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No.179

シリーズ・もっと身近に! 生物多様性(第22回)

Issued: 2010.07.05

リサイクル原料をサンゴ礁・藻場再生に活用

〜マリンブロックの事例〜

マリンブロック
マリンブロック

 島嶼や沿岸域の生態系のなかでも悪化が指摘されているのがサンゴ礁の生態系です。サンゴ礁の再生には、国際機関、政府、非政府組織、そして民間企業も乗り出しています。
 生物多様性条約では、2006年にブラジルのクリチバ市で開催された、第8回締約国会議(COP8)において、民間セクターの参画が決議されています。特にサンゴ礁という微妙で危機的な状況にある生態系は、ティッピング・ポイントとして加速的な悪化が進まないよう、今年10月に名古屋で開催される第10回締約国会議(COP10)でも注目が集まっている領域です。
 今回は、平成13年から「マリンブロック」という製品を使ってサンゴ再生や藻場の造成に取り組む、JFEスチール株式会社の活動を紹介します。

スラグ

 鉄鋼を生産するプロセスで、副産物として生み出されるスラグ。1トンの鉄鋼を生産するのに400トンのスラグ(内訳は高炉で300kg、製鋼で100kg程度)が出るといわれています。
 スラグは、高炉で鉄鉱石を溶融して還元する時と、鉄を精錬する段階で発生します。コークスやシリカなど鉄以外の成分が、溶解された段階で密度が鉄よりも小さいので分離されています。

スラグ発生のプロセス
スラグ発生のプロセス

 スラグの用途は、2008年度のデータで、セメント43.7%、土木用19.2%、道路用18.3%などインフラ整備のために使用されるものが圧倒的です。副産物として発生するものをもとにしたリサイクル原料なので、バージン原料に較べてCO2を抑えられるなどのメリットがあります。明石海峡大橋、東京湾アクアラインのセメント、大阪環状線の道路、名古屋港飛島ふ頭などで使われています。
 この他、ごく一部が「肥料・土壌改良用」(0.6%)などに使われる他、統計にも表れないほど小さな割合が、サンゴ礁藻場などの環境再生のために使われています。
 現在はごくごく小さなシェアにすぎませんが、鉄鋼を生産するプロセスでどうしても出てくるスラグをなんとか環境保全に活かせないだろうか、それも温室効果ガスを出さない形で製品化できないかという問題意識から誕生したのが、同社のマリンブロックです。

マリンブロックのメリット

 スラグでつくったマリンブロックには細かい穴があいています。このため海藻やサンゴ礁がしっかりと根を張ることができるのです。コンクリートのブロックの拡大写真と見較べると、違いは一目瞭然です。

カジメ(コンブの仲間)のブロック付着部の細胞観察(マリンブロック=右と、コンクリートブロック=左)。マリンブロックでは、生細胞がブロック本体に直接付着している。コンクリートブロックでは、死細胞の上に生細胞が付着するため剥がれやすくなる。
カジメ(コンブの仲間)のブロック付着部の細胞観察(マリンブロック=右と、コンクリートブロック=左)。マリンブロックでは、生細胞がブロック本体に直接付着している。コンクリートブロックでは、死細胞の上に生細胞が付着するため剥がれやすくなる。

 また、スラグには炭素が固定されているため、CO2の固定化による排出削減にも貢献しています。
 アルカリ性となってしまう恐れもなく、スラグ自体を海で使用する場合のリスクは低くなっています。

これまでの活用状況

 これまで、南は石垣島、宮古島など沖縄でのサンゴの再生をはじめ、北は北海道の礼文、日高などの藻場再生など、全国16か所での再生活動を展開しています。

全国展開の状況
全国展開の状況

 城ヶ島の実証実験の例を紹介すると、カジメ(コンブの仲間)の幼体着床数が、10〜20倍、質重量が単位面積当たりで2.4倍となるなど、藻場の再生を通じて、海藻の収穫や漁獲の向上への期待が高まります。
 海藻は大きくなるほど海の流れの抵抗が高まり抜け易くなります。マリンブロックでこのように海藻の収穫量が高まるのは、付着力が強く抜け難いため大きな個体にまで生長できるからです。実際にバネ秤で海藻の引っ張り試験を行った結果、コンクリートブロックの約2倍以上の固着力が測定されました。
 東京海洋大学と共同で行っているサンゴの実証試験でも、幼生から育ったサンゴがマリンブロックにしっかりと固着することで、産卵ができるサイズまで生長したと報告されています。

 コストなどのさなざまな技術的な課題もありますが、地域社会や経済への貢献も期待できます。
 また、インドネシアでも実験的な試みが行なわれており、国際協力を通じた今後の展開が期待されます。

幼生着生32ヵ月後(マリンブロックにしっかり固着)
幼生着生32ヵ月後(マリンブロックにしっかり固着)

幼生着生51ヵ月後
幼生着生51ヵ月後

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記事:香坂玲
図・写真の提供:JFEスチール株式会社

〜著者プロフィール〜
東京大学農学部卒業。在ハンガリーの中東欧地域環境センター勤務後、英国UEAで修士号、ドイツ・フライブルク大学の環境森林学部で博士号取得。環境と開発のバランス、景観の住民参加型の意思決定をテーマとして研究。帰国後、国際日本文化研究センター、東京大学、中央大学研究開発機構の共同研究員、ポスト・ドクターと、2006〜08年の国連環境計画生物多様性条約事務局の勤務を経て、現在、名古屋市立大学大学院経済学研究科の准教授
 ブログ:http://biodiversity.blog21.fc2.com/