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事例9:草原の自然が育む生物多様性 人とのかかわりが「二次的自然」維持(塩塚高原)

[1]草原守る住民の山焼き

塩塚高原全景
【写真1】塩塚高原全景(三好市観光課提供)

「塩塚」の名前は、かつて阿波と伊予の国境をまたいで塩を運搬するルートに由来する、という。周囲はコナラ、アカマツなどの二次林でブナが混じる。頂上の標高は1,043m。草原では100年以上前から、地元農家が茅(かや)葺き屋根の採草地として利用し、良質な茅(イネ科のススキ・チガヤやカヤツリグサ科のスゲなどの総称)を採るために山焼きを続けてきた。だが、他の草原と同じように時代の流れの中で採草利用がなくなり、1960年代には山焼きは中断の憂き目に。それでも徳島県側の山焼きは1987年に13年ぶりに復活した 。また2004年から愛媛県側で自治体合併などの事情で中断、2007年に再開され、現在に至っている。山焼きの主な目的は希少生物など生物多様性の保護と観光のためだ。

■夜の炎のページェント

山焼きは、4月の第1土曜日夜に徳島県側で始まり、翌日愛媛県の四国中央市側が火を放つことになっている。今年は4月3日に徳島県側で安全祈願の神事の後、午後6時に着火。地元の地域おこしグループや市職員らが頂上から尾根に沿って火をつけると、炎の帯が草原に広がった。夕闇の中で繰り広げられる草原と炎が織りなすページェントは、感動的なシーンだ。よく乾燥している年には火の足が早く、逆に湿っていると時間がかかる。今年は3時間ほどで約20haを焼き尽くした。アマチュアカメラマンを中心に毎年500人ほどの観光客が詰め掛け、至近距離から迫力あるシーンを堪能している。
 最近各地の山焼きで事故が相次いでいるが、ここでは尾根などに幅数m、長さ1.4kmの防火帯を作り、その中で火を誘導する「囲みこみ」方式なので、火が外に広がらず安全性が高い。防火配置された市職員らは、ジェットシューターと呼ばれる水散布機や「すぎしば」と呼ばれる火消しぼうきで火をコントロールする。
 三好市観光課の橋口真文さんは「夜間は炎が美しいだけでなく、火の方向や勢いがよくわかるので安全なのです」と説明する。

三好市側の山焼き-1
【写真2】三好市側の山焼き(三好市観光課提供)

三好市側の山焼き-2
【写真3】


三好市側の山焼き-3
【写真4】

三好市側の山焼き-4
【写真5】


愛媛県の四国中央市側では、翌日の昼間に山焼きをする。消防団の訓練も兼ねているため、多くの消防車が付近を包囲する。
 草原は、地域社会の持続可能な資源供給源だが、そうした機能を保つためには、いつまでも草原として保つ必要がある。山焼きや採草などが草原の遷移を止める。人間の関与がなければ、温暖で降雨の多いアジアモンスーン気候によって、草原は急速に森林へと姿を変えていく。
 愛媛県の旧新宮村(現四国中央市)に住む鳥獣保護員の大野頼男さんは、山焼きによって草原が維持されている例としてノリウツギの生長を挙げた。アジサイ科アジサイ属の落葉低木で、生長が早い。展望台から峰の頂上までの登山道の脇に、大人の背丈より高いノリウツギの群生が見られた。この辺りは山焼きの火が入っていないようだ。もし山焼きがなければ、短い期間で草原に進入してしまうだろう。
 山焼きの後は黒い墨を塗ったような山になり、やがて新緑が芽吹くと緑のじゅうたんを敷いたような草原になる。秋になると一面のススキ原が黄金色の壮大な景観をつくり出す。草原は四季を通じて表情を変化させながら、多くの人々を呼び寄せている。


【写真6】山焼き後の草原(三好市観光課提供)


【写真7】ノリウツギの群生

■過疎化でも継続に努力

こうした草原を守る活動の基盤となる地元は、急速な過疎化が進んでいる。塩塚高原の徳島県側にある旧山城町は三好市(2006年、三好郡内6町村が合併して誕生)に含まれる。人口4,928人(2005年10月1日 国勢調査)で、49の行政区のうち18区は65歳以上が半数を占める「限界集落」。周辺に祖谷渓、かずら橋などの観光地があり、特に瀬戸大橋の開通で本州側から車を利用した観光客が急増した。最近では、NHK連続ドラマのモチーフになった水木しげるの漫画「ゲゲゲの鬼太郎」に出てくる妖怪コナキジジイの碑が話題になっている。
 塩塚高原は徒歩や車を使って簡単に訪れることができるため、観光客は多い。塩塚峰を挟んで、東側に三好市の塩塚高原キャンプ場、西側に四国中央市の霧の高原(キャンプ場)があり、自然を満喫できる。
 三好市側で山焼き実施の担当者である橋口さんは「地域の過疎は深刻ですが、これからも塩塚高原の山焼きを維持していきたい。植物を中心に豊かな生物多様性が保たれている場所としても有名になってほしいですね。そうすれば地域の観光振興にもプラスになりますから」と期待している。


【写真8】かずら橋



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