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目次
2009年の環境汚染状況
2009年金融危機下で講じた環境保全措置
今年重点的に取り組むべき6つの主要業務
2010年目標は達成できるか?
【1】中国七大水系
中国の河川流域は、七大水系と呼ばれる長江、黄河、珠江、松花江、淮河、海河、遼河に、大きく分類することができる。
【2】環境保護部と国務院
「部」は日本の省に相当。
また、国務院は、日本の内閣に相当。
【3】省エネ・汚染物質排出削減に係る2010年目標
2010年までに、化学的酸素要求量及び二酸化硫黄排出量を2005年比で10%削減し、単位GDP当たりのエネルギー消費量を2005年比で20%低減するという目標。

No.178

Issued: 2010.06.18

中国発:金融危機下で環境保全を前面に

−2009年中国環境白書を読む−

 2010年6月3日、今年の中国環境白書(「2009年中国環境状況公報」)が発表された。同日に行われたプレスリリースでは、世界的な金融危機の中で取り組んだ7つの措置(成果)と今年重点的に取り組むべき6つの主要な業務を発表している。2009年中国環境状況公報のポイントをまとめてみた。

2009年の環境汚染状況

 まず白書では冒頭で2009年の環境汚染の状況について次のように総括している。

1)
表流水の汚染は比較的深刻な状況にあり、七大水系【1】は全体として軽度の汚染状態であり、湖沼の富栄養化問題は突出し、沿岸海域も全体的にみれば軽度の汚染状態にある。
2)
都市の大気質は全体的にみれば良好であり、酸性雨の分布地域に変化はない。
3)
都市騒音は全体的には比較的よい状況にある。

 白書の各論をもとに具体的な汚染状況の概要をまとめると次のようである。
 七大水系(長江、黄河、珠江、松花江、淮河、海河、遼河)の汚染状況を見たのが図1である。図中の水質分類のうちI〜III類は飲用水として利用可能な水質である。南方地域にある水量が豊富な長江と珠江の水質は比較的良好であるが、松花江と淮河は軽度の汚染、黄河と遼河は中度の汚染、海河は重度の汚染であるとしている(河川の位置は図2参照)。

図1 2009年七大水系水質類別割合比較(出典:中国環境保護部HPから編集)
図1 2009年七大水系水質類別割合比較
I〜III類は飲用水として利用可能な水質
出典:中国環境保護部HPから編集

図2 中国の七大水系 出典:「環境問題のデパート中国」p56(小柳秀明著、2010年4月、蒼蒼社)
図2 中国の七大水系
出典:「環境問題のデパート中国」p56(小柳秀明著、2010年4月、蒼蒼社)

 また、国が直接管理する26の重点湖沼(ダム)の汚染状況は図3の通りであり、窒素及びリンを主因とする富栄養化が進んでいる。中でも雲南省にあるデン池の富栄養化による汚染が最もひどい(写真参照)。

図3 2009年26重点湖沼・ダム水質類別分布(出典:2009年中国環境状況公報をもとに筆者作成)
図3 2009年26重点湖沼・ダム水質類別分布
出典:2009年中国環境状況公報をもとに筆者作成

ペンキを溶かしたように富栄養化で真緑と化したデン池
ペンキを溶かしたように富栄養化で真緑と化したデン池

 都市の大気については全国612(2008年は519)の都市でモニタリングが行われたが、基準の達成状況は図4のとおりであり、3級基準(特定工業地区に適用される最も緩い基準)にも達していない都市数は8(2008年は7)となっている。酸性雨の分布状況は図5の通りである。

図4 2009年全国612都市大気環境基準達成状況(出典:2009年中国環境状況公報をもとに筆者作成)
図4 2009年全国612都市大気環境基準達成状況
出典:2009年中国環境状況公報をもとに筆者作成

図5 2009年全国酸性雨地域分布(出典:2009年中国環境状況公報)
図5 2009年全国酸性雨地域分布
出典:2009年中国環境状況公報

 全国の工業固体廃棄物(日本の産業廃棄物に概ね相当)の発生量は7.3%増え、約20.4億トンに達した。図6からわかるように毎年増加の一途をたどっている。

図6 工業固体廃棄物発生量の推移(出典:各年の中国環境状況公報をもとに筆者作成)
図6 工業固体廃棄物発生量の推移
出典:各年の中国環境状況公報をもとに筆者作成
※拡大図はこちら

 一方、主要な汚染物質である化学的酸素要求量二酸化硫黄の全国総排出量は前年比でそれぞれ3.27%、4.60%低減した(図7、8)。


図7 化学的酸素要求量排出量の推移(出典:各年の中国環境状況公報をもとに筆者作成)
図7 化学的酸素要求量排出量の推移
出典:各年の中国環境状況公報をもとに筆者作成
※拡大図はこちら

