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中国発:環境モデル都市──貴陽市──の挑戦
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No.
Issued: 2005.08.04
中国発:環境モデル都市──貴陽市──の挑戦
最近の貴陽市市街地の様子
 貴陽市を省都とする貴州省は中国でもっとも貧しく、また、大気汚染の著しい省だ。特に貴陽市市街地は四方を山に囲まれた盆地状の地形にあり、市街地にある発電所、製鉄所やセメント工場等から発生する排ガスが溜まりやすい。
 こんな悪条件の街に奇跡が起こった。2年続けて酸性雨の発生がなくなったのだ。
 目次
背景
日中環境開発モデル都市構想
貴陽市の取り組み(インフラ整備)
貴陽市の取り組み(ソフト整備)
日本による人づくり、制度づくりへの協力
日本が協力した意義
さらば「酸性雨の町」
背景

 貴州省は中国の西南部に位置し、人口約3,800万人、面積約17.6万km2は日本の国土の約半分程度に相当する。石灰質のカルスト地形の山岳地帯がほとんどを占め、少数民族が多く住み、「天に三日の晴れの日なし、地に三里の平地なし、民に三分の銀もなし」と揶揄される僻地と言っても過言ではない。
 省都・貴陽市は、人口約350万人、面積約8,000km2でだいたい日本の兵庫県と同じくらいの広さだ。大気汚染の代表的な物質である二酸化硫黄の一年間の排出量をみると、かつて貴陽市からの全排出量は日本全国の全排出量の2分の1以上に相当し、貴州省全体では日本の約2倍の二酸化硫黄を排出していた。貴陽市には「酸性雨の町」という不名誉なレッテルが貼られていた。
 貴州省や貴陽市は環境対策に全く不熱心だった訳ではないが、中国でもっとも貧しい地域という経済的な事情を主として対策は遅々として進まなかった。こんな中、貴陽市が日中環境開発モデル都市の一つに選ばれることになった。

日中環境開発モデル都市構想
 日中両国の環境分野における大きな協力(ODA)は、古くは1988年の日中友好環境保全センター設立の合意(無償資金協力105億円)まで遡る。日中環境開発モデル都市構想もこれと並ぶ大きな協力で、1997年9月の日中首脳会談において提唱された「21世紀に向けた日中環境協力」を構成する二大プロジェクトのうちの一つである。
 プロジェクトは、大連、重慶及び貴陽の三都市を対象にして、主要な汚染源対策やモニタリング・システムの構築のため、有償資金協力(円借款)を通じて支援して、大気汚染対策を中心として循環型社会システムを築くことをめざすとともに、人づくりや制度づくりなどのソフト面でも技術協力による支援を行ない、これをモデル・ケースとして、他の都市に普及しようとするものである。円借款資金として約307億円が準備され、このうちの約半分の144億円が貴陽市に充てられることになった。

貴陽市の取り組み(インフラ整備)
 貴陽市側でも円借款の総額に相当する自己資金を準備し、全体で約300億円の環境保全対策事業を行うことになった。  貴陽市における具体的な取り組みとして、大気汚染対策を中心とする以下の7つの重点プロジェクトが実施されている。
  1. 貴陽製鉄工場の大気汚染対策
  2. 貴州セメント工場の粉塵対策等
  3. 貴陽発電所の排煙脱硫対策等(全額自己資金により実施)
  4. 林東クリーン炭工場の脱硫クリーン炭設備の建設等
  5. 石炭ガス配管拡張及び貯蔵タンク建設事業
  6. 大気汚染自動モニタリングシステム及び発生源オンラインモニタリングシステムの構築
  7. 貴州水晶有機化学工場における水銀触媒を利用した酢酸製造設備の廃止(水銀を使用しない新製造設備の建設)
■貴陽製鉄工場の大気汚染対策
 1950年代に建設され老朽化した貴陽製鉄工場の技術改造を実施するとともに、クリーンエネルギー(ガス)の採用、脱硫装置、集塵装置の設置等を行い、二酸化硫黄や煤塵の排出を激減させた。
 かつて、工場から立ち上るこれらの汚染物質は「黄龍」、「黒龍」と市民から皮肉られていた。

対策前の貴陽製鉄工場   対策後の貴陽製鉄工場
対策前の貴陽製鉄工場、「黄龍」が暴れ回っている。(写真提供:貴陽製鉄工場)  

対策後の貴陽製鉄工場(写真提供:貴陽製鉄工場)



■貴州セメント工場の粉塵対策等
 同じく1950年代に建設された貴州セメント工場の老朽化した生産設備のスクラップアンドビルド、集塵装置の設置等を行い、粉塵や二酸化硫黄の排出を激減させた。

対策前の貴州セメント工場   対策後のセメント工場の新しい施設
対策前の貴州セメント工場、煙突には粉塵が付着して真っ白である   対策後のセメント工場の新しい施設


■貴陽発電所の排煙脱硫対策等
 貴陽発電所では、1960年代に設置された旧式の発電装置5台(発電能力合計17.5万kwh)を撤去し、新しく発電装置1台(20万kwh)を設置した。この装置及び既存の装置(20万kwh)に脱硫装置及び集塵装置を設置した。
 この措置により、年間10万トン以上の二酸化硫黄が削減されることになった。年間10万トンという量は、実に日本全国の排出量の15%以上に相当する。それがわずか1か所の発電所に対する措置で削減できた。
貴陽発電所(対策工事中)

