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環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

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環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

目次
化学物質は両刃の剣。うまく使えば効用を最大限に発揮できるし、誤って使えば有害になる
一般化学物質を安全性の観点から事前審査する制度や法律は、1973年の日本における「化審法」の制定が基本的に世界初
開発途上国は社会インフラの整備などとの調和を考えながら、化学物質への対応を進めるべき
【1】パラケルスス(Paracelsus)
 ルネサンス初期のスイスの医師。
【2】PCB(ポリ塩化ビフェニル)
 加熱や冷却用の熱媒体、変圧器、コンデンサなどの電気機器の絶縁油、可塑剤、塗料、ノンカーボン紙の溶剤等として用いられた。
【3】ダイオキシン類
 ポリ塩化ジべンゾジオキシン、ポリ塩化ジベンゾフラン、コプラナーポリ塩化ビフェニルという3つのグループの物質群の総称。主に物が燃焼するときに生成し、環境中に拡散する。
【4】化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)
 環境経由による人の健康及び生態系に影響を及ぼすおそれがある化学物質による環境の汚染を防止することを目的とする法律。
【5】ストックホルム条約(POPs条約)
 正確には、「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」。早急な対応が必要と思われる残留性有機汚染物質(POPs)の減少を目的として、それらの指定物質の製造・使用・輸出入の禁止または制限をする国際条約。
【6】寺田寅彦
 戦前の日本の物理学者、随筆家、俳人。
【7】4エチル鉛
 自動車のガソリンや航空機のガソリンなどのアンチノック剤として添加されていた。排気による大気汚染の防止のために、現在の日本のガソリンには含まれていない。
【8】REACH法
 EUの法律で、人の健康や環境の保護のために、化学物質に対し登録、評価、認可、規制を適用するもの。
【9】PRTR法(化学物質排出把握管理促進法)
 1999年に施行された日本の法律で、有毒性、蓄積性等のある化学物質について、環境中への排出量及び事業所外への移動量のデータを把握し、集計し、公表することを定めている。

No.026

Issued: 2014.02.13

第26回 淑徳大学総合福祉学部 北野大教授に聞く、身近な生活環境の中での化学物質の問題[1]

実施日時:平成26年1月22日(水)16:00〜
聞き手:一般財団法人環境情報センター 理事長 大塚柳太郎

化学物質は両刃の剣。うまく使えば効用を最大限に発揮できるし、誤って使えば有害になる

北野大(きたのまさる)さん
北野大(きたのまさる)さん
淑徳大学総合福祉学部教授・工学博士。
明治大学工学部卒、東京都立大学大学院工学研究科・博士課程修了。専門は、環境化学。
(財)化学品検査協会(現:化学物質評価研究機構)企画管理部長、淑徳大学国際コミュニケーション学部教授、明治大学理工学部教授などを経て、2013年4月より現職。
経済産業省化学物質審議会委員、国連環境計画(UNEP)ストックホルム条約残留性有機汚染物質検討委員会(POPRC)委員。
著書に「飲み水は、いま!」(研成社)、「農薬・添加物こうすれば安心して食べられる」(主婦と生活社)など多数。

化学物質にかかわる主要な出来事
化学物質にかかわる主要な出来事

大塚理事長(以下、大塚)― 本日は、EICネットのエコチャレンジャーにお出ましいただきありがとうございます。北野さんは、大学教育だけでなく市民向けの環境教育にも積極的に取り組むなど、幅広く活躍されておられます。本日は、身近な生活環境の中での化学物質の問題に焦点をあててお伺いしたいと思います。どうぞ、宜しくお願いいたします。
私たちを取り巻く環境には大変多くの化学物質が存在し、大気・水・食品を介してさまざまな影響を及ぼしているわけです。最初に、私たちは化学物質をどのように理解し、どのように対処すればよいのか、北野さんのお考えをお聞きかせください。

北野さん― 私が基本的に考えているのは、化学物質は両刃の剣ということです。うまく使えば効用を最大限に発揮できるし、誤って使えば有害になるわけです。うまく付き合うには、科学的なデータに基づく情報を大事にして使い方を考えることです。確かに、過去に化学物質による被害もありました。私たちが高をくくっていたところがあるのでしょうね。有名なパラケルスス【1】の言葉があります。「すべての物質は毒である。毒でないものは何もない。摂取量によって毒にも薬にもなる。」と。
リスクとは、曝露量とハザード(危険の要因)の程度で決まるのです。我々はハザードをよく知った上で、曝露を減らしていくべきなのです。研究者としては、ハザードの小さいものを開発していくことが大事です。生活者としては、曝露を減らしていくことが大事です。

大塚― 毒性の強い化学物質もあるわけで、社会的にさまざまな対応がなされてきたと思いますがいかがでしょうか。

北野さん― 従来から、「毒物及び劇物取締法」に代表される法律が強い急性毒性をもつ青酸カリなどを規制し、「労働安全衛生法」が発がん性物質を規制していることは、我々にもよく分かります。ところが実際は、大部分の化学物質は、「毒物及び劇物取締法」によって規制されるような強い急性毒性をもたないし、「労働安全衛生法」によって規制されるような発がん性を発揮しないわけです。それにもかかわらず、PCB【2】による健康被害などにみられたように、強い急性毒性をもたない物質を、微量でも長期に摂取すると毒性をもつことがわかってきました。化学物質がなければ現代社会の生活は成り立たないわけですから、先ほど申し上げたように、生活者としては曝露を減らす、使用基準をきちんと守ることが大事になります。

