一般財団法人 環境イノベーション情報機構

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No.261

Issued: 2017.05.16

20年後、30年後の持続可能な社会に向けて、地球温暖化対策をめぐる国内外の動き

目次
持続可能な発展、地球温暖化対策を見るキーワード
変わりつつある世界と多様なステークホルダー
日本国内でも「本業」としての取組みが始まりつつある
変革に向けた共通のストーリー作りに貢献

持続可能な発展、地球温暖化対策を見るキーワード

国連持続可能な開発目標(SDGs)(出典:国連広報センター)

国連持続可能な開発目標(SDGs)(出典:国連広報センター) ※拡大図【PDF】はこちら

 国際社会は、2015年に、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)を含む「持続可能な開発のための2030アジェンダ」と2020年以降の気候変動対策の国際枠組みである「パリ協定」という2つの歴史的な国際枠組みを採択しました。SDGsは、気候変動対策(目標13)など我々が望み、また将来世代に繋げていくための「持続可能な社会」の理想像とそれを実現するための17の目標、それに付随する169のターゲットと230の指標という広範な施策を示しています。
 SDGsの特徴は、「誰も取り残さない」という理念を掲げている点にあります。これまでの開発目標とは異なり、途上国だけでなく先進国の課題も取り入れ、国家政府のみならず、ビジネス、地方自治体、非政府組織(NGO)、アカデミアなど多くの関係者が連携・参画して取組みを実施・強化しなければ実現できないためです。こうしたSDGsの実現に向けて、既に世界各地で様々な主体によりこれらの合意を実施に移すための行動が開始されています。
 また、2017年2月号のエコチャレンジャー(第62回)でIGES理事長 浜中裕徳より紹介させていただいたように、気候変動による世界への脅威、また、それに取組むことにより生まれている機会を捉えて、各ステークホルダーが取組みを計画し、実践していくことが求められています。そこで最近よく使われるキーワードが、「アウトサイド・イン・アプローチ」【1】という、長期的な視点から世界的・社会的ニーズを理解し、何が必要かについて科学的知見や外部環境の予測を基に検討し、それに基づき実施計画や目標を設定していくアプローチです。内部中心、短期的思考のアプローチでは、世界的な課題に十分対処できないという認識からこの考え方が広まりつつあります。


変わりつつある世界と多様なステークホルダー

ISAP2016の様子

ISAP2016の様子

 こうした危機意識や新たな機会を求めて世界は変わりつつあります。地域社会やビジネス、各国において変革を促す具体的な取組みを先駆けて進める多くの新しいリーダーが現れています。これらのアクターには、パリ協定実施のための約束草案(INDCs)や長期気候戦略、SDGs達成のための国家計画を、G7・G20サミットで誓約した先進国政府をはじめとする従来の国家主体に加え、既に大胆な気候対策などに取組んでいる先進国・途上国双方の地方自治体や企業、金融機関といった非国家主体(ノンステートアクター)も含まれています。
 さらに多くの大企業及び主要金融機関が、気候や持続可能性に関するリスク評価を始めており、こうした要素を考慮した投資決定を行っています。多国籍企業の多くが既に自主的な炭素価格設定、化石燃料への投資撤退(ダイベストメント)、ESG(環境、社会、ガバナンス)投資を行っているほか、金融安定理事会(FSB:Financial Stability Board)がG20の要請を受けて発足させた「気候関連の財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)」の提言により、気候変動関連情報の大規模な開示が求められています。企業価値と社会価値を共有し、その経営戦略にSDGsに関わる取組みを本業として統合することで、将来にわたるビジネスチャンスを新たに見出していく必要性が高まっており、我々の生存の基盤である地球環境システムの能力には限りがあるとする認識に基づいて、脱炭素型で資源効率の高い循環型ビジネスモデルの構築を目指していくことが求められています。
 地方自治体についても、グリーンな公共交通システムや気候変動にレジリエントな工場・住宅を計画し、投資することで、政府から財政・規制面での支援を受けない場合でも、自らが気候変動対策を進め、SDGsに取組むことが可能です。また、排出権取引やグリーンボンド発行といった気候政策措置の導入や意欲的なGHG排出削減目標の設定を通じて、排出や持続可能性を決定する主要な計画領域に影響を与えることができます。こうした一連の取組みは、温室効果ガス削減と2度目標達成に大きな影響を与えることになります。
 国とノンステートアクターが、国・自治体の総合計画や企業経営の中核にSDGsや気候変動対策を取り入れる「主流化」の動きも見られています。特に海外では、持続可能性や気候変動対策を従来の環境活動や社会貢献活動(CSR)のみとして捉えるのではなく、将来総合的に取組むべき課題やビジネスチャンスとして認識し、中核的事業として実施していく、いわゆる「本業化」を図る自治体や企業が増えています。
 IGESでは、こうした国内外の動向を速やかに把握し、関連ステークホルダーに発信していく取組みを強化しています。その一環として、IGES/UNU-IAS共催で毎年「持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム(ISAP)」を開催しています。本年も7月25−26日にパシフィコ横浜で第9回ISAP2017の開催を予定しており、まさに多様なステークホルダーが、社会の変革に向けて持続可能性への取組みを「本業」として取り入れていくためにはどうすべきか、「Transformational Changes: Putting Sustainability at the Heart of Actions」について、各分野の第一線で活躍している方々を交え、議論を深めます。