■林東クリーン炭工場の脱硫クリーン炭設備の建設等
 貴陽市内で使用されている多くの石炭燃焼ボイラーは脱硫装置を備えていない。一方で貴陽は石炭の産地であることから、市内で産出する高硫黄分の原炭を脱硫処理してクリーン炭に変え、市内の石炭燃焼ボイラー使用者に提供することとした。
クリーン炭を運ぶ鉄道駅の建設工事も円借款により行われている

■石炭ガス配管拡張及び貯蔵タンク建設事業
 貴陽市内の家庭では、かつて燃料として高硫黄分の石炭や練炭などが使用されていたが、これが市内の大気汚染の原因の一つになっていた。
 貴陽市内の各家庭にクリーンエネルギーである石炭ガスを供給するため、パイプラインの拡張及び貯蔵タンクの建設を行った。これにより市街地の都市ガス普及率が96%まで上昇し、市民がクリーンエネルギーを享受できるようになった。

石炭ガス貯蔵タンク   既存の石炭ガス製造設備
石炭ガス貯蔵タンク   既存の石炭ガス製造設備


■大気汚染自動モニタリングシステム及び発生源オンラインモニタリングシステムの構築
 これまで環境大気の観測は半自動の手分析により行われていたが、貴陽市内の13か所に大気の24時間自動観測局を設置し、リアルタイムでデータを入手できるようにした。また、主要工場の発生源にオンラインモニタリング装置を設置し、24時間の工場監視が可能になった。
旧式の半自動手分析装置   最新の環境大気自動観測装置
従来は旧式の半自動手分析装置で環境大気の観測が行われていた   最新の環境大気自動観測装置


■貴州水晶有機化学工場における水銀触媒を利用した酢酸製造設備の廃止 ──水銀を使用しない新製造設備の建設
 水銀を含む廃水をたれ流してきた貴州水晶有機化学工場では、旧来の生産設備を廃止して、水銀を使用しない新しい生産設備を建設中である。

酢酸製造工場からの排水路   排水路の様子
酢酸製造工場からの排水路   排水路には工場から漏れだした銀色の水銀粒が点在していた


 以上のような取り組みによって、貴陽市市街地(モデル地区)の大気汚染物質(二酸化硫黄)は8割以上削減されるようになったのである。

貴陽市全域の大気汚染物質排出量   1996年排出量との比較(二酸化硫黄)


貴陽市の取り組み(ソフト整備)
貴陽市における循環経済条例制定支援のため、日本の協力で法規研修会を開催(中央で説明しているのが筆者)

 インフラ整備と併せて、貴陽市ではソフト面での整備にも力を入れるようになった。特にモデル都市づくりの目標の一つでもある循環型社会システム形成のための制度整備等を強力に推し進めることとした。現在、中国では循環型社会づくり(「循環経済」と呼ばれている。)が重要課題になっている【1】が、貴陽市はその先頭を走る決断をした。
 2002年5月、全国で初めての循環型社会づくりの試行都市(循環経済型生態建設試点都市)として国(国家環境保護総局)からの批准を受け、マスタープランづくり、条例制定作業に着手した。2004年11月には中国で初めての循環型社会づくりに関する条例(貴陽市循環経済生態都市建設条例)を制定した。今では全国から学習のため視察に訪れる人たちが絶えない。

【1】 Pick Up!『中国発:「循環経済」、起死回生の再建策』参照
http://www.eic.or.jp/library/ pickup/pu050609.html
日本による人づくり、制度づくりへの協力
 貴陽市のソフト整備に関して日本もささやかながら多方面にわたり協力を実施してきている。大気汚染対策のマスタープラン作成への協力(貴陽市大気汚染対策計画調査−JICAによる開発調査)や環境モデル都市構想推進を指導する専門家の派遣、企業における自主的環境管理対策推進の支援、循環経済条例づくり等循環経済推進の支援などだ。

日本が協力した意義
日本の協力で実施された、貴陽市の大気シミュレーションのための上空大気観測

 モデル都市事業を立ち上げる際の貴州省側の中心人物であった孟憲文前貴州省環境保護局長は、最近、当時のことを振り返って次のように語っている。
「貴州省や貴陽市の指導者たちは皆、正直言って環境対策にあまり熱心ではなかった。しかし、環境モデル都市事業という国家が注目する二国間の大きな環境協力事業を実施することになり、環境対策に真剣に取り組まなくてはいけないという強い意識が芽生え、これをきっかけに次から次へと新しい対策への取り組みを打ち出した。このように指導者たちの意識を変えさせた点に日本の協力の大きな意義がある」

 これに呼応するように、1997年以来ずっと貴陽市側でモデル都市事業の責任者を務めている許世国貴陽市環境保護局副局長(貴州省環境モデル都市事務局副主任)も次のように語っている。
「中国では指導者が替わると政策もガラッと変わってしまう。今は循環経済の推進に熱心でも次はどうなるかまったくわからない。日本の協力を得ながら循環経済条例を作った意義は、たとえ指導者が替わっても従前どおりと変わることなく循環経済を推進させるということを保証した点にある」
さらば「酸性雨の町」
 ここ2年続けて酸性雨の発生がなくなった貴陽市。対策の効果がすぐに出てきたと解釈するには多少無理があるが、市民の願いが叶って青空を取り戻しつつある。
 今、貴陽市から「酸性雨の町」という不名誉なレッテルが剥がされようとしている。
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関連情報 |
  シリーズ・中国環境事情 【第2弾】
  『中国発:「循環経済」、起死回生の再建策』(Issued: 2005.06.09)
 http://www.eic.or.jp/library/pickup/pu050609.html
  シリーズ・中国環境事情 【第1弾】
  『中国発:春、黄砂との戦い』(Issued: 2005.02.17)
 http://www.eic.or.jp/library/pickup/pu050217.html
記事・写真 小柳秀明
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