図8 二酸化硫黄排出量の推移(出典:各年の中国環境状況公報をもとに筆者作成)
図8 二酸化硫黄排出量の推移
出典:各年の中国環境状況公報をもとに筆者作成
※拡大図はこちら

2009年金融危機下で講じた環境保全措置

 2009年は世界的な金融危機という困難の中で環境保全対策に取り組んだ1年であった。白書及びプレスリリースによれば、主要な施策として次のような措置を実施したとしている。中国独特の表現があってわかりにくい部分もあるが、多少の解説を付け加えながらポイントを紹介してみたい。なお、見出しは筆者がつけたものである。

  1. 環境保護を主体としたマクロ経済構造調整コントロールを実施
     国際的な金融危機に対応するため発展方式を転換し、環境保護を前面に経済発展の調整を実施した。特に「二高一資」(高エネルギー消費、高汚染、資源依存型の事業や産業を指す)、過剰な生産能力、重複する建設プロジェクトを厳格に規制した。
  2. 汚染物質排出削減に顕著な成果
     昨年新増設した汚水処理能力は1,330万トン/日、石炭燃焼脱硫設備は1.02億kwであり、全国の化学的酸素要求量と二酸化硫黄の排出量は前年比でそれぞれ3.27%、4.60%低減し、2005年比ではそれぞれ9.66%、13.14%低減した。第11次5カ年計画(2006〜10年)期間中の二酸化硫黄の削減目標(2005年比で△10%)は1年前倒しで達成し、化学的酸素要求量の削減目標(同じく△10%)も期限内に達成できる見込みである。
  3. 重点流域・地域の汚染防止対策に新たな進展
     「重点流域水汚染防止対策専門計画実施状況審査暫定弁法」を発出し、重点流域省境断面における水質審査制度を全面的に確立した。2009年末までに第11次5カ年計画で手配した2,714の汚染対策事業中1,762(64.9%)が完成した。投資計画総額1,691億元のうち、これまで実際に投資されたのは987.4億元で58.4%を占める。156か所の水質モニタリング評価ポイント中125か所(80.1%)で水質目標を達成した。9つの主要な湖沼・ダムに関する生態安全評価が完成した。収集したデータは82万に達した。4,000か所以上に上る都市集落集中式飲用水水源環境管理の対象を明確にした。上海万国博覧会及び広州アジア大会の大気質を保障する行動を組織的に展開した。
  4. 市民生活に関連する深刻な環境問題を解決
     昨年、環境保護部【2】は国務院の9部門と合同で重金属汚染企業専門特別検査を実施した。検査対象企業は合計9,123社で、そのうち環境違法企業2,183社を摘発した。取り締まりの結果、231社を閉鎖し、また、641社の生産を停止させて対策を取らせた。さらに国家発展改革委員会等8部門と合同で2009年全国汚染物質排出違法企業の整理と公衆の健康環境保全保障専門行動を展開した。各地域で出動した環境取締り人員の合計は242万人・回以上で、検査した企業は98万社・回以上であり、摘発した環境違法案件は1万件以上であった。飲用水水源保護区の査察を行い、3,177の飲用水水源地を検査した。831社を閉鎖し、水源地に直接排出していた排水口220箇所を取り締まり、違法な780の建設プロジェクトを撤去させた。
  5. 「奨励により対策を促進させる」政策により農村の環境保全業務を広範に展開
     中央財政部門は農村環境保全専門資金を準備し、15億元を投入して2,160か所以上の農村環境総合整備と生態モデル建設を支援した。これと同時に準備した地方による投資も25億元に達し、直接受益した農民は1,300万人に達した。全国土壌汚染状況調査は30の省(自治区・直轄市)で完成し、収集されたデータはデータベースに収められ審査業務(データチェック)が開始されている。
  6. 三大基礎的戦略的業務に顕著な成果
     第1次全国汚染源全面調査が順調に完成した。57万人以上を組織的に動員し、工業汚染源、農業汚染源、生活汚染源と集中式汚染防止施設の4種類について592万か所以上を全面調査の対象とし、全国の汚染源排出の基本的な状況について全面的に掌握した。環境マクロ戦略研究は既定の任務を終了し、戦略研究総合報告及び専門報告などの一連の重要な成果をあげるとともに、中国の環境保護の新しい道などの重要な命題について引き続き研究することを提案した。水汚染防止対策とコントロール重大科学技術専門プロジェクトは全面的に実施する段階に至った。
  7. 環境保全計画とキャパシティビルディングに新たな成果
     環境保全に係る第11次5カ年計画が要求している目標達成のスピードに初めて追いつくとともに、一部の目標については目標以上の成果を上げた。国家環境情報と統計キャパシティビルディングプロジェクトが全面的にスタートした。

