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環境を巡る最新の動きや特定のテーマを取り上げ(ピックアップ)て、取材を行い記事としてわかりやすくご紹介しています。

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目次
協力実施の背景と経緯
具体的な協力内容
実証研究の成果は?
分散型排水処理施設普及の見通しは?
【1】農村地域等
中国の実態に合わせて正確に表現すると「小さな都市及び農村集落等」が正しいのだが、日本人にわかりやすく「農村地域等」と表現している。
【2】引用・参考資料
小柳秀明著「環境問題のデパート中国」p250〜253「農村地域の協力が大きな課題」
【3】課題となっている農村地域等の畜産排水対策
2010年2月に発表された第1回全国汚染源全面調査(環境国勢調査)によれば、2007年全国の化学的酸素要求量(COD)排出量は3029万トンで、そのうち工業系564万トン(18.6%)、都市生活系1108万トン(36.6%)、農業系(家畜・家禽・水産)1324万トン(43.7%)などとなっている。農村地域から発生する生活排水によるものは調査対象になっていない(カウントされていない)。
【4】都市下水処理場汚染物質排出基準
2級基準相当とは具体的に次のとおり。
CODCr:100mg/l以下
BOD5:30mg/l以下
SS:30mg/l以下
アンモニア性窒素:25mg/l以下
1級B基準相当とは具体的に次のとおり。
CODCr:60mg/l以下
BOD5:20mg/l以下
SS:20mg/l以下
アンモニア性窒素:15mg/l以下
糞便性大腸菌群数:104MPN/l以下
【5】電気料金
泰州市の場合、工業用電気料金は0.813〜1.00元/KWh、農業用電気料金は0.471元/KWh。重慶市の場合、工業用電気料金は0.6632〜0.714元/KWh、農業用電気料金は0.52元/KWhであった。
【6】引用・参考資料
小柳秀明著「中国発:金融危機下で環境保全を前面に」2010.6.18 EICネットピックアップ
【7】引用・参考資料
小柳秀明著「分散型排水処理モデル事業協力の意義」資源環境対策2010年9月号

No.178

Issued: 2010.08.20

中国発:日中水環境協力は成功したか?

−農村地域等における分散型排水処理モデル事業協力の例


泰州市趙家新村のモデル施設

 2008年5月にスタートした環境省と中国環境保護部との間の日中水環境協力「農村地域等における分散型排水処理モデル事業協力」が順調な進展を見せている。日本側の協力実施機関は財団法人地球環境戦略研究機関が務めている。
 日本の協力で2009年に建設した4つのモデル施設が1年間に渡る実証研究を経て、2010年7月無事中国側に引き渡された。この協力の意義と中間成果を検証する。

協力実施の背景と経緯

 なぜこの協力を実施することになったのか、その経緯についてまず簡単に紹介しておこう。
 2006年12月に北京で行った日中環境大臣間の会談で、中国の水環境管理が今後ますます重要になるとの認識で一致し、「中国の水環境管理を強化するための日中共同研究」を立ち上げることで合意した。この共同研究では日中合同の専門家チームを作り、2007年2月から10月にかけて6つの省(及び直轄市)(図1参照)を回り、重要水域の水環境管理の現状と課題について日中共同現地調査・ヒアリングを実施した。


図1 重要水域の水環境管理の現状と課題に関する現地調査・ヒアリング実施地域
※拡大図はこちら

 特にこの年(2007年)の4月に温家宝首相が訪日し、「日本国政府及び中華人民共和国政府による環境保護協力の一層の強化に関する共同声明」を出し、その第1項で「飲用水源地保護を強化し、河川・湖沼・海洋・地下水の汚染を防止し、特に渤海・黄海区域および長江流域などの重要水域における水質汚濁防止について協力を実施する」と約束したことから、渤海・黄海区域及び長江流域を調査の重点地域とした。
 調査の概要及び結果は、過去に筆者が発表した資料を参照してもらいたいが、この調査を通じて、水汚染防止対策にほとんど手がつけられていない農村地域等【1】の対策を早急に進めることが大きな課題として浮かび上がった。この地域には中国の全人口の半分以上、7億人以上が生活している【2】。さらに、その後の調査でこれら農村地域等の畜産排水対策なども大きな課題であることが明らかになっている【3】
 この日中共同研究の結果を基礎として、2008年5月の胡錦涛国家主席訪日時に日中環境大臣間で、「日本国環境省及び中華人民共和国環境保護部による農村地域等における分散型排水処理モデル事業協力実施に関する覚書」を締結し、モデル事業の実施等について合意した。


