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環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

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環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

目次
日本の木が伐られなくなったことも花粉症の大きな原因
黄砂によって花粉症を発症させるアレルギー反応が強められる
アレルギー症にかかりやすくなったのは、高度経済成長とともに起きた宿命かもしれません
【1】アレルゲン(Allergen)
 アレルギー疾患をもつ人の抗体と特異的に反応する抗原のこと。
【2】SPM
 Suspended Particulate Matterの頭文字をとってSPMと略称される。大気中に浮遊する粒子状物質のうち、粒径10ミクロン(μm=百万分の1メートル)以下のもの。
【3】アジュバント(Adjuvant)
 主剤の有効成分がもつ本来の作用を補助・増強するために併用される物質を指すが、花粉症などのアレルギー疾患ではアレルゲンによる抗体産生能を高める物質を指す。

No.027

Issued: 2014.02.13

第27回 日本医科大学 大久保公裕教授に聞く、花粉症の原因・影響・対応策[1]

実施日時:平成26年2月18日(火)16:00〜
聞き手:一般財団法人環境情報センター 理事長 大塚柳太郎

日本の木が伐られなくなったことも花粉症の大きな原因

大久保公裕(おおくぼきみひろ)さん
大久保公裕(おおくぼきみひろ)さん
日本医科大学耳鼻咽喉科教授。
1984年日本医科大学卒業、88年同大学大学院修了、89〜91年アメリカ国立衛生研究所(NIH)留学。
日本医科大学耳鼻咽喉科講師、准教授を経て、2010年より現職。
著書に、「あなたの知らない花粉症の治し方」(暮らしの手帳社)、「ササッとわかる最新花粉症治療法」(講談社)など多数。

大塚理事長(以下、大塚)― 本日は、EICネットのエコチャレンジャーにお出ましいただきありがとうございます。大久保さんは臨床医学の立場から、我が国における花粉症をはじめとするアレルギーの治療と予防をリードしておられます。本日は環境との接点が深い花粉症に焦点をあて、現状と今後の展望についてお伺いしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
最初に素朴な質問をさせていただきます。私の記憶では40年くらい前まで、花粉症という言葉自体がそれほど聞かれることもなかった気がいたします。この40年あるいは30年ほどの間に、国民病とも言われるほど患者が増えました。その原因は環境の側にも身体の側にもあると思いますが、まずは環境の側からご説明いただきたいと思います。

大久保さん― 1964年、今からちょうど50年前に、東京医科歯科大学の耳鼻咽喉科におられた斎藤洋三先生が、日光で初めてスギ花粉症の患者さんを報告しました。それから徐々に患者さんが増えてきたわけです。大きな原因は第二次世界大戦後に植えられたスギとヒノキの人工林で、これらの木が生長し、樹齢30年以上の成木の割合が約7割にもなったのです。成木が多いと、花粉がたくさん飛ぶわけです。この状況が北海道と沖縄以外すべてでみられています。

大塚― 斎藤先生の花粉症の報告は、日光地域で住民の方に症状が出たということでしょうか。

大久保さん― そうです。日光の杉の木は人工林ではないのですが、花粉症を発症された方が出たということです。江戸時代の日本の山は丸裸だったと言われています。林業は盛んでしたが、木は燃料あるいは家の建材としてよく使われていたわけです。ところが、戦後になると日本の木よりも安い木が外国から入るようになり、日本の木が伐られなくなったことも大きな原因なのです。

大塚― スギとヒノキの花粉はほかの植物の花粉と違うのでしょうか。

大久保さん― スギはまっすぐ早く生長します。生長が早いことは生命力が強いのでしょう。そのような木の方が、花粉症を引き起こす抗原性が強いと思います。

アレルギー性鼻炎の有病率
アレルギー性鼻炎の有病率(出典:獨協医科大学 馬場廣太郎,中江公裕 : Prog Med 28(8),2001,2008)
※拡大図はこちら

花粉飛散数増加の環境要因(出典:林野庁)。スギ・ヒノキの人工林は国土
花粉飛散数増加の環境要因(出典:林野庁)。スギ・ヒノキの人工林は国土(38.8万km2)の約19%の面積(7.1万km2)を占める。また、花粉生産能力の高い樹齢30年以上の人工林が増加した。
※拡大図はこちら


黄砂によって花粉症を発症させるアレルギー反応が強められる

大塚― 先ほどお話しいただいた、50年前に斎藤先生が花粉症を報告されたとき、社会的には取り上げられなかったのでしょうか。

大久保さん― 学術論文として発表されましたが、一般には認知されませんでした。広く認知されるようになったのは、この30年と思います。

大塚― スギとヒノキのほかにも原因になる植物があるわけですが、植物の種類によってどのような違いがあるのでしょうか。

大久保さん― スギとヒノキもそうですが、木の花粉は上から降ってきます。ですから、外を歩いていると大人から子どもまで等しく暴露されます。ところが、草の花粉は大体地上30センチメートルくらいから飛ぶので、大人よりも子どもが暴露されることが多くなります。また、花粉の上を踏み潰すと、顔が腫れたり、目が腫れたりするのですが、そのようなことは草の花粉に多くみられると思います。それに、ブタクサは8月から10月、イネ科は6月から10月くらいまで飛散し、お子さんが外に出ることの多い行楽シーズンや運動会シーズンと重なるので、草の花粉症にかかりやすいのです。
また、スギの花粉は上からくるのでどこにいても浴びるのに対し、草の花粉は周辺の数百メートル、せいぜい1キロメートルの範囲にしか飛びません。

