一般財団法人環境イノベーション情報機構

ヘルプ

サイトマップ

メールマガジン配信中

環境Q&A

不検出(定量限界)について 

登録日: 2002年01月03日 最終回答日:2002年01月22日 水・土壌環境 水質汚濁

No.560 2002-01-03 23:39:49 きた

 水質汚濁防止法等の基準で、基準値を「不検出」とする物質があり、備考で、不検出を「検定方法の定量限界を下回ること」と手定義されていますが、これについて次の疑問があります。

・複数の検定方法により異なった定量限界があることはないのでしょうか。(新しい機器や測定方法の開発で定量限界がより小さくなることがあるのではないかと思いますが、このようなことも含めて決めてあるのでしょうか。)
・定量限界を決定する方法を省令などで定めているのでしょうか。測定機関が定量限界を決定するのでしょうか。
・また、定量限界の決定方法は何らかの方法で統一されているのでしょうか。
 測定機関により異なるので統一されないのでしょうか。
・検出限界と定量限界を何らかの指標で分けているのでしょうか。
 
 通知文書などがない場合でも、定量限界について考える手がかりになることでも教えていただければ幸いです。(3σで決める方法をHPで見つけましたが、疑問がなくなりませんでした。) 
  

総件数 6 件  page 1/1   

No.571 【A-1】

Re:不検出(定量限界)について

2002-01-11 15:11:05 東京都 / ちしゃ

排水基準を定める省令では、第二条に「 前条に規定する排水基準は、環境大臣が定める方法により検定した場合における検出値によるものとする。」と規定されており、また基準値の注として、「「検出されないこと。」とは,第2条の規定に基づき環境庁長官が定める方法により排出水の汚染状態を検定した場合において,その結果が当該検定方法の定量限界を下回ることをいう。」という文があります。

これを受けて排水基準を定める省令に関する「排水基準を定める省令の規定に基づく環境大臣が定める排水基準に係る検定方法」(告示) http://www.env.go.jp/hourei/hourei.php3?id=4000005&bun_id=6617&word1=%8C%9F%92%E8%95%FB%96%40 で検定方法が具体的に決められています。定量限界がより小さくなるような測定方法が普及してきた場合は、省令改正などが行われると思います。

水質汚濁に係る環境基準について
「人の健康の保護に関する環境基準」http://www.env.go.jp/kijun/wt1.html
についても「「検出されないこと」とは、測定方法の欄に掲げる方法により測定した場合において、その結果が当該方法の定量限界を下回ることをいう。別表2において同じ。」と検出方法が定められています。

なお、http://eac01.hept.himeji-tech.ac.jp/eac/ea/detection.htm によれば「環境基準や排水基準での「検出されないこと」は「規定された方法によって測定したとき、その結果がその方法の定量限界を下まわること」であると説明した上で、「この場合の定量限界とは分析値の変動係数が10%に達する時の濃度」との情報があります。

奈良県薬事指導所 分析法バリデーションのページ http://www4.ocn.ne.jp/~sidou123/index312.html でも「定量限界は定量可能な最低の量又は濃度を言い、通例、相対標準偏差が10%の点とされている」という情報があります。

また、環境計量士などの団体である 社団法人日本環境測定分析協会(http://www.jemca.or.jp/)では(1)用語関係 (2)許容差の適用関係 (3)実験計画法関係 (4)検出限界・定量限界を中心とした分析技術者のための統計的方法」 という本 http://www.jemca.or.jp/book/je420.htm などを作成しているようですので、こちらに聞いてみてもよいかもしれません。

回答に対するお礼・補足

 ありがとうございました。
 環境基準と比較するための水質測定について、環境省が決めている定量限界(定量下限)の決め方がある程度分かりました。(手間がかかることですので、すぐには検証できないかと思います。)
 排水基準と比較するための水質測定については、東京都がHPでアルキル水銀化合物 検出されないこと(0.0005)としているのを見たほか探せませんでした。法解説本には測定方法の変更による実質的な基準値改正があったとしています。
 ダイオキシン類測定には定量下限について検証するような義務づけがされているようですが、従来の測定には義務づけがないはずであり、必ずしも個々の計量証明事業所が定量下限を検証しているとは限らず、環境省の上記定量下限又は日本工業規格の定量範囲の記載等を参考にすることもあるのではないかという疑問です。
 実際には、基準値が不検出とされている項目でなければ問題は生じません。
 もし、個々で検証するとしたら定量下限値の算出基礎が一定でなく、計量証明事業所ごとに定量下限がいくらか異なるのではないでしょうか。
 実態を調べた方がいらっしゃったら教えてください。