重慶市白羊鎮のモデル施設


泰州市董北村のモデル施設


重慶市馬灌鎮のモデル施設は青少年の環境保護教育基地に指定されている

具体的な協力内容


図2 モデル事業実施地域
※拡大図はこちら

 この協力は覚書にもあるとおり約3年かけて実施されている。中国の異なる条件の農村地域で「持続可能」な生活排水処理のモデル事業を進めているものだ。「持続可能」と強調したのは、建設コストが比較的安く、維持管理が容易で、かつランニングコストを低く抑え、末永く使えることを目指したものだからである。農村地域を抱える地方政府の税収は低く自力で高額な建設費はなかなか負担できない。また、高度な施設を建設しても維持管理できる技術者がいないかあるいは人件費が高く、かつ使用料を負担する農民らの収入は低いため、都市地域とは違った考え方で整備を進める必要がある。さらに、作ってから2、3年して停まってしまったのでは作った意味がない。
 現在モデル事業協力を進めている地域は図2のとおりで、施設の概要、運営費(ランニングコスト)及び処理水質の目標は表1及び表2のとおりである。運営費は都市下水処理場の標準的な運営費0.8元/m3の概ね半分以下を目指している。これらの目標は日中双方の専門家とモデル施設が建設される関係地方政府が協議して決定した。
 また、モデル施設本体の建設費(設計費も含む)は日本側が負担し、その他の建設にかかる費用は中国側が負担した。今般、表1及び2に掲げる9施設のうち、1〜4の4施設について1年間に渡る実証研究が終了し、2010年7月に環境省から中国側関係地方政府に引き渡された。
 なお、その他の5施設は現在建設・作動確認中である。

表1 施設の概要
No 建設地点 処理規模 基本となる処理技術
1 重慶市忠県馬灌鎮 500m3/日 活性汚泥+人工湿地方式
2 重慶市万州区白羊鎮 600m3/日 接触曝気+人工湿地方式
3 江蘇省泰州市興化市趙家新村 150m3/日 土壌被覆型礫間接触曝気方式(RC構造)
4 江蘇省泰州市興化市董北村 40m3/日 土壌被覆型礫間接触曝気方式(遮水シートによる簡易工法:循環型)
5 新彊自治区ウルムチ市ウルムチ県水西溝鎮閘灘村 300m3/日 接触曝気方式
6 新彊自治区ウルムチ市ウルムチ県六十戸郷星火村 40(80)m3/日
将来80に拡張
接触曝気方式
7 雲南省大理白族自治州大理市湾橋鎮向陽渓村 200m3/日 接触曝気+多段土壌層方式
8 黒竜江省ハルピン市紅旗満族郷東昇村 250m3/日 接触曝気方式
9 河北省張家口市塞北管理区 600m3/日 接触曝気方式

表2 運営費及び処理水質の目標
No 建設地点 運営費の目標 処理水質の目標
1 重慶市忠県馬灌鎮 0.2元/m3以下 2級基準相当*
2 重慶市万州区白羊鎮 0.25-0.3元/m3以下
3 江蘇省泰州市興化市趙家新村 0.5-0.6元/m3以下 1級B 基準相当*
4 江蘇省泰州市興化市董北村 0.5-0.6元/m3以下
5 新彊自治区ウルムチ市ウルムチ県水西溝鎮閘灘村 0.5-0.6元/m3以下 2級基準相当*
6 新彊自治区ウルムチ市ウルムチ県六十戸郷星火村 (0.5-0.6元/m3以下で検討中) 2級基準相当*
7 雲南省大理白族自治州大理市湾橋鎮向陽渓村 0.4元/m3以下 1級A基準相当*
8 黒竜江省ハルピン市紅旗満族郷東昇村 0.3元/m3程度 2級基準相当*
9 河北省張家口市塞北管理区 0.2-0.3元/m3以下 2級基準相当*

*「都市下水処理場汚染物質排出基準」参照【4】

実証研究の成果は?


図3 建設費
※拡大図はこちら

 それでは、実証研究の中間成果はどうだったのか具体的に見てみることにする。図3は実証研究とは直接関係ないが、実際にモデル施設建設等にかかった経費を種類別にまとめたものである。各地域の立地条件によって土地収用費や汚水配管網整備費用等に大きな差がある。特に重慶市忠県馬灌鎮では立地場所の地形的な制約(谷間の農地に建設)から施設本体建設費以外の経費が多くなった。

■運営費(ランニングコスト)の分析結果


図4 実際にかかった運営費
※拡大図はこちら

 泰州市及び重慶市に建設した4施設の運営費及び処理水質の目標は前出の表2のとおりだ。まず、実際に1年間の運転にかかった運営費についてみる。泰州市及び重慶市から提出されたデータに基づいて計画処理水量当たりの運営費を整理したものが図4である。当初から運営費の目標を完全に達成しているのは重慶・白羊鎮の施設だけで、泰州・趙家新村の施設はほぼ達成、重慶・馬灌鎮及び泰州・董北村の施設は目標を大きく上回っていた。
 目標を達成できなかった施設についてその原因を分析してみると、
 1.電気料金が単価の高い工業用電気料金になっていること【5】
 2.施設の規模に比べて管理人員が過剰配置になっていること(施設の大小に関係なく最低一人は人員を配置していること)
 が主な原因になっている。また、重慶・馬灌鎮ではその他の費用が多くなっているが、この理由は人工湿地の清掃費(植物の刈り取り費用)が多くかかったことが主な理由である。一方、重慶・白羊鎮では施設の管理員自ら人工湿地の清掃を行っていたため外注の清掃費は発生していない。
 そこで、今後電気料金を工業用電気料金から農業用電気料金に変更し、さらに管理人員の配置について、表3のように見直すと結果は図5のようになる。なお、泰州・董北村で人件費について「1名で5カ所以上管理」としている意味は、同規模の施設を5カ所以上建設し、1人の管理人がこの5カ所以上の施設を管理するという考え方である。
 経常的にかかる電気料金と人件費のみを運営費の主要要素として評価すると、図6からわかるように4施設とも目標を達成することができる。