大塚― 分かりやすくご説明いただきありがとうございます。ところで、アレルゲン【1】としての性質に違いはないのでしょうか。

大久保さん― どの花粉でも、アレルギー反応は同じです。
ところで、現在問題になっているのは黄砂の影響です。黄砂は、ゴビ砂漠やタクラマカン砂漠から飛んできた砂が、中国上空で黄色くなってから日本に到達する現象で、海外ではアジア・サンドストームと呼ばれています。黄砂はSPM【2】の1つで、花粉よりも小さい5〜10ミクロン(μm)の粒子です。花粉症を発症させるアレルギー反応が黄砂によって強められ、とくに喉のイガイガ感をもたらし痛みも増すようです。

スギ林の面積と樹齢30年以上のスギ面積の年代別推移
スギ林の面積と樹齢30年以上のスギ面積の年代別推移(大久保公裕著『プライマリケアのための花粉症診療』(医薬ジャーナル社)より作成)。スギ花粉飛散量は今後も増加する見込み。
※拡大図はこちら

大塚― ディーゼルエンジンの排気ガスも、花粉症を増悪させると聞いたことがあります。

大久保さん― そうです。ディーゼル排気ガスを含め、アレルギー症状を悪化させるアジュバント【3】としての特性は、どんな微粒子にもあると思います。PM2.5が付着した花粉も見つかっていますが、中国から飛来するPM2.5が問題です。国内で発生するPM2.5にはタバコの煙に由来するものなどが多く、あまり心配する必要はないと考えています。花粉に付着して大きな問題になるのは黄砂だと思います。

大塚― 黄砂もそろそろ危ない時期に入っているのでしょうか。

大久保さん― 3月から5月くらいに、東京でも1〜2回は飛散します。中国地方や日本海側あるいは九州では、この間に10回くらい来るかもしれません。アレルギーになりやすくなったり、アレルギー症状を悪化させたりするのです。

アレルギー症にかかりやすくなったのは、高度経済成長とともに起きた宿命かもしれません

大塚― 最初の質問に戻りますが、この数十年間に、人間の側で花粉に対する感受性に変化が起きたのでしょうか。

大久保さん― アレルギーの原因物質は、スギ花粉症ならスギの花粉なのですが、症状を悪化させる原因や因子はたくさんあります。よく取り上げられる例をあげると、かつて東ドイツと西ドイツが統一されてから、旧東ドイツで最も違ったことはアレルギーの発症だといわれます。このことは、生活様式が近代化すればするほどかかりやすい病気であることを意味します。アレルギーは西ヨーロッパでは19世紀から報告されていたわけです。その原因として、食生活では肉食への偏重、それに伴う腸内細菌層の変化、住生活ではマンションのような密閉型でハウスダストやダニが繁殖しやすいことなどがあげられます。それに、先ほども触れましたが、大気汚染もかかわっているでしょう。

大塚― いろいろな原因があるのですね。

大久保さん― 付け加えれば、日本でも共働きの方が非常に増えています。乳幼児をかわいがるのですが、食べる物を親がつくることは少なくなり、瓶詰などの離乳食が増えています。瓶詰というのはどんなによくても、保存するために添加物が入っています。国の規定で認められている基準値内なのですが、子どもの身体の中で「お米」とか「すり身の魚」とは違うもの、すなわちアレルゲンとして認識されやすいのです。そのような食生活、それに住環境や大気の問題、いろいろな面でアレルギー症にかかりやすくなったのは、高度経済成長とともに起きた宿命かもしれません。

大塚― 人間の成長段階で、幼少期が大事ということでしょうか。

大久保さん― そうです。幼少期が一番大事です。農村で生まれた子どもにはアレルギーが少ないのです。また、生まれたときからペットを飼っていると、途中からペットを飼うよりアレルギーになりにくいことも分かっています。幼少期から細菌に対する免疫を獲得するからです。たとえば、インドのガンジス川で水浴びをするインド人では、腸内細菌層をはじめとする免疫の仕組みが、今の日本人の免疫の仕組みと違い、感染への抵抗力が強いのです。そのようなインド人は、結核菌などの細菌に耐えられる身体なのに、今の日本人は病気にかかると入院して点滴を受け抗生物質をすぐに投与されます。昔は日本でも、子どもが砂場などで遊んでいて指先などを傷つけたとき、腫れたところを押して膿をびゅーっと出すようなこともありました。そのような子どもは、身体に細菌が入ってきても耐えられたのです。

大塚― 大きな視点で見ることが大事ということですね。

大久保さん― 人類が向かう方向を考えると、どうやって環境と調和するかが大事なのです。ところが、近年では環境との関係を拒絶しはじめているようにさえ感じます。大げさに言えば、細菌やウイルスがいやだからと地球上にいても宇宙服を着るとか、大気の汚染がひどいからと酸素ボンベを背負って暮らしたい、となりかねません。そうではなく、細菌もウイルスも受け入れ、それでも死なない身体にしていくことがベストなのです。

大塚― 文明がもたらす陰ともいえることなのでしょうか。

大久保さん― そうですね。文明の発展が、環境をないがしろにして進んできたためと思いますよ。途上国のことを見て汚いと感じる前に、日本でも同じような時代があったわけですし、大きな視点に立つことが必要だと思います。

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記事に含まれる環境用語|
花粉症
スギ・ヒノキ林
人工林
ブタクサ
黄砂
SPM
ディーゼル排気微粒子
ディーゼル排気粒子
PM2.5
花粉観測システム(はなこさん)
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