No.581 【A-2】

Re:不検出(定量限界)について

2002-01-18 20:49:28 新潟県 / sory

 きたさん、こんにちは。
私もこのことに疑問を持ち、調べたことがあります。

水質に関しては、環境基準の全シアン、アルキル水銀、PCBが、
排出基準のアルキル水銀が「検出されないこと。」となっています。
このうちアルキル水銀とPCBは環境庁告示で分析法が決まっており、
その中で定量限界についてそれぞれ、0.0005mg/l、0.0005mg/l
と記述されています。
全シアンはJISの工場排水試験方法を引用していますが、その中で
定量範囲が示されていて、そこから逆算すると0.1mg/lが得られます。

ご指摘のとおり、分析化学的には、定量限界はサンプル量や測定方法、
機器の種類・状態によってその都度決まってくる数値です。
しかし行政上の立場からは、不検出の意味が分析機関により異なると
非常にややこしいことになるので、数値を明示しているということのようです。

なお、告示に示されている分析法は、その操作がかなり細かいところまで
決まっており、分析機関にはほとんど選択の余地がありません。
したがって、一定の分析技術を有する機関であれば、告示等で示される
定量限界は担保できるし、反対に、告示等で示す定量限界を大幅に
下回るような数値を出そうとしても、分析法ががんじがらめなので
なかなか難しいということになります。

ちなみに、基準を「検出されないこと。」とした理由は、本当ならばもっと
低い濃度を基準値にすべきだが、現行の分析技術ではその値を測定
できないので、やむを得ず「検出されないこと」としたわけです。
PCBを例に取ると、食品としての魚介類暫定基準3ppmと、水から魚類への
濃縮係数10,000とから、水質環境基準の候補として0.0003mg/lが得られる
わけですが、定量限界が0.0005mg/lなので「検出されないこと」となった、
ということです。私が思うに、将来分析技術が向上したときには、
基準を本来有るべき数値の0.0003にしよう、という意図がみえます。

実際、全水銀の分析法が改正され、定量限界が0.02→0.0005になったとき、
環境基準値も「検出されないこと。」から0.0005に変わりました。
同様に、アルキル水銀の分析法が改正され、定量限界が0.001→0.0005に
なったとき、環境基準は引き続き「検出されないこと。」になりましたが、
実質的には基準強化になったわけです。

定量限界の考え方及び計算方法等は、稿をあらためます。

No.582 【A-3】

Re:不検出(定量限界)について

2002-01-18 20:58:15 新潟県 / sory

  続いて、定量限界等の考え方についてですが、これについては
精度管理に対する考え方が時代とともに(要求される分析濃度
レベルの変化に伴い)変わるとともに、同時に変化しているのが
実状です。特にダイオキシンや環境ホルモンなどが問題と
なっている今日では、ごく微量の分析を求められているので、
分析値のバラツキを考慮して定量限界値を決めねばなりません。

往時は、分析の要求レベルがppmくらいですと、前処理が適切で有れば
偏りやバラツキは一定水準に押さえることができると見られていたので、
定量下限は専ら分析機器の感度、つまりピーク高さによります。
そこで往時は、分析機器の検出信号におけるS/N比(シグナル・ノイズ比)
を基に定量下限を決めていました。問題はS/N比をいくつに設定するか
ですが、経験的に検出下限(物質の存在はわかるが定量は難しい)は
2.5〜3前後、定量下限(濃度を数値化しうる最小の値)は10前後として
いることが多かったと思います。
今から見ると、測定者や測定機関間のバラツキは分析技術の問題として
解決を図る、という往時の思考も影響していたように感じます。

ところが、分析感度レベルがppbやpptレベルになると、測定者や
測定機関間による偏り・バラツキの影響が、分析感度からくるS/N比に
対して無視し得えなくなります。
そこでこうしたバラツキを統計学的に整理しようとする必要が生じました。
つまり標準試料やブランクのの繰り返し分析からシグナルの標準偏差を求め、
シグナルの標準偏差は前処理のばらつき及び機器由来のばらつきを反映する
ので、このバラツキに対し安全度を何倍として検出限界や定量限界を
決定しようというわけです。

