事例1:産直市場グリーンファームの取り組み(長野県伊那市)

[1]多様であることは面白い―「なんかおかしい直売所」への旅

■ここ、農産物直売所?


【写真1】開拓地の農場の中にポツリとある産直市場グリーンファーム。街や集落からは遠い。(写真撮影:清藤奈津子、以下同じ)

「なんかおかしいのよね、この直売所!」
 東京から来たという50歳ぐらいの女性が笑った。店内のあちこちでしゃがみ込み、商品を手にとってはご主人と楽しそうに話している。特に骨董品コーナーがお気に入りで、「こういうのイタリアにもあったわ!」「この取っ手は付け替えてあるぞ」と話が尽きることがない。滞在時間1時間余。ご主人がこの地方出身で、東京から里帰りするたびにこの店に寄るという。

産直市場グリーンファームには、とにかくいろいろなモノがある。通路を歩くと、次から次へと「見っけもん」が現れる。畑でとれる野菜、果物などの生鮮食品が占めるのは売り場面積の20%にも満たない。食料品のほかに、農家の蔵から出てきた「古いもの」、奥には野菜・花苗の別棟、店の表には薪、道を隔てた反対側にダチョウやイノシシを飼う動物園がある。

■売られているものたち


【写真2】ジビエ(野生鳥獣)や食用昆虫のピーアール文。会長みずから書いている。

順に見ていこう。
 入って真正面にあるのは「狩猟もの」コーナー。缶詰、瓶詰めの中身は、へぼ(クロスズメバチの子)、ザザムシ、蚕のさなぎの佃煮。伊那は知る人ぞ知る昆虫食のメッカで、これらの「虫」は伊那人にとっては普通の食べ物。
 そして、鹿肉、猪肉、熊肉。本来、シカやイノシシが里に来れば「食糧が自分で歩いてきた」のと同義、縄文人なら大喜びで仕留めて食べたはず。それが今では山村地域の作物を盗む憎き敵。食糧どころか「有害鳥獣」として「駆除」の対象と成り下がった。しかしそれは獣たちのせいではなく、日本人の生きる力の弱体化ゆえ。せっかくの山からの恵みを邪魔者として破棄するヒトは、自然界で異常な方向に進化(?)してしまった生物だと言わざるを得ない。
 これが真正面に陣取っていることに経営者の主張を感じる。


【写真3】ナズナ。出荷者は複数。


【写真4】乾燥きのこがずらりと並ぶ。

野菜売り場で目をひいたのは、ナズナ。まるで春菊の束のように、菜っ葉として売られている。包装材には「なずな」と印刷までしてある。普通見慣れているナズナよりずっと大型で青々しているけれど、野生のもの。伊那ではナズナを野菜として食べているそうだ。
 乾物コーナーの豆。紫花豆、金時豆、小豆、とら豆、黒豆、くらかけ豆、青豆、香り豆、パンダ豆、大豆。
 干しきのこ。カワラ茸、山クラゲ、メシマコブ、アガリクス、カバノアナタケ、ヤナギタケ、マツタケ、裏白キクラゲ、椎茸、コウタケ、ヤマブシタケ。
 クルミの殻は油を多く含むため、昔からよい燃料になっていた。食べる部分をとった後、これも商品になる。
 穀物では、アワ、キビ。奥の冷凍庫には、鹿、イノシシ、熊の肉。極めつけは、ダチョウの卵。


■農家のおばあちゃんにもやさしい


【写真5】切干大根入りおやき。絶品。

干昆布、粉からし、漬物の素、数種の粗塩と一緒に、ホーローやプラスチックの桶が並ぶ一角は、おばあちゃんにやさしいコーナー。漬物づくりに腕をふるうベテラン主婦たちがあれこれ品定めする様子が目に浮かぶ。

そんなおばあちゃんたちが作ったおやつも店のあちこちに。できたての「お焼き」をほおばり、そのおいしさに驚愕! 切り干し大根の入ったもので、味、歯ごたえ、皮と具のバランスが絶妙で、これ以上おいしいお焼きをほかに知らない。110円。具はほかにも数種ある。伊那人は毎日こんなおいしいものを食べているのだろうか。「おばあちゃんの干しりんご」がまた絶品。甘く煮たりんごを伊那の乾いた寒さの中で干したもので、独特のうまみと歯ごたえがある。シナモンがかかっているところに作り手の工夫とプライドを感じる。


■気が付いたらもう1時間以上


【写真6】店内は大人のレジャーランド。ついつい滞在時間が長くなる。

店内をつぶさに眺めて歩けば1時間はすぐに経ってしまう。品数の多さにわくわくする。なんだか外国のバザールに来たかのような、知る楽しみ、選ぶ楽しみがあって、買う者を刺激する。買い物というよりは、小旅行である。
 外国のバザールの不思議さ……それは今の日本にないもの。いつの間にか日本のお店に並ぶ品物は管理的に育てられた作物ばかりになり、均質化した。国道沿いやサービスエリアの風景が全国どこでも同じになってきたことと同様である。本来、野菜は自家採取種で栽培し、地域ごとに特有の品種があったはずであるが、そのことを知る人すら少なくなっている。

多様であることがいかに楽しいことか、この直売所は教えてくれる。規格品しか置かないお店を見慣れた私たちに、次から次へと規格外のもの、普通じゃないものを見せてくれる。おかしくて、なんだか得した気分になれる。グリーンファームの会長、小林史麿さんは言う。
 「いろいろあった方が面白い。売れないものも並べて驚かせようと思ってね。ここは感動を売る場所だから」

