環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
トップページへ
第87講「鳩山内閣誕生から半年」
第86講「ポスト2010年目標 ―生物多様性保全の新たな展開に向けて」
第85講「2010年、環境政策始動 ―温暖化対策基本法制定とアセス法改正に向けて」
第84講「2010年新春呆談―平成維新のその先は?」
第83講「COP15前夜―付:事業仕分けをめぐって─」
メルマガ申し込み 会員登録 ヘルプ サイトマップ
国内ニュース 海外ニュース イベント情報 環境Q&A 機関情報 環境リンク集 環境用語集 ライブラリ 森づくり宣言
No. 第86講「ポスト2010年目標 ―生物多様性保全の新たな展開に向けて」
page 3/3  12
3
Issued: 2010.03.04
H教授の環境行政時評(第86講 その3)

Aさん―重複の状況はきちんと把握されているのですか。

H教授―ある程度の推定はされているけど、ちゃんとした統計はないはずだ。それこそ生物多様性国家戦略2010の具体的な施策の中で、重複状況の公的な把握というのを入れて欲しいね。

Aさん―うーん、そうか。じゃ、まずは保護地域概念の明確化というのが必要になりそうですね。

H教授―日本のような地域制のシステムでは、各種保護地域の指定の意図とその指定による効果との間にとんでもない齟齬が生じるのが普通なんだ。だからIUCNのカテゴリーに簡単に当てはめるわけにはいかない。

Aさん―今までの話は陸域ですね。海域はどうなんですか。

H教授―条約事務局の言う15%というのはその分母がよくわからないのでなんとも言えない。
領海なのか、沿岸浅海域なのか。そうだったら面積比ということになる。
沿岸の前面海域のことなら、海岸線延長の15%という長さで表わされるものかも知れない。

Aさん―ま、どれでもいいですから現在保護されているのはどの程度なんですか。

H教授―水産資源保護の観点からは水産資源保護法や各県の漁業調整規則があって、漁業を妨げるような行為に関しては一定の規制がなされているが、漁業のもたらす環境へのインパクトに対する規制はなされていない。
生態系保全の観点からの規制という意味では、自然公園法や自然環境保全法の指定しかないんだけど、漁業との調整がきわめて難しく、ホントの意味の規制がされている地区はいわば点的にあるだけで、あとはきわめて緩い規制しかされていないのがほとんど。

Aさん―いわゆる海面普通地域ですね。
この間、自然公園法が改正され、その点的な方は海中公園地区から海域公園地区になりましたけど【13】、その具体的な成果はありました。

H教授―そりゃあ、あまりにも気が早すぎる。もう少し時間が必要だろう。

Aさん―だって生物多様性COP10はもうすぐですよ。
えーと、じゃあ、ほとんどは普通地域でしょうけど、国立国定公園に指定されている水域はどの程度なんですか。

H教授―以前にも言ったように、公的な統計はない。
ただ環境省の推計では、ほとんどが普通地域なんだけど、国立公園国定公園合わせて陸域面積の半分程度の170万haが指定されているそうだ。
別の言い方をすれば、海岸線延長の前面海域という意味では、日本の海岸線延長3万2千キロの半分弱の前面海域が指定されている。ただ、そのほとんどは普通地域だ。
中身でいうと、藻場では5割、サンゴ礁の4割が指定されているが、干潟はわずか1割しか指定されていないし、指定されているとは言ってもほとんどが普通地域で保護地域(水域)と胸を張れるようなものじゃあない。
 ページトップ

【13】 自然公園法改正による海域公園地区の設定
第75講(その3)「自然公園法の改正と海域保護の課題」
クロマグロ、そしてクジラ

Aさん―なるほど前途多難ですねえ。
ところで、生物多様性の話とも関係しますが、大西洋・地中海クロマグロの国際取引禁止に、漁業振興の観点から慎重だったEU欧州委員会がEUとして取引禁止を支持するよう提案しました。
カタールで今月開催されるワシントン条約締結国会議では、取引禁止が決まる可能性が強そうだとのことです。
ということは、大西洋・地中海マグロはもう食べられなくなるということですか。