表3 電気料金及び管理人員の配置の見直し
地点 電気料金 管理人員の配置
重慶・馬灌鎮 工業用電気料金
→農業用電気料金
2名で管理→1名で管理
重慶・白羊鎮 -
泰州・趙家新村 -
泰州・菫北村 1名で1か所管理
→1名で5か所以上管理

重慶市の工業用電気料金は0.6632〜0.714元/kwh、農業用電気料金は0.52元/kwh(例)
泰州市の工業用電気料金は0.813〜1.00元/kwh、農業用電気料金は0.471元/kwh(例)




図5 電気料金及び人件費調整後の運営費
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図6 電気料金及び人件費調整後の運営費(電気料金及び人件費のみ)
※拡大図はこちら


■水質の分析結果

 次に水質のモニタリング結果についてみると、4施設について正式稼働後の流入水と処理水の水質の状況をグラフで示したものが図7から図10である。これらの図からわかるように4施設とも年間を通じて概ね目標を満足する水質になっていた。
 以上の結果から、4施設とも今後電気料金や人員配置の適正化等を行えば、当初設定した目標は達成できるものと考えられた。ただし、電気料金の設定方法はケースバイケースであり、各地域で独自の工夫をする必要がある。


図7 水質モニタリング結果(重慶・馬灌鎮)
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図8 水質モニタリング結果(重慶・白羊鎮)
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図9 水質モニタリング結果(泰州・趙家新村)


※拡大図はこちら
図10 水質モニタリング結果(泰州・董北村)

分散型排水処理施設普及の見通しは?

 中国の都市地域では、国民経済と社会発展第11次5カ年計画(2006〜10年)で定められた拘束性目標(2010年までに05年比で全国のCOD排出量を10%削減)を達成するために全力を挙げて下水処理場が整備されてきている。2005年末には全国の都市下水処理場は764か所、一日当たりの処理能力は5220万トンであったが、2009年末には全国で1916か所整備され、一日当たりの処理能力は1.06億トンにまで達している。目標達成期限の2010年末までに一日当たりの処理能力は1.2億トン以上に達する見通しで、5年間でほぼ倍増だ。
 しかし、農村地域での排水処理施設整備は遅れており、本格的な取組はこれからだ。2011年から始まる第12次5カ年計画期間中には全国各地の農村地域で小規模排水処理施設が集中的に建設されていくことになるが、現在のところこれら施設に関して都市の下水処理場のような明確な基準がないのが現状だ。
 このような状況の中で今回のモデル事業協力の成果は、今後中国環境保護部が農村地域の分散型排水処理施設整備に関する各種基準やガイドラインを整備していく上で大いに参考となることが期待される。
 また、中国政府は近年、「奨励をもって整備を促す」政策により農村の環境保全業務を広範に展開し始めており【6】、2010年からの3年間に120億元(約1600億円)を支出し、計2万の農村の総合的な環境整備を行う予定にしている【7】。この資金を活用して排水処理施設整備が行われれば全土に広く普及していくことになる。


重慶市白羊鎮のモデル施設(後方下)

関連情報 |

2010.7.29.環境省プレスリリース.「日中環境汚染対策 分散型排水処理モデル施設引渡式の開催結果等について(お知らせ)
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=12770
日中水環境パートナーシップ事業が着実に進展(2)
http://www.iges.or.jp/jp/beijing/activity20100721_1.html
日中水環境パートナーシップ事業が着実に進展
http://www.iges.or.jp/jp/news/press/09_07_07.html
日中協力農村地域等における分散型排水処理モデル事業協力評価・経験交流会を中国・江蘇省泰州市で開催
http://www.iges.or.jp/jp/beijing/activity20100721_2.html

記事・写真:小柳秀明

〜著者プロフィール〜
小柳秀明 財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長

1977年  環境庁(当時)入庁、以来約20年間にわたり環境行政全般に従事。
1997年 JICA専門家(シニアアドバイザー)として日中友好環境保全センターに派遣される。
2000年 中国政府から外国人専門家に贈られる最高の賞である国家友誼奨を授与される。
2001年 日本へ帰国、環境省で地下水・地盤環境室長、環境情報室長等歴任。
2003年 JICA専門家(環境モデル都市構想推進個別派遣専門家)として再び中国に派遣される。
2004年 JICA日中友好環境保全センタープロジェクトフェーズIIIチーフアドバイザーに異動。
2006年 3月 JICA専門家任期満了に伴い帰国。
 4月 財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所開設準備室長。
 7月から現職。
2010年  3月 中国環境投資連盟等から2009年環境国際協力貢献人物大賞(International Environmental Cooperation-2009 Person of the Year Award) を受賞。