今年重点的に取り組むべき6つの主要業務

 プレスリリースを行った張力軍副部長(副大臣に相当)は今年取り組むべき主要な業務として以下の6点を強調した。

(1)
汚染物質排出削減は決勝戦(最後の年の意味)であり、既定の目標を達成した上でさらに大きな成績を上げる。
(2)
環境影響評価の強化や基準の健全化等の措置を通じて経済発展方式の転換と経済構造の調整を推進する。
(3)
環境関連法令の執行監督、緊急時の管理や核安全の管理監督を強化し、重金属汚染等の公衆の健康に危害を及ぼす深刻な環境問題の解決に力を入れる。
(4)
重点流域・地域の汚染防止を推進する。
(5)
「奨励により対策を促進させる」政策を深め、農村環境保護と生態保護を推進する。
(6)
汚染源全面調査及び環境マクロ戦略研究の成果を十分に生かして、環境保護に係る第12次5カ年計画(2011〜15年)の編成を全面的に推進する。

2010年目標は達成できるか?

 白書では、金融危機下の困難の中でも汚水処理施設や石炭火力脱硫設備の建設が進展し、主要な汚染物質の排出削減は2010年目標の達成に向けて進んだとまとめている。一見順調に進んでいるように見えるが、これは見方を変えると金融危機で主要な製造業の生産の増加速度が鈍ったから相対的に汚染物質の排出削減が進んだと見ることもできる。
 金融危機からほぼ脱却した2010年の第1四半期(1〜3月)になると中国の経済成長率も11.9%まで回復し(2009年の経済成長率は8.7%)、特に環境への影響が大きい電力、鉄鋼、非鉄金属、建材、石油化学、化学工業等の資源型・エネルギー消費型産業が大幅に伸びている。その結果、これまで順調に削減されてきていた二酸化硫黄排出量が前年同期比で1.2%増と3年ぶりに増加に転じ、また単位GDP当たりのエネルギー消費量も3.2%上昇したと発表されている。
 このほか2010年初に西南地域が被った異例の干ばつも汚染物質排出削減に予期しない難題をつきつけることになった。干ばつによる水力発電供給量の減少を補うため石炭火力発電量が大幅に増加し、これが二酸化硫黄と二酸化炭素排出量の大量増加に繋がっている。
 第11次5カ年計画で約束した省エネ・汚染物質排出削減に係る2010年目標【3】の達成期限を目前に控え、予断を許さない状況になってきている(表1)。

表1 省エネ・汚染物質排出削減実績
二酸化硫黄
(SO2)
化学的酸素
要求量(COD)
単位GDP当たり
省エネ
2006年 +1.5% +1.0% -1.33%
2007年 -4.66% -3.14% -3.27%
2008年 -5.95% -4.42% -4.59%
2009年
(上半期)
-4.60%
(-5.40%)
-3.27%
(-2.46%)

(-3.35%)
2009年末
までの累計
対2005年比
-13.14%
対2005年比
-9.66%
対2005年比
-14.38%

中国政府発表資料等をもとに作成。割合(%)は特に断りがない限り前年比

 2011年からは次の新しい5カ年計画が定められ、ここには省エネ・汚染物質排出削減に係る2015年目標として新たに窒素酸化物、アンモニア性窒素及び単位GDP当たりの二酸化炭素排出量も加えられる予定だ。2010年目標が達成できなければ次の目標達成に向けての信頼性も失われることになりかねない。2010年はまさに目標達成に向けて最後の決戦の一年である。

関連情報 |

2009年中国環境状況公報(中国語)
http://jcs.mep.gov.cn/hjzl/zkgb/2009hjzkgb/
中国の環境保護行政が自信をつけた1年―2008年中国環境白書を読む
http://eco.nikkei.co.jp/column/eco-china/article.aspx?id=MMECcj000002072009
中国の環境データは信用できる?―2007年中国環境白書を読む
http://eco.nikkei.co.jp/column/eco-china/article.aspx?id=MMECcj000019062008

記事・写真:小柳秀明

〜著者プロフィール〜
小柳秀明 財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長

1977年  環境庁(当時)入庁、以来約20年間にわたり環境行政全般に従事。
1997年 JICA専門家(シニアアドバイザー)として日中友好環境保全センターに派遣される。
2000年 中国政府から外国人専門家に贈られる最高の賞である国家友誼奨を授与される。
2001年 日本へ帰国、環境省で地下水・地盤環境室長、環境情報室長等歴任。
2003年 JICA専門家(環境モデル都市構想推進個別派遣専門家)として再び中国に派遣される。
2004年 JICA日中友好環境保全センタープロジェクトフェーズIIIチーフアドバイザーに異動。
2006年 3月 JICA専門家任期満了に伴い帰国。
 4月 財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所開設準備室長。
 7月から現職。
2010年  3月 中国環境投資連盟等から2009年環境国際協力貢献人物大賞(International Environmental Cooperation-2009 Person of the Year Award) を受賞。