EICネット
前のページへ戻る

環境さんぽ道

様々な分野でご活躍されている方々の環境にまつわるエッセイコーナーです。
4人のエッセイスト(枝廣淳子、小林和男、古今亭志ん彌、三村伸絵ん)が1年間、毎月交替して登場します。

トップページへ

グローバルメニュー
  • 国内ニュース
  • 海外ニュース
  • イベント情報
  • 環境Q&A
  • 機関情報
  • 環境リンク集
  • 環境用語集
  • ライブラリ
  • 森づくり

環境さんぽ道

様々な分野でご活躍されている方々の環境にまつわるエッセイをご紹介するコーナーです。

No.035

Issued: 2015.01.09

飛行機と海

青木 勝(あおき かつ)さん

青木 勝(あおき かつ)さん
 埼玉県生まれ。新聞社勤務を経てフリーとなる。
 日本航空の専属カメラマンとして、1970年から飛行機写真を撮りはじめ、独自の飛行機写真の世界を確立。飛行機写真の草分け的存在。日本写真家協会会員。自家用操縦士。
 著書に「JET JET JET」、「AIRLINERS 青木勝の旅客機の世界」、「YS-11名機伝説」、「YS-11が飛んだ空 全182機それぞれの生涯」、「素晴らしき飛行機写真の世界」など。

 ぼくは、飛行機の魅力に取りつかれて、かれこれ40年以上、飽きもせずに飛行機を撮り続けてきました。飛行機の魅力とは、おおまかにいって精神的なものと見た目の二つが挙げられます。
 今や日常的な乗り物と化していますが、おそらく人類誕生後、まもなく発生したであろう、鳥のように空を飛びたいという夢のような願望、それが20世紀になってついに実現したのが飛行機なのです。ここに至るまでの命がけの挑戦の数々や、尽きることなく継承されてきた空への情熱……。飛行機を見るたびに胸が熱くなり、20世紀に生まれた幸せに酔いしれるのも当然ではありませんか。
 そしてもう一つの見た目の魅力、これはいまさらいうまでもないでしょう。性能を追求した結果生まれた極限のスタイルの美しさ、引力に逆らい風の揚力を利用して飛ぶ、複雑巧妙なメカニズムの荘厳さ。
 離陸の瞬間や、大空の雲間をイルカや魚のように自由に飛び回る姿の美しさは、たとえようがありません。大事なことを忘れていました。飛行機に搭乗し、あるいは自ら操縦して空を飛ぶ快感も、一度取りつかれたらもう逃れることのできない魅力のひとつです。そんなわけで、気がついたら40年もの時を経ていたという次第です。

A. 羽田
A. 羽田 ©青木勝

 ところで、ぼくは飛行機と共に海の写真を相当な枚数撮っています。実際に海を被写体として撮ってもいますが(それについては、次回に詳しく書きます)、飛行機主体の写真の背景に海が多いのです。なぜかといいますと、日本の空港の相当数が、海に面して造られているのです。島国ですから当然なのですが、したがって、飛行機の離着陸を撮るとかなりの確率で、背景が海になります。
 最も足繁く通って飛行機を撮影している羽田空港は、まさに海の上にあるといってもいい空港で、飛行機の撮影に出かけるたびに、ぼくは飛行機と共に海も眺めて、そのたたずまいというか、季節や時間ごとの表情の変化に触れ、飛行機のドラマの重要な要素として、海の美しさもさまざまなかたちで写しこんできたのです。

 例えば、Aの写真。これはぼくが初めて飛行機の魅力に取りつかれたころに、航空会社から要求される写真とは別に、純粋に自分の気持ちに沿った写真が撮りたくなって個人的に羽田空港に通って撮った1970年代の写真です。当時、一番機が飛ぶ前、早朝に行われていた機長の6か月ごとの技量検査(シックスマンス・チェック)で飛行する旅客機を撮ったものですが、冬の朝の海の表情が実に美しく、感動した思いが込められています。


B. 城南島
B. 城南島 ©青木勝

 Bの写真は、ほぼ40年後、羽田空港に海を挟んで面している城南島海浜公園の一コマです。ここからは羽田空港に着陸する飛行機の迫力あるシーンが間近に見られるので、日本全国から多くの航空ファンが訪れるだけでなく、海で遊びたい親子連れで一年中賑わいを見せている人気スポットです。時代が移り変わって、空を飛ぶ飛行機の機種も変化していますが、海と空港の位置関係は変わっていません。

 近年は釣船をチャーターして海上から飛行機を撮ることも多くなりましたが、海の上で望遠レンズをつけたカメラを構えるには、波のリズムに合わせて身体のバランスをとらねばなりません。小型の船を出すにあたっては、風の強さなど気候の変化に対応しなければならず、もともと飛行機撮影は野外でするものなので、自然の変化にはかなり敏感になっているのですが、海上に出る場合は、陸以上に神経を使います。不規則な波の揺れを感じながらの船上での撮影では、風の強さや方向に影響を受ける飛行機の繊細な動き、操縦するパイロットの考えや計算、その感情により強く共感を覚えるものです。


C. 長崎
C. 長崎 ©青木勝

 逆光に浮かび上がる海が印象的なCは、長崎空港にアプローチする機体を捉えた写真です。春の海の物憂げな表情がうまく出せたかどうか。
 日本の海は、それぞれにどこの海も魅力的なのですが、なかでも飛び切り美しいのは沖縄のサンゴ礁の海ではないでしょうか。
 2014年3月に廃止されてしまいましたが、下地島には日本で唯一の大型ジェット訓練飛行場がありました。ぼくはできて間もないころから何度も訪れ、訓練する飛行機の操縦席の後ろにあるジャンプシートで、訓練飛行の一部始終を取材するという夢のような体験をしたこともありますが、ここでの見ものはサンゴ礁の海の上を低空飛行で進入してくる飛行機です。金属の海に面した胴体の下部が、サンゴ礁の上空に達して通り過ぎる瞬間、それこそ1秒、あるいは何分の1秒か、ぱっと真っ青なサンゴ礁の色に染まるのです。沖縄の真っ青な空の中、上部は空の青さ、下部はサンゴ礁の青さを映した飛行機が、鳥のように目の前を飛んでいくのです。
 「海よ 空よ 飛行機よ」と叫びたくなるような心躍る瞬間です。それがDの写真です。海と空と飛行機の美しさ、すべてを1枚の写真に捉えた瞬間、航空写真家になってよかったと、ぼくは心から思うのです。

(写真の無断転写転載を禁止します)

D. 下地島
D. 下地島 ©青木勝



(記事・写真:青木勝)