日本国内でも「本業」としての取組みが始まりつつある

GCNJ/IGES 共同調査レポート(2017年4月)

GCNJ/IGES 共同調査レポート(2017年4月)

 大胆な気候対策を進めて持続可能性を追求する国やノンステートアクターが存在する一方で、現在行われている取組みと、社会経済システムを脱炭素でレジリエントな持続可能社会の実現に向けて変革させる上で必要なアクションとの間には、まだ大きな隔たりがあります。変革にあたっては、社会経済及び技術システムの抜本的な転換が必要であり、私たちのライフスタイルや行動、価値観、社会規範を変える必要があります。日本国内でも同様です。IGESでは、こうした問題認識の下、国や自治体、また、金融機関や企業ネットワークと協働で研究事業などを行い、関係者の認識を高め、より持続可能な取組みへの変化を促しています。一例として、企業との連携活動を紹介します。
 2009年7月30日に設立された「日本気候リーダーズ・パートナーシップ(Japan-CLP)」は、気候変動対策を推進する日本独自の企業ネットワークです(現在、加盟企業は40社以上)。IGESではその事務局を務め、海外動向の情報発信や政策対話などを通じて、加盟企業が脱炭素化に向けた経営の選択をするためのサポートを行っています。また、SDGsの取組みにおいては、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)との協働を積極的に行い、先にご紹介したSDG Compassの共同翻訳(2016年3月公表)や、2017年4月には、「動き出したSDGsとビジネス〜日本企業の取組み現場から〜」と題するレポートを公表し、日本企業のSDGsへの取組みの進捗度や特徴に関する全体像を明らかにし、さらに日本企業が取組みを推進するための提言も行っています。
 こうした活動から、一部先進企業では、既に持続可能性への取組みをビジネスチャンスとして捉え、経営戦略や中核事業に落とし込み、「本業」として取組み始めています。一方で、多くの日本企業においては、CSR担当者におけるSDGsへの認知度や環境への取組みに関する意識は高いものの、経営層や中間管理層における認識はまだ低く、意識を高めていくための取組みが不可欠です。


変革に向けた共通のストーリー作りに貢献

COP22速報セミナーの様子(2016年12月)

 具体的な変革をもたらすためには、多様なステークホルダーがそれぞれの視点を持ち寄り、20年後、30年後のあるべき将来像を議論し、共有することで、より多くの人々に共通のストーリー(ナラティブ)を作っていくことが重要です。IGESでは、実践的かつ革新的な政策研究の成果を実際の政策・行動に具現化することを目指しており、気候変動対策やSDGsの取組みに関するメディア勉強会やCOP交渉のいち早い報告会の開催などを通して、その一助となることを期待しています。

 IGESは、2018年に創立20周年を迎えますが、関係者の皆様と連携・協力しつつ、チェンジ・エージェントとしての役割を積極的に担うことが組織の社会的使命であると考えています。


【1】アウトサイド・イン・アプローチ
国連グローバル・コンパクト(UNGC)、GRI (Global Reporting Initiative)および持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)が作成した『SDG Compass:SDGsの企業行動指針−SDGsを企業はどう活用するか−』の中で提唱され、企業によるSDGsの取組みを後押しする大きな推進力となっています。
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〜執筆者プロフィール〜

宮澤郁穂 (みやざわ いくほ)

  • 公益財団法人地球環境戦略研究機関コミュニケーション・マネージャー/主任研究員。
  • 2006年米国クラーク大学国際関係・国際開発学科卒業後、スイス・ジュネーブ高等国際問題研究所政治学部で修士号を取得。
  • 2010年公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)入社。
  • 持続可能な開発目標(SDGs)に係る国際動向、特に国内外の企業の取組み状況に関する研究調査・アウトリーチを実施。
  • 2016年9月より現職。

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