大塚― 化学物質が体内に残留することについて、もう少しお話しいただけますか。

北野さん― 怖いのは残留性をもつ化学物質です。過去に問題を起こしたDDT、PCB、ダイオキシン類【3】は、すべて体内残留性が強いのです。残留性有機汚染物質はPOPsと呼ばれますが、難分解性・高蓄積性・長距離移動性・有害性をもつのが特徴です。法律や制度の面から申しますと、体内に残留する化学物質を規制するために、日本では「化審法」【4】が1973年に制定され、国際的には2004年に「ストックホルム条約(POPs条約)」【5】が発効しています。
私はPOPsへの対処を考えるとき、寺田寅彦【6】先生が言われた「物事を必要以上に恐れたり、全く恐れを抱いたりしないことはたやすいが、物事を正しく恐れることは難しい」を思い浮かべます。この言葉は地震予知について述べられたとのことですが、POPsへの対処にもまさに当てはまると思います。リスクがゼロということはないのです。正当に怖がることが肝要だと考えています。

一般化学物質を安全性の観点から事前審査する制度や法律は、1973年の日本における「化審法」の制定が基本的に世界初

大塚― 1973年の「化審法」の制定を含め、我が国における化学物質への取り組みについて、どのようにお考えですか。

北野さん― 先ほど申し上げたように、当時は、強い急性毒性をもつ化学物質に対する「毒物及び劇物取締法」や「労働安全衛生法」を別にすると、通常のいわゆる一般化学物質を安全性の観点から事前審査する制度や法律がなかったわけです。アメリカやヨーロッパで少しずつ動きがはじまっていたものの、1973年の日本における「化審法」の制定が基本的に世界初だったのです。「化審法」に対しては、化学物質への直接的な曝露を扱っていないという批判もありますが、一般化学物質の事前審査制度の確立という点で画期的だったのはまちがいありません。

大塚― 世界的な動向も含め、その後の展開はいかがでしょうか。

北野さん― 2004年に発効した「ストックホルム条約」の内容は、日本の「化審法」そのものですよ。「ストックホルム条約」は国際的な条約ですから、長距離移動という特性も強調されていますが、日本で30年前につくられた「化審法」における化学物質の難分解・高濃縮・長期毒性への対処が、「ストックホルム条約」に受け継がれているのです。我が国の先人の努力に深い敬意を覚えています。
残念なことに、「化審法」を制定する動機づけになったともいえる、メチル水銀による水俣病やPCB汚染による油症、さらにはアメリカをはじめ世界的な四エチル鉛【7】による鉛汚染などで、甚大な健康被害が起きてしまったのです。これらの健康被害を経験し、化学物質の性能の1つとして安全を考えるべきという意識が強まったと思います。「化審法」やEUで2007年に施行されたREACH法【8】を踏まえて言えることは、化学物質の安全を確保するには事前審査だけでは無理で、事前審査と事後管理が大事になります。私の持論ですが、化学物質の安全には、事前審査と事後管理の組合せと、規制という法的な枠組みと自主管理の組合せの両方が肝心なのです。

開発途上国は社会インフラの整備などとの調和を考えながら、化学物質への対応を進めるべき

大塚― 非常にわかりやすいご説明をありがとうございます。ところで、日本と欧米以外の開発途上国ではどのような状況なのでしょうか。

北野さん― 1970年代に日本、アメリカ、ヨーロッパ諸国が化学物質を規制する法律を作りました。1990年代にはいり、日本のPRTR法【9】のように、規制と自主管理を重視する法律も作られたのです。1990年代にはいると、化学物質を輸入することが多い開発途上国、たとえばマレーシアやフィリピンが法律を作りはじめました。これらの国々や、韓国あるいは中国もそうですが、ヨーロッパのREACHに似た考え方の法律を作っています。問題は、枠組みができても、リスク評価や毒性試験を十分に行えるマンパワーが少ないなどの弱点をもつことです。私がかって所属していた化学物質評価研究機構でも、たとえば、マレーシアに対しJICA(国際協力機構)のODA(政府開発援助)を活用した協力で、研修生に対する日本での研修と日本の専門家の派遣により、大きな成果があがるようになったと思います。

大塚― 枠組みつくりと自主管理が大事なのですね。

北野さん― 化学物質に限らないかもしれませんが、環境汚染への対処にかかわる私の経験をお話ししましょう。以前にアルゼンチンに行く機会がありました。アルゼンチンでは、日本のものより厳しい環境基準があるのですよ。でも残念ながら、全然守られていないのです。そのような環境基準を守るには、高い専門性をもつマンパワーも電力などのインフラも不十分なのです。私は、開発途上国が社会インフラの整備などとの調和を考えながら、化学物質への対応を進めるべきと考えています。

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記事に含まれる環境用語|
国連環境計画(UNEP)
POPs条約(ストックホルム条約)
環境リスク
毒物及び劇物取締法
急性毒性
慢性毒性
PCB
残留性有機汚染物質(POPs)
DDT
ダイオキシン類
化学物質審査規制法
メチル水銀
水俣病
カネミ油症
アルキル鉛
REACH規則
PRTR法
JICA(国際協力機構)
ODA(政府開発援助)
環境基準
水俣条約
有機水銀
ワシントン条約
ロッテルダム条約
バーゼル条約
PM2.5
汚染者負担の原則
リスクコミュニケーション
BOD
COD
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