。
白書では、金融危機下の困難の中でも汚水処理施設や石炭火力脱硫設備の建設が進展し、主要な汚染物質の排出削減は2010年目標の達成に向けて進んだとまとめている。一見順調に進んでいるように見えるが、これは見方を変えると金融危機で主要な製造業の生産の増加速度が鈍ったから相対的に汚染物質の排出削減が進んだと見ることもできる。
金融危機からほぼ脱却した2010年の第1四半期(1〜3月)になると中国の経済成長率も11.9%まで回復し(2009年の経済成長率は8.7%)、特に環境への影響が大きい電力、鉄鋼、非鉄金属、建材、石油化学、化学工業等の資源型・エネルギー消費型産業が大幅に伸びている。その結果、これまで順調に削減されてきていた二酸化硫黄排出量が前年同期比で1.2%増と3年ぶりに増加に転じ、また単位GDP当たりのエネルギー消費量も3.2%上昇したと発表されている。
このほか2010年初に西南地域が被った異例の干ばつも汚染物質排出削減に予期しない難題をつきつけることになった。干ばつによる水力発電供給量の減少を補うため石炭火力発電量が大幅に増加し、これが二酸化硫黄と二酸化炭素排出量の大量増加に繋がっている。
第11次5カ年計画で約束した省エネ・汚染物質排出削減に係る2010年目標【3】の達成期限を目前に控え、予断を許さない状況になってきている(表1)。
中国政府発表資料等をもとに作成。割合(%)は特に断りがない限り前年比 |
2011年からは次の新しい5カ年計画が定められ、ここには省エネ・汚染物質排出削減に係る2015年目標として新たに窒素酸化物、アンモニア性窒素及び単位GDP当たりの二酸化炭素排出量も加えられる予定だ。2010年目標が達成できなければ次の目標達成に向けての信頼性も失われることになりかねない。2010年はまさに目標達成に向けて最後の決戦の一年である。
記事・写真:小柳秀明
小柳秀明 財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長 | |
1977年 | 環境庁(当時)入庁、以来約20年間にわたり環境行政全般に従事。 |
1997年 | JICA専門家(シニアアドバイザー)として日中友好環境保全センターに派遣される。 |
2000年 | 中国政府から外国人専門家に贈られる最高の賞である国家友誼奨を授与される。 |
2001年 | 日本へ帰国、環境省で地下水・地盤環境室長、環境情報室長等歴任。 |
2003年 | JICA専門家(環境モデル都市構想推進個別派遣専門家)として再び中国に派遣される。 |
2004年 | JICA日中友好環境保全センタープロジェクトフェーズIIIチーフアドバイザーに異動。 |
2006年 | 3月 JICA専門家任期満了に伴い帰国。 |
4月 財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所開設準備室長。 | |
7月から現職。 | |
2010年 | 3月 中国環境投資連盟等から2009年環境国際協力貢献人物大賞(International Environmental Cooperation-2009 Person of the Year Award) を受賞。 |