【産直市場グリーンファーム】
名称株式会社産直市場グリーンファーム
住所長野県伊那市ますみケ丘351-7
Tel0265-74-5351
営業時間8時~19時 年中無休
創業1996年4月10日
設立2009年株式会社
敷地面積10,890m2(3300坪)
売場面積1,330m2(400坪)
登録生産者数約1,800人
URLhttp://www.green-farm.info/

自然に寄り添い、自然を守る―ツキノワグマの狩猟と保護―

■ツキノワグマの数

「月の輪グマ」という感動的な児童文学作品がある。舞台は南アルプス、遠山川。作者は下伊那郡出身の椋鳩十。椋はクマをテーマにした作品を複数残しながら、猟師の物語も多く書いている。

日本には、北海道にヒグマ、本州と四国にツキノワグマが生息している。その存在は自然の豊かさの指標となっている。しかし、九州ではすでに絶滅し、四国ではわずか十数頭、中国から京都にかけても希少動物となり、絶滅が危惧されている。現在推定されている生息数は日本全国で8000~12000頭。長野県では八ヶ岳地域個体群以外は比較的安定した状況にあり、伊那をはさんで中央アルプス地域個体群では300~700頭、南アルプス地域個体群では100~200頭の生息が推定されている。

■捕殺の理由-狩猟と有害駆除-現実と課題

しかし、中部地方以東では、近年、自然林の減少、里山の荒廃、山村の過疎化などの影響でツキノワグマが人家近くに出没することが多くなり、人間への被害を防ぐために殺される例が後を絶たない。いわゆる「有害駆除」としての捕殺である。ツキノワグマの捕殺数は「有害駆除」と「狩猟」を合わせて、全国で毎年2000頭前後。長野県では、下のグラフから分かるように、猟によるもの(青色部)の割合は近年は2割~3割、約半数だった昭和48年から、概ね減少傾向にある。猟でしとめられたクマ肉は販売することができるが、それ以外のものは許可されていない(※平成18年はツキノワグマが人家近くに多数出没し、危険が高まったため、捕殺数が例外的に増えている。この年は全国同様の状況であった)。


【図1】長野県におけるツキノワグマの捕殺数の推移

■狩猟者の高齢化

一方で、人にとっては動物が食料や薬となる。山村地域には昔から猟師が存在していた。今は猟師を生業にする人にはまずお目にかかれないが、猟をする人はいる。そこには長い年月をかけて磨き上げてきた「自然とともに生きる技」があり、自然に寄り添って暮らす心があった。自然を持続可能に利用する知恵もあった。自然のはぐくむ命をいただき、自分の命の糧にするという、人間の基本的な生き方があった。しかし、猟は容易ではないこと、獲物の解体はさらに難しいこと、銃の所持の法的厳しさ、また山そのものへの興味が失われていることなどのため、若い人が猟師になることは少ない。長野県では平成17年現在、約5割が60歳以上。50歳未満の人は2割以下。猟師とともに猟の技と心と知恵が消えようとしている。


【図2】長野県における狩猟者数の推移(出典:「長野県特定鳥獣保護管理計画」)


【図3】長野県における狩猟者の年齢構成

■ツキノワグマ保護管理計画

現在、ツキノワグマ保護管理のために、県ごとに特定鳥獣保護管理計画を定めることができる。長野県は、平成19年に「第2期特定鳥獣保護管理計画(ツキノワグマ)」を策定した。ツキノワグマを適切に保護しながら人の暮らしを守るための方策を示したものである。この計画に基づき、年間の捕獲上限数を定めている。

第2期で変わったのは、猟師による捕獲が優先され、猟師による頭数管理が重視されていること。長野県ではツキノワグマ猟は11月15日に解禁になる。それまで捕獲上限数のカウントは行政年度(4月1日~3月31日)で行っていた。第2期計画では、猟期に合わせて11月15日から翌年11月14日でカウントすることになった。

たとえば、2006年には11月15日以前に多くの熊が人家周辺に現れて「駆除」が行われたため、捕殺上限数の150頭を大きく超えてしまい、狩猟の自粛が呼びかけられた。結果、猟師が獲ったのは0頭だった。

第2期の計画は、猟師の役割を認め、その力を生かしていくために長野県が独自に考えた方策であり、「保護か駆除か」あるいは「クマを守るのか人を守るのか」という一元的視点に一石を投じるものとなっている。クマと人との緊張ある関係をつくり直すことが、クマも人も守ることにつながるという発想だ。

産直市場グリーンファームで売られているクマ肉にはこのような背景がある。

■本当にいい関係のために

わたしたちは、人の力の弱体化ゆえに人を脅かすことになったツキノワグマを無駄死にさせ、種の存続まで脅かしている。一方で、クマ猟をする人は自然に親しみ自然をよく知っている人である。その多くが、山の木を育て、食糧を生産し、都市の暮らしを支えている人たちであり、先祖代々、山の恵みを得て暮らしてきた人たちなのである。

外部からの自然保護という圧力の下に伝統的な生活ができなくなった人たちは、日本のアイヌ民族をはじめ世界中に多々ある。ほとんどのケースが、自然を壊してきたのはそこに長く暮らしていた人ではなく、「開発」のためにやってきた外の人だった。そして、それ以上自然を壊さないために狩猟や採取が禁止される。

自然に寄り添ってきた人は、自然を大切にし、自然とつながっている。「駆除」目的で殺されるクマをなくすためにも、山村地域の活力と良好な自然環境を再度築いていくことの方が急がれている。


» 次のページ:[事例1-2]人と自然のかかわりを取り戻すための「出口」をつくる


« 事例トップページへ戻る

このページの上部へ