H教授―日本政府は猛反対しているし、仮に国際取引禁止の対象となったとしても、留保することは可能で、同じように留保した国から輸入を続けることは可能だ。

Aさん―でも本当に科学的データで、クロマグロが減少しているんだったら、そんなことしない方がいいんじゃないですか。

H教授―国際非難を浴びるのは必至だものなあ。資源減少に歯止めのかけられる説得力のある代案を出すべきだと思うよ。
大西洋・地中海クロマグロだけでなく、太平洋の話だってでてきそうだ【14】

Aさん―クジラについては新しい動きがいろいろあるようですね。
【14】 クロマグロとクジラの保全
第71講(その3)「マグロとクジラ」
第66講(その4)「捕鯨小論」

H教授―うん、日本は従来調査捕鯨を進める一方で、沿岸でのミンククジラについて商業捕鯨再開を主張してきたんだけど、方針変換。沿岸でのミンククジラ商業捕鯨再開の条件として調査捕鯨の縮小を提案するそうだ。

Aさん―調査捕鯨の廃止じゃないんですね。

H教授―ま、交渉ごとだから最後は廃止を飲むかもしれないが、最初は縮小で行こうということだろう。

AさんIWCの方も新しい議長提案を準備したそうですね。

H教授―うん、日本の南極海での調査捕鯨を停止する代わりに、10年間に渡って海域やクジラの種類ごとに毎年の捕獲数の上限を設定し、全体としての捕獲数を削減するというものだ。日本沿岸でのミンククジラ捕獲も容認するとのことだ。

Aさん―へえ、日本側は大歓迎ですね。

H教授―まあ、ミンククジラに関しては科学的には増加していることは事実らしいからなあ。6月にモロッコでIWC総会が開かれるんだが、クジラに関しては情緒的な捕鯨反対論が強いから厄介だ。
欧米ではかつて鯨油を取るためだけにクジラを乱獲した歴史があるんだけどねえ【15】

Aさん―センセイはどう思われます。

H教授―調査捕鯨と称して豪州沖合いで行う捕鯨には賛成しがたい。そりゃあ、領海ではなく公海だろうが、豪州国民の神経を逆なでするようなものだし、事実上の商業捕鯨と言われても仕方がない。

Aさん―沿岸捕鯨は?

H教授―理屈の上で賛成といえば賛成だが、あまり積極的に賛成する気にはなれないなあ。
沿岸捕鯨ができるくらいミンククジラがいるんなら、ホエールウォッチングでもした方が村おこし町おこしになるんじゃないかな。

Aさん―つまり反対ですか。
【15】 捕鯨問題について
第50講(その2)「我、疑う故に我あり―「水伝」ブーム」
第15講(その2)「獲るべきか獲らざるべきかそれが問題だ 〜クジラ〜」

H教授―いや、沿岸捕鯨の伝統や鯨食文化の保全という意味でも一概に反対するものではないし、昔よく食べたクジラ肉のベーコンの味も忘れられない。
だけど、母クジラ子クジラは捕獲を禁止するとか、残酷ではない捕鯨方法を開発するとか、思いっきり制限をかけた方がいいような気はする。

Aさん―なんだか煮え切らないなあ。
ところでオーストラリアのラッド首相は調査捕鯨の中止を求めて、外交的手段でやめさせられない場合には国際司法裁判所に提訴するそうですよ。

H教授―国民向けへのパフォーマンスだね。ラッドさんもGHG排出量取引制度導入法案が否決されるなど苦しい局面に追い込まれていて、国民向けに強い姿勢で臨もうとしているんだろう。

Aさん―そんなバカな!

H教授―ラッドさんは裁判に負けたって構わないと思ってるんだろう。だから…。

Aさん―だから?

H教授―そう、目クジラを立てなさんな。

Aさん―またオジンギャグか…。
註:環境に直接関係しない部分等は、編集部判断によりカットさせていただきました。筆者のブログでお読みいただけます。
 ページトップ
page 3/3  12
3

(平成22年2月28日執筆 3月2日編集了)
註:本講の見解は環境省およびEICの見解とはまったく関係ありません。また、本講で用いた情報は朝日新聞と「エネルギーと環境」(週刊)に多くを負っています。
Copyright (C) 2004 EIC NET. All rights reserved.