千字を超えるのでまた項を改めます。

No.583 【A-4】

Re:不検出(定量限界)について

2002-01-18 21:07:36 新潟県 / sory

標準偏差の何倍をもって検出下限・定量下限とするのか、またどの濃度を
用いて標準偏差を求めるのかは、実は種々の提案がなされています。
これは「信頼できる範囲をどう見るのか」「偏りやバラツキの主要因は何か、
(ブランクか試料マトリックスか機器の感度かhuman errorか)」
の考え方が、分析対象や分析法により異なることに依存しています。
もちろん経験則と言うものもあります。

「検出下限=3ρ、定量下限=10ρ」はS/N=3、10の考えを継いでいます。
他には、「ブランクがあるときは 検出限界=x(ブランク値)+1.943ρ、
ないときは検出限界=1.943ρ」(これは95%信頼区間の発想ですね)
というのもあります。
また、標準偏差を求める濃度は、予想される検出限界の2〜5倍程度の
濃度を使うのが一般的ですが、複数の濃度を用いる手法もあります。

PCB等基準項目の分析法の検出限界の計算を何によったのかは、私も
よくわかりません。わかっている方がいましたらご教示ください。

追加 A-2のお礼における疑問について
まさにご指摘のとおりで、複数の検査機関の結果をまとめるときは
この点に注意しないといけません。(告示やJISに示す定量限界を参考にする
ことで、科学的かは別として、こうしたトラブルをある程度回避できます。)
経験上、極微量分析になるほどこの傾向が顕著で、ダイオキシンや環境ホルモンの
分析マニュアルに定量下限の計算方法が記載されているのは、こうした
問題への対応の現れと思います。
  

回答に対するお礼・補足

 詳細な説明をいただきありがとうございました。
 排水基準の定量下限については、公共用水域常時監視での定量下限を参考にし、そのレベルまで達しているかどうかをまず確認しようと思います。

No.584 【A-5】

Re:不検出(定量限界)について

2002-01-18 23:17:28 新潟県 / sory

A-5の訂正

pはすべてσにしてください。σをギリシャ文字のローと打ち間違えたのが原因です。

PCB等基準項目の分析法の検出限界
            ↑
            定量限界ですね。

回答に対するお礼・補足

 みなさまのおかげさまで、現在流布している定量下限値の決定には複数機関の了解事項が含まれていることに思い至り、1月に既存施設に適用になるホウ素等の例を探していたところ、オルガノのHPに改正省令の基準表が掲載されていました。みると、定量下限値が示されていました。
 環境省のHPから引き出した「水質汚濁防止法施行規則第六条の二の規定に基づく環境庁長官が定める検定方法」の別表に定量下限が「(注)この表の中欄に掲げる検定方法により上欄に掲げる有害物質を検定した場合において、「当該有害物質が検出されること」とは、同表の下欄に掲げる値以上の有害物質が検出される場合である。」と婉曲な方法で記載してあるではありませんか。
 なぜ、定量下限を示してある基準の表と一律排水基準のように示してない表があるかは分かりませんが、よい参考になると思いました。廃棄物処理法におとらず、水質汚濁防止法も分かりにくいところがあるものですね。


No.587 【A-6】

Re:不検出(定量限界)について

2002-01-22 21:29:48 新潟県 / sory

A-6 のお礼についてコメントします。

きたさんご指摘の表は、特定地下浸透水の基準です。
特定地下浸透水とは、大まかには地下に浸透させる工場排水のことです。

一般に河川水では耐用一日摂取量等の毒性評価から環境基準を求め、
排水基準が環境基準の10倍(河川で10倍程度に希釈される
との概念に基づく)で設定されるので数値がでるのに対し、
特定地下浸透水は最初から「検出されてはならない」ことが基準(目標)
になっているからです(水質汚濁防止法施行規則第6条の2)。
地下水の移動速度が遅く滞留すること、希釈が期待できないことが
要因なのでしょう。

そこで、検出されないこととは何ぞや? となるわけで、
最初の質問のように測定機関で不検出の値が違うと種々の
問題が生じるので、告示でその明確にしていると考えるとよいでしょう。

排水基準や特定地下浸透水の基準違反は罰則があります。
その意味で「検出されないこと」とはいくつかを示すことは法解釈上重要です。

また、調査にさいして告示に示す方法以外を取るのは、取締上の根拠に関し
支障をきたしますから、結局は告示の方法で測定するしかありません。
よって、A-3で示したとおり、みんなが定量限界はそこそこ測れるはず、
ということになると思います。

基準が「検出されないこと。」というのは、法解釈をわかりにくくしていますね。

総件数 6 件  page 1/1