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環境さんぽ道

様々な分野でご活躍されている方々の環境にまつわるエッセイコーナーです。
4人のエッセイスト(田部井淳子、小林光、後藤泉、中村梧郎)が1年間、毎月交替して登場します。

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環境さんぽ道

様々な分野でご活躍されている方々の環境にまつわるエッセイをご紹介するコーナーです。

No.022

Issued: 2013.10.09

最近の山のトイレ事情

小林 光さん

小林 光(こばやし ひかり)さん
(一社)水生生物保全協会理事。元環境省自然環境局長。
1971年〜2002年環境庁・環境省に勤務し、緑の国勢調査、重要湿地500の選定に関わる。
趣味は渓流釣り、登山。最近では、ブラックバスの防除の普及に取り組む。

 今夏、北アルプスの穂高岳に登ってきました。上高地から涸沢カールを経由して奥穂高岳の山頂に至るコースで、本格的な登山は4年振りです。コバイケイソウの当たり年に出会い、多くの高山植物を愛でることができました。また、ヤチネズミの赤ちゃんやニホンザルに出会ったりと楽しい登山でしたが、トレーニング不足もあって65歳を過ぎると体力も若い頃のようにはいきません。ケガなく帰れたのが本当に幸いでした。

穂高岳を登る
穂高岳を登る

コバイケイソウの群落
コバイケイソウの群落

ヤチネズミの幼獣
ヤチネズミの幼獣

ニホンザル
ニホンザル


涸沢の山小屋
涸沢の山小屋

山岳トイレのチップ箱(南アルプス)(写真提供:NPO法人山のECHO)
山岳トイレのチップ箱(南アルプス)(写真提供:NPO法人山のECHO)

 ところで、今回の登山で驚いたことは、3日間の全行程でゴミの一つも無かったことです。尾瀬から始まった「ゴミ持ち帰り運動」ですが、穂高岳では「ゴミは持ち帰りましょう!」の標語も見当たらず、登山者を観察していると、空き缶や弁当がらをザックに当たり前のように仕舞い込んでいました。登山道にはもちろん、途中の休憩舎にもゴミ箱は置いてありません。私の若い頃には清掃登山が年中行事で、ゴミ箱からゴミが溢れ、登山道沿いにもゴミが散乱していました。中でも空き缶のプルトップやタバコのポイ捨てが多かったように記憶しています。その頃、山からゴミを無くすことは不可能と思っていたことが懐かしく、今回の登山で「やればできるものだ!」と実感しました。
 また、山小屋のトイレも極めて清潔感に溢れていました。たえず清掃が行われている様子です。トイレは全てチップ制で、立ち寄り登山者だけでなく山小屋宿泊者もチップを入れているようでした。し尿はヘリで下界に下ろすのですから、1回100円程度のチップだけではトイレの運営は難しかろうと感じました。
 国立公園など山のトイレは、以前には「きたない」「臭い」「怖い」「暗い」の4Kと言われていました。涸沢カールから流れ出す渓流で大腸菌が見つかって問題になったことがありましたが、当時はたいていの山でし尿は雪解け水とともに下流に垂れ流しだったので、当然の結果でした。このままでは山の環境は護れないと1991年に環境庁(当時)は4Kを解消するため「さわやかトイレ」の整備に力を入れ始めたのです。処理コストを下げるために、下界に運送するし尿の軽量化が課題でした。そのため、バイオトイレなど様々な新技術を試みました。

 それから10年後、私がまだ環境省に勤務していた2001年に白馬岳のトイレを視察に行きましたが、その時でもまだ、不要になった衣類や雑誌をトイレに投げ捨てて便器を詰まらせる登山者がいて、山小屋の方たちを悩ませていました。
 それから更に10年余、山岳トイレ問題が発端になり、今年6月27日に「山はみんなの宝」憲章が制定されました。登山者をはじめ山の恵みを受ける皆の力で山岳地域の環境保全を図る決意表明です。山岳関係者の環境保全意識が大きく変わった現われでした。
 「山はみんなの宝」憲章については、当センターの大塚理事長が憲章制定の呼びかけ人代表である奥島孝康さんにインタビューし、第20回エコチャレンジャーに掲載されていますので、是非そちらをご覧ください。



記事・写真:小林 光(こばやし ひかり)